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第14話

 クロスロード道場。

 ヘザールにてかつてAランクに至った冒険者が開いた道場で、ヘザールで武術を学ぶならここという話は有名だ。

 クロスロード道場開祖のクロスという男は既に亡くなっているが、その技術は絶えず後世に残されているようで、今はゼフという爺さんが師範をしている。

 なんでもその爺さん、元はクロスロード道場の門下生で、その後王都で騎士団長を勤めた経歴があるらしく、他の町からも武術を学びにくる者も多くいるという。


「ゼフ爺さんは強面だが真面目で正義感のあるお方だから、真剣に取り組んでれば追い出されはしねぇよ」


 という話をクロスロード道場に向かう途中で、カインさんから聞いている。


「王都の騎士団長を輩出するほどの道場ですか。それはさぞ人気がありそうですね。素人丸出しの僕みたいな人も通ってるんです?」

「新人冒険者から熟練冒険者まで、あそこは戦いを生業とする奴らは誰でも歓迎される。俺も前は通ってたんだがな、今は冒険依頼で忙しくて久しく顔出してねぇ」


 そんな話を聞きながら道を進み、辿り着いたその道場はやはりというべきかかなりの大きさだった。

 位置的には町の外れで門からも近いことから、第二の城壁としても期待されているのだとか。


 カインさんはそんな道場の門を開け放つやいなや


「おーいゼフ爺さんいるかー? 新しい門下生連れてきてやったぞー」


 と、なんともフランクにそう中に声を掛けた。

 カインさんってやっぱコミュ力すげぇや、と尊敬していると奥からドタドタと足音が聞こえてくる。

 その足音はこちらに超特急で迫りそして……


「死に晒せこのアホ弟子があああああああああああ!!!!」


 カインさんに強烈なドロップキックをお見舞いした。


「うごああああああああああああ⁉ くそっ、なにすんだこのクソ爺ィ!! 期待の新人冒険者の前なんだから大人しく仁王立ちでもしてりゃいいものを……!!」

「はっ! 未熟な馬鹿弟子の分際でもう先輩面しようってか? 甘ぇんだよこの馬鹿弟子がッ!! 儂の修行を途中で投げ出しおって、冒険者なんぞやる前に修行しろ修行!!」

「あれ以上ここで修行してたって強くなれねーだろバッカ野郎! 魔物倒して位階上げて実戦経験積んでこその戦士だろォ⁉」

「甘えたことぬかしてんじゃねぇ!! 人は技能や加護に頼らずとも戦える知恵を持ってんだよ! 武術の何たるかも忘れおってからにこの馬鹿弟子は!」

「んだとーー!!」


 その後もずっとわいわいぎゃーぎゃー。

 そんな光景に呆然と突っ立っていると、横から声を掛けられる。


「すまぬのぬしら。ゼフ爺さんとカイン坊は血こそ繋がってはおらんが、親子のように共に育った間柄での。時々こうして顔を合わせては変わらぬ仲を確かめておるのよ」

「はあ、なるほど。照れ隠しの一環って訳ですか」


「「誰が照れ隠しだ(じゃ)!!」」


 おっとこっちに飛び火してきた。

 あの二人にはもうしばらく親子の絆を確かめて貰って、僕はさっさと稽古を受けようそうしよう。


「あやつらは放っておけ。ぬしら、武術を習いにきたのじゃろ? 妾が教えてやるぞ。ついて参れ」


 この状況を慣れた様子で放置するこの女性に頼もしさを感じ、僕とサニーは後をついていった。

 そして到着したそこは広い畳の修練場だったが、人っ子一人いない寂しい空間でもあった。

 その部屋の中央で女は胡坐をかき座り、僕らを見据えてくる。


「妾はこの道場の師範代をしておる、アカネという。よしなにの。そなたら名は何という?」

「リキョウです」

「サニーだ!」


 まずは互いに自己紹介。


「うむ、よい名じゃの。これからぬしらには妾が直々に武術というものを教えてやる。まあ体験して気に入ったならここに金を落としてくれればよい。さ、始めるぞ」


 自己紹介終わったらもう稽古開始とはなんともせっかちな人だ。

 アカネ師範代を見て聞きたいことがあったのだが、それは稽古が終わってからになりそうだ。

 あの白い猫耳、ものすごく気になるんだけどね。


「よろしくお願いします、アカネ師範代!」

「頼み申す!アカネ殿!」

「よいよい、二人同時にかかってこい」

「「押忍!」」


 そこから稽古が始まった。

 アカネ師範代、マイペースだけど優しそうな雰囲気あったのに、稽古はちゃんと苛烈だったよ。

 

 最初は僕とサニー二人で殴りかかったんだけど、当たらないし流されるしサニーとぶつかるしでまるで相手にならなかった。

 3回攻撃をミスるごとに反撃されるんだが、これが痛いのなんの。

 サニーは早々に離脱して弓で攻撃を始めたが、これにもアカネ師範代は僕を肉壁に対応してくる。

 

 そんな風に稽古を続けているうちに、アカネ師範代は楽しくなってきたのか獰猛な笑みを浮かべ始め……その後のことはよく覚えていない。

 でも目が覚めたら泊ってる宿のベットの上だった。

 服もちゃんと着替えてるしお風呂にも入ったみたいだ。

 ご飯も食べたのかお腹が空きすぎることもない。

 普通にいい朝だった。


「おかしいな、昨日の記憶が……うっ、なんだか寒気が」


 本能が思い出すのを拒絶している?

 一体僕の身になにがあったというのか……。


「サニー起きてるかな」


 サニーならなにがあったのか知っているだろうと、隣の部屋に移動しノックする。


「サニー、起きてるか?」

「寝てるぞ」


 起きているようだ。

 僕は躊躇わずドアを開ける。


「おいリキョウ! 寝てると言ったのに何故入ってくる⁉ 夜這いならこんな朝じゃなくて暗くなってからだな……」

「そんなのいいから、サニーに聞きたいことがあるんだ。昨日道場に行ったあとのことが思い出せないんだが、何か知らないか」

「ししし知らん。私は寝るっ! 夜這いなら今夜来てくれ!」


 取り付く島もなくサニーに部屋を追い出されてしまった。

 あの様子だとなにか知ってそうだが、話したくはないのだろう。

 なら仕方ない、今日も道場に行って直接確認するまでだ!










「朝か……」


 目覚めたら朝だった。

 ちゃんとベッドで寝ているし服も着替えている。

 体も清潔だしお腹も空きすぎるということもない。

 普通にいい朝だった。


「あれ? なんかデジャブ?」


 前もこんな感じで目覚めた気がするが、まあデジャブってそういうものだし気にすることないか。

 でもおかしなことに昨日道場に行った後の記憶がない。

 一体昨日僕の身に何が……うっ、なんだか寒気が。

 本能が思い出すことを拒絶しているのか?

 気になるし誰かに事情を聴きたい。

 サニーは起きているだろうか?

 昨日一緒に道場に行った彼女なら、なにか知っているだろう。


 隣の部屋に行き扉をノックする。


「サニー、起きてるか?」


 ………。


 返事はない。

 どうやらまだ寝ているようだ。

 僕は躊躇わず部屋を開け放ち中に入る。


 しかしそこにサニーはいなかった。


「こんな朝早くからどこかに出かけたのか? 一言言ってくれればよかったのに」


 事情を聞けず、少し残念に思いながらも朝食を食べに一階ロビーに降りる。

 そこで出された食事を食べながら、宿の従業員さんにサニーのことを聞いてみる。


「サニーさんですか? ええと、冒険者ギルドで朝から依頼を受けていると聞いてますけど……」


 なんだギルドに行っていたのか。

 もともと道場での修行の件は僕の我儘みたいなもんだし、サニーは自由にしてくれて構わないと言っておいたから勿論ダメではない、が一言欲しかったよ。

 

 なんにせよサニーは道場での修行より冒険者活動に精を出し始めたということだな。

 たった一日で見切りをつけるのは情けないのか思い切りがいいのか、それは彼女が結果で示してくれるだろう。


「(ねぇ、リキョウさんのあの質問、今日で十回目なんだけど、彼大丈夫かしら?)」

「(サニーさんには聞かれたまま答えてくれと言われたけど、いつまで続くのかしらねぇ)」


 向こうで従業員さんたちが何か話しているようだが、僕の頭は今どうやってアカネ師範代を打倒するかで一杯になっている。

 

 あれ?

 

 なんでこんなこと考えてるんだろうと不意に困惑するが、それもすぐに霧散する。

 きっと昨日のアカネ師範代の稽古があまりに為になったから今からもう意気込んでいるのだろう。

 記憶がないのも熱中しすぎて疲れ果てたからなのかもしれないな。

 これは今日の稽古も期待できる。


 さあ、気合いを入れて道場に行こう。



     ◇



 僕がこの町に来てからまだそんな経ってないはずだ。

 だというに、最近周りの様子がおかしい。

 僕が知らない話を昨日のことのように話してたり、何故かサニーの冒険者ランクが一つ上がっていたり。


 僕はといえば道場でアカネに稽古をつけてもらう生活を続けてちょうど()()()というところ。

 サニーの冒険者ランクが上がるの速すぎてちょっとびっくりしてる現在。

 かといって焦っても怪我するだけだし、僕はもうしばらくアカネとの稽古に明け暮れることになるだろう。


 昨日も記憶はないがいつものいい朝を迎えた。

 今日だってそうだ、ここの宿は変わらず快適で素晴らしい。

 

 宿の従業員さんがそろそろ()()()とかなにかの時期の話をするのをよく見るようになったけど、なにか祭りでもあるなら僕も参加したいと思ってる。

 そうだ!

 その時はサニーとアカネを誘って一緒に屋台巡りをしよう。

 アカネは白猫族だとかの獣人で、お肉と甘いものが大好きだからきっと喜んでくれる。

 そういえばサニーはなにが好きなんだろう?

 最近は僕の手料理も食べさせてあげてないし、サニーにもご馳走して機嫌を取らなくちゃな。


 そうと決まったら金を稼ぐか。

 ここ一週間毎日クロスロード道場に通って稽古をつけて貰っていたけど、たまには冒険者としての活動もして、ランクも上げたい。

 やっぱりなんだかんだ言って、サニーに置いて行かれるのは悔しいものがあるから、僕も追いつきたいのだ。


 一人で依頼を受けるかサニーと一緒に受けるかは、部屋にサニーがいるかどうかで決めようか。

 

 隣の部屋に行き扉をノックする。


「サニー、いるか?」

「……いるぞ。入ってくれ」


 どうやら今日はいるようだ。

 最近ずっと会っていなかった気がするから安心した。


 部屋に入るとサニーは神妙な面持ちでこちらを見つめる。

 既にフル装備で冒険に行く準備はできているようだ。


「サニー、冒険者として依頼を受けようと思うんだが、一緒にどうだ?」

「……!! う、うむ! そうだな、そうしよう! 一緒に冒険者として活動しような、リキョウ! ならまずは簡単な新人依頼から――」


 僕が冒険に誘うとサニーは驚き、そして嬉しそうに笑い出した。

 よくわからないがサニーは冒険者のあれこれを話してくれるのでとても助かる。

 流石先輩だ。


「さあ準備しろリキョウ! 今日は一日冒険者として日頃の疲れを癒すんだ」


 冒険者としての活動がどう癒しに繋がるのかわからないが、サニーが楽しそうだから良しとする。

 

 僕は冒険者用の装備に着替えてサニーと共にギルドに向かった。

 その道すがらふと思い出すが、【点灯竜】のみんなは今日はいるだろうか?

 特にカインさんには道場の件でお礼を言わなくちゃいけないし、会えるといいんだが。


 だがギルドの中に入ってもそこに【点灯竜】の姿はなく、受付嬢アイミスの話によると依頼中らしい。


「それにしてもリキョウさん、あの一件以来ギルドに来ないので怒らせて町を出て行ってしまったのかと心配してたんですよ。サニーさんに聞いても要領を得ない答えしか返ってきませんし……」


 アイミスのいうあの一件とは登録時に起きたことを言っているのだろう。

 あの件はもう片付いたし、アイミスやアスタシアとも今後はよい関係をと思っているのだが、まさか心配させてしまっていたとは。


「すみませんアイミスさん。最近は道場で己を鍛えておりまして、冒険者活動をできておりませんでした。これからは頻繁に顔を出すようにしますね」

「まあ、道場ですか。というとクロスロード道場ですね。あそこで鍛えるのは冒険者としてアリアリですから、応援してます」

「はは。ありがとうござ――」

「でも――」


 ん?

 なんだかアイミスさんの目が怖い感じに……


「新人冒険者は一月依頼を受けないと登録剥奪だって、ちゃんとお伝えしましたよね?」

「え?」

「再登録料、いただきますね♪」

「え、ええええぇぇぇぇぇ!?!?」


 再登録⁉

 そんな、僕まだ登録してから一月も経ってないはずじゃ……!!


 と、不意に両肩を誰かにポンと叩かれる。

 見ると右にサニー。


「諦めろ、リキョウ。これはお前の運命だ」


 左にはなんとアスタシア。


「ボクの旦那様は、捕まってはならない怪物に目をつけられたのさ。たはは……」


 と、二人して憐みの目線を送ってくる。


「い、一体なにが起きているというんだ――⁉⁉」


 僕の理解は、まだ追いつかない。

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