表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/35

第30話

「この土モグラ? というの、我が家で飼えないかしら? うりうり」

「きゅ……」


 どうしてこうなった……。


「おやめくださいお嬢様! そんな土まみれの害獣を抱いては大切なお洋服が」

「きゅ……」


 害獣って……。


「今更だわ! 土の中に落ちた時点で服も体も汚れているもの。そうよ! この子と一緒にお風呂に入りたいわ。シース、用意して」

「きゅ……きゅ⁉」


 いや風呂ってあんた僕は男だぞ⁉

 愛くるしい土モグラ先輩の外見を利用して女性と混浴とか、とても自分を許せそうにない!

 というか世間が絶対許すはずもない……。

 また未成熟な少女と家族でもないのに混浴?

 はは……これも知らないおじさんの謀略かな。

 おのれ貴族!

 やり口が汚いぞ!

 僕にそんな趣味は一切ないってのによぉ!


 だからメイドさん、その鎖鎌仕舞ってよ。

 射殺すようなその視線もやめてよ!

 僕は無実だぁぁぁぁ!!


「お嬢様、少々私めにその害獣、いえ虫けらをお貸し頂けませんか? 私めもたっぷりと、ええたっぷりと()()()()()あげたくなりました」


 あ、これ渡されたら殺さるやつだ……。

 眼がお前を殺すって言ってるもん。

 もの凄い凶悪な笑みでこっち見てるもん!


 でも大丈夫。

 レレイ様は土モグラ先輩の愛くるしい見た目にノックアウトされてるから。

 あんなわかりやすい態度のメイドさんに僕を渡すなんてそんなことあるわけ――


「はい、シース。堪能したらお風呂の準備お願いね」


 あるわけないって言ってよお嬢様ァァァァ!!

 このご令嬢はあのメイドさんの何処を見て判断したの⁉

 もう突っ込まなかったけどメイドさん僕のこと害獣から言い直して虫けら呼ばわりしてたよ⁉

 あの凶悪な笑みをどんなフィルタ越しに見ていたというんだ……っ⁉


「えぇ、それはもうたっぷりと、堪能させて頂きます。ふふ…ふふふふ……」


 哀れメイドさんの手に収まった僕は、そのまま人目のない場所に連行された……。


「ここならこの時間は誰も来ません。さあ始めましょう」


 そう言ってメイドさんはなにやら準備を始めた。

 どうやらただ殺すだけではなく、拷問でもする気のようだな、とほほ……。


 逃げたい、けれど体はメイドさんと鎖鎌で繋がっているから逃げられない。

 この運命の黒い鎖を僕の血糊で赤く染めるわけにはいかない。

 なんとか脱出を試みないと……!!


「ああそうそう。まだ私めの自己紹介がまだでしたね。わたくし、レレイお嬢様が専属メイド、シースと申します。これからよろしくお願いしますね?」

「きゅ……」


 拷問官シースか、その名、来世まで持っていこう。


「ではまずはこのお水を……」


 最初は水責めかっ……!

 多少拷問の心得はあるようだが、そんなもので僕は屈したりしない……!!…から止めてください……!!


「そぉれ」

「きゅ⁉」


 そして拷問は無慈悲に実行され……なかった。


「全身土まみれ。早く洗い落としてお嬢様のところへ戻りますよ」

「……きゅ?」


 ……なんで僕はメイドさんに洗われてるんだ?

 拷問するんじゃなかったのか?

 これはいったいどういう……


「なにやら勘違いされているようなので申しますが、わたくしは私怨でお嬢様の新しい玩具を壊すような真似は致しません。それが例え汚らしい害獣であっても、お嬢様の玩具となられるのであれば綺麗に洗ってペットにして差し上げます。私めはメイドで御座いますから」


 こ、この人……プロだ!!

 鎖鎌とか射殺す眼とか只ならぬものを持っておられるけど、その根っこはメイドの鏡……!!

 はっ⁉

 もしやメイドだから冥土(メイド)繋がりであんな物騒なものを?

 なるほどつまり今までのあれは全て役作りというわけか!

 なんだ~真に迫り過ぎてめっちゃビビった――


「というかあなた自分で洗えないですか? このままお嬢様に近づく虫けらに奉仕するとか地獄なんですが。あ、オス個体なら握り潰してもお嬢様はきっと気付かれませんね。良かった少しは私の気持ちも晴れそう……」


 誰かあああぁぁぁぁ!!

 助けてくれえええぇぇぇぇ!!

 息子が死にそうなんだぁぁぁ!!


「うふふ、ふふふふ。クスクスクス……」


 その日、僕の息子は不在だった。

 握り潰されたから不在なのでなく、単純に転生した個体がメスだっただけなので安心してほしい。

 自分でオスメスは選択できないのだが、ここで何故メス個体が転生対象だったのかはわからない。

 でも僕は思う。

 きっと神様が助けてくれたんですね……!!


 アカネの件でも案外神頼みイケるんじゃね? と思った一件でした。


 そんなこんなでレレイ様のところに戻った僕。

 メイドさん――改めシースさんはお風呂の用意(僕は入らない、洗ってもらったから)をしに席を外し、レレイ様も入浴の準備がどうと去ってった。

 僕もレレイ様に連れていかれそうになったが、シースさんが未だ鎖鎌を解いてくれないので無闇なことはできない。


 ……この鎖鎌長すぎじゃね?

 

 レレイ様に近づくだけで鎖が締まるのはどういう理屈なの?

 シースさんお風呂の用意でここにいないのにどうやって状況を把握してるの⁉

 魔法があるファンタジー世界のメイドさんコワイヨ!

 シースさん実は魔法使いだったって言われたほうが納得できる現象起きてます!


 シースさんの無知なる力に恐れおののいていると、〈気配察知〉にこちらに近づく反応を捉えた。

 今は土の中ではなく庭の隅に控えている(屋敷には入れて貰えない)から、〈気配察知〉も先程より効果は劣るが、それでも誰が来たのかはわかる。

 人数は2人。

 その一人の反応はギルド長だ。

 あと一人は知らない反応だが、こちらに真っ直ぐ向かってくるということは僕に用があるのだろう。

 

 今、土モグラの姿だから会話できないし、転生も2回連続して使う魔力ないからすぐには戻れないんだけど、さてどうしよう。

 ていうか土モグラ見て僕と気付くのか?

 殺されないよな……?

 なんだかここに来てから命の心配をする機会多いな。

 それだけ防犯がしっかりしてるということにして考えるのやめよう。


 貴族屋敷の危険性について思考放棄して空を眺めてしまったが、そろそろ近づく反応を目視できる距離だ。

 身の危険を感じれば土中に逃げようと画策し前方を見据えると、そこには察知通り2つの人影。

 

 一人は予想通りギルド長だが、その横に並んでいるのは誰だろう?

 随分貴族らしい上品な洋服を着ているが、もしかしなくてもあの人がバルトハルト辺境伯?

 長い銀の髪にスラっとした長身、そしてイケメン。

 歳もまだ20半ばに見えるが、既にギルド長から認められているのだからきっと優秀な方なのだろう。

 

 だがなんでまたそんなお偉方がこんな場所に?

 僕に用があるにしてもこういう時はこっちが呼ばれて出向くものでは……とか思ってるうちにもう目の前。

 

 土モグラの目線だと凄く見上げなくちゃならないんだが、それでも確認した推定バルトハルト様の眼光は鋭い。

 澄んだ青い瞳で僕を見つめている。

 うっすらと笑みを浮かべたままずっと見つめている。


 ……いやなんか言ってよ!


「ふむ、この土モグラが君のいう魔法使いかい? 確かに魔物なら魔法は使えるかもしれんが、そういうことを言いたいんじゃないんだろう?」

「そうですな。儂の語った冒険者リキョウは確かに人間だったのですがのぉ。いやはやこれはどういう魔法か」


 やっと喋ってくれた2人だが、やはり土モグラで話せない今の状況は流石に予想外か。

 僕も早く人間に戻りたいんだけど、魔力の問題でこればっかりはどうにもなぁ。


 と、眼前の2人の会話を聞くしかできなかったのだが、そこで推定バルトハルト辺境伯が何やら水色の瓶を取り出した。

 とても高級感のある品ですがそれをまさか僕に使うなんて考えちゃいませんよね?

 いやなんとなくそれがなにかわかるけど、そんな高級品の代金僕払えませんからね!

 あとで請求書寄越されてもレレイ様に返しておくからな!


 そんな心の抵抗は言語化されず、瓶に入った水色の液体を僕は飲む羽目になった。

 とても飲める味じゃなくて吐き出そうとしたけど無理やり飲まされました。

 この貴族屋敷、拷問慣れしてそうな方が多いですね。


 しかし飲み切ったあとの効果は明確で、予想通り身体に巡る魔力が回復したのを感じる。

 やはりあの水色の瓶は魔力ポーションなるものであったらしい。

 カインさんリーダーの【点灯竜】でもハルマさんが錬金術師だったから、こういうのもあるだろうなとは考えていた。

 しかしこんな高級感のある品だとは思ってなかったよ。

 町の市場を回っても見当たらないのはただ需要が低いだけかと思ってたのに……。

 でも考えてみれば魔法使いが集まるのって貴族様のところで、僕やアスタシアが例外なだけなんだよな。

 そう考えるとこの結果は予想できたか……とほほ。

 貴重な魔法使い救済アイテムはお高いんですってよ奥さん!

 あらやだ!


「なにをしておるリキョウ。魔力が戻ったならはよ人間に戻れい。閣下を待たせるつもりか……?」

「ははははは。気にするな」


 少しくらい嘆きの時間をくれてもいいじゃん……!

 でも閣下の眼が笑ってない微笑は怖いからさっさと戻ろうと思います。


 いざ完全転生!


「……お待たせしました。リキョウ人間形態です」

「お主にはいくつの形態があるのか、今度じっくり聞かせて貰おう。しかし今は優先すべきことからじゃ。こちらのお方は――」

「私はここヘザールの領主をしている、ライムス・バルトハルト辺境伯だ。よろしく頼むよ、期待の若手冒険者くん」


 ギルド長の紹介を手で遮り、バルトハルト辺境伯は僕に挨拶してきた。

 貴族らしい気高さを自覚していそうな雰囲気はあるが、平民の僕にわざわざ自分のほうから訪れ挨拶してくるというのは聞いていた人物像通り。

 しかし今朝のギルド長の話では窓からチラ見すればそれで満足的なことを言っていた気がするが……?


「リキョウ君。私が何故ここに赴いたかわかるかい?」


 あー……眼が笑ってないですねー……。

 絶対快い要件ではないですねーはははー。

 その眼に宿る感情には覚えがありますよ。

 もっとも彼女のほうは射殺す眼で断固抗議してきていたけどね!

 どっちもコワイけど権力がある分こっちのが性質悪いよ!


「……レレイ様の、件ではないかと愚考しますですはいすみませんでした!」


 僕は答えながら流れるような土下座を披露した。

 悔しさなんて一切ない、こうしなければ僕の異世界ライフはここで終わってしまうと思ったから。

 くっ、知らないおじさん貴族も厄介に思ったが、やはりこういう知性を感じる貴族も厄介だ。

 どうかお咎めなしで済みますように……。


「よくわかってるじゃないか君! 聞いていた通りとても聡明で……とても愚かだ」


 好印象だったよ、からの悪印象だな、はやめてくれませんか?

 そういうのマジでビビる……。


「ダメだとわかっていながらも! 私の娘に土をつける行為! 許され難い蛮行だよ、リキョウ君……。どう落とし前をつけて貰おうか、私は今とても悩んでいる」

「ガクガクブルブル……」

「震えているね? それは怖いから震えているのかい? それとも……娘の土まみれな姿を思い出して笑っているとでもいうのか貴様ァァァ!!」

「そそそそんなわけっ!」


 冤罪だ!

 僕はレレイ様に魔法を見せてと言われたからやってみせただけなのに!

 これでも気を遣たんだぞぉ⁉

 本気で高い評価を狙うならレッドマークグリズリー一択のところを、流石にあれは小さい女の子相手に見せるものじゃないと土モグラ先輩に出向願ったのに……!!

 こんなのあんまりだぁ……!!


「まあ閣下。こやつはアホですがクズではありませぬ。悪気はなかったものと思いますじゃて、どうかご恩情を願えませぬかな? この通り」


 バルトハルト辺境伯に向かって頭を下げるギルド長。

 あんたって人のこと、僕は信じてたぜ。

 あとは閣下が心の広さを見せる時。


「ふむ。アイゼンがそういうのなら仕方ないね」


 きた!


「ではリキョウ君、君に指名依頼を出そうと思うから必ず受けるように。それが贖罪と思いなさい。ではね」


 ……ん?

 なんか、思ったよりあっさりとした引き方だったな。

 指名依頼って冒険者活動のこと言ってるんだよな?

 それを受けるだけでいいなんて、随分と優しいじゃないか。

 指名依頼とはいえランクに合わないものはそもそもギルドが通さないし、むしろ実績を得られてラッキーハッピー?

 やったぜ。


「……なんて素直に思えたら、幸せなんだけどなぁ。とほほ……」

「やったなリキョウ。贖罪で貴族から寄越された指名依頼となれば流石の儂も断れん。じゃがこれは好機と捉えよ。クリアすればランクアップ間違いなしじゃ!」


 この時点でランクアップするの確定とかどんな無理難題かもうご存じなんですね!

 まるでバルトハルト辺境伯と打ち合わせでもしたかのようだ!


 逃げたい……けど人間形態に戻っても解けない鎖鎌。

 食い込むでもなく緩むでもなく、ホント優秀なメイドさんだこと!


「チキショーーー!!」


 僕の叫びが屋敷の空に木霊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ