第39話 精霊族の頂点
「今日もお疲れさま」
「お疲れさまでした」
「お疲れさまです! 」
本日も無事に営業を終えることができた。
時々興奮した人が暴れそうになることがあるが拳で沈めることにしている。
普通の町なら衛兵を呼ぶのだが、この町にはまだそこまでの余裕がない。
それこそその辺は町長の管轄なので任せることにしている。
というよりも少し干渉が過ぎる気がしてきているので自重しないとな、と心に決めながらも食器を片付ける。
「私も運びます! 」
「あぁ頼む」
ラビが自分の食器をキッチンに運ぶ。
ラビやヴォルトには賄いとして食事を出しているのだが、子供達には出していない。
それは夜がかなり遅い時間になることや次の日の準備のことがあるからだ。
アデル達もレストラン従業員とはいえまだ子供。
慣れてきているとはいえまだまだ時間をかけて育てないといけないだろう。
そうするとヴォルトとラビ、ソウに加えてアデル、ロデ、ジフの七人での食事になるのか。
きっと楽しい夕食になるだろうと思いながらも足を動かす。
そうだな。出来れば三人からコックを育てたいな。
ずっと私がここにいる訳にもいかないからな。後継者は必要だ。
ラビは……。
「きゃっ! 」
……心配だ。色んな意味で心配だ。
何もない所でこけるとは一体どういうことなんだ?
ラビが冒険者で失敗したのはもしかしてこの「ドジ属性」も絡んでいるんじゃないのか、とも思えてくる。
「いてててて」
と言いながらお尻を擦っている。
幸いなことに大怪我を負うようなことにはなっていないが、もしもがある。
何度も注意をしているのだが改善の傾向がない。
立ち上がる彼女を不安に思いながらも見送って、私も彼女について行った。
★
ラビと共にキッチンで洗い物をしている時それが急に襲ってきた。
「! 」
「き……」
何かの魔法か?!
一気に体が重くなる。体から冷や汗が出て震え始める。
「大丈夫かラビ! 」
隣を見るとすでに気絶していた。
なんだなんだなんだ!!!
一体何なんだこのプレッシャーは!
「エルゼリア! 」
「ソウ! これはなんだ?! 」
「わからん! だが我と同種。しかも我以上の存在が近付いているのは確かだ」
さらにプレッシャーが強くなる。
近付いてきているだと?!
これでまだ遠いということか!?
しかも同種ということは精霊関係。
ソウ以上の存在なんているのか?!
驚きながらも体を震わせながらキッチンを出る。
脂汗でいっぱいになっている手で魔杖をもった。
「迎え撃つつもりか? 」
「やるしかないだろ」
「馬鹿を言うな。隠れてやり過ごすしかなかろうが! 」
「それこそナンセンスだ。やり過ごしている間にこの町の人の心臓が全員止まる。比較的耐性のある私がやるしかないだろう」
「このッ……、ふぅ……大馬鹿のお人好しめが」
「頼りにしてるぞ。相棒」
「この困ったちゃんめが」
ソウも真剣な表情をして扉に向く。
私は駆け足でレストランを出た。
「なん、だ……」
「暗いのに、明るい? 」
レストランを出ると夜の畑に蒼白い光が漂っていた。
それは地面から現れふわふわと浮いている。
色は青いものから赤いものまで様々で神秘的な様子を出している。
「これは……小精霊か? 」
「馬鹿を言うなソウ。小精霊が可視化されるなんてありえない」
「だがそうとしか思えん。巨大な力をもつ何かに呼応して小精霊が集まり一時的に見えるようになっているのだろう」
小精霊は精霊魔法を使う時の力のような存在だ。
ヒトだけでなくソウのような精霊獣も使うが、見える存在ではない。
ソウがそういうということは可能性として高いのだろうが、頭が受け入れるのを拒否している。
――ありえないのだ。
「何事かと思い来てみましたが……大丈夫ですか? 」
「私はなんとか」
工房方面から来たヴォルトに強きに答える。
冷や汗が止まらない。
今にも倒れそうだ。
しかし私が対処しなければ。
「しかしド派手な登場ですな」
「? 」
「これは恐らく――」
ヴォルトが何か言おうとすると、――急に明るくなった。
同時に巨大な圧力が私にのしかかる。
「ぐぅ」
「Goa! 」
膝をつき魔杖で体を支える。
呼吸が荒くなる。
加重系魔法の比ではないレベルの重圧がのしかかる。
隣を見るとソウも体を地面につけていた。
いつもの余裕な様子はなく必死に守ろうと抗っている。
さらに向うを見るとヴォルトが無い眉を顰めていた。
不死王の名は伊達ではないな、と思いながらも彼が不快に感じていることが分かった。
重圧に耐え周りを見るも一瞬。
何とかヴォルトの目線の先を追うと、そこには一人の女性の顔があった。
一瞬エルフかと思ったがこんな巨大なエルフはいないと首を振る。
長い耳と緑の髪。頭には草らしきもので出来た冠があり彼女の蒼い瞳が私達を見下ろしている。
「ふむ。確かに竜を連れておる」
凛とした声が全体に響き渡る。
単に確認しただけである。
しかし少し口を開くとそこから球状の精霊のようなものが零れ出ているのが見える。
一体これは……。
「お主がエルゼリア、で間違いないかの? 」
「我の契約者に手出しはさせん!!! 」
Gaaaaaaaaa!!!
圧倒的実力差を吹き飛ばすかのようにソウが咆哮を上げて巨大化した。
しかしその女性は山のように巨大なソウを見ても怯むことは無く、只々珍しいものを見たと言わんばかりに蒼い瞳をソウに向けている。
「エルゼリアとやらは余程気に入られているようじゃのぉ」
「貴様ここに何をしに来た! 」
「食事をしに」
……。
飛びかかろうとするソウが急に止まる。
そして沈黙が空気を支配した。
私は目をパリくりさせて言葉を思い出す。
今さっきこいつなんて言った?
食事をしに?
どういうことだ?
「竜をも魅了する料理とやらを食べに、不死王すらも魅了する料理人を見に」
「エルムンガルド殿。もうよろしいかな? 」
「うむ」
「ではプレッシャーを解いてください。貴方は意識して抑えないと周りに影響を与えすぎる。現に感受性の高いエルフ族のエルゼリア殿が苦しそうです」
「おお。すまぬすまぬ」
ヴォルトが彼女に注意をする。
彼の言葉でかかっていた重圧が一気になくなる。
同時に巨大な女性は蒼白い光を放ちながらいなくなった。
呆然とする巨大なソウを見上げながら立ち上がると、ヴォルトが一点を見ている。
「この前ぶりじゃの。ヴォルト」
「来るのならアポイントを取るのが礼儀だと思うのですが? 」
「それは失礼。しかし細かい場所がわからなかったんじゃ」
「ならば麦を買いに行く時について来ればいいでしょう……」
ヴォルトが頭を抱えながら向かってくる女性に溜息をついている。
女性は神秘的な光を放ちながら歩いている。
肌は白く、背は高い。白い布のようなゆったりとした服を着ているがラビ以上に大きなそれが押し上げている。しかし先ほどまでの巨大な姿ではなく、巨大な女性が人間大まで小さくなった感じだ。
体の大きさを変えることができるとは。
――まるでソウのようだな。
「まずは突然訪問した非礼を詫びよう」
女性が私を見て立ち止まる。
ゆっくりと、しかしはっきりと告げた。
「妾の名はエルムンガルド。精霊女王エルムンガルドである。一品頼むが、レストランは開いとるかの? 」
……なんですと?!
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