第129話 やっぱりワインをジョッキで飲むのはおかしい
アデルとソウの仲が進展して一安心。
私はアデルとラビ、ソウを連れてガラス工房へ向かっていた。
「どんな所か気になりますね! 」
「……頼むからあちこち触るなよ? 」
「分かっていますとも! 」
えっへんと、大きな胸を張るラビ。
しかしドジ属性をこれでもかという程に詰め込んだ彼女である。
心配でならない。
今向かっているガラス工房にはワイングラスを頼んでいる。
この町の人達はジョッキでワインを飲むのだが、本来の飲み方ではない。
この町の人達はそれで良いのかもしれないが、今リアの町は多くの人が訪れるようになった。
どんな人がレストランを訪れるのかわからなくなってきたことから、レストランとして最低限の体裁を保つべく、幾つか準備を行っている。
ワイングラスもその一環で、少しリッチな人が来た時の為に発注したのだ。
この町の人達はワインをジョッキでがぶ飲みする。だからもしかしたらワイングラスを知らないかもしれないと思った。けれどそれは違った。
聞いたところによるとその昔、この町が食の最先端と呼ばれていた頃町長から注文があったらしく、その時のレシピが残っているとの事。よって作り方自体は知っているらしい。
町長が発注していたということは恐らく貴族達が使うワイングラスで間違いないだろうね。
それこそ私が求める物。
よくレシピが残っていたなと本当に感謝である。
ガラス工房に注文を入れると始めて作るからどうなるかわからないと言われた。
しかしこれに関してはあまり心配していなかった。
何せこの町の技術力はかなり高い。
だから不安なく待っていたのだけど、この前作れたと知らせがあってこうして出向いているというわけだ。
本当は私とアデルとソウで行くつもりだった。
けれど私達が外出することを知ったラビがついて行くと言い出した。
断るのも不自然。
そう考えて了解したのだけど、彼女が何かやらかさないか今から心配である。
「あ、着きましたよ」
ラビに言われて顔を上げるとそこには煙突からモクモクと煙が立ち上っている建物があった。
着いたかと思いながらもアデルとラビに向く。
「どうしたのですか? 先に進まないのですか? 」
「いやこのまま行っても良いんだけど」
「なら早く行きましょう! 」
と拳を上に上げて先に進もうとするラビ。
けれど彼女を止めて教える。
「多分中はかなり熱い。だからここで魔法をかけておいた方が良いと思うんだが」
「ガ、ガラス工房って熱いんですか?! 」
「そりゃぁ熱いさ。むしろ何で熱くないと思った」
「い、いやぁ……名前だけだとそんな雰囲気を感じませんし」
「確かにそうだけど……、いやならラビだけ保温の魔法をかけずにいくか? 」
「いえかけてください!!! 」
背筋を伸ばしてピシッとするラビ。
そんな彼女を見て面白そうにソウが笑い、アデルがプルプルと震えている。
その様子をみて不満そうに頬を膨らませて抗議をしてくるけど、落ち着かせて、保温の魔法をかけて「ケット・シー」と書かれた看板の方へ足を進めた。
★
「注文のものはこれで全部だと思うだけど……、大丈夫かね? 」
「上出来だよ。じゃ、支払いを」
「おお。よかった。おい支払いだ」
「へい! 」
工房主が言うと、奥にいる猫獣人が噴き出る汗を拭いて何やら魔法を使いこちらに向かって来る。
彼にお金を渡して商品を受け取ると、すぐさまソウの異空間収納に入れてもらう。
そして十人ほどの職人が仕事をしている工房からコルナットの商会へ向かった。
「布、ですかな? 」
「あぁ。出来ればかなり綺麗なものを」
言うとコルナットが腕を組み少し考えている。チラリと商品棚を見たけどまた考える。
商品棚にあるものの中にはないようだ。
まぁ事前に確認はしてあるが。
「何に使用するかお聞きしても? 」
「ワイングラスを拭くんだよ」
「ワイングラスですか……」
反芻して、私を見上げ、口を開く。
「……思い当たる物があります。しばらくお待ちを」
と言いながら彼は店の奥へと向かった。
コルナットが戻ってくる中商品を再度見て周る。
この町でとれたものだけでなく他の町から仕入れたものが幾つか並んでいた。
けれど売れているのかポツポツとしかない。
売り上げは上々のようだ。
「お待たせしました」
コルナットが上品な箱を手にして戻って来る。
これだけでも相当なものが入っているのがわかる。
木箱の表面には何やら名前のようなものが彫られているし。
「これはシフォン公爵領から仕入れたものになります」
「シフォン公爵領? 」
「ええ。シフォン公爵領は服飾に優れた領地でここエンジミル王国のファッションの中心地と呼ばれているそうで」
「へぇよく知ってるな」
「最近知りました。ロイモンド子爵領が伯爵領に変わり領地が拡大、そして外の領地と交流が出来たことで、私も色々な情報を仕入れることが出来るようになりましたので。日々勉強とはまさにこのことですね」
言いながらシュルッと紐を解き長方形の木箱を開けて行く。
ゆっくりと開けられた中には純白の布が幾つも入っていた。
「これを手に入れたのも偶々でして。丁度フルーツをロイモンド伯爵領の町に移動していた時シフォン公爵領の商人とばったり会いまして。興味深そうにフルーツを見る商人にこの布とフルーツを交換したのですよ」
はは、と笑いながら汚れないように再度蓋をするコルナット。
その商人とやらもかなりの目利きらしい。
どう見てもこの純白の布はかなり高価だ。
それこそ貴族が使っていてもおかしくないというくらいに。
この布がシフォン公爵領でどのくらいの値段で売られているのかはわからない。
けれども、少なくともこの町で採られるフルーツ本来の値段と大体同じであることがわかる。
これまたおかしな縁が出来たな、と心の中で思っているとコルナットが木箱をこちらに向けた。
「これは如何でしょうか? 」
「あぁ。これを頂こう」
「ではお値段のほどですが――」
コルナットに布の支払いを済ませてレストランに戻る。
夜寝る前、ソウに布とワイングラスを出してもらい再度確認。
「ま、これでいざという時は大丈夫だろうね」
「わざわざ貴族が来るとは思えないのだ」
「何事も準備をしていて損することはないのだよ。ソウ」
「かなりの出費をした覚えがあるのである」
「必要経費だ。仕方ない」
「まぁエルゼリアが良いのなら、我も良いのである」
ソウに呆れられた気がするが気にしない。
ワイングラスを一通り見て、再度収納してもらい、純白の布を拝見。
「思ったよりも厚みがあるな」
「……不満があるのならそのシフォン公爵領とやらへ我が飛んで送るのである」
「いやその必要はない。ガラスを傷つけるようなデコボコがある訳でもないし……、お、保存魔法がかかってるな」
「貴重そうなものをコルナットに渡すとは中々に豪快な商人なのであるな」
「懐に余裕があるのか、珍しいフルーツを売る商人に恩を売っておきたかったのか。その辺はわからないけど有効に使わせてもらおうか」
言いながらそれを木箱に入れてソウの異空間収納に仕舞い込む。
そして私は一日を終えた。
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