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第23話

 これまで培ってきた武術を、技能で強化された肉体でもって行使する。

 こう言葉にすれば簡単だが、実際それを実現するのがこんなにも難しいとは。


「ヤアアァ!!」


 クロスロード流歩法術≪震源脚≫。

 あえて強く大きく踏み込むことで振動を起こし、相手の体幹を乱す。

 それだけでなく一歩ごとの轟音によって思考を鈍らせる。

 まあ一言でいえば強そうな歩き方だ。

 この歩法の特徴は武術で戦うというより武術で威圧するというところにある。

 怯む相手には効果覿面、そうでない相手には隙だらけに見える距離の詰め方だろう。


 そんな歩法をアカネ相手に使って、朝一番で思い出したことをもう忘れたのかって?

 いや違うな、この歩法は確かにこれ一つでは先に述べた用途しかないが、武術はなんでも他の技と組み合わせてこそ真価を発揮する。


 今アカネに対し≪震源脚≫で距離を詰めたのは、次の攻撃を決して揺るがない高威力のものにするため。

 踏み込みを強くするということはこちらの体幹も安定し、次の一手がより重くなる。

 ≪震源脚≫を最大限発揮できるその次の一手とは


「正拳突き!!」


 これ以外にない!


 ……。

 …………。

 ………………。


「……と、思っておりました……」

「まあ主はまだ武術経験の浅い素人じゃ。技の呑み込みが早いからすっかり忘れておったがの」


 あの渾身の一撃はアカネにあっさり避けられた。

 もちろん僕もそれは予想済みだったから、次、またその次と技を重ねていったのだが、それがアカネを捉えることはなかった。


「アカネは避けに徹してくれたが、何回もあの稽古の中で自分が倒れる姿を幻視したよ」

「かかかっ。それは今まで妾が主をボコボコにしたのを、身体が覚えて頭に伝えたのじゃろう。よいよい、それも学習、稽古の醍醐味じゃて」


 段々とアカネに逆らえない身体になっているということなのか?

 これ以上負け続けると僕の沽券に関わるかもしれない。


「じゃがお主、まだまだ強くなれるぞ。数ある歩法からわざわざ≪震源脚≫を選んだのは、いつもの強化系技能に加え〈俊足〉を併用すると、他の歩法では技を繰り出す余裕がないと判断したのじゃろ? できないことでより大きな隙を作るくらいなら、今できる最低限で身体を慣らそうとしたか。よいのよいの。励めよ童」


 全部お見通しってか……。

 確かにアカネの言う通り、クロスロード道場で学んだ歩法であれば他に最適といえるものはいくつもあった。

 ただそれを今の僕の実力で技能と合わせると、勝手に自滅するだけの結果になる。

 もちろん稽古なのだからそれをできるよう鍛錬するのもいいのだが、何事にも段階というものがある。

 先程やった≪震源脚≫でもスピードを落としてなんとかといったところだったのだし、もうしばらくはこれで慣らしていくのがいいだろう。


「……でもアカネに稽古で反撃されないと、なんだかいつもの成長を実感できないな……」

「なんじゃリキョウお主、妾に蹴られて喜んでおったのか? 引くのう」

「いや蹴りに限定してないだろ⁉ それに僕は喜んでなんかいない! 誤解を招く言い方をするな!」


 僕に猫耳美少女に蹴られて喜ぶなどというマニアックな性癖はない!

 反撃がないと一方的に流され避けられで焦りばかりが募るというそれだけの話だ。

 そこに反撃の痛みがあればやり返すという強い想いが生まれるから……あれ?

 どの道僕は痛い想いをするのを望んでいるのか……?

 なんてこった!

 アカネに毒されてる……!!


「勝手に妾を調教好きのイカレ女にするでないぞ。じゃが……主が痛みがないと不安というならまた蹴ってやってもよい。その結果()()()()()()、主ならすぐ戻ってくるじゃろう」

「壊れる……? 意味がよくわからないんだが、いつもアカネは何をしていたんだ? サニー……最初に僕と一緒に来た女が酷く警戒しててな。気にし過ぎだとは思うんだが」


 でも今アカネの漏らした言葉からすると、もしや本当に危ないナニカを使ってるのか……?

 稽古で門下生を壊してしまうような、誰も彼女の稽古を受けたがらなくなるような……そんなナニカが彼女にはある……?


「くくくっ……妾はこの道場で師範代を任されておる女じゃぞ? 問題なぞ妾にあるはずあるまい。……問題なのは腰抜けの門下生共じゃて」

「アカネ……?」


 そう口溢すアカネの表情はどこか暗く、悔しさが滲んで見えた。

 けど、それ以外にも……


「かっかっ! 下らん話はここまでよ。稽古を続けるぞ、さっさと構えよ」

「……押忍。アカネ師範代」


 アカネが隠しているであろう何かが気になりはしたが、それでも今は稽古に集中することにした。

 きっとその時間が、アカネの闇を祓ってくれると信じて……。



     ◇



 光の日は道場へ鍛錬へ、それ以外の日はサニーと冒険者活動。

 そんな生活を一月続けた。

 

 アカネとの稽古では時々反撃を貰うようになったが、やはり以前のような頻度で攻撃を受けることはなく、どこか遠慮の見られる動作だった。


「なあサニー、どう思う?」


 今日はそんな稽古を受けた光の日。

 陽が地平線に沈みあとはもう眠る時間なのだが、僕はこの言い切れないモヤモヤをどうにかしたくてサニーに相談していたのだった。


「どうもなにも、私の意見は変わらん。あのアカネという女にはなにかある。そしてそのなにかは私にとって良くないものだ」

「……つまり?」

「関わるべきではない。…と最初から言っているのだがな、お前は聞き入れんのだろう?」

「すまんな……僕はアカネを放っておけない。道場で世話になったとかそういうのでなく、ただ単純に彼女を一人の人間として助けたいんだ」


 きっとこれは僕が日本人だからだろう。

 この世界で普通かどうかは知らないが、日本では困っていたら助けてくれる誰かがいた。

 もちろん国民すべてがそうだったわけじゃないけど、全体的に優しい国だったと思う。

 そんな国で育った僕が、生きる世界が変わったというだけの理由で生き方を変えることはないんじゃないか? と思う訳だ。

 ……ま、こんなのただの後付けの言い訳に過ぎないか。


「僕はアカネが酷く寂しい存在に見えてな。いつも最初は暇そうに一人で稽古場に座ってる。それが毎週僕が顔を出すと嬉しそうに語り出すんだ……ちゃんと笑える子なんだよ。見た目もまだ少女といっていい年齢だし、見捨てるのは大人のすることじゃない……って僕の偽善心が叫んでる」


 あの道場にはたくさんの人がいるのに、いつもアカネの稽古場は彼女一人だ。

 アカネが本当は何歳なのかとかはあまり気にしてない。

 ただアスタシアもそうだが、子供の外見で寂しそうな顔をされると放っておけないんだよなぁ。


「私は毎回思うんだが、リキョウお前ホントは15歳じゃないだろう? 発言もそうだが、思考も語る時の眼もとてもガキのそれじゃないぞ」

「おっ、サニーもようやく僕をお兄さんと認める気になったか? そうとも僕はサニーより年上のしっかり者のお兄さん――」

「調子に乗るなクソガキめ。そういうところはまだまだ幼稚で安心したぞ」


 あいたたサニーのチョップは心にくるぜ……。

 でもサニーの言う通り、最近はもう精神年齢15歳で通用する感じになってきたんだが、ふとした拍子に前の灰崎利京が顔を出す。

 別に悪いなんて思っちゃいないけどね。

 どんな世界でだって子供は笑ってるのが一番さ。


 だからアカネも放っておかない、放っておけないんだ。

 彼女の抱える問題を他の誰もが見て見ぬふりするのなら、僕もそこに追従するわけにはいかない。

 日本人として生きた僕だからこそ、できることがあるはずだ。


「って言ってもド直球にアカネに聞いても答えてくれる雰囲気じゃないしなー。どうしたもんかねぇ……」

「……これは言おうかどうか迷っていたのだが、最初にお前と一緒に稽古をつけて貰ったあの時、私は怖かったのだ」

「ん? 怖かった……?」


 解決策がまったく思い浮かばず思い悩む僕を見てか、唐突にサニーがそう溢す。

 

 そういえば一番最初はサニーも一緒にアカネに稽古をつけて貰ったんだよな。

 でも気づいたら僕は宿のベットで眠ってて、サニーは……どうだったんだったか?

 確か部屋を訪れても、明確な答えは得られずに追い出されてしまったんだよな。

 あのときのサニーは確かになにかに怯えているようにも見られたか……?


「サニー、教えてくれ。一体なにがお前に、恐怖を与えたんだ?」

「……痛かった」

「痛い? それはアカネの拳がか?」


 確かにアカネの指導は厳しいもので、反撃もあの頃は強烈だった気がする。

 そのアカネの反撃の攻撃が予想以上に痛くて恐怖を……?

 村で狩人として生きてきたサニーがその程度でへこたれるほどのことはないと思うが……。


「違う! あの女の打撃は身体に向けられたものではなかったのだ……アカネ師範代の反撃を喰らう度、私の心は言い知れない何かに侵略されていった。その恐怖が、私には耐えきれなかったのだ……」

「サニー……」


 そう語るサニーの体は小さく震えていた。

 恐らくその時の恐怖を思い出しているのだろう。

 

 僕はサニーの体を抱きしめ、優しく背中を撫でた。


「辛いことを思い出させたな。今日はもう休んで、明日に備えよう」

「……うむ。そうだな。では一緒に寝るか」

「え? あ、そうだな……一緒に寝よう! 嫌なこと思い出せた詫びも兼ねて!」


 その晩サニーはずっと僕の手を握っていた。

 でもいやらしいことは何も起きなかったと、念のために言っておく。



     ◇



 翌日の朝、僕とサニーは冒険者ギルドに来ていた。

 最近はゴブリン以外の魔物も討伐しているので、朝のこの時間は今日なにを狙うかを相談するためにも情報を求めギルドに来ている。


 当然新しく倒した魔物からも技能を獲得しているのだが、これは入れ替えて使いたいというものはなく、確認以上のことはしていない。

 それにどうしても人間の身体では扱いに困るものも多いのだ。

 蛇系の魔物から得られた技能など、〈脱皮〉とかあってどうしようかと思ったよ。

 同じ人型で期待していたゴブリンも、やはり下位の奴らではわざわざ変更したい技能など持っていなかった。


 しかし今日はそんな魔物の情報を求めてギルドに顔を出したのではない。

 とある冒険者に用があって来たのだ。


「人気者だからなぁあの人。果たして今日は会えるかどうか」


 そんな呟きを漏らすと寄ってくる一つの影。


「なんだいなんだい? そんなボクに会いたかったのかい旦那様。サニーくんというお嫁さんがいながらこのこの~」

「アスタシア。お前にもこの一件が終わったら話したいことがあるんだが、残念ながら今探しているのはカインさんだ」

「がーん! 人気者っていうからてっきりボクだと思ったのに……」


 お前自分をそんな風に考えてたのか……。

 確かに最初のサニーの様子からも本や吟遊詩人の唄で語られるアスタシアは人気者なんだが……実物は見ないほうが夢が保たれるってことなんだろうな。

 そして残念ながらこのギルド内では皆がアスタシアの実情を知っており、更には美人美女の集まりで有名なAランクパーティーの存在も相まって、アスタシアの人気は然程ないのだ。


「たはは……結局みんなおっぱいか。おっぱいがみんな好きなんだね。あのAランクパーティーはみんなおっぱい大きいもんね。これがおっぱいの現実か……」


 いやパイパイ言い過ぎだろ。

 ギルドの連中もそんな不純な理由で推してるわけじゃ……わけじゃ……


「【五極星】の方々まだ帰ってこねーなー。目の保養ができなくて失明しそうだ」

「俺なんか既に目から血が出てるよ。最近充血が収まらねぇんだ」

「予定ではもう帰ってきてもおかしくないはずだろ? 彼女たちの胸になにかあったらおりゃぁ生きていけねーよ」


 結構下衆な理由で推してる連中多そうだこれ⁉

 ていうか件のAランクパーティー【五極星】っていうのな!

 帰りが遅いのは確かに心配だが、今もっと心配しなきゃならないことが僕の眼の前で起きてるよ!


「たっはっはっはっは……!! 決めた…! 【五極星】の奴らが帰ってきたら引きちぎってボクのにくっつけよう! もちろん旦那様にも協力してもらうよ、これは人類史上最大の聖戦だからね……!!」

「あいつらとんでもねぇ怪物を目覚めさせやがって……!!」


 とんでもねぇ怪物がとんでもねぇことに僕を巻き込もうとしてる。

 これは早急にもっと強くならなければ、命に関わる……。

 力が、もっと強力な力が必要だ……!!


 両手を広げ高笑いするアスタシアと、修行僧の面構えで念を唱え始める僕。

 ギルドの朝は忙しく誰も近づこうとしないその空間に、しかし果敢に挑む者が現れた。


「なーにやってんだお前ら? コントでも始めんのか?」

「む、カイン殿! 探していたぞ…んだが、今リキョウは発作の途中だ。少し待ってほしい」


 おいサニー、なにが発作だ。

 これ多分アスタシアも4割本気で考えてるぞ。

 ならば僕も4割の対応をしておかないと保険にならないだろうが!


「……とまぁ、冗談はこれくらいにしておいて。カインさん、少しお時間頂けますか? アカネのことで、お聞きしたいことがあります」

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