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第20話

 僕とサニーの関係に驚いていた3人だが、すぐにエイトが復活した。


「はっえ~。夫婦で冒険者ってそりゃオレらが入る余地ないわな! すまんかった! オレはエイトってんだ、よろしくなリキョウ、と、サニーの姐さん!」


 いや夫婦でイチャコラ冒険したいから勧誘を拒んだわけではないんだが……今は都合がいいし訂正はしないでおくか。


「その歳でもう結婚だなんて、羨ましいわ。でもサニー姉とは私仲良くしたい! ほら女冒険者って少ないじゃない? ここのAランクはみんな女性らしいけど、それはもう雲の上の存在だし。だからよろしくねサニー姉! あとリキョウもよろしく! 私はシフレよ!」

「うむ! 女同士、仲良くしようぞ、シフレ!」


 同じ女冒険者ということで、サニーも普段より活き活きしてる気がするな。

 気が合う友達を見つけられたようで何よりだ。

 因みに僕も小声で「よろしくな……」と言ってみたが、既に彼女たちの世界は出来上がっており、男子禁制となって届かなかった。

 そこで肩に置かれる2つの手。


「こっちはこっちで話そうぜ、リキョウ。ああなったら長い……」

「ですね。エイトも距離を詰めるのが早いですが、女性のそれはもう種族特性です」

「種族特性か……的を得た言葉だな。君はエイトらと比べても理知的な感じだが、生まれは一緒なのか? その辺りのこと聞かせてくれよ。暇は有り余りそうだしな、お互いに」

「ああ、互いにな!」


 女性陣は女性陣で楽しく語らってるようだし、僕らは野郎で身の上話でもして親睦を深めよう。

 正直カインさんたちとアスタシア以外でやっとまともに話せる冒険者たちだから、僕も少し興奮している。

 僕の身の上とかどう話すんだとかは深く考えず、楽しく談笑に興じることにした。





「へぇ~。それじゃ3人は同じ孤児院で育ったのか」

「おうさ! 同年齢はオレらだけだったからよ、ちっせぇころから将来は冒険者だ! って3人で棒振り回してたもんだぜ、へへ」

「ぼくとシフレはエイトほどやんちゃじゃなかったですよ、一緒にしないでください」

「んだよお前ら兄妹だってよく一緒に叱られてたろ⁉」

「それはエイトの巻き添えを喰らってただけですよ! 不条理! 理不尽です!」

「ふじょ……し? だぁっ、難しいことわかんねぇ! でも悪かった!」


 エイトとヨッケンとの談笑はまだ続いていた。

 ヨッケンというのはわかってはいたが先程から話している理知的な少年の名で、談笑の前にちゃんと自己紹介してもらった。


 ところで今エイトがヨッケンとシフレを兄妹と言っていなかったか?


「ヨッケンとシフレは兄妹なのか? 歳は同じということは双子か」

「ええ、そうなんですよ。といっても、ホントはどちらが先に生まれたかなんて知らないんですけどね」

「ん? どういうことだ?」


 と、疑問を言ってから気付いた。

 彼らは孤児院で育ったのだからそういうことはよくあるのでは?

 いやよくあったとしても少し踏み込み過ぎたな、謝って別の話題を……


「私とヨッケンは捨てられてたのよ。孤児院の前に、同じぼろっちい籠に入れられてね」

「おっ、よーやく長い女子トークは終わりか? シフレ」

「うっさいわね! 女子には女子同士でしか話せないことだってあるのよ! あんたはもう少し気を遣いなさい!」


 話題を変える前に当事者のもう一人までもが話に参加してしまった……。

 これは藪蛇だったなぁ、今からでも謝って話題変えるか……?


「ああリキョウ、別に変な気を遣わなくていいから。この馬鹿みたいにまったく配慮しない無遠慮さでも困るけど、これに関しては私もヨッケンも別に何とも思ってないから」

「はい、聞いて楽しい話ではないでしょうけど、ただ一緒の籠に捨てられてて、同じ髪色で似た年齢だからきっと双子だろうって思われただけの話です。どちらが兄、姉の話以前に、もしかしたら本当は血も繋がってないかもしれませんね。ははは」

「は、ははは……」


 いや笑えないんだが。

 本人たちが本気で気にしてないみたいだからなんとか笑い返してみたけど、これ絶対苦笑いになってる。

 この世界の孤児問題もなかなかヘヴィーだな……。


「おいリキョウ! 私の妹をイジメたらいくらお前でも許さんぞ!」

「神に誓ってイジメておりません! ていうかサニー、お前いつの間にシフレと姉妹関係を結んだんだ」

「さっきだ! シフレは可愛いから私の妹にする!」


 そんな無茶苦茶な……。

 実の兄貴の前でそんなこと言っていいのかー?

 もしかするとヨッケンが「ぼくの妹をとるなァァァ!!」って怒り狂うかも……チラ。


「はは、よかったですねシフレ。頼りがいのあるお姉さんができて」

「そうね! 私の姉ならヨッケンの姉でもあるし、あなたもお姉ちゃんって呼んでみなさいよ!」

「いや、僕は遠慮しとくよ。折角の姉妹関係に水を差すのもね」


 あっれぇ~?

 理知的な子だと思ってはいたが、これは予想以上に大人の対応。

 なんなら精神年齢の下がった僕より大人びてないか?

 大丈夫かこれ?

 僕のお兄さん風はいつまで吹くの!


「おっと、ちょっと長話しすぎちまったな。オレらそろそろ行くわ。依頼こなさないと金がやべー」

「ああ、そんな話してたか。結局パーティーの勧誘、断って悪かったな。また今度一緒に飯でも食おうぜ」

「おう!」


 エイトの言葉で3人は依頼をこなしに駆け出していった。

 残された僕らもそろそろ今日の目的のゴブリンに会いに行くとしよう。


「……そういえば、シフレたちはよく私たちが新人だとわかったな? 装備は新人のそれではないと思うが、年齢か?」

「ああそれは、他の冒険者たちがしていた僕らの噂話を小耳に挟んだんだそうだ。登録時の事件は知らないみたいだけどな」


 エイトたちが聞いた噂話というのも、大方悪目立ちしてる僕らの陰口かそこらじゃないかと思うんだがな。

 新人のくせにとかなんとか言ってるのをそこだけ聞き取って話しかけてきたんだろう。

 まあこれはわざわざサニーに伝えることではないけどな。

 蛇足だ蛇足。


 ただ……


「彼らが僕らのギルドでの立ち位置を知ったら、もう接してこないかもな……」

「ん? なにか言ったかリキョウ?」

「いやなにも。さ、ゴブリンに会いに行こう」


 その時はその時だ。

 別に彼らが悪いわけでもなし、最初に戻るだけだからな。

 折角サニーに可愛い妹分が出来たのに惜しいとは思うが……。


「――心配するなリキョウ。シフレたちは私たちの友達だ。友達を疑うのはよくないぞ?」

「……お前、聞こえてたのかよ……」

「〈聴覚上昇〉は実に役立つ技能だ。旦那の下らん悩みを一蹴できるからな!」


 嫁の強化になるならと与えた技能だったが、これは早まったか……?

 おちおち密談もできんではないか。


 しかしサニーの言う通り、確かに下らん悩み事だったか。

 否定的な結果を案ずるより、折角できた友達を信じないとな。


「歳をとるって怖いねぇ……。子供の純心さを取り戻したいよ」

「一体何歳なんだお前は……」


 そりゃヨッケンより年上の立派な大人さぁ!



     ◇



 エイトたちと別れたその足で向かった森の奥。

 今日の獲物は変わらずゴブリンだ。


「情報ではこの辺りから奴らのテリトリーらしい。索敵を頼むなサニー。知恵の回る奴らではないが、先手で仕留めないと仲間を呼ばれて厄介だ」


 ゴブリンの習性として、群れるというものがある。

 奴らは個の実力で生き延びられないのは自覚しているのか、数で対抗しようという習性がある。

 大体5,6匹で群れて行動し、それでも危険が迫ると叫んで他の群れを呼ぶ。

 そうやって呼ばれたゴブリンは逃げるという選択肢を取らず、脅威を排除しようと必ずやってくる。

 もともと知恵の回る魔物でないからこそ、こういう特攻にも似た攻撃が何人も新人冒険者たちを死に至らしめてきた。


「ギルド側はもっと新人に注意喚起をしないのだろうか?」

「ギルドでも口頭で注意はされるが、資料室に行く冒険者ってほとんどいないからなぁ。行けばわかることを口頭で注意してやってるんだから、あとは自己責任ってスタンスなんじゃないか?」

「厳しい世界だな、冒険者というのも。読み書きのできん者もいるだろうに……」

「そういう者たちは先輩から学ぶしかないのさ。ギルドにわざわざ備え付けてある食堂もそういう意図があってのものだと思うぞ」


 改めてそう考えると、ギルドで悪目立ちしてて頼れる冒険者がカインさんたちとアスタシアしかいない今の僕らの状況って、ワンチャン詰んでた可能性もあったな。

 サニーも読み書きできないし、いやホント〈言語理解〉の技能あってよかった。

 神様ありがとうございます。


「む、無駄話はここまでだ。獲物が見つかった」

「こちらでも感知した。数は……4匹か」


 一般的なゴブリンの群れとしては少ないが、これは好都合。

 僕らの対人型相手のいい訓練になる。


 まずサニーがもう一度辺りの索敵をし、近場に別の敵性存在がいないことを確認したら、ここからは二手に分かれる。

 サニーは狙いやすいポジションをとり、僕はそれを見届けてから突貫する。


 目標は4匹、距離は30メートルほど先だろうか。

 これなら僕が目立つように突き進むことで、サニーならその間に2匹は殺れる。


 見直した技能に合わせて新調した僕の武器、ガントレットで強く拳を握りしめる。

 結局僕は接近戦は格闘で行うことにした。

 特に才能を感じる武器がなかったというのもあるが、これからも魔物から技能を得るなら下手に武器を選ぶよりこっちのほうがやりやすそうだと判断したのだ。


「さあ、最近は魔法や後処理ばっかで肉弾戦をしてなかったからな。ここいらで稽古の成果、確かめさせて貰おうか!」


 悲しいかな、サニーが強くなったおかげで角ウサギで僕の出番はなくなった。

 することがあるとすればサニーの仕留めた獲物の解体と運搬……こんなの悲しすぎるっ!

 僕の力で嫁を強化したら旦那である僕の出番がなくなってヒモになった件!

 わーい人気でなさそうなお話だぜー!

 とほほ……。


 だが悲しみに暮れるのもここまでだ。

 サニーのハンドサインで準備完了を確認した。

 いざ往かん!

 旦那の僕が実は強かったと嫁に知られてしまった件!


「うおおおおおおおおお! こっち見ろゴブリン共ォ!」


「「「「グギャッ⁉」」」」


 ガンガンとガントレットを打ち付けながら疾走する。

 こちらに気付いたゴブリン共は驚きの後、威嚇の叫びを再び上げる、が、まず一匹。


 ――ドッッ!!


「グギャ――」


 僕の横を抜けゴブリンの頭を捉えた一本の矢、サニーの射撃だ。

 とても弓による攻撃とは思えない音がした気がしたが、突然の矢に残りのゴブリン共が動揺してる今がチャンス。


「〈身体強化〉――ハッ!」

「グェッ⁉」


 〈身体強化〉を発動した状態での僕の拳は、ゴブリンの顔面に避ける間もなく直撃した。

 顔を陥没させながら吹き飛ぶゴブリン、あれは即死だろう。

 

「次!」


 ――ドッッ!!


「ギャァッ――」

「正拳突きィ――!!」

「グェッ⁉」


 僕が一匹目を倒した後、こちらに跳びかかってきていたゴブリンは哀れサニーの矢の餌食となり、まだ動揺から回復してない最後の一匹も僕の拳であえなく沈んだ。


「――ふぅ、戦闘終了。技能フル稼働でなくとも結構いけるな」


 今回僕が使ったのは常時発動型の〈腕力上昇〉と、意識的に発動する〈身体強化〉だけ。

 〈~~上昇〉系の技能は自分の意思に関わらず効果を発揮するが、その上昇幅は強化系としては〈~~強化〉系と比べれば幾分劣る。

 しかし今回仮に〈身体強化〉を使わずとも、その〈腕力上昇〉だけでどうにかなった可能性は十分あった。


「些かオーバースペックで戦った気がする。これでは訓練にならないか」

「――そうだな。後ろから見ていたからわかるが、ゴブリン共はお前の動きを目で追うのがやっとに見えたな」


 後方から射撃で援護してくれたサニーも合流した。

 しかし客観的視点でもそうなのだとすると、もう並みのゴブリン相手に技能の使用はナシだな。


「サニー。援護射撃助かったぞ。相変わらずいい腕してる」

「よせ。私の援護など必要のない相手だった。訓練を考えるのであればリキョウ一人に任せてよかったと反省しているところだ」

「それこそ連携の訓練にはなっただろ? こういうのはどっちも大切さ。ただ、ゴブリンでは少し物足りない気がするな。焦りも油断もよくないが……しばらくゴブリン狩りを続けて、もう一段上位の魔物を狙うことも視野に入れようか」


 そんなことを相談しながら、初のゴブリン戦を終えた僕らは次の獲物を求め歩き出した。

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