第25話 レストラン「竜の巫女」、大好評営業中!!!
じゅわぁぁぁぁぁ!
キッチンに音が鳴ると同時に香ばしい匂いが追加される。
「エルゼリアさん! シチュー追加です! 」
「了解! 」
「パンも追加です! 」
「ラビ! パンはヴォルトだ」
「す、すみません! 」
野菜炒めを作りながら二人に言う。
子供達が追加注文をする中ラビが謝りキッチンを出て行く音が聞こえてくる。
炒め終わるとフライパンを動かし皿に盛る。
ふと横を見るとソウがつまみ食いをしていた。
「こら! 何をしている! 」
「よ、よいではないか」
「それは客用だ! 」
私の契約精霊ソウが怒鳴ると「我の昼食……」と悲しそうな声をした。
いつもの彼の食事時間からすればかなり過ぎている。
精霊のお腹が空くのかはわからないが口が寂しかったのだろう。
だからといってつまみ食いをしていい理由にはならない。
今日もレストラン「竜の巫女」は大繁盛。
私達は大忙しである。
★
「「「お疲れさまでした」」」
「お疲れ様」
「お疲れさまです」
「我の食事! 」
昼のピークを過ぎた後私達は食堂で一時的に休憩を挟んでいた。
賄いということで目の前にはシチューとパンが。
隣席をみるとソウとラビが食べたそうにシチューに目が釘付けとなっている。
大人しくしている子供達——アデルやロデ、ジフを見習え、と思いながらも苦笑して「じゃぁ食べようか」と声をかけた。
「「「恵みに感謝を」」」
祈りの言葉を口にすると待ってました、と言わんばかりに全員が食事にがっつく。
微笑ましく見ながらもパンをシチューにつけて口に入れた。
「やっぱり自家製の野菜で作った料理は違いますね」
「シャキシャキしている! 」
「森に囲まれているようです」
「我が祝福を与えた地だ。上質な物が採れるのは当たり前であろう? 」
子供達三人が感想を口にするとソウがドヤ顔で言った。
料理したのは私なのだが、と思いながらも確かに彼が祝福を与えたおかげで野菜が作れるようになったのだから間違いではないとも思う。
だけど野菜たっぷりシチューの具材を口元につけながら言っても威厳は出ないぞ?
私もシチューをスプーンですくい、ゆっくりと口に入れる。
「……甘い」
何度も食べているが、この地で食べるシチューは甘い。
シチューの材料はソウに保存してもらっているものと同じなのだが、野菜は違う。
よってこの甘さはこの地で採れた野菜から染み出ているのだろうと思うのだが、他のシチューの材料とこの地の野菜は相性が良いのかもしれない。
幾つか保存しておこう。そう心に決めながらも子供達に目をやる。
子供達がパンをちぎりシチューにつけてガツガツと食べている。
その隣でラビが長い耳を少し垂らしていた。
「……人参」
それを見て苦笑する。
人参だけここで採れたものじゃないから少し寂しさを感じているのかもしれない。
けれど仕方ない。
人参は土地の栄養を食べる。
安易に植えることのできないものだ。
しょげているわりにはラビも食欲が旺盛なようだ。
育ち盛りの子供達と比べてペースは遅いがパンやシチューが早いペースでなくなっている。
その隣を見ると骸骨顔のヴォルトがこちらを見る。
「まさかシチューまでグミにしてしまうとは」
「そのものではなくシチュー風味、といった感じだが……」
「それでも私のような不死族には新境地ですよ」
と動かない表情で喜びを表現する。
付き合っていく中で骸骨顔から感情を読み取れるようになってきている。
彼は感情を出しやすいのか今やアデル達にもわかるくらいだ。
ちょっと鈍感なラビにはまだ難しいようだがその内わかるだろう。
シチュー味のグミ、というよりも料理風味を出したグミの開発は前からやっていた。
どんなゲテモノができるか実験台になるソウはびくびくしていたようだが、結果は良好。
ヴォルトを見るとそれがわかるであろう。
ともあれ私達は食事を終える。
この後夜の部があるのだが流石に子供達を働かせるわけにはいかない。
夜の部の方が忙しいのだが、そこはラビに頑張ってもらうことにしている。
それぞれ食器を片付け、店を綺麗にし終えて子供達を寮に帰した。
昼も大分過ぎ夜の仕込みを行う。
といっても煮込むだけ。
本当ならディナーに酒を提供したいところだが今は出来ない。
酒は持っているのだが殆ど料理用。継続的に酒が入るような環境になれば出せればと思う。
「町の者達は随分と景気が良いな」
「食費用にかなり貯め込んでいたみたいだ」
ま、このレストランが繁盛している理由はそれだけではないだろう。
そう考えつつもコンロの魔石を弱火にしてソウに向く。
今この「竜の巫女」はレストランというよりも大衆食堂のような感じだ。
このレストランで使っている食材は近くの畑で採れたものをそのまま使っている。
輸送費がかからない分安い、ということだ。
畑の管理はアデル達の親が行っている。
しかし彼らだけであの広さの畑の野菜を収穫することはできない。
よって時々「日雇い」という形で町の人達を雇っている。
日雇いで来てくれる人達にはこのレストランの割引券を渡している。
今の所このレストランが繁盛しているのは、味の次に「安さ」も理由の一つだろう。
「聞いたが外の商人が売っている野菜はとんでもない値段だな。エルゼリアの店が流行るのも納得だ」
「いくら封鎖されている穴を縫ってきたからといっても、あの値段はないな」
ソウが金色の瞳をこちらに向けて言う。
思い出すだけでも気分が悪くなる。相手の足元を見ているのにもほどがある。
正直、商人から野菜を買うくらいならこのレストランで食事をとった方が安い。
封鎖の穴を縫ってきていると言っているらしいが正直怪しい。
このロイモンド子爵領の外の領主達と話をつけているのではないかと思えるほどだ。
その商人とやらはこの町で大儲けしていたのかもしれない。
けれどそれももう終わり。
「このリアの町に畑が出来たことでその行商人とやらの仕事は終わりだ」
「町に野菜が行き届き始めた」
「値段も落ち着いてきている。食事を十分にとれるようになったおかげか町の人に活気が出て来た。正直同じ町とは思えないよ」
言いながら漂ってくる匂いが火を強めろと言う。
後ろを振り向き魔力を流す。
しかし一気に強くせず、じわじわと。
「我への供物は出来上がったか? 」
「……ディナーはいらないんだな? 」
「……むぅ。我慢しようじゃないか」
そうしてくれと言いながら長く白い帽子の位置を直す。
これからがディナー。
勝負時である。
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