第40話 精霊女王エルムンガルド
精霊女王を名乗る女性を一先ずレストランの中に入れた。
外にいたら何をするかわからない。
放り出して下手にあのプレッシャーを町で放出されたら困るからだ。
「まさか閉まっておったとは……」
「だからアポイントを取ってくださいと言ったでしょう」
「妾もあの竜が飲んでいたというスープを飲みたくなったのじゃ。仕方なかろう? ほれ、思い立った日が吉日というじゃろ? 」
「知りません。どこの国の言葉ですか」
エルムンガルドは食堂でヴォルトと話している。
彼女にヴォルトをつけたのはこの中で唯一エルムンガルドをコントロールできる存在だからだ。
悪いがソウでは無理だろう。
実力的にもだが、彼は今食堂の机の上で意気消沈して使い物にならない状態となっているからだ。
ソウはせっかくの見せ場で張り切ったにもかかわらず、空回りしたことにショックを受けている。
私を守るために立ち上がってくれたのは気恥ずかしいながらも嬉しいのだが今回は分が悪かった。
ごめん。
そしてありがとう。
「してエルムンガルド様は何をお求めで? 」
「料理人エルゼリアよ。妾の力に耐えた褒美として妾を「エルムンガルド」と呼び捨てにする許可を与えよう」
「いやそんな――」
「自分だけ呼び捨てではない寂しさはわかりますが、少し仰々しいのでは? 」
「う、うるさい。ヴォルト」
エルムンガルドの拳がヴォルトの頭蓋骨にめり込んだ。遅れて私の所まで衝撃波が伝わってくる。
おいあれ大丈夫か?!
声をかけようとすると「痛いですねぇ」という言葉が聞こえてくる。
「咄嗟に障壁を張ったから良いものの私以外に、やらないでくださいね? 貴方の拳は洒落にならないので」
「手を出す相手は選んどるわ」
「……それはそれで何とも言えない気持ちになるのですが」
仲良きことは良いのだが、ヴォルトがとても可哀そうだ。
種族王というのは癖が強い人が多いのか?
少し首をかしげているとエルムンガルドが「コホン」と軽く咳払いをしてこちらに向く。
すると仄かに赤い唇をゆっくりと開けた。
「エルゼリアよ。そなたは不思議なスープを作ると聞いた」
「不思議なスープ? 」
それを聞き、どれだろうと考える。
オニオンスープやコーンスープ、シチューのようなメジャーなものから一部部族秘伝の目玉料理まで様々あるのだが……。
「エルゼリア殿。彼女が言っているのは恐らくソウ殿が飲んでいたスープのことかと」
「そう、その通りじゃ。それが飲みたくてここまで来たのじゃ」
「エレメンタル・スープのことか? 」
エレメンタル・スープと聞いて撃沈していたソウの尻尾がピンと立った。
ソウはエレメンタル・スープに目が無いからな。
飲めると知るとプライドを捨ててでも頼み込んでくる。
嫌な予感がしつつもソウを見ていると彼はのそりと体を起こして私に向く。
「エレメンタル・スープがあるのか! 」
「あるわけないだろ?! あれどのくらい手間がかかると思ってるんだ」
「……なんだ」
あ、また撃沈した。
エルムンガルドにやられたダメージは大きいようだ。
しかしエルムンガルドもエレメンタル・スープ目的でここに来たのか。
いやエレメンタル・スープと決まったわけでは無い。
「精霊獣が反応するということはエレメンタル・スープとやらで間違いない。妾にも一つ馳走してくれまいか? もちろん報酬は払う」
凛とした表情で聞いてくる。
材料も十分にあるし作るのには問題ない。
しかし他に問題は山積みだ。
「作るのは良いけど時間がかかる。このレストランは早朝に仕込み、昼と夜営業している。前準備なしではとてもじゃないが振るえない」
「なんと……」
「休業している時に作るしかないんだが次の休業日まで少し時間が開く。それまで待てるか? 」
言うと「ふむ」と考え始める。
彼女がどこに住んでいるのかわからない。もしかしたらとても遠い所から来たのかもしれない。
私の料理を求めて遠い所から来たかも、と思うと嬉しいものがある。
是非食べて行ってほしいが日中のレストランを放置するわけにはいかないわけで。
「わかった。待つことにしよう」
「助かるよ」
「この町に宿はあるかの? 」
「あるが……」
言いかけて口を閉じる。
――彼女を放置しても良いのか?
精霊女王ということもあってそこにいるだけで人の心臓を止めかねない存在だ。
実際遠くから向かってくるだけでラビがぶっ倒れたし。
そんな彼女を宿に泊める?
ありえないな。
ちょっとしたうっかりで力加減を間違われたら町中がパニックという言葉が生ぬるい状況になりかねない。
ならばそうするか。
「宿はあるがこのレストランに泊まったらどうだ? 」
「良いのか? 」
「あぁ、構わない」
「少しお待ちを」
話を纏めようとするとヴォルトが割り込んできた。
何かほかにいい案でもあるのだろうか?
「エルムンガルド殿。私の工房で泊まっては如何でしょうか? 」
「む? 」
「ここはレストラン。宿泊施設ではありません」
「それをいうのならヴォルトの工房も宿泊施設ではなかろう? 」
「そうですがこのレストランには人が多く来ます。私が目を離した隙に気を抜かれたら困ります」
確かにそうだ。
二階に部屋が余っているから彼女を誘ったが、気を抜いた瞬間に膨大な力を放出されたら困る。
そんなことをされてしまったら一階が死屍累々になってしまうな。
私が迂闊だった。
ナイスだヴォルト。
しかし彼女は工房に住めるのか?
というよりもヴォルトはいつも工房にいるがスペースは大丈夫なのだろうか?
「むさくるしい男と狭い部屋で二人っきりなど嫌じゃぞ? 」
「貴方は姿形を変えることができるではありませんか。貴方が小さくなれば狭くありません」
「確かにそうじゃが……」
と言いながら私の方をチラチラと見て来る。
なんだろうか?
「エルゼリアにも興味があったのじゃが」
「それはまた今度にしてください。エレメンタル・スープを飲める。一先ずの目的を果たすのが良きかと」
「むむむ……。確かに」
興味がある、と言われても反応に困る。
私はちょっと料理ができる普通のエルフだと思うのだが。
私を観察しても面白い事なんてないと思う。
むしろソウを観察した方が面白いと思う。
「わかった。では休業日までヴォルトの所で待つとしよう」
「助かるよ」
こうして私は精霊女王にエレメンタル・スープを振る舞うことになった。
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