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第27話

 ゴクリ、と唾を飲む音が2つ。

 僕とサニーだ。

 しかし無理もあるまい、この眼前の光景はまだ世界を知らない僕ら田舎者にとっては十分驚愕に値する。


 僕らは亀荒野に到着した。

 到着して早々、その()を見た。


「いや、あれって亀なのか? もうなんか次元が違う気がするんだが……」

「う、うむ。話に聞く亀とやらとは大分迫力が違うような……」


 僕とサニーの目線の先には一体の亀……のような魔物。

 それは鈍い灰色の外殻に覆われた亀というよりこれもう恐竜じゃね? って感じの魔物。


 ……いやこれ恐竜じゃね?


「バッカ隠れろお前ら……!!」

「「うわっ」」


 想像してたのと大分違った眼前の魔物に立ち尽くしていると、カインさんに担がれて後ろに運ばれる。

 カインさんのこの焦り様からも想定外の事態なんだろうが、それより一つだけいいだろうか?


「カインさん小声で叫ぶってなかなか器用なことしますね(ぼそ)」

「む、私にだってできるぞ。こう小声でだなー!(ぼそぼそ)」

「やるじゃんサニー。でもカインさんのとなんか違う(ぼそそ)」

「だーうっせ! 状況わかってねぇのかお前ら!」

「「おー……!!」」


 僕らの浅い真似に再度お手本を見せてくれるカインさん、流石です。


「ま、お遊びはこの辺にしときましょう」

「最初から遊ばないでくれ……」


 カインさん悲痛の呟きはスルーして、まずはこの状況を確認しないと。

 カインさんのこの反応からしてやっぱりあれは本来ここにいる魔物じゃないらしい。

 そうとわかってれば別にあれ亀にも見えないもんな。


 あの魔物から大分離れた茂みの中で、観察しながらもカインさんに問う。

 こういう異変はアスタシアのほうが詳しいかと思ったが、既に行動中なのか見当たらなかった。


「カインさん、あれってなんなんです? 亀……じゃないんですよね?」

「亀なんかと一緒と思って挑めば死ぬぜ、間違いなくな。あれは……土亜竜だ」

「「土亜竜」」


 なにその漢気見せた亜竜ですみたいな名前は。

 『ど』って土って意味なのはわかってるけど『ド』にしか聞こえないんだが。

 ド亜竜……くっ、やめよう、これ以上考えてたら思考が鈍る。

 今はこの予想外の事態に真剣に取り組む時だ。


 気を取り直してその土亜竜について更に詳しく尋ねる。


「そんなにやばいんですか? その土亜竜っていうのは」

「お前本気で言ってんのか? 劣化種とはいえあれは本物の竜だぞ? 土亜竜は中でも陸での活動に特化した個体だ。討伐には国が動く」


 オーマジデスカ。

 そりゃヤバいってもんじゃねぇな。

 どうすんだ僕が用あるの亀さんだけでお前なんてお呼びじゃねーぞド亜竜。

 しかしその亀も姿が見えないのはもしかして食べられちゃった感じなのかなーたはは……。

 悲しみの原因が予想外過ぎて思わずアスタシアになっちゃったよ。

 そういえばそのアスタシア is 何処?


「アスタシアはこの事態にどう動いてるんです? まさか彼女に限って逃げたなんてこともないでしょうし」

「正解だ。アスタシアは今周辺の魔物の動向を探ってる。アレがここにいるってことは逃げた魔物も多いはず。となりゃ最悪……スタンピードが起きる」

「「スタンピード……!!」」


 スタンピード。

 それは魔物の軍勢が群れて大移動し、都市や村々を蹂躙しにやってくる事象のこと。

 そのスタンピードにもパターンがあるが、今回は自然界に強力な個体が住み着いたことで近くの魔物が逃げざるを得なくなり発生するパターン。

 このパターンの嫌なところは戦いが一回で終わらないことだ。

 都市部に迫る魔物の軍勢を撃退したあと、同じことを起こさないためにもその原因の魔物を討伐する必要がある。

 これが純粋なドラゴンだったなら諦めもつくんだが、劣化種の竜となると過去に討伐隊を派遣した例もあったはず。

 

 この世界のドラゴンは、強い。

 奴らは日本であった噛ませ犬のポジションなどではなく、場合によっては魔王などより危険視される正真正銘の最強種。

 あれはその劣化種とはいえ竜は竜なのだろうし、カインさんの表情からも侮れない相手とわかる。


「カインさん。もしあの土亜竜を討伐するなら戦力は如何ほどに?」

「……難しい質問だな。あれは数揃えりゃ倒せる部類の敵じゃねぇ。アスタシアと同じAランクがパーティーで5つは欲しいな。そうでなきゃSランクの人外様に頼るしかねぇが、それは無理ってもんよ」


 アスタシア級の人間がパーティーで5セット欲しいって?

 まだアスタシアの正確な戦闘力も把握してないが、不老不死で長年冒険者やってた彼女でさえAランクなのを考えると、とんでもない高みなのがわかる。

 それを越えるSランクって何者だ?

 カインさんが人外様って言ってたけど、もしやホントにそのまんまじゃなかろうな……。


「……でも結局、今のヘザールの戦力じゃ倒しようがないってわけですか……ははは」


 ヘザールに在籍するAランクはアスタシアともう一組。

 この時点でもう数が足らないってのに、その一組のほうは未だ遠征から帰ってないときた。

 

 状況は絶望の一歩手前。

 こりゃスタンピードが起きたら防衛に徹するしかないな……。


「ただいまー。周り様子見てきたよー」


 僕らがこの危機的現状に顔を青くしていると、偵察をしていたらしいアスタシアが戻ってきた。

 その顔色はそう悪くないように見えるが……?


「お疲れさんアスタシア。早速で悪りぃが、状況を教えてくれ」

「うん。まあ結論から言えば、()()()()動いてない。時間の問題だと思うけどね」

「どういうことだ?」

「それを話すにしても、一度ギルドに戻ろうか。どの道ボクらだけじゃあの怪物は倒せないからね。たはは」


 僕もアスタシアの言った『今は』という単語が気になりはしたが、彼女の言う通りここでそんな話をしていてアレを倒せるわけでもない。


 僕らは気付かれないように来た道を戻り、森の様子を確認しながら町に帰還した。


「それじゃ、ボクはテレサと話つけてくるからちょっと待っててねぇ」


 ギルドに着くなりアスタシアは馴染みのある受付嬢、テレサさんのところへ駆けて行った。

 テレサさんはどうやら受付嬢の中でも高い地位にあるようだし、こういう緊急を要する報告には適しているのだろう。

 ギルド長の孫娘であるアイミスでもいいのかもしれないが、やっぱりこういうとき頼りたくなるのはテレサさんなんだよなぁ。


 アスタシアを見守っていると他の冒険者たちを「どいたどいたー緊急だよー」と押しのけながら進み、すぐにテレサさんの元まで辿り着いたようだ。

 アスタシアは軽い感じで進んだのにテレサさんの表情は既に険しく、「緊急だ」という言葉で他の冒険者たちも何事だと緊張感を持ち始めた。


「こういうところ見ると流石に経験の差を実感させられるな」

「うむ、アレの前で立ち尽くしていた私たちの未熟さが窺えるというものだ」


 普段は酒に夢中だったり受付嬢を口説いていたりとする彼らだが、切り替えるべきところでちゃんとそれができるというのは素直に見習うべきだろう。

 前情報に安心して劣化種の竜を亀扱いし、突っ立って眺めていた僕らよりもよっぽど危機感をもって冒険者してるよホント。

 魔物相手に戦うこともある冒険者という職業で彼らはこれまで生き延びてきたんだから、確かに危機感も育つというものか。


 まぁ、それと普段の褒められない言動とは別問題なのだが。


 若干張り詰めた空気になったギルドに驚いていると、もっと驚いたであろうテレサさんの叫びが聞こえてきた。


「それは本当ですか⁉ いえ、アスタシア様が嘘でこんなことは仰いませんね、失礼しました。すぐにギルド長室にご案内します。詳しくはそこで」


 テレサさん驚きから復活するの速すぎでは?

 一言驚いたら次の瞬間にはもう真顔。

 もうね、一周回って怖いよあなた。

 

 でもそれができる人だから受付嬢としてあの高い地位にいるのだろう。

 あの驚いた風の一言で既にギルド内の空気がより一層警戒の色に染まっている。

 もしこれを狙ってやったのだとしたら僕は一生テレサさんに逆らったりできないだろう。

 戦闘力云々ではなく、まず知略で負けそうだ。

 その戦闘力だって今の時点で敵う気しないんだけどね。

 ホント何者だよあの受付嬢……。


 僕がそんな風にテレサさんに戦々恐々としていると、アスタシアがこっちに向け手招きしているのが見えた。

 一緒にギルド長室で話を聞けということだろう。

 残念ながら話せることはカインさんアスタシアの両名以上のものはないからして、そこは期待されても困る。

 こちとら土亜竜のことを変わった亀の魔物だと見物してた愚か者ですのでー!


「なにしてんだ2人とも? 別に取って食われるわけじゃねぇよ。ただここに情報を知る人間を置いとくと要らぬ混乱を招くからな。役得と思って話聞きに行こうぜ」


 なんだそういうことだったのか。

 カインさんの気の利いたその言葉でなんだか動きづらかった僕らの足は進みだした。

 ギルド長室は2回目だが、今回はアスタシアとカインさんのおまけだし空気役に徹しよう。


「で、土亜竜を亀と勘違いした馬鹿者はどいつじゃ?」


 ギルド長室につくなり掛けられた第一声がこれだよ。

 おい話が違うじゃねぇか……!!

 空気に話しかける変わり者はいないって聞いて安心してた僕らの純心を返せ!


 僕らは無言でカインさんを見つめる。

 空気だから喋らないけど目で抗議してやる!


「おいお前ら抗議は受け付けるからちゃんと喋ってくれ。じゃないとギルド長のいう馬鹿者が俺になっちまうだろ」


 ははは僕らの無言の抗議はこいつが犯人ですと捉えられても仕方ないからな。

 でもこんな些細な抵抗ギルド長の前じゃどうせ無駄さ。

 こんなことを聞いてきてるけどとっくに目星はつけてるんだろ?

 というわけでそろそろ堪忍して自白します……。


「はい馬鹿者一号リキョウです。ド亜竜をこいつ亀のくせにかっこいいとか思ってました」

「馬鹿者二号のサニーだ! 土亜竜、あいつの堂々とした佇まいには感服したぞ!」

「…………ふぅぅぅぅぅぅぅ。将来有望じゃというに揃いも揃って馬鹿もんが……。竜を亀と間違える冒険者なぞ聞いたこともない、いやなかったわい。貴重な体験をありがとうの」

「「どういたしまして!」」

「皮肉じゃ皮肉! またヘザール支部に問題児が増えよった……」


 僕らの潔い告白を聞いたギルド長アイゼンはどこか老け込んだように見えるがきっと気のせいだろう。

 だって老け込む理由はド亜竜くんにあるからね!

 これからのギルド運営を考えるとギルド長の気苦労はお察しするよ……どうか過労で倒れないで欲しい。


「ギルド長、そろそろ現実逃避には満足したかい? 時間はないわけじゃないけど急ぐに越したことはないからもう話しちゃうよ」

「……あぁ、報告を頼む。場合によっては国に連絡せねばならんのでな。まったく胃が痛い話じゃ」


 どうやらギルド長の僕らへの問いかけはある種の現実逃避だったらしい。

 気持ちはわかる、竜は強いらしいからね。

 だからその強いらしい竜の話を聞けるのに実はワクワクしてるのは内緒だ。


「それじゃボクらが確認した脅威について話すよー。まあずばり、土亜竜なんだけどねぇ。あれはちゃんと成体だったし、探った感じ一体でまず間違いない。そこは不幸中の幸いかな」


 アスタシアはそんなことまで調べていたのか。

 僕とサニーが突っ立ってあの亀でけーとか感心してる合間に……!

 流石はヘザールに2組しかいないAランク冒険者だ。


 確かにあそこにいた土亜竜が一体と決めつけてかかるのは良くない。

 親子であった可能性や番のいた可能性もまだあった。

 無意識のうちに「あれだけの脅威、一体に違いない」と決めつけて観察してた僕らの馬鹿加減よ。

 

 カインさんも一緒になって観察してた気がするけど、それはきっと僕らの御守りで動けなかっただけに違いない。


「やっべぇ全然気にしてなかった……」


 違いないったら違いない!

 カインさんは頼れる兄貴分なんだから、サニーみたいにはならないでね!


「おいリキョウお前今なにか失礼なことかんg」


                                 続く

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