第34話 レアの町 1 ドラゴン肉を求めて
「我は今日も頑張ったのである! エレメンタル・スープを所望するのである!!! 」
「食っちゃ寝の精霊が何を言うか。あれは手間がかかるんだ。別のもので我慢してくれ」
仕事を終えた後ソウが二階の部屋で要求してきた。
頑張ったと言っても今日彼は何も仕事をしていない。
本当に何か頑張ったのならまだしも今日彼に出すエレメンタル・スープはない。
「むむむ……。ならば……」
ソウは腕を組み考えている。
そんなにも何か食べたいのかと呆れながら脱ごうと服にかけていた手を離す。
何を注文されるかわからない。
夕食は終わっているのだが今から何か作れと言われるかもしれないからな。
また服を着直さないといけなくなるかも。
「ならば! 」
ソウがくわっと目を見開いて私を見る。
嫌な予感しかしないが聞かないわけにはいかない。
契約精霊の面倒をみるのは契約者の役目なのだから。
「ドラゴンステーキが食べたいのである! 」
「阿保か。異空間収納の中にドラゴン肉はなかっただろう? 」
「食べたいものは食べたいのである! 」
「そう言われてもな」
頭を掻きながらワガママ精霊獣に溜息をつく。
こう主張してくると彼は引かない。
ドラゴンステーキを作るのは既定路線としてさてどこで見繕うか。
ソウの力で転移して買いに行くか?
いやドラゴン肉は超高級品。
城の一つや二つ建てることのできる金額なんて出せれるはずがない。
ならば狩りに行く一択となる。
どこに行くべきか。
魔境は、嫌だな。あんなところ入りたくない。
どこかに手頃なドラゴンがいればいいのだが、と考えていると先日レストランで聞いた話を思い出す。
「……狩りに行くか」
「魔境か? 」
「いやレアの町だ」
★
レストランの定期休業日。
私はヴォルトやラビ、子供達の家族に「冒険者ギルドに行ってくる」と言い冒険者ギルドへ足を運んでいた。
「できないとわかりつつも一応依頼は出すはずだ」
私が依頼ボードで探しているのはレアの町の鉱山を占拠しているドラゴンの討伐依頼。
冒険者ではない私は受けないが、本当に討伐依頼があるかどうかでドラゴンがいるのかがわかる。
レアの町へ行って「本当はいなかった」なんてオチは回避したいからな。
「これではないか? 」
「あったな」
木製の依頼ボードをみてドラゴンがいることを確認。
種類はアースドラゴンで討伐依頼。依頼日が近い。アースドラゴンが鉱山を占拠してあまり時間が経っていないと見た。
依頼ボードから受付に足を向ける。
受付嬢がにこやかな顔で「本日は如何なさいましたか? 」と聞いてくる。
「レアの町までの護衛依頼を頼みたいんだが」
「護衛依頼、ですか」
私の言葉を受けて受付嬢は首を傾げる。
無理もない。ソウがいる限り私に護衛などいらないからな。
しかし今回は別の目的がある。
「ちょっとした用事でレアの町に行くんだが、初めてなんだ。出来れば町を知っている者に案内してもらいたいと思ってな」
「なるほどそう言うことでしたか。少々お待ちください」
言うと受付嬢は紙を出して依頼書を作る。
私も必要事項を書いてサインする。
出発は明日。
ギルドで落ち合うこととなり私は建物を出た。
★
「ガラックだ」
「テレサです」
「レオラと言います」
「リリ、です」
「……ボル」
「私はレストラン「竜の巫女」のエルゼリアだ。今日はよろしく」
翌朝、私は冒険者ギルドの前で彼らと合流した。
女性比率が多めなこのパーティーはこの町にいる最上位の冒険者パーティーでランクはC。
レアの町の案内だけでよかったのだが受付曰く「何かの不注意でエルゼリアさんに万が一のことがあってはいけませんから」とド迫力で言われて押し切られた。
しかも女性比率が多いときた。
私が女性であることも考慮に入れてくれたようだ。
「レアの町は馬車でもいけますが基本徒歩になります」
「早朝に出ると昼前には着く計算ですね」
「護衛を雇うということは徒歩、ということで大丈夫でしょうか? 」
「大丈夫だ。しかし何分レアの町は初めて。案内してくれると嬉しいよ」
彼女達からレアの町での予定を聞きながら門を出る。
この町に来た時はボロボロだった門も新しくなり、字もきちんと読めるようになっている。
途中最初泊まった宿を見たが人が出入りしているのが見えた。
まだ繁盛とまではいかないが宿として機能してきたようだ。
「多いな」
「皆仕事に向かっているのでしょう」
「鉱山か? 」
「多くは、ですね」
「食事事情が改善したことで皆元気です」
「エルゼリアさんのおかげだな」
そんなことはないよ、と少し謙遜気味に言いながらぐるっと周りを見渡した。
見知った多くの人達がそれぞれの方向へ向かっているが、一部私達と同じ方向に行く男性もいるようだ。
恐らく私達と同じくレアの町へ行く人達だろう。
私とソウはドラゴン肉の調達だが彼らは鉱山での仕事。
仕事がないとはいえ他にやることがあるのかもしれない。
今まで掘った鉱物の金属抽出とか。
「早く行くのである! 」
「急かすな。気が早い」
「早いに越したことは無いのである! ドラゴンが我を待っているのである! 」
「「「ドラゴン!? 」」」
ソウの言葉に五人とも驚く。
誤魔化しきれないと判断し私は事の経緯を彼らに話した。
すると何とも言えない表情で私を見る。
「……占拠しているドラゴンがいなくなるのは良い事なのですが」
「ドラゴンが単なる食材扱いですか」
「ご愁傷さまです。エルゼリアさん」
「俺達ドラゴンとなんて戦いたくないぞ?! 」
「……もしかして俺達も? 」
「いやそこまで無理は言わない。町の中を案内してくれるだけでいいよ」
私が「安心してくれ」というと全員安堵の息をついた。
気持ちは分かるが、ソウと一緒に行動しないといけない私の気にもなってほしい。
少しくらい「私もついて行きます」と言ってくれてもいいじゃないか。
まぁ私が逆の立場なら言わないが。
しかし——。
「むしろソウが一人で狩りに行けばいいんじゃないか? 」
「馬鹿を言うでない。ドラゴンはその場で食べるのが美味いのである!!! 」
「……流石に今回は倒したその場で食べれないぞ? 」
私が言うと肩に乗るソウが急に黙った。
どうしたのかと、顔を横に向けると絶望した表情を浮かべていた。
「……し、新鮮なドラゴン」
「誰もいない所ならともかく人がいる所でやったら魔物を誘引してパニックになるだろうが」
「だ、だが……」
「ダメなものはダメだ」
ずーんと落ち込むソウに呆れながらも私達は歩く。
道中冒険者達の目線が気になったが仕方がない。
単なる料理人がAランク以上の魔物を単なる食材扱いするのだ。
割り切って私はレアの町へ向かった。
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