第19話
サニーの転生が成功し、僕らの冒険者ライフは至って順調だった。
生計は角ウサギを狩るだけでも立てられるし、位階も少しながら上がっている。
午前は資料室で情報収集をし、読み書きのできないサニーはギルドの訓練場で技能の扱いを慣らしている。
そんな生活を一週間続けたある日のことだった。
僕は決意する。
「サニー、そろそろ別の獲物を狙ってみないか?」
「別の? うむ、悪くはないと思うぞ」
朝、宿のロビーにて朝食を食べながらサニーに告げた僕の決意は、あっさりとした返答で済まされることとなった。
「あれ? 拒否感とかないのか?」
「リキョウの力を十全に活かすには必要なことだろう。むしろもっと早く切り出してくると待っていたのだがな。どうやら私の旦那は慎重派らしい」
なんてこった。
事は僕だけでなくサニーの身の安全にも関係することだからと悩みに悩んだ末のことだったのに、我が嫁はとっくに待ちの構えだったとは。
なんという包容力!
サニーへの好きが止まらないぞ。
「まあお前が強くなれば私も強くなれるからな! 協力するのはやぶさかでないし、あと少し待っても切り出されないようなら私から切り出していたところだ」
「あくまで自分のためでもあるってわけね。おーけーおーけー、そういうことにしとく」
サニーはツンデレの気質も備えているからな。
僕に気を遣わせまいとこう言ってくれたのだろう。
僕は一言「ありがとな」と伝えてから、彼女の頭をぽんぽん撫でるように叩いた。
「ふ、ふん。なにやら勘違いしているようだが、深くは突っ込まないでやる! それで、狙う獲物はもう決めたのか?」
「僕らの冒険者ランクはまだEだからね。冒険者として魔物を狩るならそこまで難易度が跳ね上がることはないさ。そこで僕らが次に狙う魔物は――ゴブリンだ」
ゴブリン。
ファンタジーものには欠かせない魔物代表格であり、この世界でもそれは存在する。
緑色の荒れた肌、醜悪な顔に小人のように小さな身体。
力も魔物として強い部類ではなく、特殊な技能も持ち合わせていない。
それが、一般的なゴブリンの実情だ。
「狙う意味がないではないか! 倒しても大した技能を得られぬ魔物など、リキョウにとってはわざわざ狙う価値など……」
「まあ、そう思うよな。でも最初の一手に意味はなくとも、次の一手には意味があるかもしれんぞ?」
「ぬ? どういう意味だ?」
今サニーに説明した情報は、一般的なゴブリンの情報だ。
これもラノベではよくある話だが、ゴブリンには進化系が存在する。
生まれは弱く死にやすいゴブリンだが、それが生き延び力を蓄え進化したゴブリンは、一般的なゴブリンとは違い時に驚く技能を持っていることもある。
「要するにゴブリンは可能性の幅が広いのさ。倒しても何が得られるのかはわからない、けどだからこそ思った以上の魚が釣れることもあるってわけだ」
「ふむぅ。それだけなら単純に別の魔物を狙って技能を獲得してもいい気はするのだが、リキョウはなにをそこまでゴブリンに期待しているのだ?」
期待、か。
確かに他の魔物を狙って確実に技能を得るのもいいだろう。
けど闇雲に技能を貰っても使えなければ意味がない。
「ゴブリンは人型の魔物だ。そんな魔物が持っている技能なら、僕らに使えるものである可能性は極めて高いと思わないか?」
これが僕がゴブリンを次の獲物に決めた理由だ。
もちろん下位のゴブリンなんか狩ったって大した技能は得られないだろう。
ゴブリンから強く使える技能を獲得するには、それこそ将軍級と呼ばれる進化ゴブリン以上でないとダメかもしれない。
だがそれを狙うにあたってもただのゴブリンは人型相手の訓練には丁度いいし、もちろん他の種の魔物に一切手を出さないなんて制約をかけるつもりもない。
「強い技能だけ持ってても使いこなせなきゃ意味がないだろ? レッドマークグリズリーの技能がそのいい例さ。ここはゴブリンを中心的に討伐しつつ、余裕を見て他の魔物からも頂戴する、くらいでいいんじゃないかと思うんだが、どうだろう?」
「……うむ。そういうことなら異論はない。しかし今もリキョウは前衛を想定した技能を良いもので固めている気がするのだが、となると実は狙っているのは日常系の技能だな?」
サニーの納得を得られたと思ったら、すぐに核心を突いてきた。
確かに今の僕は単純戦闘でそこそこいい動きができそうな技能セットをしている。
そう、僕はサニーの転生成功に相まって自分も技能の見直しをしたのだ。
その結果、今の僕のステータスは――
《 名前:リキョウ
年齢:15歳
性別:男
位階:6
職業:〈魔法使い〉
称号:〈迷い人〉 【未覚醒者】
魔法:〈生活魔法〉〈四元魔法〉〈転生魔法〉
技能:〈言語理解〉〈魔力操作〉〈魔力感知〉
〈身体強化〉〈五感強化〉〈腕力上昇〉
〈渾身撃〉〈俊足〉〈脱兎〉〈突進〉 》
という感じで、なんとも脳筋なビルド構成になっている。
正直ここまで肉体強化や物理戦闘に特化した魔法使いというのも珍しいのではないかと思っているが、もちろん実戦では使えるものはなんでも使う。
僕は魔法使いであるという強みを忘れたわけではないと言っておこう。
この技能を見て分かる通り、今の僕は相当使いやすく強力な技能でも得られない限り、戦闘面での技能変更はしないだろう。
そしてその強力で使いやすい技能というのは先にも言った将軍級でもない限り得られそうもない。
だからこそ、僕が普通のゴブリン相手に狙っているのは日常系の技能だったりする。
「はは……ほら、僕はもともと日常を便利にしたいとも思ってたからさ。戦闘面での強化も進めるけど、それだけってのも勿体ないだろ? せっかくこんな魔法があるんだからさ」
「別に責めているわけではないぞ? 私もリキョウが料理系技能を獲得してくれれば助かるというものだしな。おっと口が滑った……」
ぐぎぎぎぎ……。
相思相愛と判明してからサニーは容赦がなくなった。
なんと僕の手料理を酷評するようになったのだ!
一口食べるごとに「まずい」とか「信じられん」とかいちいち口にしやがるようになったサニーは、それでも最後の一口まで完食してくれるのだが、これはきっとツンデレではないと思う。
加えサニーは「これからは私も時々作る」と言って僕に手料理を出してきた。
……普通にうまかった。
ぐぎぎぎぎぎ……。
「そんな自分の歯を噛み砕くような顔はやめろ。味は最悪でも、私はお前の手料理ならいつでも食ってやる。その手料理がいつの日か、まともに食える味になったらそれは最高だなとそういう話だ」
「ぐ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ……ガンバリマス。」
最近になって自覚した。
僕の手料理は食べる人を選ぶ味なのだと。
自分で味見しても特にまずくはないのだから、これはもう好みの問題だ。
だからサニーの口に合わないならそれは僕の精進不足と認めよう。
恋人の口に合う最高の手料理をいつか絶対作ってやるからな!
「……お前のその自分の手料理に対する自信の出所が気になって仕方ないぞ……」
「サニー、それは話せば長くなるが、聞いたらお前も絶対こっち側になるからいつか時間が空いたら聞かせてやろう」
「……楽しみにしておく」
ともあれ朝の話し合いはこれにて終了。
僕らは装備を整え早速冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは朝ということもあってか人が多く、混雑していた。
特に僕らのような低ランク冒険者は数が多いので良い依頼は取り合いの早い者勝ちだ。
「おいそりゃ俺んだ!」
「うるせー! 俺が先に取ったんだよ!」
「おい馬鹿共そりゃ俺が昨日から目をつけて――」
「「引っ込んでろ!!」」
「ぐはぁ⁉」
……取り合いの取り合いで、早い者勝ちではなさそうか?
まあ僕らには関係ない。
どうせ今日の討伐目標は常時依頼が出されるゴブリンだ。
常時依頼とは誰が何回受けてもなくならない依頼のことで、討伐証明部位や指定素材を持ち帰れば何度でも達成扱いにできて報酬も貰えるおいしい仕事だ。
ゴブリン討伐以外にも薬草採取や危険報告など常時依頼はいくつかある。
が、常時依頼で貰える報酬額は他の一般依頼と比べても安めなこともあって人気があるとは言えず、他の依頼のついでに達成できたから一緒に報告しておこう程度のものだ。
なので常時依頼を専門に冒険者をする僕らは珍しいタイプなのだが、金には余裕があるからこのままいく予定だ。
最初のアスタシア関係の事件でギルドから貰った謝罪金も残ってるし、毎日のダルトのおっさんに納品する角ウサギ5匹分だけでも暮らしていくことはできる。
そういうわけで今日も僕らはギルドに顔は出したものの、依頼掲示板を見るでもなく、受付カウンターに並ぶでもなく、ただギルドの中を見渡している。
こんなことをしている理由?
そりゃ人探しだ。
「今日もアスタシアはいないか」
「流石にAランクともなると依頼で不在が続くようだな。仕方のないことだ、日を改めようリキョウ」
「そうだな」
アスタシアには魔法使いの先輩として聞きたいこともあったし、それ関係で色々と頼りにしたいんだが、不在なら仕方ない。
そこまで切羽詰まってるわけでもなし、ゴブリン討伐といきますかと踵を返し歩き出したそんな時、後ろから誰かに肩を掴まれる。
(また面倒事か……)
最初の悪目立ちからこういうことが起こるのは予想してたが、素直に面倒臭い。
適当に済ませて早くゴブリンに会いに行こうと後ろを振り向く、と
「お前らオレらと同じ新人だよな? 2人なら一緒に組まないか⁉」
「は?」
と、なんとも予想外な、友好的な誘いを受けた。
声を掛けてきたのは3人組の冒険者。
装備や年齢、今の言葉から察するに彼らも登録したての冒険者なんだろうが……
「ちょっとエイト! やっぱりやめましょうよ、この人たちの装備とても新人じゃないわ」
「ぼくもそう思います。新人であったとしても資金力も実力もある方たちでしょうし、ぼくたちのような普通の駆け出しとは釣り合わないかと」
「んだよシフレもヨッケンも3人じゃ魔物は厳しいって話してたじゃねぇか。勧誘するだけしてみようぜ」
突然声を掛けられたと思ったら仲間内で話し合いが始まった。
別に勧誘くらい構わないんだが、するならさっさと話を進めて欲しい。
僕は彼らの言い合う姿にこれが普通の同年齢の在り方かなとちょっと微笑ましくなりながら、話を聞くべくこちらから声を掛ける。
「仲間内で会議中のところ悪いんだが、話くらい聞くからちょっと移動しないか? こんなところで5人纏まってるのは流石に目立つ」
僕らが今いるのは入り口からほど近い場所であり、5人で固まると少々通行の邪魔だ。
それに彼らも気付いたようで、集まる視線に頭を下げながらそそくさとギルド備え付けの食堂に移動した。
「いや悪い悪い。オレらのせいで目立っちまったな」
「別にそれは構わないんだが、パーティーの勧誘だろ? 僕らも訳あって組むことはできないんだが、折角話しかけてくれたんだ。同じ冒険者同士、仲良くしたいとは思ってる」
ここでいう訳とは、僕らには極力隠さなければならない秘密があるということだ。
彼らは悪い奴らではなさそうだが、秘密の共有をするには些か幼過ぎる。
「だぁ~やっぱりダメか~。装備とかしっかりしてるし無理かなとは思ってたんだけどな。でも! 友達にはなれたんだから話しかけてよかったろ?」
「すぐに友達とか言わないの! この人たちも困惑してるじゃない」
「すみません。エイトはちょっと距離を詰めるのが早いやつでして。悪気はないんです」
いきなり友達認定されてちょっとびっくりしたが、日本にもこういうフレンドリーな友人はいたし、そういう奴に特別悪感情を抱くことはない。
他の2人もなんだかんたそんな彼を好ましく思ってる風だしな。
「気にしないでくれ。ちょっとびっくりしただけだ。ああ自己紹介がまだだったな、僕はリキョウ。んでこっちの女性が」
「サニーだ! リキョウのお嫁さんだぞ!」
「……ってな感じだ。よろしくな」
「よろしく頼むぞ!」
サニーのお嫁さん発言にエイトら三人は驚いているようだが、次は彼らのことを聞いていこうかな。




