第38話 エルゼリアの料理研究
「このプルプルしたものは何ですか? 」
「スライムの被膜だ」
「スライム?! 」
私の声に驚き机から飛び退くラビ。
流石にスライムの被膜を使った料理というのは思いつかなかったのだろう。
プルプルと震えて恐る恐る机を遠目で覗いている。
今日は定期の休日。
趣味の料理研究を行い、試食係としてラビを呼んだのだ。
普通に声をかけてもこないだろう。
そう考えた私は新しく出来た畑に人参を植えるという約束を持ち出し彼女を引っ張りだした。
スライムというのはどこにでもいる魔物だ。
ブラッディスライムのような希少種はともかくごく普通のスライムはどこにでもいる。
環境適応性が高いのかこの町にもおり、中には変異したであろうポイズンスライムも多く見られた。
いつもとは違い普通のスライムを見つけるのが困難だったが、倒しこうして被膜を手に入れることができた。
今日作ったのはスライムの被膜を使った食事。
皿の上には金色の楕円形のプルンとした料理が置いてありその周りには正方形に切られたパンが置いてある。
色が綺麗で高級感溢れる魔物料理の一つにしようと考えたのだが、さてはてお味の方は如何か。
「……中身はオニオンスープ、ですよね」
「その通りだ」
「なんで外に出ないんですか? 」
「スライム被膜の特性だよ」
ラビがビビりながら聞いてくる。
一歩一歩近づき席に着く。
フォークを手に取ると私に向いた。
「これどうやって食べるんですか? 」
「被膜を破る」
「破る? 」
「すると周りに置いてあるパンに味が染みこむ仕組みになっているから、実質パンを食べる感じになる」
「……それスライムで包む意味ありました? 」
「味覚だけでなく視覚を楽しむのも、食事の楽しみ方の一つだよ。閉じ込められた金色のオニオンスープが徐々に広がりパンに染み渡るんだ。見ていて楽しいと思うが」
説明するもピンと来て似ない様子だ。
視覚を楽しむという方法は一般ではあまりないだろう。
しかしちょっとした貴族の食事会ではよく使われる方法だ。
まぁその時はスライムのような魔物は使わず、他の方法で楽しめるようにするのが一般的であるが。
「一応だがスライムの被膜に毒性はない。食べれるぞ? 」
「え? 」
「ぷるっとした食感に染み込んだオニオンスープ。さぁ楽しんでくれ」
早く食べるように促す。
ラビは意を決したようにギュッとフォークを握り、軽くスライムの被膜をつついた。
しかし破けない。
プルンプルンと何度も突くが破けず金色の楕円が震えるだけ。
面白くなったのかさらに何度もつついていると、被膜が弾ける。
いきなりのことにラビが「わぁ! 」と驚き体を仰け反る。
長い耳を縮こませながらも漂う良い匂いに警戒を解いて、金色のスープが均一に広がっていく様子を見ている。
「……良い匂い」
「少し時間を置いたからな。封じ込められた匂いが一気に放出された影響だろう」
「あ! パンの色が変わっていきます! 」
「順調順調」
言っているとパンにオニオンスープが染みこんでいく。
目新しい様子に「わぁ」と声を上げながら目を輝かせるラビ。
その様子を微笑ましく見ながらもパンを一つ食べるように促す。
すると最初の警戒はどこへやら。
パンにフォークを突き刺して口に運んだ。
「おぉぉ! パンに染み込んだ玉ねぎの甘味が噛む度に広がってきます! 」
美味しそうでなにより。
体を反らし頬を緩ませ手を添える。
彼女を見つつ感想を聞く。
「それはよかった。因みに普通にパンにつけたのと違いはあるか? 」
「……」
「ないか」
「い、いえ。見つけます! 」
「いや無理しなくてもいい。すぐにわかるレベルの味でないとダメなんだ。これもまた結果の一つだ。少しスープか被膜に手を加えながら改良していくよ」
「そうですか」
味に気付けなかった事が悔しいのか耳をしゅんと前に垂らして落ち込むラビ。
しかしそれでもパンを口に運んでいく。
様子を見る限り不味いということではなさそうだ。
ゲテモノにならなかっただけでもマシと思いながらも、今後の料理開発の方針をスライム被膜に決定する。
あとは味だけ。
頑張るか!!!
★
「エルゼリアさんはどうして料理の研究をしているのですか? 」
一日を終えて解散する前ラビが唐突に聞いて来た。
何故、と言われても困る。
長命種の暇つぶしといえば暇つぶし。
技術を高めるためといえば己の技術向上の為。
しかし本質を得ていないな。
ん~。
「基本的に私は各国各地の食に興味がある」
「なんか前にそんなこといってましたね」
異能が性格に影響しているのか、それとも成長するにつれて興味が移ったのかはわからない。
けれど事実として私は古きよきものが好きだ。
料理に限らず建物や神殿なども。
「食を再現して自分のものにする。これが基本的なスタンスだ」
「けどそれだと料理開発に繋がりませんよね~」
「あぁ。だから「基本的」なんだ」
わからない、といった風のラビに苦笑しながらさらに続ける。
「料理を再現していく内に、な。越えたい、って思う時があるんだよ」
「超えたい? 」
「そうだ。これまで歴史を紡いできた食を超えたいってね」
「なるほ、ど? 」
「それを達成するためには新しい技術や料理がどうしても必要になる。既知のものだけではない。最新の料理を用いて歴史を乗り越え、料理の新しい境地を見てみたいってね」
「それはすごいですね! 今までにもやったことが? 」
「代表的なものがドラゴンステーキだろう。ブラッディスライムを用いた血抜き。この技術を手に入れるまでは血抜きが出来たところくらいしか食べることが出来なかったからな」
「あの巨体ですからね。ブルでさえ獣臭い料理になるのにドラゴンとなると血抜きは大変そうです」
「血抜き不十分で破棄される場所が多かった。けれどそれも改善してドラゴンから多くの肉が取れるようになった。そして今に至るということだ」
今まで多くの料理を開発してきた。
けれど一番厄介で、一番の功績はドラゴンステーキだろう。
レシピが公開されていないものになるとエレメンタル・スープもそれにあたるだろうが、ソウしか食べないからノーカウントだな。
「良い事ばかり言っているが失敗も多いぞ? 」
「? 」
「我がどれだけ被害にあったか」
ソウは思い出したのか机の上でぐったりしている。
研究に犠牲は、つきものだ。
「な、なるほど。では私はこれで……」
「次も頼むよ。ラビ」
「私はこれでっ! 」
ラビはまさに脱兎の如く逃げ去った。
まぁ逃がさないが。
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