第10話 レストラン予定地へ
「中々に気前のいい町長じゃないか」
「こっちは買い取るといったんだが」
「貰えるものは貰っておけ」
耳元からソウの言葉が聞こえてくる。
計画を話し、レストランの開業・営業許可をとったのだが建物がないと何もできない。
よってレストラン用の建物を買い取ろうとしたのだが、町長が気前よくレストランを丸々一つくれた。
聞くところによるとその昔レストランとして使っていた建物らしいが、今は所有者がいないとのこと。
せっかくなのでありがたく貰ったのだが、リア町長としては不安だったのかもしれない。
これからやる事を考えると、こちらが与えることばかり。
幾らこちらにもメリットがあると言っても罪悪感のようなものを拭えなかったのかも。
「でそのレストランの鍵がそれと言う訳か」
「中々にしっかりとしている」
銀色に輝く鍵を持ち上げて見る。
「鉄に銀を混ぜているようだが……。中々のものだが」
「期待できそうだ」
「今から言っても仕方ないが従業員はどうする? 」
言われて「ん~」と考える。
正直従業員に当てがない。
冒険者ギルドに依頼するという手もあるが、恒常的に人を派遣してくれるわけではない。
レストランを開業して盛り上げるには人手が必須だ。
ウェイトレスもそうだがコックも必要。
この町にどれだけ料理が出来る人がいるのかわからないが、最終手段は一人で回すしかないか。
「ん? 誰か来たぞ」
考えていると耳元でソウが知らせてくれた。
顔を上げ前を見ると正面に三人の子供がこちらに向かっている。
彼らに気が付かないとは考え込み過ぎたようだ。
観察すると様子がわかってくる。
それぞれ貧相な体つきの人族。がっちりとした体つきをしている熊獣人。細くも器用にナイフを回すエルフ族の三人。
種族に統一性がないが、全員歳にして大体十六といった所か。
冒険者にしては持っている物が脆弱過ぎる。
いや全員斥候と言う可能性もあるから決めつけは良くないが、良い雰囲気は受けない。
「おい。エルフのねぇちゃん」
「ねぇちゃん、か」
「何か言いたそうだな。ソウ」
私が首を回して隣を睨みつけるとソウがグルっと鳴いて知らんぷりした。
「ド、ドラゴン?! 」
「魔物使い?! 」
「い、いや。あれは精霊獣だ」
おっとエルフ族の子は分かったようだ。震える手でこちらをさしている。
時にエルフ族やドワーフ族のような妖精族にとって信仰の対象にもなる精霊や精霊獣。
もし彼がわからなかったら拳骨を振り下ろしていただろうが、その必要は無くなったようだ。
「精霊獣? 」
「なんだそれ」
「ば、ばか! 口を慎め。頭を下げろ。そして逃げるぞ」
エルフ族の子が頭を下げつつ言うがいまいちピンときていなさそうな二人。
頭を下げてその場から逃げようとしているが二人は動かない。
しかし様子を見る限り物取りだったか。
治安が悪いと聞いていたからあり得ると思っていたが、私の装備を見てよく襲う気になれたな。
感心するが褒めることができない行動だ。
だが観察すると熊獣人の男性以外はげっそりとしている。
熊獣人の体つきは恐らく種族特性によるものだろう。
他二人に比べるとがっしりとしているが、一般的な熊獣人と比較すると瘦せ型だ。
魔物肉を食べているおかげか栄養失調にはなっていないようだが、良い状態とは言えない。
「……お前らちょっとこっちにこい」
「ひぃ! 」
「そこのエルフ族の子、怯えるな。ソウは何もしないから」
「……まるで我が狂犬のような言い方をするな」
「どうどう」
「馬でもないわ! 全く」
ソウを宥めつつ三人を呼ぶ。
人族と熊獣人の子は顔を見合わせ悪い顔をする。が私が手に持つ魔杖を見てすぐに後ろに下がった。
可哀そうなことにエルフ族の子は「ごめんなさい。ごめんなさい。出来心だったのです。ごめんなさい」とひたすら土下座で謝っている。
これはこれで可哀そうだが物取りにはお説教が必要だ。
「全員ついてこい」
仲間を置いていけないのかエルフ族の子を見捨てることなく二人共降参。
エルフ族の子が正気に戻った所でレストラン予定地へと向かった。
★
「中々に立派だな」
「これはまた家事妖精達が張り切りそうなレストランだな」
茶色い建物を見上げてそれぞれ感想を言う。
町長の館も立派だったがこちらも立派。
見上げる建物は二階建てで横に広い。
目線を横にずらすと広い庭が見える。
庭で食事を広げるのも良さそうだ、と思いながらも扉へ向かう。
「こ、ここは? 」
「その昔レストランだったらしいぞ? 」
「レストラン? 」
人族の子が聞いてくるので答えた。
鍵を回すと「がちゃり」と音が聞こてくる。
開いたことを確認して後ろを見ると三人とも首をかしげていた。
恐らく町にレストラン、ということにピンと来ていないのだろう。
この子達の様子を見ると恐らく「食の最先端」と呼ばれていた時代の後に生まれて来た子供のようだ。
「さ。お前達。中に入れ」
がっちりとした鍵とは裏腹に軽い扉を開けて、私は三人に中へ入るように促した。
私も入り、三人も入る。
暗く埃塗れのレストランを歩く。
「暗いな。光球」
軽く魔杖を上に掲げて魔法を発動。
光が周りを照らして一気に明るくなった。
すると全体が見えてくる。
「なにこれ」
「すごい」
「……広い」
彼らが驚くのも無理はない。なにせ思っていたよりも部屋は広かったから。
奥に綺麗な木製の机が見える。恐らく保護魔法をかけているのだろうことがわかる。
考えるにここは受付だろう。
しかし全体に保護魔法をかける余裕がなかったのか埃が溜まっていた。
魔杖を右に左に向けると幾つか扉が見え、奥には二階に上がるための階段とキッチンに繋がる扉が見えた。
食堂は左右の扉の向こう側、ということか。
町長が二階は持ち主の部屋、と言っていたから住居区で間違いないと思う。
三人について来るように言い、隣の部屋に足を進める。
少し目を輝かせる三人だが進む足取りは重い。叱られる子供というよりかはまるで囚人のようだ。
心が痛まないことは無いが悪い事をした子にはお説教が必要。
「固定: 光球」
扉を開き、窓を開けて空気を入れ替える。
魔杖を軽く振り上げ光を固定すると、多くの保護魔法がかけられた机や椅子が目に映る。
「お前らそこでまっていろ」
「「「……はい」」」
そう言い残して私はキッチンへ向かった。
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