第26話
森の奥地にある旧聖堂でアンデットと戯れた僕らは、その足で次の目標を狩ることとした。
といってもこれは今日で終わるとは思えない長丁場の始まりでしかないんだが。
「まさか前から狩ってたゴブリンが欲しい技能を持っていやがるとはなぁ。ちょっとゴブ先輩舐めてたよ」
そう、これから技能目当てに狩る魔物とは即ち、ゴブリンである。
なんぞ今更と思うかもしれないが、ゴブリンは個体によって持ってる技能はまちまちだそうで、ここらでこれから僕の狙う技能を一番持ってそうなのがゴブリンということだった。
「ゴブリンは進化の力においては全魔物のトップ層だよ? 武器を扱うゴブリンもいれば、薬を調合するゴブリンもいる。そのできることの多さはボクら人間と大差ないかもねぇ~」
「しかもその人間と大差ない奴らが一匹の例外なく魔力を持つ魔物だ。知恵と生まれたときの脆弱性が俺たち人間より上……いや同等であったなら、狩られる立場は逆転していたかもしれないな」
その熟練冒険者2人の言葉には恐ろしいものを感じる。
カインさんの話す可能性が現実になっていないのはただの偶然かそれとも神の計らいか。
なんにせよ、これから僕らはその進化に秀でたゴブリンの特性を当てにして奴らを狩る。
僕の欲しい技能が手に入るまで、何匹でも、何十何百匹でも際限なく。
酷い行為と思うことはない。
魔物は放っておけば僕ら人間を駆逐する。
どちらかが殺らなければどちらかが死ぬ、ここはそういう世界だ。
地球にもあった弱肉強食のスケールがただ大きくなっているだけに過ぎないのだ。
「……といっても、現実問題進化を辿れるゴブリンが少ないから今人間がこの世界で繁栄できてるわけで、お目当ての技能を持った個体が本当にいるのかはわからない……。これは神に祈るしかないかもな」
運よく今日で技能ゲットできればそれはゴブリン人間双方にとって素晴らしいことだとは思いませんか神様ー(棒)。
「なにをしているのだリキョウ! まだ今日が終わるには時間がある、位階上げも兼ねて狩れるだけ狩らねばいつまで経っても終わらんぞ!」
「仰る通りですねサニーさん。行きましょう」
「な、なんだ急に気持ち悪い話し方して……気持ち悪いぞ!」
二回いう必要ある?
ただ神頼みしてる自分よりサニーの言葉のほうが現実を見てると尊敬が態度に出ただけなのに。
果たして二回も気持ち悪いって言う必要あったかなぁ⁉
僕はそのあと怒りをゴブリンにぶつけて一日を終えた。
こんな理不尽な行動では技能は手に入らなかったけどね。
やっぱり神様実は見てるんじゃないの?
神様僕に力をー(棒)。
とか思った一日でした。
◇
アスタシアとカインさんが臨時メンバーになって2日目。
今日も今日とて技能を求め魔物を狩るのだが、ゴーストを倒した今、昨日と同じ作戦は取らない。
昨日ゴーストからはしっかり目的の技能を頂いたので、もう旧聖堂を目的地にする意味はないのだから、今日はちょっと遠出しようと思う。
「亀荒野に行こうと思います」
「亀荒野か……厄介な魔物が生息していて誰も近づかん場所と聞くが」
「その通りだぜサニーの嬢ちゃん。あそこは名前の通り亀系の魔物が多数生息しててな。まあ倒すとなると面倒な相手なんだわ」
「近寄らない理由は他にもあるけどねぇ~」
この言葉の通り、今日目指す目的地亀荒野には亀の魔物がいる。
その亀たちは積極的に戦いをする魔物ではないのだが、放っておくと人間の生活圏まで喰い荒らす厄介者だ。
喰い荒らすというのは木や草花など、植物ならなんでも食べるという習性をもつが故に荒野が広がり続けるということ。
奴らが住む土地には岩しか残らないとか……。
「しかし亀荒野ってなるとちょっと遠いな。これもこの町の冒険者が近寄らない理由の一つではあるが、狩っても素材を持ち帰れないから収入がキツイぜ?」
「そうなんですよねぇ……」
亀荒野はここヘザールから遠い上に、亀の魔物の素材は重くて持ち帰るのに苦労するのだ。
それがここの冒険者が好んで奴らを狩らない理由の一つでもある。
「定期的に町の領主様が討伐隊を組んでっから問題にはなってねぇが、それに甘えず冒険者として討伐するのも悪くはねぇんだがな」
「冒険者は慈善事業じゃないからねぇ。割に合わない仕事をしたくないのはみんな一緒さ。ギルドも貢献度とかを報酬に釣ればいいのにねぇ~。ランク上げたい奴らがこぞって狩り始めるよ」
カインさんの言も立派だがアスタシアの言も尤もなところ。
結局冒険者なんて荒くれ者や選択肢のない者がなる職業だ。
ただ単純に夢を見て冒険者に者もいるので、一部例外はいるにせよ大多数はそうでない。
アスタシアの案が採用されないのも、自由を謳う荒くれ者の集まりをギルドの上層たる高ランクになどさせられないからだろう。
しかしここまで話してなんだが、そもそも今回の目的は金稼ぎではない。
亀の魔物から技能を得られればそれでいいのだから、収入云々は後回し。
そもそも収入の話で言ったら、昨日のゴースト退治も大した収入にはならないはずだった。
ただとあるガキ2人がはっちゃけて殺戮しまくったからそれなりのお金が手に入っただけで……まあ要するに褒めてくれてもいいんだよお二人さん!
「「どやっ」」
「ドヤ顔をするな。無性に腹が立ったぞ」
「そもそもあの時間でゴブリン狩ってればそっちの技能も手に入ってたかもしれねぇのに。まあゴブ共も魔石ぐらいしか売れねぇから報酬はそう変わらんかったろうが」
「「ぐぅ……」」
カインさんのド正論にぐうの音もでない……いやでた。
でも仕方なかったんだ!
アスタシアの奴がチラチラこっち見てスピード上げてくから、僕も負けじと……!!
「「ん?」」
悔しい想いで隣のアスタシアを見たら彼女も同じ目を僕に向けていた。
なにその、「いやいや君だろ誘ったの?」みたいな顔は。
可哀そうな眼で僕を見るのを止め給えよアスタシア君。
「おいガキ共。同じ顔で見つめ合うな、考えてることがわかって余計に恥ずかしいぞ私は」
「両者その見た目の年齢に見合わぬところを持ってるはずなのに、やっぱどこかガキなんだよなぁ……」
ぐぎぎぎぎ……。
苦言申したいところだがここでそれを言っては僕は本当にガキになってしまうぅ……。
よかったなアスタシア、ここで白黒つけられなくて!
チラと横目で彼女を見たら同じ視線が再度交差したのは言うまでもない。
「おいガキ共さっさと話を進めるぞ」
「「うい……」」
なんだかサニーとの立場逆転してないか……?
◇
結局あの後の話し合いによって僕らは亀荒野に向け出発した。
亀荒野までは片道4時間と言ったところで、夕刻までに帰還することを考えるなら寄り道してる暇はない。
僕らは陣形を組み街道を警戒しながら進んだ。
その陣形は菱形で、先頭をカインさん、左右を僕とサニー、殿をアスタシアという配置だ。
「こんな街道でも魔物が襲ってくるなんて、治安悪すぎだろここ……」
「村にいた頃は滅多に魔物の襲撃などなかったのだがな。私の生まれた後は少なくとも平和そのものだった」
僕の言葉が指したのはこの世界全般の治安に関してだったが、サニーの言葉を思うと確かにゴンボ村は平和だった。
魔物にも知性がまったくないわけではないし、人の群れを恐れているのだろうか?
戦えばあっけなく陥落する程度の戦力しかない場所も多いんだがな……。
「ん~? ここって治安悪いかなぁ? 魔物の被害は冒険者や領主配下の騎士たちで抑えられてるほうだし、盗賊なんかは根城作れないからまったくいなくて平和なもんだよぉ?」
「俺もアスタシアに同意だぜ? 何度か他所の町に行ったことあっけどよ、治安の悪さは街道よりむしろ町の中で実感したぜ。魔物の存在で治安が悪いって考えはなかったなぁ」
僕とサニーが慣れない襲撃に愚痴を溢したら、熟練2人はこんなのなんてことないと笑った。
そうか、この世界では魔物はそもそも治安どうこうで考える相手じゃないのか。
確かに言われてみればそうかもしれない。
治安という言葉は人間の法で縛られる身内内でしか適用されないもの、魔物による被害は災害とかそういう扱いなんだろう。
こういうところで自覚する。
まだ日本のころの感覚、残ってるんだよなぁ……って。
「ではここは道中の暇つぶしに、このボクが今までの経験談を語ってしんぜよー。たははは!」
「おっ、それは僕も興味あるな。魔女アスタシアの伝説や物語は散々聞かされたが、脚色のない実話も聞きたかったんだ」
「おいリキョウ! これは伝説の生語りだぞ! 伝説が誰も知らない伝説を語ってくれるなんて、私は今日死ぬのか……!!」
「サニーの嬢ちゃんは夢見過ぎだぜ……実話なんてそう楽しいもんばっかじゃねぇって」
その後アスタシアが暇つぶしにと語った話は確かに面白いものばかりじゃなかったが、これからの冒険者……いや旅をするにとても為になる話だった。
こんな話でもサニーは一語一句聞き逃さず夢中になって聞いていたから、索敵と警戒は僕とカインさでする羽目になったが。
索敵を得意とする技能を揃えているのはサニーなのだが、夢見る乙女の邪魔はできまい。
「……しかしいい情報が聞けたな。技能の所持限界数……位階で決まるのか」
アスタシアの話の中で、こんなものがあった。
決して死なない長い人生の中で、彼女は技能を得ることに楽しみを見出した。
冒険者として活動する中でも技能は得られたが、欲しかったのは戦闘系だけでなく、日常で使える技能も彼女は求めた。
そこで、あるとき彼女は冒険者活動を止め、町の中で生活系技能の会得に集中する。
料理、裁縫、鍛冶、木工……無限の時間を与えられた彼女はそれを獲得するのに夢中になり、冒険者として魔物を狩ることをしなかった。
するとどうだろう?
あるとき歌唱の技能を求め日夜歌い続けた時期があったそうだが、どんなに歌っても技能を会得するには至らなかった。
不思議に思った彼女は神殿で神官に訊ねると、「それは技能の所持限界だ。魔物を倒し位階を上げ、神のお役に立てばまた得られるようになる」と言われた。
その言葉の通りまた魔物を狩り位階を5上げた頃、彼女は歌唱の技能を手に入れた。
その後4つの楽器類の技能を獲得したところで、また限界を迎えた彼女は悟る。
位階を5上げれば技能の枠が5つできるのだ、と……。
そんな話をアスタシアから聞いた。
「ゴブリンやゴーストなんかを狩って今の僕の位階は8。あと2上げれば技能を5つセットできる……最高だな。アカネを助けるにあたってこれは大きい。叶うことなら15くらいまで位階を上げておきたいところだが……」
僕はアスタシアから得た情報でこれからの作戦を練りなおした。
位階で技能の数が変わるならできるだけ上げておきたい。
アカネの問題を解決するにあたって技能はあって困ることはないのだ。
例え技能が自分より弱いものに勝てるだけの力だったとしても、強化系の技能ならそれは武を競う補助となる。
それに位階が上がれば単純な身体能力も……ブツブツ……。
「……こりゃ警戒してるの俺だけになっちまったな。まったく世話の焼ける奴らだぜ……」
カインさんのその呟きも聞こえず、僕はスケジュールを練るのに夢中になり、アスタシアは夢見る乙女に気分を良くして語るのをやめない。
それを再度確認したカインさんは、一つ呆れた溜息を吐くのだった……。
しかして僕らは到着する。
カインさんのおかげもあって怪我も戦闘もなく、その目的地へと。
「ここが亀荒野……」
「これはなんとも……恐ろしい光景だ……」
話にだけ聞いていたその亀荒野の実の姿に、僕とサニーは生唾を飲み込んだ。




