第18話
「どんな……? む、そうか、確かにそれは大事なことだったな」
サニーを転生させるにあたり、まずはどんな方向性で成長したいか決めなければならない。
魔力がある限り転生は何度でもできるとはいえ、そうポンポン使う技能を変えたりしたら逆に弱体化もあり得るのは僕と同じ。
ここは転生の先輩としてサニーの進路相談に乗ってやろう。
「私は弓を極める。狩人として身に着けた技術を無駄にする技能はいらん」
oh、後輩に先輩の助言なんていらなかった件。
いや自分の進むべき道を自分でしっかり見えているというのはいいことだ。
先輩は応援しますよ、うん。
「弓と狩人の経験を活かせる技能か。となると自ずと候補は見えてくるな。……っていうか、そもそもそんな選ぶほどまだ技能揃ってないんだけど」
「もし可能なら、今リキョウが持ってる技能を教えては貰えないだろうか? 参考にしたい」
「ああ、もちろんいいよ」
といっても僕もよく覚えてないから、ステータスさん見ますよっと。
《 名前:リキョウ
年齢:15歳
性別:男
位階:5
職業:〈魔法使い〉
称号:〈迷い人〉 【未覚醒者】
魔法:〈生活魔法〉〈四元魔法〉〈転生魔法〉
技能:〈言語理解〉〈魔力操作〉〈魔力感知〉
〈身体強化〉〈五感強化〉〈腕力上昇〉〈渾身撃〉
〈自然同化〉〈暗視〉〈気配察知〉 》
更にここに未セットの技能が
《 転生時獲得可能技能
〈赤の刻印〉〈怒りの咆哮〉〈血の狂乱〉
〈穴掘り〉〈脱兎〉〈俊足〉〈聴覚上昇〉〈突進〉 》
となって、計18個の技能があるわけだ。
「……と、こんな感じだが、なにかめぼしい技能はありそうか?」
「ううむ、狩人として感知系の能力は是非欲しい。それに〈自然同化〉など森を歩く者にとっては喉から手が出るほどに欲しい力だ。……使われる側だったら恐ろしくて堪らんがな。あとはそうだな……〈俊足〉があれば位置取りはしやすそうだし、火力強化の意味で〈身体強化〉や〈腕力上昇〉、〈渾身撃〉も悪くない。それと〈暗視〉は絶対に外せないな、狩人の夢だ」
サニーの意見を纏めると、感知系技能で敵の居場所を割り出し、迅速な行動でより良いポジション取り、そこから強化マシマシの弓による遠距離攻撃で仕留めるスタイル。
加えて移動の痕跡は残さないし、例え暗所でも構わず当ててくる目を持つと。
「サニーお前、狩人目指してんだよな? これもう暗殺者だぞ。僕は絶対敵に回したくないね」
将来サニーが暗殺者として名を高めた時、記者のインタビューで「どこで道を踏み外したんですか?」って聞かれたサニーが僕の名前を出そうもんなら一生後悔する。
暗殺者が記者のインタビュー受けるとか意味わからんけど。
「知らないのかリキョウ? 狩られる獲物にとって私たち狩人は暗殺者のようなものさ。敵を観察し、罠を仕掛け、気付かれる間もなく一撃で仕留める。これが狩人の基本だからな」
なるほど、確かに言われてみればそんな感じする。
元から狩人は暗殺者だったってことか!
「……いやそれとこれとは話が違わないか? 技能の固め方が狩人と暗殺者でレベチなんだが」
僕の今持ってる技能でサニーの希望通したらそりゃ間違いなくお前は暗殺者の仲間入りだよ。
「細かいことは気にするな。それより方向性は決まったことだし早速転生したいぞ! 話していたらなんだかワクワクしてきた! 自分が死んだとすら気付かせない技術は一人前の狩人の証なんだ!」
暗殺者の証にしか聞こえない件。
お前はどうあっても自分を狩人と自称するのだな。
まあ素直に自分暗殺者です! って名乗る暗殺者もいないわけだし、着実に暗殺者サニーの誕生が近づいていると思っておこう。
「サニー、記者にインタビューされても僕の名前出さないでくれな」
「 ?? どういう意味だ?」
「そのままの意味さ……」
さて冗談はここまでにして、早速サニーの希望に沿う技能を見繕うとするか。
まず感知系。
僕が持つ感知系技能は〈魔力感知〉〈気配察知〉の2つがまず挙げられるだろう。
ここに五感での感知能力を求めるならば〈五感強化〉〈聴覚上昇〉も候補に入る。
次に攻撃面。
弓での攻撃をしたいという話だし、レッドマークグリズリーの技能は不適合だ。
ここは単純な〈身体強化〉と〈腕力上昇〉で地力を底上げし、〈渾身撃〉の一撃を弓矢に籠めるのが正解か。
ここまでで7つ。
恐らくサニーもセットできる技能の数は僕と同じだろうし空きはあと3枠。
サニーたっての希望で〈自然同化〉と〈暗視〉は外せないからこれも加えるとして、残り1枠。
残る候補は〈俊足〉と〈脱兎〉のどちらかになるだろうが、本人は〈俊足〉を希望、と。
「なあサニー、もしもの時の安全面を考慮するなら〈脱兎〉がいいと思うんだが、こっちじゃダメなのか?」
「〈脱兎〉は撤退時にしか使用できんのだろう? もちろんその撤退時には頼りになる技能なのだろうが、〈俊足〉でも足の速さは上がるし、他の技能もあるから撤退時限定の技能をわざわざ持っておくのもな。強い攻撃は固い防御にもなる。ここは〈俊足〉を持たせてはくれんか?」
攻撃は最大の防御、か。
似たような考えはやっぱこの世界にもあったんだな。
万が一追われる状況になっても僕らは2人いるのだから、互いにカバーも可能か……。
「わかった。最後の1枠は〈俊足〉でいこう」
一緒に冒険をするサニーは後衛だ。
まず追われるとしてもそれは前衛を張る僕だろう。
後ろからの奇襲にもサニーは感知能力で対応できるし、僕が前面の脅威を耐え忍び、サニーの離脱を確認できたところで〈脱兎〉で逃げる……うん、悪くない戦法だ。
「――ってな感じでいくから、サニーの転生が成功したら次は僕の転生も済ませなくちゃな」
「一人リキョウに殿を任せるのは心苦しいが、私も後方から援護もできる……確かに2人ならこれが最善手か。だがリキョウ、お前が死ぬときは私も一緒だからな! お前を見捨てておめおめ生き残るなど私はごめんだ!」
いや殿を勤める意義を根底から否定する発言はやめてくれませんか。
僕は自分が犠牲になってもサニーには生きて欲しいんだが……これは言っても怒るだけか。
強くなればいい、そうすれば僕とサニーは、ずっと一緒だ。
「決めることも決めたし、確認をしたら転生の儀を始めよう」
「おお! 転生の儀……いい響きだ」
ロマンって概念はこの魔法がある世界でも通じるらしい。
「ここまで結構話したが、それもこれも全部サニーの転生が上手くいく前提での話だ。上手くいかなかったときは僕が一生お前を支えるから安心してほしい」
「なんだ、成功しなかったらリキョウは私を貰ってくれんのか? 昨夜はあんなに激しく愛し合ったというのに……およよ、私は悲しいぞ」
「だーーー!! もちろんサニーは僕が貰うが、失敗しても見捨てないって心の気遣いを無駄にするな! さっさと始めるぞ!」
昨夜の情事を思い出し、赤面しながら捲し立てるとサニーは嬉しそうに笑う。
くそ、かわいい……。
なんだって人は恋するとこうも弱くなっちまうのか。
今のサニーに強くねだられたらなんでも買ってやる自信がある、いや自信しかない。
サニーの笑う姿をいつまでも見ていたいが、他人の転生にどれだけ魔力を使うかもわからんのだし早めに始めたい。
さっさと最終確認をして転生の儀を始めよう。
「サニー、最後の確認をするぞ。サニーに与える技能は〈魔力感知〉〈気配察知〉〈五感強化〉〈聴覚上昇〉〈身体強化〉〈腕力上昇〉〈渾身撃〉〈自然同化〉〈暗視〉〈俊足〉の10個だ。間違いないな?」
「ああ、それで間違いない。覚悟はもうできてる、やってくれ……いや、最後に一つ成功しやすくするおまじないでもかけて貰おうか」
おまじない?
いやそんなこと言われても僕はそれ系の知識はないぞ。
それともサニーのいたゴンボ村ないしこの世界には有名なおまじないでもあるのか?
でも知らないし聞くしかないよな……ん?
視界に入ったサニーは顔を赤くして熱の籠った視線を僕に向けている。
「あー……おまじないってそういう……」
「ニブチンのお前でもこれはわかったようで安心したぞ。それで……おまじないをかけてはくれんのか?」
やばい昨夜一線を越えてからサニーが可愛すぎてそろそろ心臓が止まる気がする。
いや急に態度がデレに偏りすぎだろ⁉
でもありがとうございます僕は幸せです。
「サニーはあれだな……ツンケンしてても夫には尽くしてくれるタイプの女だ。安心して嫁に貰える……」
「んっ……」
唇と唇が重なるだけの、簡単なキス。
それだけで僕らは幸せだった。
「……おまじないは十分か?」
「う、うむ。もう大丈夫だ。早く転生の儀をやって、次は存分に祝福して貰わないとな」
祝福、ね。
それは僕も楽しみたいからなんとしてでも成功させないとな。
サニーがベットに横になり、深呼吸の後、目を瞑る。
他人への〈転生魔法〉の行使は初めてだ。
いや命を奪い力を吸収するという使い方でならもうやった、が、そんなものは今当てにならない。
この儀式の決め手を知るのは実際に転生を何度も経験した僕しかいないのだ。
大丈夫、直感はある。
思い出すのは数度と経験した転生時の、身体の変わり方。
いつも決まってお腹の下、丹田と言われる部分から力が広がり、身体に馴染んでいった。
それは単に魔力の在り処がそこだったというだけなのかもしれないが、僕の直感はこれを信じていいと言っている。
サニーを見る。
緊張した様子はない。
怯えた様子も、興奮した様子もない。
至っていつもの、綺麗でかわいいサニーのままだ。
「サニー、始めるよ。大丈夫、すぐ終わるから」
この儀式は成功する。
サニーの姿を見たらそんな確信が湧き上がり、僕は落ち着いて魔法を唱えた。
「――〈転生〉」
◇
森に潜む角ウサギにサニーが矢を射る。
時刻は午後過ぎの、地球で言えば3時くらいだろうか。
昨日と同じ獲物を、同じ森の奥で狙っている。
しかし昨日と違うことが一つ。
「――仕留めた。回収を頼むリキョウ。私は次の獲物を狙う」
「了解。これで4匹目だ、次ので最後にして町に帰還しよう」
それは角ウサギをサニーが一人で狩っているということだ。
索敵からの目視での発見、そして狙い違わぬ弓による遠距離射撃で一撃のもと屠る。
もともと狩人として実力のあったサニーは、もう角ウサギ程度なら僕の支援は必要なくなったのだ。
狩られた角ウサギを回収し今後の目標を思案する。
――転生は成功した。
それは僕とサニーの、これからの止まらぬ躍進の始まりであろうか。
それとも災いを呼ぶ種が開花を知らせた凶報であろうか。
転生が他者にも行使できる魔法であると発覚した今、僕の価値は人に言えるものではなくなった。
もし権力者にでも知られようものなら、一生飼い殺しにされてもなんら不思議ではない力だ。
しかし力を隠して生きるにはギルドの一件で既に時遅しというものだろう。
ならばどうするか。
「決まってるよな。これはもう僕だけの問題じゃない。サニーとの生活を守るためにも、揺るがない強さが必要だ。そのためのお膳立ては、僕の魔法が十分にやってくれる」
しかしそれだけだとまだ心配も残る。
強くなるにしても、時間は必要。
ふっと頭に浮かぶのは、ヘザール最強冒険者であるアスタシアと、クロスロード道場で世話になり知己を得たアカネの存在。
「頼ってみるか……」
誰も知り合いなんていなかったこの世界で、信じてもいいと思えたその2人を協力者にしたいと考えを巡らせながら、僕はサニーの背中を追うのだった。




