第22話 森の骸骨さん
「リア町長の所へ行こうと思う」
私が言うと一緒に朝食を食べていたラビとヴォルトがこちらを見た。
「なにかご用事ですかな? 」
「僕ついて行きます! 」
「ならば私は留守番ですな」
「いやヴォルトも来てもらう」
ヴォルトが作った白パンを齧り彼に向く。
するとヴォルトはグミを噛むのをやめて思案している。
付き合いは短いが彼がどういう時にどのようなことを考えているのか徐々にわかってきた。
今なら思案。
骸骨故に表情がないが喜怒哀楽も雰囲気で伝わってくるから不思議。
「……私について、ですかな? 」
ヴォルトの言葉に大きく頷く。
そして二人に向き、軽く気合いを入れて、伝える。
「ヴォルトが不死族と知っているのはここのメンバーとアデル達、そしてその両親達のみだ」
ヴォルトが幻影魔法を使えるからといっても、一緒に仕事をしているといつバレるかわからない。
そう考えて仕事仲間になる人達には早めにヴォルトの事を伝えた。
最初は驚いていたが子供達はすぐに慣れた。
ちょっとした骸骨のおじちゃんのように接している。
改めて子供の順応性はすごいなと思った。
逆に恐縮してしまったのがアデル達の両親だ。
私が「パン職人」として紹介したおかげか、はたまた彼らの性格なのかわからないが、ヴォルトが不死族と聞いてもそこまで嫌悪感は抱かれなかった。
だが彼が「王」であることを知って恐縮しまくったのは記憶に新しい。
慣れてもらうことに時間が必要だったが、これはある意味普通のことだろう。
「ヴォルトが作ったパンも好評。説明するなら今しかないと思うのだが」
「幻影魔法をかけ続けたら良いのでは? 」
「確かにヴォルトの幻影魔法が優秀だ。けれどずっと維持するわけにはいかないだろ? 」
「そうですが……」
「懸念していることはわかる。しかし後でバレるよりかは最初からバラしていた方が利口だと思うが」
言うとヴォルトはまた長考に入った。
ヴォルトにとって素の姿で住民と接するのは勇気のいることだろう。
もしかしたら否定さ、嫌悪されるかもしれない。
だけれど町に危険が迫っているかもしれないと考えて、私の所まできたこの優しき不死王にとっても、この町が住み心地の良いものであってほしいと思う訳で。
リスクは高いが成功した時のリターンも大きい。
もしかしたら彼が素の姿で町を歩けるようになるかもしれないからだ。
そうすれば森でひっそりと暮らす必要性も無くなるだろう。
無駄に社交性の高い彼にとって森での一人暮らしはきついと思う。
それに彼の正体を隠すのはこのレストランにとってもリスクだ。
ここで料理を振る舞う以上、客に誠意が必要。
ヴォルトの正体を隠してパンを出していると後からそれがバレた時に困る未来が想像できる。
「……わかりました。行きましょう」
ヴォルトが頷き私は立ち上がる。
そして私達は町長の館へ向かった。
★
「これが町の人達が言っていたパンなのですね」
「出来立てですな。ほくほくで美味しいですぞ」
「爺。私の分も残しておいてくださいね」
「無論ですとも」
ソファーに座るリア町長が隣のコルバーに可愛く言う。
町長の館へ行き、まずはヴォルトのパンを振る舞った。
彼女達は、最初の種まき以降私のレストランを訪れていない。
よってパンを食べたことがないと思い、出したのだが、口に合ったようだ。
「これもエルゼリアさんが? 」
「いや私はパン作りは壊滅的なんだ」
「そうでしたか。では……そちらの方が? 」
「お初お目にかかります。リア町長。私、名をヴォルトと申します」
「これはご丁寧にありがとうございます。パン、美味しくいただいております」
ヴォルトが隣でシルクハットを胸に一礼すると、リア町長がニコリと笑みを浮かべて言う。
ヴォルトは少し緊張しているのか少し動きが硬い。
「そろそろ寮も出来上がる。育ちの早いものはそろそろ収穫しないといけない。それにあたって町長に町民の呼びかけをしてもらおうと思うのだが……」
「構いませんよ。その程度」
「仕事が立て込んでいるのにすまないな」
「いえ頭を下げるのはこちらの方です。ここまでしていただいて返せるものが少ないので」
「それは言わない約束だ」
「そうでしたね」
ふふふ、とリア町長が笑う。
私もつられて笑うが、さてヴォルトをどうやって紹介しようかと考える。
「……いや、なら少し返してもらおうか? 」
「そう言われると少し怖いですね。無茶なものでなければいいのですが」
「無茶じゃないさ。ちょっとばかし見方を変えてほしい。その程度だ」
「? 」
「時にリア町長。この領地、この町で異形種の扱いはどうなっている? 」
座る私の隣が一気に緊張したのを感じた。
がリア町長は気付いていないのか、パンを全て食べ終わり顎に手をやる。
「人それぞれなので確定したことは言えませんが、それでもよろしいでしょうか? 」
「構わない」
「エルゼリアさんはこの領地において種族間での差別が禁止されているのは御存じですよね? 」
「もちろんだ」
「それは異形種の方々にも当てはまります」
少し緊張が和らいだ気がした。
「しかし現実はそこまで簡単ではありません」
少し拳を握る。できるだけ真剣な表情を作りリア町長を見る。
分かっていたことだ。
禁止はしてもそれを破るものは必ず現れる。
残念ながら少しの違いで喧嘩や差別、紛争が起こる事はよくあることなのだ。
そしてそれはこの町とて例外ではない。
今は差別がないように見えるこの町だが、将来はわからない。
今の状態がリア町長の手によるものならばその後はわからない。
不安にかられ、少し汗が流れる。
「実際この領内でも幾つかの町で行われていると聞いています。しかし……」
「しかし? 」
「少なくともこの町では大丈夫でしょう」
「……何故言い切れる? 」
「それはこの町の、ある話に由来します」
コルバーが変わって口を開いた。
どこか懐かしむようなそんな顔だ。
「「森には不死族の賢者が住まう」。この町では昔からそう言われているのです」
おいヴォルト。がっつり噂されてるじゃないか!
「何か困った時は森へ行き賢者を頼れ、このリア男爵家に伝わる言葉です。町民には確か「森の骸骨さん」と呼ばれたと記憶していますが」
「魔物肉の採り方も然り。調理の仕方も然り。まだこの町が完全に死んでいないのは一重に森の骸骨さんのおかげなのですよ」
「よって異形種の方々に対する感情は、他の町よりは柔らかいと思いますが……。それがどうしたのですか? 」
結局の所、彼の行動が回りまわる、ということか。
ヴォルトは本当にすごいやつだ。
「その森の骸骨さんなんだが……」
「ここからは私が話しましょう」
そう言いヴォルトが一歩前に出て来た。
「リア町長。先程は失礼しました。先程、お伝えしていない事がございまして」
ヴォルトが私を見る。私は頷き、リア町長に顔を向ける。
リア町長は何を言われているのかわからない風だ。
首を傾げるリア町長を前にヴォルトは杖をカツンと付いて、――幻影魔法を説いた。
「「!!! 」」
「私この町の近くの森に住むヴォルトと申します。現在はエルゼリア殿のレストランでパン職人をしております。改めてご挨拶を」
いきなりの変化にリア町長とコルバーは固まっていた。
少しして再起動すると、口をパクパクさせながら私とヴォルトを交互に見る。
そして落ち着き、口を開いた。
「森の賢者本人、ですか」
「賢者なのか? 」
「そう呼ばれていることを今知りました」
ヴォルトは骸骨の指でポリポリと白く硬い頬をポリポリと掻いている。
これは気恥ずかしく思っているな。
くすっと笑いながらリア町長とコルバーを見る。
驚きを越して冷静になったようだが、どう話掛けたらいいのかわからないようだ。
少しの沈黙が流れた後、このままでは話が進まないと思いこれからの事を話す。
結果として第一回収穫祭の日に食事会を行うこととなり、その時に「森の骸骨さん」ことヴォルトを紹介することとなった。
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