第28話 祝福の報酬はジャガフライ
「さて滑り出しは順調だ。町全体としてはどうかな? 」
「おかげさまで随分と良くなりました。全て、とはいきませんがそれでも景気は良くなっています」
「町で腐っていた者達も他の町へ仕事に行くようなりました。これもエルゼリア殿のおかげでございます」
「ギブアンドテイクだ。気にするな」
安い紅茶を飲みながら褒める彼を軽く流した。
ここは町長の館の応接室。
ソウが召喚した家事妖精達の手により綺麗になった部屋で、私は赤毛の町長アリア・リアとその老執事コルバーと面会している。
今日ここに来たのは町の状態を教えてもらうため。
いつもレストランに来てくれている人達から情報は仕入れているが、全体としてどうなっているのか知るためだ。
「私達よりもエルゼリアさんの方が良くご存じだと思うのですが」
「局所的にはな。全体として見た時、どうなっているのか知りたい」
言うと今のリアの町の状況を教えてくれた。
食料事情改善案第二弾として出した私の在庫解放。
これにより、――少し高いものの食料事情は改善した。
定期的にやって来る商人という男性が高値で野菜を売るせいかそれぞれ貯蓄は多かったようで、私の在庫は飛ぶように売れた。
次に行った第三弾。畑で採れた野菜の出荷。
かなり値段を抑えたおかげかこれもまた飛ぶように売れた。
前回の第二弾はお金がない人には売る事が出来なかったが、輸送費分を抑えることができた第三弾は成功し、行き渡らせることのできない人にも食料を渡すことが出来たそうだ。
そして体調が万全になった町の人達はロイモンド子爵領内の他の町へ出稼ぎに行っていると。
この前も感じたがロイモンド子爵というのは余程好かれているようだ。
普通なら外の領地に行くだろうにと考えていると、ふとその商人とやらが気になった。
「その商人。他の貴族と繋がっているんじゃないか? 」
「私もそう思います」
「しかし不毛の地であったこの町に唯一野菜を卸せることのできた商人。足元を見て売りつけてきた恨みもありますが、少しの感謝はあります」
「ま、商人に関して私がいうことではないな。もうそいつの商品を買うやつはいないだろうが」
私が笑みを浮かべると二人が少し顔をひきつらせる。
そんなに悪い顔をしていただろうか。
むぅ、と唸りながらも紅茶に軽く口をつける。
その商人はこの町でもう商売は出来ないだろう。
何せ商人が運んでくる食料よりも超格安で野菜が売られているからな。
ソウの祝福の影響で野菜の成長スピードはとても速く、そして土地の栄養はすぐに回復している。
そのおかげか毎日運ばれてくる食材で市場が大賑わいだ。
もう少し落ち着いたら、ラビお待ちかねの人参も植えてやろうか。
どこの種がいいかは少し考え所だが。
「エルゼリア殿」
「? 」
「この後はどうするおつもりで? 」
コルバーが聞いてきて「ん~」と唸り腕を組む。
上を向いて少し考える。
予想よりも早く町に活気が出て来た。さらに食料事情が改善することで上向くだろう。
私の最終目標はこの町で町おこしをすることだ。
そして異能で見た過去を超える活気を見てみたいという願望もある。
これらをクリアすると必然的にソウの欲求も満足させることができるので、目標を変える必要性はない。
「まず……十分に食料を行き渡らせた後、他の町にも食料を出荷できるようにする」
「他の町にも、ですか? 」
「そうだリア町長。働き手が周りの町に行くことでこの町に食料がある事が知れるだろう。けれど人によってはそれを武力で手に入れようとする者が現れるかもしれない」
「しかしそれは……」
「あぁ犯罪だ。もし他の町の町長が先導したら、それこそ内乱を起こしたとして裁かれるかもしれない。なので事前に食料を周りに出荷し予防する」
「それだと町の食料事情に影響を及ぼしませぬかな? 」
「及ぼさないためにもソウに頑張ってもらうさ」
「む? また我の出番か? 」
机の上にでポリポリと生野菜スティックを食べているソウがこちらを見上げる。
そうだ、と答えるとごくりと飲み込み腕を組む。
「エルゼリアは我がいないとダメダメだな」
「……人智を超える領域はソウ達の領分だろ? 」
「むぅ……」
「帰ったらジャガフライを作ってやるからさ」
「……仕方がない。我に任せろ」
そう言いばさりと翼をはためかせる。
私の肩まで飛んできて、着地した。
仕方がないと言っているが心の中ではどう思っているやら。
少なくともリズミカルなステップが肩から伝わってくるから気分を悪くしていないだろう。
「ソウ殿にもお世話になってばかりです」
「お礼をしたいのですができないのが現状。歯がゆいことこの上ない」
「褒美はエルゼリアから頂くとする。気に病むでない」
ソウが気遣うように言う。
本当に気遣っているのか疑問だが人前で気遣う様子ができるようになったのは、大きな成長だろう。
が肩から伝わるステップが早くなる。
早くジャガフライを食べたい、ということか。
心の中で苦笑して「では」と切り出す。
そして私とソウは町長の館を後にした。
★
畑を多めに作っても、作業や管理をできる者がいなかったら殆ど意味をなさない。
ということで私が借りている土地を更に拡大してもらい、そこにソウが祝福をかけた。
「この塩っ気が堪らないのである」
ソウがパリパリと音を立てながらジャガフライを食べている。
今日の分のねぎらいである。
ジャガフライはジャガイモを薄く切って油で揚げたもの。
塩はお好み。
これは油を多く使うからあまり作りたいものではないが、ソウがうるさく要求するのはよくわかる。
「ジャガフライは味がマッチしているというよりも競争しているな」
「それがまたいいのである。素となるジャガイモはもちろんであるが、油と塩のガチンコバトルなのである」
ソウが「キュゥ」と軽く鳴き機嫌よく尻尾を振りながらまた一つジャガフライをパリッと食べた。
私も一つと思い手を出すとペシンとソウに叩かれた。
「……少しくらいいいじゃないか」
「これは我のジャガフライである。一つも渡さないのである」
わかったよ、と言い痛む手を引っ込める。
ジャガフライを食べているソウを見ながらもっと美味しく出来ないものかと考える。
あげるだけなので特にいじりようがない。
しかし合わせて出す「塩」を変化させることはできるだろう。
今まで幾つか試したが、油の問題を解消出来たら、本腰を入れてジャガフライを研究するのも良いかもなと思いながらも、「さて」と腰を上げて洗った調理器具をソウに仕舞ってもらった。
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