第44話 精霊女王の移住 2 頭痛持ちになったリア町長
「ということで今日から町に住みたいという精霊女王エルムンガルドだ」
「妾はエルムンガルド。精霊族の長にして王である。世話になるぞ、リア町長とやら」
リア町長がソファーの上で、固まった。
いつものように町長の館へ向かうと老執事コルバーに応接室へ案内された。
私が連れている人を見て単なる移住者の挨拶と思ったのだろう。
そのまま応接室へ向かったのだが、エルムンガルドの自己紹介でコルバーも固まった。
「む。どうしたのじゃ? 」
固まり動く気配の無い町長に首を傾げるエルムンガルド。
自覚なし、か。
「……まぁ予想通りというかなんというか」
「我も町長に同情するぞ」
ソウが肩の上で声を上げる。
はぁと溜息をつくもエルムンガルドは何故町長が固まっているのかわからない様子。
最初のヴォルトの意見じゃないが、本当にここに住まわせていいのかわからなくなるな。
精霊女王という立ち位置がどの程度やばいのか、殆どの人が知らないだろう。
かくいう私もこの前まで良くわからなかった。
ソウの上位互換といえばわかりやすいがその力はソウを一蹴できるほど。
そんな存在がこの町に住もうとしているのだ。
ヴォルトが止めようとしたのもわかる。
町長の反応を見る限り、彼女がどんなにやばい存在なのか知ってそうだ。
代々聞かされているのか、それとも貴族の間で有名なのか。
なににしろこれから町長に大きな負担がのしかかるのは容易に想像できる。
「はっ……。なにやら今精霊女王という言葉が聞こえた気がするのですが」
「きっと気のせいでしょうリア様。こんな小さな町に不死王様のみならず精霊女王様まで来る理由ないので」
「そうですよねコルバー。そんなことあり得ませんよね。きっときのせいですよね」
硬直が解けたと思うと何やら現実逃避を始めた。
少しハイライトが消えた目でお互いに目を合わせず私達の上を眺めながら会話をする二人の様は中々にヤバい。
受け入れたくない気持ちは分からなくもない。
しかし現実を受け入れてもらわないと話が進まない訳で、ここら辺で正気に戻ってもらおうか。
「エルムンガルドが精霊女王というのは本当だ」
「現実を見るが良い」
「世俗でどう呼ばれているか知っているが、この反応は少々傷つくのぉ」
「……」
私達の言葉を受けてギギギと擬音を出しながら頭を動かし私を見る。
するとリア町長は今にも泣きそうな顔で私に言う。
「……この町。ついに滅びるのですか? 」
「何でそうなる? 」
「精霊女王の勘気に触れると国が亡びるとまで言われているのですよ。この町の誰かが粗相をして滅ぼしに来たのでしょう?! 」
どれだけ恐れられてるんだ、エルムンガルド。
だが多分この町で一番無礼を働いているのは、リア町長だと思うぞ?
その言葉を飲み込み事情を説明する。
すると頭を抑えながらも納得した。
「移住、ですか」
「うむ。妾はこの町が気に入った。よってこの町に住もうと考えておる」
「しかしご用意できるものが……」
「それは気にしなくても良い。場所の提供のみでよい。あとはこちらで用意しよう」
リア町長が困惑しながらも確認するがエルムンガルドは場所だけでいいという。
エルムンガルドは慣れているのだろう。先ほどまでのリア町長の無礼については触れない。
大人だ。
強引に住むことを決定した人物とは思えないほどに大人だ。
「それと……」
「ほ、他にも何か? 」
「いや実はの――」
少し言い辛そうに彼女が教えてくれたのはこの領地の事だった。
曰く、領地全体を見渡すと精霊の祝福を受けていなかったらしい。
どうもこの周辺は彼女の死別した夫が祝福の管轄をしていたようで。
その大雑把で忘れっぽい夫が施すのを忘れたせいでこの地に祝福がなく自然の代名詞といえる精霊がいなかったと。
逆に魔物が蔓延る原因となっていたらしい。
「夫に変わり謝罪しよう。住む者には辛い思いをさせた」
「謝罪を受け取りました。ですがこの場所に住むと決めたのは我々でございますのでお気になさらず」
「そう言ってもらえるとありがたい」
謝罪したエルムンガルドが少し頬を掻く。
リア町長から聞いた話によるとこの町や領地は鉱山が発見されて出来上がった町だ。
ならばこの周辺が不毛の地であることを知って町を作ったことになる。
それを選択したのが彼女達の先祖であるので、リア町長のいう通り原因は彼女達にもある訳だ。
だからといって大っぴらには話を広げないほうが良いだろう。
この事実を知ったことでエルムンガルドに対して不快な行動に出る人でいないとは限らないからな。
まぁそんなことをしたら滅ぼされると思うが。
「農園については? 」
「おおそうじゃった」
何を用意するのか話していなかった。
それをヴォルトが指摘して、思い出したかのようにエルムンガルドが説明する。
それを聞いたリア町長は不思議な顔をする。
もっと大きなリアクションをするのかと身構えていたが肩透かし。
衝撃的なことが起きて耐性でも着いたとか悟りでも開いたのかと思ったが……、いや違うな。
あれはピンと来ていない感じだ。
まぁ仕方ないか。農園そのものとか山まるまるとか規模が大きすぎて想像がつかないもんな。
想像できる方がおかしい。
「して果実などはどうしたらいいかの」
「それは……」
果実はこの町に限らずどこでも高級品だ……と思う。
とりわけこの国が果実に溢れているのなら別だがそう言った雰囲気は感じない。
それにそう言う話をリア町長やコルバー、町の人達から聞いたこともない。
「……かなり高級品になりますが果たして買える人がいるのかわかりませんね」
やっぱり高級品だったか。
ならば安易に外に出さない方がいいかもしれない。どこかの貴族が独占している可能性がある。
その貴族を刺激しないためにも抑えた方がいいだろう。
いや彼女は精霊女王。刺激した所で問題ないのか? むしろエルムンガルドを刺激した方がヤバい気がしてきた。
「おいておくと腐って落ちるだけなのじゃが」
「……いつもはどうしてるんだ? 」
「時折収穫したものを妾が食べたり他の王に配ったりするくらいじゃ。あとは自然のままに、赴くままにといった感じじゃな。しかし食べる者がいるのならばそれにこしたことはない。なにせそのまま種が落ちるとまた生えて来るからの」
「生えないようにすればいいんじゃないのか? エルムンガルドならそのくらい簡単だろ? 」
「簡単じゃが不用意に、自然に生まれてくるものを摘むような真似はせぬ。あくまで自然の赴くままに、ということじゃ」
その言葉に町長サイドがなにやら感動したような表情をしているが、エルムンガルドが真っ向から自然に逆らって山や泉、畑を作ろうとしているのを忘れてはいけない。
ツッコミたいがツッコむような蛮勇は行わない。
「因みにお値段のほどをお聞きしても? 」
「麦もじゃが、本当はタダで構わぬのじゃが……エルゼリアが金銭と交換してくれというのじゃ。値段はそちらにまかせることにしようと思う」
何気に私にあてつけて来た!
リア町長は顔を強張らせたまま「グッジョブ」と言わんばかりに親指を立てるのやめてくれ。
けど彼女も市場崩壊の事を気にしたのだろうな。
「わかりました。お値段の方は商人達と話し合うことにしていただきましょう」
「む? 町長と話すのではないのか? 」
「犯罪を犯さない限りは基本的に各商人の方々にお任せしているので」
「そんなものかのぉ」
「そんな感じです」
リア町長は慣れて来たのか、はたまた自分のキャパシティーを超えたことに頭が考えるのを拒否して普通の人と話すようにエルムンガルドと話している。
まぁどんな理由であってもエルムンガルドと対等に話せるようになってよかった。
なにやら彼女は特別な人として接されるのに抵抗感があるみたいだからな。
本当によかった。現実逃避かもしれないが。
ともあれエルムンガルドの移住と食料の卸しなどの話はまとまった。
私達が館を出た時なにやら館から悲鳴のような唸り声のようなものが聞こえたが、きっと気のせいだろう。
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