第45話 精霊女王の移住 3 これを奇跡という
「さて話がまとまったのだが畑や山はどこに移動させるんだ? 」
「ふむ。この先がよい」
リア町長の館からレストランまで戻った私は畑を見ながらエルムンガルドに聞く。
すると彼女は私が借りている土地の更に向こう側を指さした。
「近いな」
「お主のレストランに通いたい放題の場所がよい」
「これまた豪華なお客様で嬉しいのだが……」
口にしながら考える。
彼女が指さした方向は畑の向こう。
このまま彼女が作物を育てて売る事を考えると道が必要になってくるだろう。
私の畑から町の市場までは一直線。
なので特に問題はないのだがさらに向こう側となると畑を貫通する形で道を作らなければならないということになる。
それは私にとって不都合だ。
迂回経路を作るか?
「移動させることはきまっとるのだから道を作るのは後でよいのではないのか? 」
ソウの言葉に「確かに」と思う。
エルムンガルドは簡単に言っているから小規模の様に思えるが、実際移動させてみてからでないとその規模は分からない。
本来ならば道を作ったあとそれに合わせるように畑を作った方が何かと便利だとは思う。
が彼女は非常識の塊。
山などを移動させたあとに道を作った方が補正をしなくてもすむだろう。
よし。
「じゃ、始めようか」
私の合図の元、各々が動き始めた。
★
「なぁエルゼリアさん。今から何が起こるんだ? 」
「非常識なことだとは思いますが」
「……うん」
エルムンガルドが山等を移動させるにあたって子供達や畑を任せている一家に集まってもらった。
理由は単純。
寮の外に出たら山が出来ていたなんてことが今から起こる。
本来ならば町の人全員を集めて説明会を行った方が良いのだろう。
しかし相手はエルムンガルド。
今にも動きたそうな彼女をこれ以上待たせてはいけないと感じた私は最低限の人を集めた、というわけだ。
「……新しい住民による、そうだな。一種のパフォーマンスのようなものだ」
「「「パフォーマンス? 」」」
子供達が純粋な瞳でこちらを見てくる。
パフォーマンスと聞いて笑顔になる子供達。
眩しい程の笑顔に顔を反らすと、顔色の悪い大人達がいた。
「あの……。先日途轍もない雰囲気を感じたのですが」
「感じたと思うとまた寝てしまいましたが」
エルフ族であるジフの両親ジルとジニーナが顔を青くしたまま言う。
寝てしまったというが多分それは気絶だと思うぞ?
思った言葉を飲み込みながらもどうしようかと考えているとアデルの父アデムが口を開いた。
「まさかとは思いますが、新しい住民って……」
「察しの通り、その途轍もない雰囲気の持ち主だ」
私の言葉を聞いて更に顔を青くする六人。
子供達はどうしてそんな表情をするのかわからないような顔で親を見ている。
しかし気持ちは分からなくもない。
あれだけの力の奔流。
原因が精霊女王とわからずとも、その元凶が住むとなれば彼らを震え上がらせるのに十分なものだ。
私だって何度も言葉を交わさなければ慣れることができなかったほど。
すぐに慣れろというのは無理だろう。
リア町長の様に理解するのを諦める以外には。
と思っているとヴォルトが準備を終えたのか巨大な魔法陣を書き終えた。
どうやらあれを通じてものを移動させるようだ。
上空には本来の大きさに戻ったソウが飛んでいる。
受け取る側の魔力がヴォルト一人では足りないということでソウが力を貸している。
「我は早くフルーツを食べたいのである! 」
大きな声が周りに響く。
ソウが力を貸しているのも、エルムンガルドの移住に乗り気なのも全ては美食のため。
更に言うとそこからうまれる私の料理に期待している、ということらしい。
嬉しい限りである。
エルムンガルドが自重してくれたらさらに嬉しい。
「……っ! ラビ! アデル達を離れてレストランに! 」
「りょりょりょ……了解しました! 」
膨大な魔力が魔法陣に流れ込んだのを感じて体がびくついた。
瞬時に子供達を安全なレストランの中へ追いやる。
甘く見ていた。受け取るだけでこれほどまでの力とは。
複数の魔法陣が様々な色に変化しながら輝いている。
精霊の力も感じ取れる。
あまりにも異質な魔法に身構えながらも見ていると、更に魔力は爆発的に増し、そして収束していった。
「「「なっ……」」」
山である。
五つほどの山が、そこに現れた。
「すっげーーー」
「す、すごいな」
「すごい」
レストラン二階の扉から子供達の声が聞こえて来た。
彼らは純粋にすごいと思っているのだろうが力の差を見せつけられた私達はそれどころではない。
「エ、エ、エ、エルゼリアさん。これは一体」
「山……山ぁ?! 」
「おかしい……山が見える」
子供達とは異なり混乱しているアデム達。
その気持ちはじゅーーーぶんに分かる。
彼らに説明しようと思うと更にまた膨大な魔力が放出された。
そして次に現れたのは、金色に輝く麦畑であった。
「……綺麗」
「あれ、なんだ? 」
「麦、というやつかもしれませんね。前に聞いた話によると」
子供達は楽しんでいるがいきなり現れた黄金の畑に開いた口が塞がらない。
……なるほど。ヴォルトが彼女の移住を止めようとしたわけだ。
こんなことが起こればパニックどころじゃないな。
しかし移動させたものは仕方ない。
あとはこの町の住人の柔軟性にかけるとしよう。
責任放棄ともいう。
「これで一先ず終えたぞ」
「……エルムンガルド」
「全くこれほどの大規模転移。いくら貴方の大地移動があるとはいえこちらの負担を考えてください」
「転移魔法で補助するだけじゃろ。ケチなことを言うな」
「膨大な力がある貴方とは異なり私は一介の不死族です。ソウ殿に力を貸してもらわなければすでに魔力枯渇で死んでいましたよ」
「不死王ともあろうものがやわなことを言うでない」
遠くから現れたのはステッキを杖に体重を預け小鹿の様に震えながら愚痴を言うヴォルトとエルフモードのエルムンガルドだった。
ヴォルトには同情しかないな。
本当に、ご苦労様。
「む。そち達は……おお。この町の住人じゃな? 」
「え、ええ」
「その通りです」
「これからここに住むとお聞きしたのですが……」
アデム達が肯定するとエルムンガルドが足を止めて自己紹介をした。
今は完全に力を抑えているのか圧力は感じないがさっきの現象を引き起こした人物。
彼らは顔を引くつかせながらも「精霊女王」と名乗る彼女に自分達も自己紹介をした。
「あの、エルゼリアさん」
「ん? なんだ? 」
「その……非常に聞きにくいのですが」
とエルフ族のジニーナが聞いてくる。
彼女の素性は自身が暴露したから違うだろうが……なんだろうか?
「あの山なども私達が管理しないといけないのでしょうか? 」
「いやあの土地はエルムンガルドがリア町長から借りたものになる。だから大丈夫だ」
それを聞き畑管理組がほっと肩を撫でおろした。
気持ちは分かる。
山五つにあの麦畑。到底六人で管理できるものではない。
しかしエルムンガルドはどうするつもりだろうか?
彼女の事だから人型精霊でも手伝ってもらうのだろうか?
「いやそのようなことはしない。収穫はもっと簡単な方法で行う」
「というと? 」
「土人形じゃ」
それを聞き納得した。
以前私がやろうとしたことである。
話を聞くと人間大の土人形巧妙に操り農作業をするとのこと。
その精度は素晴らしく人間と同じように器用なことができるらしい。それを一体一体操って収穫や種まき水やりを行うとの事。
長きにわたって同じことを繰り返した結果である。
今の私には同じことはできないな。
感心しながらも目の前で起こった現実から逃げつつ、私は彼女が農作物を送るための道を整地する人を集めた。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




