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第15話

 まだ納得はいかないものの、サニーとアスタシアによる説得を受けた僕は渋々再登録料を払い、晴れて冒険者に戻ることとなった。


「このよくわからない気持ちは、依頼を達成して発散するしかない。サニー、新人にはなにがお勧めなんだ?」

「そうだな、リキョウは戦闘もできるし薬草を採りながら兎でも狩ればいいだろう。魔物退治はEランクからしか受けられない依頼になるからな、早く昇級したいなら冒険者活動は怠けるんじゃないぞ!」


 ふむふむ。

 この薬草採取の依頼と兎肉納品の依頼を一緒に受ければいいんだな。

 薬草は魔力のないただの草らしいからいつもの見分け方はできない、となると資料室で先に確認が必要か。


「サニーは一緒に依頼を受けるのか? 新人から一つランクが上がったってことは今Fランクだろ? もう少しいい依頼も受けられそうだが……」


 冒険者のランクは A、B、C、D、E、F、G の七段階で、Aが一番高くGが一番低い、というかGはド新人以下の見習いだそうだ。

 見習いのGランクは一月も真面目に冒険者稼業をこなせばすぐ昇級できるらしいが、それにサニーを付き合わせるのも悪い。


「いいんだ。私はただリキョウと一緒に依頼をこなしたいだけだからな。私一人ならそもそも冒険者になどなっていない」

「そうか…そうだな。なら()()()一人にさせてしまった詫びに、しばらく冒険者稼業に専念しようか。道場は逃げないしな」

「うむ! そろそろ()()()だが、私はリキョウを側で支えると決めたからな! お前の歩む道の邪魔などせん!」


 なにか含みのある言い方ではあったが、伝わる気持ちは好意や善意であるため深くは考えなかった。

 ただサニーもそろそろ二ヶ月となにかの時期の話をしているが、やっぱり祭りでもあるのだろうか?

 タイミングを見計らってサニーと、あとアスタシアも誘ってみるかな。

 アカネは今度道場に行った時でいいだろう。


 さ、冒険に行きますか!


「たはは……久しぶりの再会だというのに、一言も声をかけて貰えなかったよ……」


 あ、アスタシアまだいたのか。

 いや無視していたわけでなく、純粋に背が低くて視界に入ってなかった。


「アスタシアは依頼はいいのか?」

「ん? ようやく放置プレイはお終いかい? ボクは暇だから旦那様についていくよ。気になることもあるしね」

「そうか。なら三人で散歩がてら気楽にいくか」


 先輩二人同伴の新人依頼とは、なんとも豪華なことだ。

 これなら薬草の知識も先輩たちから聞けばいいかな。

 早めに魔物と戦える状態にはしておきたいし、ランク上げ頑張りますか!



     ◇



 サニーと時々アスタシアの三人で冒険者稼業に勤しんで、一月が経ったころ。

 僕のランクは見習いのGランクから、二つ上がってEランク、つまり魔物討伐依頼を受けられるようになった。


「もともとリキョウさんの戦闘力に疑う余地はありませんから、ある程度冒険者に慣れた今、Fランクを挟む必要はないという判断です。おめでとうございます! これで魔物討伐を依頼として受けられますよ!」


 そのアイミスの言葉に嬉しいものがこみ上げてくる。

 魔物との戦闘はやろうと思えばできたが、それを生業とするならやっぱり冒険者になるべきだった。

 その念願の想いが今、Eランクになったことで正式に叶ったのだ!


「早速魔物と戦ってみたいなサニー! 依頼を見に行こう!」

「なにがそこまでお前をかきてたるのかわからんが、初めは低級のから始めような。あの時のような大物相手はもうごめんだぞ!」


 少し興奮してサニーと僕の言葉の掛け合いがいつもと逆になった感じだが、これもまたいい。

 サニーは低級からというがもちろんそれに異存はない。

 あの時の大物――レッドマークグリズリーとの戦いは結果こそ無傷で勝てたものの、一歩間違えればあっけなく死んでしまう窮地でもあった。

 ああいう死線を潜り抜けたという経験も大事だろうが、着実に歩む冒険というのも乙なものだ。


「今日はアスタシアもいないし、Eランクで受けれる一番下の依頼で様子をみよう。となると、これだな。角ウサギの討伐と肉の納品」


 兎狩りなら今までもやってきたが、あれはただの動物でこっちは魔物だ。

 どんな違いがあるのか、まずは資料室で情報でも漁っていくかね。


 そして資料室での情報収集の結果わかったことは、角ウサギはとにかく速いということ。

 その速さと頭に生えた一本角での突進攻撃がお得意なのだそう。

 しかし狩れればその肉は美味で人気が高い魔物なんだとか。


「人気というなら誰か先輩冒険者に話を聞きたいが……避けられてる身としては難しいか」

「リキョウとアスタシアのあの一件は有名だからな。今はアスタシアもリキョウと仲がいいし、話しかけるには勇気がいるだろう。私はどうでもいいがな!」


 そうなのだ。

 アスタシアとのあの一件はこのヘザール冒険者ギルドで多くの者に目撃されており、その話は直接見ていない者にまで伝わり今やギルド内で話せるものはあの一件で関わった主要連中だけになっている。

 変に絡まれないので悪いことばかりでもないが、こういう時は少し不便に思う。


 だがこのギルドの空気もあと少しすればAランクパーティーが遠征から帰ってくるとかで、人気が高く人徳もある人達らしいからすぐに払拭してくれるだろうとのこと。

 アスタシアは尊敬と畏怖で近寄りがたい空気があるAランク、件のAランクパーティーは美人美女で固められた冒険者にとっての紅一点、どちらも女性なのにアスタシアの扱いに涙が出るね。


 ともあれ聞き込みが出来ないなら実戦で見極めるしかない。

 どの道高ランクを目指すならそういう機会はいつか必ずやってくる。

 今の内から慣らしておくのは悪いことではないだろう。


「いけるかサニー」

「うむ。問題ない」


 僕らは角ウサギを狩りに今まで近寄らなかった魔物の住まう森の奥へと足を運んだ。


 魔物の住まう森の奥。

 特別ここへザールという辺境では珍しくもないが、今まで僕らが狩場にしていた森の浅い箇所は魔物が寄ってこない。

 これは人間のテリトリーが近いからではと考えられているが、真実のほどは明らかになっていない。

 

 ただ角ウサギを狩るなら見つからないからと奥に進むのではなく、横に進むべきだと書いてあった。

 その情報に従いある程度森の奥に入ったら、僕は横に〈魔力感知〉を意識的に使用する。


「どうだリキョウ? 見つかりそうか?」

「う~む……おっ」

「いたか⁉」

「土モグラ先輩の気配がする。ここにも生息してるんだなぁ」

「……そうか」


 サニーが僕を残念な子を見る様な目で見てくるが、僕にとってもサニーにとっても土モグラ先輩は命の恩人(恩モグラ?)であるのだからもっと敬意を持つべきだ。

 土モグラからすれば自分たちの巣を利用され一緒に焼き殺されたのだから僕らは恨みの対象であるのだろうが、だからこそ感謝と謝罪を行動で示さなければ!


「土モグラはまあ、いい。それより角ウサギだ角ウサギ! お前の魔力感知が頼りだぞリキョウ!」

「そうは言うがサニー。狩人の娘である君も見つけることはできるのでは?」

「私はお前が大雑把にでも位置を割り出したところで、森に潜むであろう角ウサギを見つける役目だ。こういうのは役割分担が大事なんだぞ!」

「ぐぅ……」


 サニーのまともな考えに思わず唸ってしまった。

 確かに魔力感知でも位置はわかるが体勢や向こうの視線の位置、今なにをしているのかなどは目視しなければわからない。

 そういう発見と観察は狩人の娘であるサニーのほうが得意である以上、彼女の言っていることは正しい。


 ……なんだかサニーが年上のお姉さんに見えてきた自分が怖い。

 いや実際今の僕よりは年上なのだが、それを自覚させられるとちょっとドキッとする。


「お、魔力感知に反応が。角ウサギかどうか、確かめに行くか」


 ドキドキを誤魔化すように足早に反応のあった方向へと進むと、途中でサニーが手を出して静止する。


「ここから観察する。……あの茂みの下だな。どうやら落ちた木の実を食べているようだが、ここからなら狙えるな。私がやってもいいか?」

「流石だなサニー。任せる、やってくれ」


 小声で会話をしながらサニーの視線の先を見るが、僕にはどこにいるのかわからない罠。

 任せる、やってくれ、とかクールに言ってみたが、今僕の心は焦りが凄い。


「シッ――!!」


 ゆっくり狙いを定め放ったサニーの弓は茂みの中へと消えていき、「キュッ」という鳴き声が僕の耳にも届いた。


「やったか?」

「ああ、仕留めた。回収に行こう」


 ちょっとした悔しさからフラグをたてて角ウサギを存命させようとしたが、確認した角ウサギは間違いなくこと切れていた。


「眉間を一撃とは……流石サニーだ。弓ではヘザールでもトップクラスだな」

「よせリキョウ。私など父さんに比べればまだまだ未熟」


 サエルさんはもう比べる対象としてはデカすぎるんじゃないかな。

 一度サニーに自分の実力がどれほどのものか自覚させてやりたいよ。


 ともあれ目標の角ウサギを狩れたというこで、そこからは同じ感覚で索敵、討伐を繰り返し、夕刻帰るころには5匹の成果をあげることができた。

 

 道を歩きながら今日の反省をする。


「結局、僕の魔法で仕留めたやつは綺麗に倒せなかったな。それに魔法に宿る魔力を感知しているのか逃げられた個体もいたし、魔法だけに頼り切っちゃダメってリヒトのおっさんの言ったまんまだったなぁ」

「しかし索敵は助かってるぞ! それに魔法でも1匹仕留めたじゃないか、気にすることはない!」

「はは…ありがとなサニー」


 サニーはこう言ってくれるが、これは今後の課題だな。

 魔法使いはたしかに強力だが、魔物もまた同じ魔力持ち。

 これからもっと魔力感知に秀でた魔物が出てくれば、狩られるのは僕かもしれない。

 魔力の隠蔽が必要だ。


「そういえば、アスタシアはあれだけの魔力を持っているのに感知にはかなり近づく必要があるんだよな……」


 もしかしたらアスタシアは魔力の隠蔽技術を持っているのかも。

 今度時間が空いたらアスタシアに聞いてみよう。


 そうしてギルドに戻った僕らだったが、残念ながらアスタシアは留守だった。

 なので普通に依頼達成をアイミスに報告する。


「角ウサギの討伐と納品ですね。角ウサギは見つけるのがなかなか難しい魔物ですから大変だったでしょう?」

「え? それなりに見つけられたと思ってましたけど、5匹は少なかったか……」

「ううむ、見逃しがあったのか。不覚だ!」


 アイミスから齎された角ウサギの新情報に、たった5匹で満足していた自分たちが恥ずかしくなる。

 僕らは簡単に見つけられていたと思っていたが、あれは運よく見つかる場所にいた個体を捉えていただけだったのか……。


「え? 今、5匹って言いました?」

「はい、これじゃ依頼失敗ですか……?」


 あまりにも少なすぎて依頼達成にならないのかと心配になる。

 依頼書にはただ「角ウサギの討伐・肉の納品」とだけ書かれて数の指定はなかったから油断していた。

 Eランクになって始めから依頼失敗とはなんとも情けない……。


「ちょ、ちょっとなにか勘違いしてませんか? 角ウサギを5匹も狩れたなら依頼は大成功ですよ!」

「え? そうなんですか? でもさっき見つけるのが難しい魔物だって……」

「はい。ですから5匹も見つけられるのは本当に稀なことなんですよ! 運がよかったんですかね? それともリキョウさんなら魔法でなにか……?」


 まさか見つけにくいと受付嬢が豪語する魔物が、魔力感知とサニーと眼で容易に発見できてましたなんて言えない。

 ましてや僕が魔法で倒そうとしたから逃げられただけで、実はその倍は見つけていたなんてとても言えない。


 僕は苦笑いを浮かべながら


「は、はは。運がよかったんですよ」


 と、なんとか口にした。

 しかしやはりというべきか、横からサニーが


「リキョウの魔力感知と私の眼で倍は見つけていたがな! 半分以上は逃げられてしまった!」

「え、ええええぇぇぇぇぇ⁉」


 サニー、お前はそういう性格だったな。

 サニーのそういうところは嫌いじゃない、がはっきり言い過ぎて怖いところもある。

 でも思えば今回に関しては特に隠すことでもなかったし、これはサニーのファインプレー?

 もう目立つだけ目立ってるしな、僕ら。

 今更だ。


「こ、これが魔法使いとその相方の実力……!! 私は伝説を作る冒険者の最初の受け嬢になったんですね!」


 んな大げさな……。

 毎回思うが低ランクの冒険者って実力がなさ過ぎじゃないか?

 サニーだってこんな役立つんだから異世界転移とか関係なしに育ちの違いかね。


 その後サニーが一撃で倒して綺麗に解体された角ウサギを見て、アイミスが再び興奮したのは言うまでもない。

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