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第12話 精霊の奇跡

 子供達に接客の手伝いを頼んだ後、私とソウはレストラン裏にある畑予定地へと足を運んでいた。


「これは中々に」


 目の前に広がっているのは荒れた広大な土地。

 土の色も赤く、金属のようなものを含んでいることが想像できた。


「一応草も生えているな」


 しゃがみ赤みを()びたそれを引っこ抜く。

 確かにこれは食べることが出来ないな。

 抜いた草を置いて土を触るも硬く水分を含んでいない。

 水()けが悪いってレベルじゃないな。

 (まゆ)(ひそ)めながら立ち上がりトテトテと地面を歩くソウに聞く。


「ソウ。出来そうか? 」

「誰にものを言っている」

「だが思ったよりも範囲が広いぞ? 」

「……終わったらスープを所望(しょもう)する」


 ソウは首を土地に向けて言った。

 そこは肉じゃないんだ、と心の中で微笑ましくなりながらも「わかったよ」と答えて準備に取り掛かってもらう。


 ソウが準備に入る。

 徐々にソウの体が輝きを増す。

 蒼く光る体が肥大化していき人間大まで大きくなる。

 しかしそこで止まらず更に大きくなる。

 そして借りた土地の三分の一程度まで大きくなってバサリと翼をはためかせた。


 蒼く光る神々しい体に威風堂々(いふうどうどう)とした(たたず)まい。

 こうしてみると信仰の対象になるのも頷ける。

 けれどいつもの食い意地(いじ)()った姿を見ているとどこか残念さを覚える訳で。


 私がいらない事を考えているとソウは砂塵(さじん)を舞い上がらせて、空を飛んだ。


 ★


 空からリズミカルな声が聞こえてくる。

 歌ともとれるその声に土地が(おう)じる。


 ――この地に幸あれ。祝福を。


 上空で歌い土地全体を二回三回とぐるぐる回る。

 終えるとソウはこちらへ戻り、ばさりと翼で勢いを消して、着地した。


「これで大丈夫だろう」

「流石ソウだ。完璧」

「ふん。我ならばこの程度――」

「なら次は私の出番だな」

「……我のスープは? 」


 体を人間大にまで小さくしたソウが寂しそうに聞いてくる。

 食いしん坊な精霊様に苦笑しながら「もう少し待ってくれ」と言いながら大きな角を軽く()でる。

 キュルっと気持ちの良さそうな声を出すソウに「早くしないとな」と思い魔杖を掲げる。


土人形召喚(サモン・ゴーレム)


 柔らかくなった地面に十個以上の魔法陣を展開させる。

 そこから土人形(ゴーレム)が出現する。

 召喚された人形達が立ち上がると一斉に私の方に向いた。


「土地を(たがや)せ」


 リンクした思念(しねん)で「承諾(しょうだく)」を受け取ると、ソウに頼み巨大な(くわ)を出してもらう。

 人形達は大きな音を立てながら鍬を手にする。

 彼らが土地に向かう中、私とソウは背を向けて、大きな音がする中レストランへ入った。


 ★


「♪♪♪ 」


 私の後ろでソウが機嫌よさげに鼻歌を歌っている。

 それも仕方ない。このスープは彼の好物の一つだからだ。


 今回ソウに出すスープは少し特殊。

 具材は殆ど入っていない。

 しかし素材が特殊なのだ。


 ソウから目線を戻して鍋に落とす。

 中には金色に輝くスープが入っている。だがコーンスープのような懸濁(けんだく)したような色ではない。色合いとしては具材の無いコンソメスープのような、透き通った金色(こんじき)をしているのだが漂う匂いは甘いそれ。

 この気難しい姫様を大きな鍋をお玉で回しながら、温度や微妙な成分が(かたよ)らないようにする。

 いつもやっているが今回は更に慎重に、ゆっくりと。

 そして出来上がったことを確認し、ソウのお(わん)(そそ)いだ。


「では。恵みに感謝を」


 ソウが食前の言葉を口にして小さな手で器用(きよう)にスプーンを使う。

 スープをすくい、口に入れると「美味である!!! 」と大きく叫んだ。


「やはり精霊獣たる我にはこの味!!! 世界の力(エレメンタル)が我の体の中を暴れる!!! 」


 翼を何度もはためかせながら更にスープを口にしてごくごくと喉を鳴らす。

 キュゥ、キュゥと歓喜の声を上げながら私の方に体を向ける。


「おかわりである!! 」

「はい、はい」


 ソウはこちらに空っぽとなったお椀を出す。

 スープを入れて彼に渡すと三本ある角が若干光って見えた。

 これまた上機嫌だなと思いながらも背を向けて、調理器具を洗う。


「このような食事。普通の者には作れまい……」


 飲み終わったのかソウは余韻(よいん)(ひた)っていた。


 ソウにしては珍しく()めてくれるのだがむず(がゆ)い。

 確かに難しいスープである。

 味を出すためにフルーツを入れないといけないし、混ぜる素材の割合や抽出(ちゅうしゅつ)時間も間違えることができない。

 フルーツは後で()けるのだが、見えない不純物まで除かないといけないから大変。

 これを作るために数十年間か錬金術師をしていたこともあった。


 そして出来上がったのがこのエレメンタル・スープ。

 元から存在したスープでなく名前も無かったためソウが名付けた、珍しい一品。


 一方で私に対するソウの評価は過大だと思う。

 難易度はかなり高いが同じ過程を踏めば作れるだろう。


「さてこれからどうするか」


 調理器具を片付け終えて二階へ移動。

 ベッドに腰掛けながら考える。


「今日からここに住むのだろ? 」

「いや明日からだ」


 答えるとソウが意外といった表情をする。


「宿はすでにとっているからな。今日一泊はあそこで済ませるよ」

「……そうか」

「明日から忙しくなるだろうが、さて……」


 アデル達に人を呼んでもらうように頼んだ。

 徐々にだろうが、このレストランを訪れる人は増えるだろう。


 接客も頼んだが私が忙しくなると彼らの補助に入れなくなる。

 レストランのみならず飲食業は時に拳で語らないとダメな客もいる訳で。

 出来れば彼らの取りまとめ役のような存在が欲しい。


 私としてはちょっとした大衆(たいしゅう)食堂気分で入ってくれると嬉しいな。

 ならメニューは色んな種類のものが良いだろう。


 酒はどうするか。

 出来れば仕入れたいがこの町に専門職の人はいないだろうか?

 その昔食の最先端と呼ばれていたのなら技術が残っていてもおかしくない。

 長命種が酒を造っていたのなら尚更(なおさら)良い。

 この町に元職人がいると助かるのだが。


 恐らくこの町の経済はまだ完全には止まっていない。

 人が住んでいける程度は無事なはずだ。


 今後やるべき事を考え纏めていく。

 時間が経過するのは早く、外が暗くなり始めるまでソウと相談した。

 もう宿に戻ろうか考えていると外から大きな悲鳴が聞こえてきた。


「何事だ?! 」


 ドドドと走って階段をおりる。

 受付を突きっきり扉を開けるとそこには見知った冒険者がいた。

 変質者でないことに安堵(あんど)しながらもラビに声をかけると、ぐわっとこちらに顔を向けて震える声で答えた。


「エ、エ、エ、エルゼリアさん?! いえ今はそれどころじゃありません! ゴ、ゴーレムですよ !ゴーレム! 」


 ラビが巨大なゴーレムを指さして震える剣を構えている。


 ……そう言えばまだ戻していなかったな。

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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