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第16話

 角ウサギを討伐したしこれで依頼達成、とアイミスに報告に続き肉の納品まで済ませようとすると、アイミスからこんなアドバイスを頂いた。


「リキョウさんたちは今ギルドの紹介した例の宿でお宿泊ですよね? ということは朝食と夕食しかあそこは出さないはずですから、お手軽に昼食を済ませたいときにおすすめの屋台がありますよ?」


 そんな宣伝? みたいな助言だったが、アイミスは最初はともかく今は反省して真剣に受付業務に取り組んでいる人だし、なによりその情報は聞いておいて損はないと耳を傾けることにした。


「このタイミングで話すということは、角ウサギの肉を使った屋台なんですか?」

「はい。お肉と秘伝のたれが合わさってホンッッットに美味しんですよ! ただ……最近は角ウサギの肉の供給があまり芳しくないので……」

「つまり、ギルドに納品するとその屋台に行き渡らない可能性が高いから、直接持って行ってお肉を渡して自分も食べられるようにしてほしい、と。ははぁ、なかなか考えよる」


 ギルドの業務に真剣なのは間違いないんだが、我欲というものに正直でもあるようだ。

 まあこれくらいならまだ納品もしてないし、いい情報も教えてもらったってことでセーフ……いやグレー行為か?

 こういうアイミスが危ない橋を渡る(本人自覚なし)ときは決まって横からテレサさんが冷えた目線を送っているのだが、チラと確認すると


「うふふふ。おほほほほ」


 まるで話など聞こえていないかのような素振りで、ニコニコ笑顔を浮かべていた。

 ナニカイイコトアッタノカナー。

 あ、今こっちチラ見した……。

 ……この人も露骨に我欲を通そうとしてやがる!

 そんなにその屋台は美味い飯を出すのか?

 流石にここまでの反応を見せられると僕も気になって仕方ない。


「お、おいリキョウ。5匹もあるのだから1匹くらい別にいいのではないか? いや2匹くらいでも」


 どうやらサニーもこの反応を見て気になりだしたらしい。

 これはもう決まりだな。


「こちらギルドに納品する角ウサギの肉3匹分になります」

「は~い♪ すぐに確認しますので少々お待ちくださいね♪」


 アイミスもニッコリ。

 横でテレサさんもニッコニコ。

 よく見ると他の受付嬢もいつもよりニコニコしている。

 どうやら聞き耳を立てていたようだ。


 しかしこれだけ人気なら受付嬢の仕事が終わるまでに売り切れるのではないのか?

 特にこんな冒険者という自由業をする者達の前で話したりしたら……。


 納品の確認と報酬金の受け渡しが終わってそんな疑念を抱きながらギルドを出ようとすると、いつもは話しかけてこない冒険者の一人が、小声で教えてくれた。


「このギルドでは受付嬢連盟なるものが結成されててな。Aランクパーティーの後ろ盾もあって誰も逆らえねぇ……。兄ちゃんたちも自分で狩って納品した時以外は食いにいくんじゃねぇぞ。これを破った馬鹿は今までにもいたが、今ここにはいない。……わかるな?」


 僕とサニーはコクコクと赤べこのように頷いた。

 いや怖すぎだろここの受け嬢たち。

 女は強かって言うが物理的にも強かなAランクパーティーまで協力してたらそりゃもう無敵だろ……。


 受付嬢には逆らわない。

 その事を誓った一件だった。


 ともあれそんあ助言を受けギルドを出た僕たちは、アイミスから聞いた件の屋台に向かって歩き出した。


「秘伝と言っていたが一体どんな味なんだろうな! やはり都には都の味があるのだろリキョウ!」

「ヘザールに来て食べた味は確かに単調ではなかったが……正直ディートさんの飯のほうが美味かったからな。これでその屋台の飯もいまいちならもう僕が作るしか――」

「きっと美味いとも! そうに決まってる! だから余計なことは考えず味に集中しようなリキョウ!」


 おいサニー、それはなんだかディートさんたちとのやり取りを思い出すんだが、まさかお前まで……?

 いやサニーは毎回完食して食後の眠りを幸せそうにしていたマトモな娘だ。

 そんなまさかな……。


「…ふふっ」

「ん? どうしたのだリキョウ?」

「いや、こういうやり取りも懐かしくてな。思わず笑ってしまったよ」


 ヘザールに来てから料理を振舞う機会なんてなかったからな。

 内容自体は遺憾なことこの上ないが、何故か悪い気分ではない。


「そうだな……私もこんな日々がずっと続けばと思う」

「こんな日々って僕の手料理を食べない日々か?」

「こんな日々がずっと続けばと、な……」

「おーいサニー。遠い目で夕日を見上げるな。質問の答えになってないぞ」

「ふふっ。なんだか自然と笑みが浮かんでくるな。リキョウはこういうやり取りが好きなのか、わかるぞ……」

「おーい……」


 ダメだこいつ僕と眼を合わせようとしない。

 チキショ―ーーッッ!!

 サニーまでゴンボ村の奴らに毒されちまったのか⁉


 と、嘆いて僕も夕日を見上げていると


「ふっ。冗談だよリキョウ。またお前の手料理を食わせてくれな」

「……っ!! サニー!! お前ならそう言ってくれると信じてたぞ! 愛してる!」

「あああ愛っ……⁉ う、うむ。私もお前を、その、あい――」


 それじゃあ今度宿の厨房でも借りて手料理を振舞うかな。

 サニーが食べたがってるのに待たせるのも悪い、なるべく早くで、献立はどうするか。

 そうだ!

 アスタシアとアカネも誘って一緒に食べて貰おう!

 彼女たちはマトモな人たちだからきっと美味しいと言ってくれる。


「――その、子供はもう少し時間が欲しいが、お前がどうしてもというなら……」

「お、サニー。あの屋台じゃないか?」

「うぇ? ……う、うむ、そうだな。お前はそういう奴だった」

「 ? 」


 少しサニーの顔が赤い気がするが、きっと夕日のせいだな。

 気を取り直して仏頂面で肉を焼いているおやじさんに声をかける。


「こんばんわおやじさん。ギルドの冒険者なんだが、角ウサギの肉、買い取ってるか?」

「……見せてみろ」


 おやじさんは肉の状態を確認したいようだ。

 売る予定の2匹分の肉を革袋から取り出す。


 しばし眺めたおやじさんは


「……いい状態だ。1匹銀貨3枚で買い取らせてもらう」


 と言ってこちらに視線を送ってきた。

 もちろんそれで不満はない。

 ギルドで売ればもう少し高くなったかもしれないが、これも縁ってやつだからな。


 因みに今更だが、この世界の通貨は全て硬貨で、鉄貨一円、銅貨十円、大銅貨百円、銀貨千円、大銀貨一万円、金貨十万円、大金貨百万円、白金貨千万円てな感じの認識でいい。

 だから銀貨3枚なら三千円だが、これでも屋台で売った金額としては高いほうだ。


 これがもっと上位の魔物肉とかになると取引価格も跳ね上がるんだが、角ウサギは狩れる奴は狩れる下位の魔物だからこんなもんだろう。


「ここの角ウサギの焼き串は美味いって聞いたんだが、すぐに食べられるか?」

「角ウサギは明日の朝まで待て。今は普通の兎肉の焼き串なら出せる」

「ならそれを4本頼む」


 あれ?

 ここで頼んじゃダメなのは角ウサギの肉であって、他の肉なら別に構わないんだよな?

 ま、まぁ普通の兎も今までたくさん狩ってきたし、ダメってことはないだろう……ないよな?


「……お前ら、角ウサギを安定して狩れるのか」


 僕が受付嬢たちの報復に戦々恐々としていると、肉を渡しながら屋台のおやじさんが語り掛けてきた。


「僕が索敵してサニーが仕留める。これで今日は5匹狩れたな。僕が出しゃばらなければ倍は狩れた」

「あれ以上狩っても帰りが大変だぞリキョウ。あれくらいで丁度いい」


 確かに革袋に10匹は無理があるか。

 背負い籠ならもっと入るには入るが、あれは森で魔物と戦うことを想定すると少し邪魔なんだよな。

 こういう魔法がある世界ならマジックバックとかはないだろうか?

 いやあってもすぐに買える値段なはずもないな、だって魔法絡みだし。

 でもいつかは欲しいよなー、いっそ自分で作れないかなぁ……。


「……それだけ狩れるなら専属契約を結びたい。毎日この時間に角ウサギを5匹持ってきてくれたら、ギルドより多少高く買い取ろう。……どうだ?」


 この取引きに応じるか迷ったのはほんの一瞬だった。

 だって今食べてるただの兎肉の焼き串めっちゃ美味いんだもん。

 これで噂の角ウサギはもっと美味いとか、もう断る理由皆無だよね。

 サニーを見ると滅茶苦茶幸せそうにリスみたくして食ってるし、異論はなさそうだ。


「任せてくれおやじさん。今日は初回で慎重気味に行動したが、あの感じなら午後からでも夕刻までに5匹は余裕だ。こんな美味い焼き串食えるんだったら断る理由はないしな!」

「うむ! もぐもぐ、これは、美味いぞ!」

「ふ。取引成立だな。俺はダルトってもんだ。よろしく頼むぜ坊主たち」

「Eランク冒険者のリキョウだ。こちらこそよろしく頼む、ダルトのおやじ」

「同じくEランク冒険者のサニーだ! 明日も絶対食べにくるぞ!」


 ニヒルに笑うダルトのおやじに自己紹介をして、焼き串を追加で貰ってからその日は宿に戻った。


 戻った宿にて僕の部屋に集合し、今後の方針をサニーと話し合う。


「これからは角ウサギ狩りで午後を使うとして、午前どうするかだな」

「他の魔物も倒したほうがリキョウにとっては都合がよいのではないか? 今日の角ウサギの持つ技能だってお前は獲得したのだろう?」

「あ、そういや確認してなかったな」


 サニーの言葉に大事なことを思い出し、すぐにステータスを確認する。

 下位の魔物だったとはいえ、土モグラ先輩だって有用な技能を持っていたのだからなにか使えるのがあるかも……。



 《 名前:リキョウ

   年齢:15歳

   性別:男

   位階:5

   職業:〈魔法使い〉

   称号:〈迷い人〉 【未覚醒者】

   魔法:〈生活魔法〉〈四元魔法〉〈転生魔法〉

   技能:〈言語理解〉〈魔力操作〉〈魔力感知〉

      〈身体強化〉〈五感強化〉〈腕力上昇〉〈渾身撃〉

      〈自然同化〉〈暗視〉〈気配察知〉          》



 ふむふむ、位階の数値に変わりはないと。

 では肝心の転生で獲得可能な技能の確認にいこう。



 《 転生時獲得可能技能

   〈赤の刻印(レッドマーク)〉〈怒りの咆哮〉〈血の狂乱〉

   〈穴掘り〉〈脱兎〉〈俊足〉〈聴覚上昇〉〈突進〉       》




 増えたのは〈脱兎〉〈俊足〉〈聴覚上昇〉〈突進〉の四つか。

 レッドマークグリズリーの技能はどれも強力だが使いどころが難しいため今の実力で使う気はない、ので保留。

 次に土モグラ先輩の〈穴掘り〉だが最近は採取もあまりすることがないし、あったとしてもこの技能がわざわざ必要かと問われれば否、これも保留。

 最後に今回獲得した角ウサギの技能だが……これは使えるな。

 特に〈脱兎〉〈俊足〉は是非持っておきたい。

 〈脱兎〉は逃げる際に足が速くなる技能だ。

 これがあれば勝てない相手に見つかった時の生存能力が爆上がりする。

 問題は僕だけ逃げれても意味がないとうこと、サニーを置いてはいけない。

 しかし〈脱兎〉発動に〈俊足〉も加え、〈身体強化〉と〈腕力強化〉を併用すればサニー一人抱えて走るくらいわけないだろう。

 〈自然同化〉も合わせて使えば撒ける確率は更にあがるな。


「うん。悪くない」

「確認は終わったのか? なら次は転生? とやらをするのか?」


 おっと僕がステータスを確認するのを黙って待っててくれたのか。

 サニーにステータスウィンドウは見えないようだし、暇だったろうにこういう時はなにも言わないんだよな。


「そうだな、一度転生する必要があるか……となるとなにを外すかだが、迷うな」

「私でよければ相談にのるぞ? 私はリキョウみたいにポンポン技能なんて得られないからな、こういうところで役に立ちたいのだ」


 そんなことを気にしていたのか。

 いや、確かに冒険者ギルドで知った情報からすると、技能の有り無しは戦闘力にもその他の面でも実力に直結する。

 このまま僕とパーティーを組んでいくということはその実力が広がり続けるということなのか。

 それはサニーにとって悔しいだけでなく、重荷にもなっていくだろう。

 仲間の役に立ちたいのに、技能はそう簡単に得られない。

 かといってこの問題はどうすることも……ん?


「そういえば……転生魔法って自分にしか発動できないのだろうか?」

 

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