第36話 レアの町 3 ドラゴンステーキ
町民達が「ドラゴンがいる」という彼らの言葉を受けて、私が門の外へいくとそこは混沌としていた。
――建物に隠れ遠巻きにその姿を見る人族。
――怯えながらも近寄り剣や盾を構える獣人族。
――そして完全に平伏状態のエルフ族やドワーフ族。
エルフ族やドワーフ族のような妖精族にはバレてるな。これ。
サクッと倒してリアの町に戻り捌きたかったのだがソウの暴走で計画が台無しだ。
しかしどうしたものか。
これはアースドラゴンが駆除されたのを大々的に発表しても良いのだろうか?
というよりもドラゴンは一体だったのか?
「……なんだこの状況」
「悪い。うちのソウだ」
「え? 」
リットンが驚く。
後ろを向くが彼を横切りソウの元へ向かう。
後ろから「あぶねぇ」と声が聞こえるが軽く手を振って「大丈夫だ」と伝える。
彼らは小さなソウしか見ていないからな。
ソウを普通のドラゴン、――つまり脅威的な魔物と勘違いしても仕方がないだろう。
脅威的なのは……脅威だな。むしろ普通のドラゴンよりも。
「エルゼリア。やっと来たか」
私が近付くとソウが話掛けてくる。
全員の注目が私に向く。
しかし気にせず先へ進む。
「ソウ。いくらドラゴン肉を食べたいからといってもこれはないだろ」
「この者達の行動は我の責任ではない」
「意味が違う。勝手に出て行くなという話だ。そして混乱をまき散らすな」
「よいではないか。鉱山に住み着くドラゴンは駆除され我の贄となるのだぞ? 」
獣人達の隣を抜ける。
まだ危険だと感じている人が多いみたいだ。ソウに近寄る私を止めようとする優しき人がいた。
けれどソウの言葉にそれ所ではなくなったみたいだ。
「まさかあれは鉱山のドラゴン?! 」
「ま、間違えねぇ。あの血塗れで動かねぇドラゴンは鉱山で見たアースドラゴンだ」
「お、俺達仕事できるのか?! 」
鉱山が解放されて仕事ができるようになるのは良い事だ。
しかし混乱を引き起こさない方法なんて幾らでもあったわけで。
「やり方があるだろ、という話だよ。全く」
「そ、それよりもドラゴンステーキを作るがよい。我は腹ペコだ」
私は呆れながらソウの隣に着く。最近自覚が薄いのか彼はドラゴンにしか見えないのだ。
勝手な行動をされると収拾をつけるのが大変になって来る。
ソウは気まずいのか少し焦りを見せる。彼はすぐに魔法陣を展開させた。
そこからブラッディスライムを始めとした調理道具が出現する。
いきなり現れた道具に「なんだ?! 」「伝説に聞く異空間収納?! 」「流石精霊様」等々と驚いている。
さっきの焦りはどこへやら。
彼らの反応が気持ちいいのかソウは胸を張り堂々としている。いつもの食いしん坊なソウからは想像つかない威風堂々とした姿だ。
ソウの自尊心が満たされるのは良いが、それを使う私の身になってほしい。
呆れながらも調理器具の方へ向かう。
白いローブに入れていた簡易魔杖を使い体に身体強化魔法をかける。
大きな樽を開けるとブラッディスライムがドラゴンへ向かっていった。
重たく長い包丁を手に取って準備をしているとおずおずといった感じでエルフ族の町民がソウに聞く。
「あ、あの……。そちらの美麗なお方は一体……」
「この者はエルゼリア。我の契約者である! 」
「「「おおお!!! 」」」
ソウの言葉に妖精族が一気に盛り上がった。
普通竜型と契約するやつなんていないからな。
盛り上がるのは分かるがまず他の人達の厳戒態勢を解いてほしい。
肉切り包丁を手に取り私が言うとすぐに従ってくれた。
剣を収めてヘタレ込んでいる。
完全に巻き込んだ。彼らには悪い事をしたな。
なにかお詫びが出来ればいいのだが……。
考えながら戻ってくるブラッディスライムを樽に入れる。
蓋を閉めるとスープの入った寸胴鍋を見つけた。
余りもので悪いが料理でも振るうか!
方針を決めて大きな肉切り包丁を振り下ろした。
★
「く、食いもんだ! あたたけぇ食いもんだ! 」
「こってりスープが体中に染み渡るぅぅぅぅ! 」
「この黒パン本当に黒パンか?! 固いだけの違うパンじゃねぇのか?! 」
「パンとスープがマッチしてうめぇ! 」
町の外で食事会。
迷惑をかけた人達に温めたスープとパンを提供していた。
多くの人が列を作る中、私とリアの町の冒険者達、そしてリットンがお椀にスープをついでパンを渡している。
リットンは自ら進んで振る舞う側に回った。もちろんアピールチャンスということで彼が率先してこっちに回ったのは分かるが、彼も腹は空いているはず。
自分も食べたいだろうに、と思いながらも彼の評価を上げている中大きな声が聞こえてきた。
「やはり肉はドラゴンに限るのである!!! 」
「きちんと残しておけよ? 」
「わ、分かっているのである……」
人間大まで縮んだソウに釘を刺す。
彼が食べる量はそのサイズに応じる。よって今の彼は人間が食べる量しか食べない。
何故ソウに体を小さくさせているのかというと、ドラゴンステーキを町の人達に振る舞うためだ。
ソウが騒ぎを起こさなければ彼はドラゴンステーキを丸々全て食べることができた。
しかしながら騒ぎを起こしてしまったので私は町の人達の前で調理する羽目に。
あんなにも香ばしい匂いを漂わせて彼らに食べさせないということは、流石に出来ない。
獣人族なんて涎で池が出来そうなくらいだったのだ。
放置は、無理である。
それに悲しんだのはソウだった。
しかし自業自得。
これを教訓にして欲しい。三日後には忘れるだろうが。
自分のドラゴンステーキを食べながらチラチラと他の肉を見ている。
要チェックだ!!!
特に妖精族に渡した肉を強請りに行きかねない。
ソウに注意を払いつつその場に広がる人達に声をかけドラゴンステーキを渡していく。
採ったのはソウだが苦しめられたのは彼らだ。
食べる権利は十分にあるだろう。
「これが鉱山に住み着いていたドラゴンか?! 」
「なんだこれ! 肉汁が弾ける!!! 」
「体に力が、漲るぞ!!! 」
パン!!! と多きな音が聞こえたと思うと獣人族達の服が弾けた。
物理的に。
なにこの超常現象……。
獣人族はドラゴンステーキを食べると弾けるのか?! 初めて見た。
いやまぁ興隆した筋肉に服が耐えきれなくなっただけだろうけど。
面白現象に口元を緩めながらも料理を振るう側の人達に休憩の合図をする。
彼らにもドラゴンステーキとスープを渡して食べるように言う。
「な、なんだこの味?! 」
「……ドラゴンの肉が美味いってのは本当だったんだな」
「いやまて。エルゼリアさんが作ったから美味いのかもしれないぞ? 」
「……同意。そもそもあの巨体の血抜きは困難」
「スープも癖になる美味さだ。仕事関係なしにリアの町に行ってみるか」
美味い、といってくれるのは料理人冥利に尽きるというもの。
彼らの言葉を嬉しく思いながらも私もドラゴンステーキを頬張った。
「美味い!!! 」
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