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第126話 ヴォルトの日常 2

「「「恵みに感謝を」」」


 竜の巫女の食堂で食前の言葉を口にしてそれぞれ食事を始めた。

 子供達は元気よく、大人達はゆっくりとパンをちぎりスープにつけて口に入れる。

 瞬間顔が綻ぶのを見てヴォルトは自分のパンに手をつける。


 (皆さんと同じ物を食べれるというのは、やはり感慨深いものですねぇ。諦めない事が重要とは本当によく言ったもの、でしょう)


 魔法の開発が出来なければエルゼリア達と一緒の食事を摂る事が出来なかった。

 当たり前である。

 研究肌のヴォルトでなければ味の再現すらできなかったのだから。

 しかしここはヴォルト。味の再現だけでなく「食べた先から零れ落ちる」といった障害を乗り越えて、こうしてエルゼリア達と食事を共にしている。

 今ある奇跡のような光景にヴォルトの手が自然と止まる。


「ヴォルトさん。食べないのですか? 」

「あぁ、いえ。頂きますとも」


 自分の手が止まっていることに気付いたヴォルトは取り繕いながらパンをちぎる。

 それをスープに染み込ませて、パクリと口の中に入れた。


「おお。口の中に衝撃が! 」

「本当に美味しいですね。この金色のスープ。本当に何から出汁(だし)をとっているのですか? 」

「ドラゴンの骨」

「「「~~~~!!! 」」」


 さらっと途轍もない事をいうエルゼリアに全員が咳き込む。


「ケホッ! エ、エルゼリアさん。何て物を」

「ドラゴンの骨!? これ、ドラゴンの骨で出汁をとっているのですか! 」

「オレ、見ちまったんだ……。出汁、とるところ」

「ア、アデル。嘘ですよね? 単なる大きな骨の間違いですよね? 」

「いやあれはまごうことなきドラゴンの骨だった」

「いや巨大な魔物の骨の間違いもっ! ドラゴンの骨といえば一体いくらするか」

「本当か嘘かはまだ未熟なオレにはわからない。けどあの存在感は「ドラゴン」と言われて納得がいった」

「まぁ骨だけなら余るほどあるしな。気にせず食べよう」

「「「いや無理ですから!!! 」」」


 従業員達に総ツッコミを受けるエルゼリアに、ヴォルトはどこか微笑ましい雰囲気を出しながら、パンをちぎり口に入れた。

 朝の騒々しい光景に和みながらもヴォルトはエルゼリアを見て思う。


 (エルゼリア殿も初めて会った時よりも柔らかくなりましたねぇ。竜の巫女の雰囲気がそうさせているのか、それとも町の雰囲気が彼女をかえたのか気になりますが良い変化の様です)


 ヴォルトが初めてエルゼリアと出会ったのはヴォルトの勘違いからである。

 その時からの付き合いとなるのだが、ヴォルトから見るとエルゼリアはどこか張りつめていた。

 それもそのはず。

 エルゼリアも人の子。町の復興に町おこしにと、ソウの力を借りれば成功間違いなしと確信していたが、頭のどこかで失敗する可能性を、無意識下で考えていたのだから。加えて今も続く多忙である。張りつめない方がおかしいというもの。


 こららが回りまわって彼女の雰囲気として体から出ていたのだが、最近はそれが無くなっている。

 ヴォルトがエルゼリアにこれを指摘すると恐らく「そんなことはない」と否定するだろう。

 けれど彼女がどんなに否定してもエルゼリアの雰囲気が柔らかくなっているのは確かだ。


「ご馳走様でした」

「あぁ。お粗末様」

「ドラゴンの骨の出汁とは驚きましたが、これもまた美味ですな」

「だろ? ソウがよくドラゴンの肉を要求するから骨だけ余ってるんだ。だから出汁に使った」

「古今東西ドラゴンの骨を標本や武具にせずスープの出汁に使うのはエルゼリア殿だけでしょうねぇ」

「そんなことないさ。誰だって思いつく」

「思いついてもやりませんよ。まず売るでしょうし」

「言われれば」


 ははは、とエルゼリアが笑うとつられてヴォルトも笑う。

 ヴォルトは「では」と手を振って竜の巫女を出た。


 ★


 ヴォルトは夜に再度竜の巫女に卸す分のパンを焼き終えた後、レストランの裏口から入る。

 竜の巫女のランチタイムはゆったりとしているが、ディナータイムは違う。

 隣町や魔境から仕事終わりに竜の巫女に寄る客が多く、慌ただしい。


 ランチタイムとは竜の巫女に来る客層もかなり変わるので運ぶパンの種類も変わる。

 今日彼がパンを運ぶのもこれが三度目で、町の人口が増えた影響もあってか行き来する頻度が多くなっている。一回に量も多く、レストランというよりかは大衆食堂と言った方が合っているだろう。


 (いやはや充実した毎日ですなぁ)


 食堂の方からどんちゃん騒ぎが聞こえる中ヴォルトはパンを運ぶ。

 タタタタタと忙しい足音が聞こえる中彼は引き留められた。


「あ。ヴォルトさん! 」


 走っていたラビが「キー――ッ! 」とブレーキを踏んでヴォルトに向かう。

 素早い動きでヴォルトに頬ずりをした後手に持つパンに気が付いた。


「丁度良かった。今から受け取りに行こうかと思っていたんですよ」

「よかったです。ではこれをどうぞ」

「ありがとうございます。パンが来たことをエルゼリアさんに伝えておきますのでまたよろしくお願いします」


 畏まりました、と言い残してヴォルトは裏口から出た。


 外に出て、明るいレストランに振り向く。

 ヴォルトは「次はいつ行こうか」と考えながらもじっと見る。


 最近ヴォルトは竜の巫女で食事を摂っている。

 朝食等の時でなく客としてだ。

 流石に忙しい日はパンを作ったりで無理だが、町の人と食事を共にして楽しんでいた。


 ヴォルトが食事を摂ると聞いて町の人達はかなり驚いた。

 けれどもそれもすぐに収まった。


 この町の非常識代表であるエルゼリアとソウのペアほどではないが、ヴォルト達種族王も非常識の塊として地位を築いている。

 その為「まぁ、ヴォルトさんだからな」という認識で強引に納得。

 そしてその時から町の人と食事を楽しんでいる。


 町もそうだがレストランにも昼は昼、夜は夜の雰囲気というものがある。

 昼にも夜にも顔を出すヴォルトだが、どうしても仕事の関係上夜に顔を出す方が多い。

 夜のレストランの雰囲気に当てられて酒に酔っていないのに気分が上がるのは、ヴォルトの気質だけでなく陽気な町の人達の影響なのかもしれない。

 思うと町によって雰囲気をかえられたというのは、エルゼリアだけに当て嵌められた言葉ではないのだろう。


「本当に、感謝しかありませんよ」


 独り言ちながらヴォルトは自分の工房に足を進める。

 次をピザを焼かないと、と専用の窯へ移動する。


 不死王は今日もまだ、眠らない。

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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