第21話
初のゴブリン討伐を終えて、ギルドに帰還した。
結局あのあと追加で4度、索敵してゴブリンを狩った。
その時は予定通りパッシブ系の技能以外使わず、純然たる格闘術で戦ったのだが特に問題はなかった。
いい当たり方をすれば一撃で仕留められるし、そうでなくとも怪我一つ負うことはなく、サニーの援護射撃もあって完勝という結果で午前を終えた。
帰り道、横を歩くサニーはこんな言葉を漏らした。
「リキョウは見違えるほど強くなったな。技能や魔法云々ではなく、人の強さを手に入れた感じだ」
サニーもただ感想を漏らしただけだったようで、その後に続く言葉は特になかった。
が、僕は道場でアカネにつけてもらった稽古は着実に僕を強くしたのだと実感できたのか嬉しかった。
その道場にも最近通えていない。
アカネが誰も来ない稽古場で一人座っているのだと考えると寂しくなるし、冒険者活動を毎日しなくとも生活できるようにはなったのだからそろそろ顔を出してもいいかもしれないな。
その旨サニーに伝えると
「私はいつまでも待ってるぞ。でもあまり嫁に構ってくれないと私は寂しくて死んでしまうかもしれない」
と、ちょっと大げさな反応を返された。
いやお前はウサギか。
でも嫁が僕に甘えてきたと考えれば悪い気はせず、むしろ嬉しかった。
道場でアカネに挨拶するのも大切だが、嫁に寂しい想いをさせないのも大切。
ちゃんと両立させていかないとなと、改めて決意を固めた。
「ん? でもこれってサニーも一緒にアカネに稽古をつけて貰えば――」
「さあ! ゴブリン討伐をギルドに報告したら午後は角ウサギ狩りだぞ! 張り切っていこー!」
「お? おう」
随分とテンションが高いが、サニーはダルトのおっさんの作る角ウサギの焼き串が大好きだからな。
こりゃ今日の昼飯も角ウサギで決定か。
え、不満なのかって?
そりゃもちろん、僕も大好物ですよ。
◇
あれから数日、僕らは午前はゴブリン狩りを、午後は角ウサギ狩りを続けた。
大分人型の魔物相手に戦ったが、本来そこに抱くべき恐怖や抵抗は一切感じなかった。
これも異世界に転移した時に失ったものの一つだろうか。
それとも単にこの世界に順応しただけなのかもしれないが、そこに然したる想いはないので今では気にもしていない。
今、僕が考えていることは、最初の頃に立てた予定のことだった。
「サニー。僕は最初、冒険者活動をしながら道場で己を鍛えるべしと思ったんだ」
朝、宿のロビーにて朝食を頂きながらサニーにそう告げる。
「うむ、そうだな」
「だが今の僕らは道場と冒険を両立できてない気がする」
「うむ。そうだな」
「そこで週に一度は道場で一日稽古に励む時間が欲しいんだ」
「うむ。いいと思うぞ」
「……さっきからなんだか適当じゃないか?」
「そんなことはない。ただ私に相談するほどの事ではないと思うが」
相方のサニーに相談するのは当然だと思うが……。
冒険者としての活動だって、サニー一人で行かせるのは心配だ。
「お前は私を年下扱いしてる風があるがな、私はお前よりお姉さんなんだぞ! 角ウサギを狩るぐらい一人でできる! お前は気を遣い過ぎなんだリキョウ! そんな女を甘やかしてると惚れられるぞ!」
「サニーに惚れられるのは最高なんだが?」
「今更だ! 今の時点で私はリキョウにぞっこんだ! これ以上惚れたら正気を保てなくなる!」
「サニー……」
「リキョウ……」
サニーの言葉に僕が正気を保てなくなりそうで、サニーとお互い見つめ合う。
そういえばあの夜から特別恋人らしいことしてない気がする……手を繋ぐとか……き、キスとかだって――
「ん゛っ、ん゛ん゛っ! お客様ー? イチャコラするならお部屋でどうぞー? ここには未婚の者もいるものですから、とっても、ええそれはとっっっっても目に毒ですのでー。うふふふおほほほ」
「「あ……すみません(すまん)」」
圧を醸し出す従業員の言葉に周りを見れば、砂糖を吐きそうな顔をする者やこちらを凄い形相で睨む者など、とにかく凄く注目を集めていた。
なんだかここでこれ以上食事を続けるのも気まずいと、僕らは残ったご飯を秒で片付け部屋に戻った。
その時後ろから「真っ昼間からお部屋で運動かよ……ケッ!」っという従業員さんの声が聞こえた気がした。
一応言っておくがその従業員さんは女の人だ。
口調も態度もそうとは思えぬものがあるが、そこを指摘するのも勘違いを訂正するのも僕らにはできない。
いやきっとこの宿にそれができる者はいないのだろう……。
ロビーにいた誰もが彼女に視線すら向けまいと顔を逸らしているのだから……。
ともあれ部屋に戻った僕らは話し合いを再開し、結果週に一度僕はアカネに会いに道場へ、その間サニーは訓練と角ウサギ狩りを一人でしているということになった。
最近ギルドの受付嬢がやたら機嫌よく、ダルトのおっさんへの角ウサギ納品を怠るとどうなるかわからないから誰かに引継ぎができるまでは僕らでやるしかないのだ……。
ちょうど最近話すようになった友達が3人ほどいるし、可能そうなら彼らを鍛えて任せることも考えておこう。
因みに今更だが、この世界での一週間は6日で、光・火・水・風・土・闇でそれぞれ曜日は呼称されている。
一月は30日で、一年は360日。
一日の長さもそんな日本と変わらない気がするが、これは時計などないからわからない。
僕が道場に通うのは光の日だ。
今日は闇の日でちょうど明日が光の日だから明日から道場にまた通い始めることとなる。
ゴブリン戦ではあまり技を試すほどの戦いはできなかったから、勘を忘れる前にアカネに稽古をつけて貰おう。
「ではリキョウの道場関連はそうするとして、今日はまたゴブリン狩りか?」
「そうだな……あ、いや。やっぱり別のことをしよう」
「別の? うむ、なんでもいいぞ」
相も変わらずサニーは僕のいう方針に任せる様で、自分が何をしたいかなど言う気配がない。
果たしてこれはいいのだろうか?
サニーは僕のお嫁さんだが、僕は自分の嫁を束縛する気などないし、彼女がやりたいことは僕も知っておきたい。
それに……恋人らしいことをもう少ししてもいいのでは? とも思う……。
しかし素直に手を繋ぎたいとかそんなこと言えるわけがない。
でもいつまでも日和ってたら関係は進展しないし、そうこうしてるうちにサニーのほうから動かれたら漢が廃る。
ここは勇気を出して言うべきか?
――「手を繋ぎたい」、と!!
「――リキョウ? どうしたのだ、顔が赤いぞ。……もしや風邪でも引いたか⁉ これはいかん、今日はゆっくり休め! 大丈夫、私が看病してやる!」
「え、いや、ちが――」
と、反射で否定しようとしたとき、ふと脳裏を過ぎる。
――看病の場でなら介抱にかこつけてサニーの手を握れるのでは?
(いやいやなにを考えている愚か者め! そんな暴挙を漢がする気か! 否! 考えを改めよリキョウ、仏になるのです……!!)
「南無阿弥陀仏怨念退散……」
「リキョウ! 急に意味のわからんことを言い出して、気でも狂ったか⁉ これは相当重症だぞ……すぐに医者を!」
あ、仏になろうとしてたらサニーが更なる勘違いを……って眺めてる場合か!
いかん直ぐに止めないと僕は医者じゃなくてサニーと一緒にいたいんだ――!!
「――サニー! デートしよう!」
……。
…………。
………………。
「……………………ふぇ?」
……あれ?
今なんか咄嗟にとんでもないこと口走った気が――
「すすすすする! するぞリキョウ! リキョウとデート行く! ああでも可愛い服持ってない、どれも荒々しいものばかり……私はなんて野蛮な女なんだ! これじゃリキョウとデートいけない……しょぼん」
な、なんか……サニーがかわいいっ!!
それに思ったより好感触!
こんなん絶対デート行く!
「……ははっ! 僕は今のサニーを好きになったんだ、でもデート中にサニーに似合う可愛い服も一緒に買おうな。そういう僕もかっこいい服なんて持ってないし……これじゃデートに行けないかなぁ?」
「そんなことはない! 私も今のリキョウを好きになったのだ!! ……でも、一緒に買いに行こう。デートで!」
「決まりだな」
そういうことで僕らは突如デートをすることになったのだった。
ただ医者を呼ばれるのを避けるがために咄嗟にでた願望の言葉だったが、これはいい方向に転んだな。
このデートで一層仲を深めればきっといつか手を繋ぐくらい……あれ?
恋人がデートする時って手を繋ぐものだよな?
……もしかして、これってチャンス?
身だしなみを整えると言って部屋を出て行ったサニーを思い出しながら、僕の心拍数が跳ね上がる。
これは……やばい。
頑張らねば……!!
◇
サニーには宿の前で待っていてくれと言われたので、素早く準備を整えた僕はその通り宿の前で立っていた。
いや宿のロビーでと言われなかったのはよかったよホント。
さっきあんなイチャコラしてた男女が今度はデートに行く雰囲気出して席に座ってたら、今度こそ殺されかねない。
誰にとは言わないけど。
そわそわしながら道の端で突っ立っていると、やがて宿の玄関からサニーが出てきた。
「お待たせ……」
「いや、全然待ってないが……サニーどうしたんだ? その服……すごくかわいい」
部屋ではかわいい服がないと言っていたサニーだったが、出てきた彼女は花柄で薄いピンク色のワンピースを着ていた。
髪を束ねる紐もいつもの単調なものではないし、十分おしゃれしていると言える。
なによりかわいい。
いつも可愛いが今のサニーは恥らしさと普段とのギャップもあってもう最高だ。
思わず見惚れてしまう……。
「む……かわいいのは服だけか?」
「あ! いやサニーがかわいいんだ! 服も素敵だけど、それを纏ったサニーがかわいすぎると言いたかった!」
「そ、そうか。部屋で荷物を漁っていたら手紙と一緒に出てきたんだがな。母が昔父さんを墜とすのに使った服らしい。もういらないからとその…………と書いてあった」
「そ、そうなのか。それはサニーのお母さんにも感謝だな。こんな素敵なサニーを見られたんだから」
最後サニーがなんて言ったのか正直聞こえなかったのだが、ここで「え? なんて?」などと言おうものなら空気は最悪になることだけはわかる。
それにサニー母がサエルさんを墜とすのに用いた服なら、きっとサニー母も知らないだろうがそれはもう意味はない。
だって娘のサニーと僕は既に愛を伝えあった恋仲なのだから!
これを見ても僕のサニーへの愛が上限突破したというだけの話だ、問題はない。
「それじゃ行こうか、サニー」
「うむ……行こう」
それからはずっと幸せの時間だった。
普段の生活が不満というわけではないのだが、こうしてサニーと出かけて、一緒のものを食べて、一緒に買い物をして、一緒に町を巡る。
ただそれだけの時間が、とても幸せだと感じた。
途中で神殿に寄ってちょっとした事件が起きたりもしたのだが、それはこのデートにいらぬ要素だから今は記憶から消しておこう。
今日は一日デートをすることにしたので、ダルトのおっさんのところへ行って納品できないと謝罪をしたのだが、彼はニヒルな笑みで許してくれた。
そのうえ角ウサギの焼き串をただで貰ってしまう事態。
流石に申し訳ないので僕がお金を払ったら、これまたニヒルな笑みでうんうん頷いてた。
どうやら僕は試されたらしいが、その時こっそりダルトのおっさんにいい甘味処を教えてもらったので素直に感謝している。
服を互いに選びながら買い、甘いものを店で食べ、夕方には人気のスポットでサニーと並んで町を眺めた。
そしてお互い、どちらかともなく手を伸ばし、最後は手を繋いで宿に戻ったのだ。
「今日は、楽しかったか、サニー?」
「うむ! 楽しかったし、リキョウとこうやって過ごす時間が幸せ過ぎておかしくなりそうだ。だが……もう終わってしまうのだな……」
「またデートすればいいさ、これからも機会はいくらでもある」
「!! ……うむ! そうだな!」
そんな会話をして宿に辿り着いた僕らは、そこで……
「はぁぁぁぁぁイチャコライチャコラ。見せつけてくれますねー! 誰か私に言い寄る男はいないのかーーー!」
……従業員さんの凄まじい妬みの視線を受け止めるのだった。




