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第13話

「人間の得られる技能の質に違いはない。ただ技能の質に違いを持つ生物がいないわけじゃにないんだ。それが魔物、ボクら人間とは異なる存在さ」


 まぁ、そうなんだろうなとは思ったが、結局僕が話をして彼女がそれを聞いて納得してくれない限り、この部屋に集まった目的を果たせそうにないということだな。

 ならばもうさっさと話してしまうか、僕の個性魔法に関して。


 アスタシアの言葉に部屋の人間全員が僕に注目している。

 そんな彼らの様子に一つ溜息をついて、僕は吐き出すように語り出す。


「……僕の個性魔法は、〈転生魔法〉といいまして。発現して日も浅くまだわかっていない部分もあるとは思いますが、今はっきりしてる魔法特性を簡単に説明するのなら、倒した魔物の技能を獲得できるというものですね」


 その僕の言葉に部屋中の人間が驚きに声を失う。

 それもそうだろう。

 この魔法が発現して最初は成長が早まるなくらいにしか思わなかったが、今回の一件で技能とはそう簡単に取得できるものでないと発覚した。

 それを魔物を倒すだけで獲得できるなど、この世界の人達にとっては異常そのものだ。


 沈黙が続く中、それを最初に破ったのはアスタシアだった。


「……転生魔法、だっけ? そんなのとても信じられないな。確かに魔法は人知を超越した力だ。だけど、それにも限度ってもんがある。魔物を倒せば技能を得られる? そんなの人が持っていい力じゃない……」


 言いながらもその顔には冷や汗が流れ、困惑しているのがわかる。

 アスタシアはこの話、荒唐無稽と一刀両断するのでなく、思考するに値すると思うなにかを感じたのだろう。

 だがどんなに思考を認めても、信じがたい話というものはある。

 それは頭ではなく心の問題。

 だからこそまず否定の言葉を彼女は紡いだのだろう、それは一種の自己暗示のように。


 だがアスタシアの発言には僕も言いたい、いや聞きたいことがある。

 彼女は僕の〈転生魔法〉を人の持っていい力じゃないと言ったが、ならあなたの不老不死はどうなのかと。

 その辺の匙加減を今の僕では判断できない、情報が足りないからだ。

 だから聞く。

 この場は僕の知識不足を補うに利用できる好機だ。

 冒険者ギルドのマスターに、その孫娘の受付嬢、そしてAランク冒険者と堅実そうなCランクパーティーのリーダー格二人。

 逃す手はない。

 こっちは被害を被った側、遠慮なくいく。


「魔女アスタシアの話は聞いたことがありますが、あなたの不老不死という魔法特性は人が持っていい力なのですか? というか本当に不死身なんです?」

「ボクは確かに不老不死さ。そしてその魔法特性は別に大したことないよ。だって別に魔法に頼らずとも種族特性でそうなってる奴らもいるからね。ま、魔法での力のぶんボクの不死身は誰にも負けない領域にあるけどね!」


 不老不死が種族の特性…か。

 そりゃいるか、ここ異世界だし。

 日本でもそういう存在は散々御伽噺で出てきてたろうに、まだこの世界に適応しきれてないのか。

 

 まぁそれは今はいい。

 ただ僕が思ってたほど不老不死が特別じゃなかったってだけだ。

 でもそういうことなら僕の技能獲得の魔法特性だって似たような力はありそうだがな?


「〈転生魔法〉はそんな異常か?」

「それには儂から説明させて貰おうかの。その前に、テレサの持ってきたこれに触れてくれ」


 驚きから復活したアイゼンといつの間にか戻ってきていたテレサさんが、この話題に加わる。

 言われたテレサさんの手元を見ると正方形の分厚い板に埋め込まれた水晶。

 こりゃいかにも魔法具って感じの品だ。

 ボルさんの〈魔物嫌いの音鳴り〉も不思議な印象の品だったがこれは感じる度合いが段違いだ。


「先に説明致しますと、これが冒険者ギルドに置かれている能力確認用器具です。この水晶に触れていただくと名前、年齢、性別、職業、位階、技能、あれば魔法も映し出されます。もちろん判明した情報を言いふらすような真似はしないと、ギルド員は魔法誓約書で縛られていますのでご安心ください」


 そのテレサさんの説明を聞いてから、僕は迷いなく水晶に手を置く。

 聞いた感じ称号なんかは映されないみたいだし、ステータスウィンドウの劣化版というところか、問題ない。


 そして映し出された内容は、確かに僕の称号を除いたステータスだった。



 《 名前:リキョウ

   年齢:15歳

   性別:男

   位階:5

   職業:〈魔法使い〉

   魔法:〈生活魔法〉〈四元魔法〉〈転生魔法〉

   技能:〈言語理解〉〈魔力操作〉〈魔力感知〉

      〈身体強化〉〈五感強化〉〈腕力上昇〉〈渾身撃〉

      〈自然同化〉〈暗視〉〈気配察知〉          》



 あ、やべ〈言語理解〉はちょっと異質かも。

 怪しまれないか……?


「これは……っ!!」

「ボクの見立てじゃ〈自然同化〉はまず魔物特有の技能で間違いないね! 他は人間も持てる技能だから文字だけじゃ判断つかないけど、さっきのパンチを思えば強化系はまず魔物産かな……?」

「お待ちくださいアスタシア様。注目すべきはリキョウ様の位階の項目。たった5で技能を獲得などあり得ることではありません。つまりは……」

「これ全部魔物から奪った技能か⁉ おいおいとんでもねぇなマジで……」

「魔法使いなら〈魔力感知〉と〈魔力操作〉は独自のものじゃないかしら? ちゃんと個性魔法も発現してるもの。……話の通りの名前ね。〈転生魔法〉、か」


 ギルド長室に集まった各々の人間が僕のステータスを見てああだこうだ言っている。

 あんまりじろじろ見られるとわたくし恥ずかしいわっ。

 いや忘れてくれ、僕はなにも言わなかった。

 みんなステータスを確認するのに夢中で話が止まってるから暇で妙なこと考えちまうぜ。


「ふぅむ。言いたい事はある。が、まずは本題を進めようかの。このステータスが確かなら、リキョウくんは人間だった、と判断してもいいと儂は考えるが、主らはどうじゃ?」


 一通り確認を終えたアイゼンのその言葉に、他の者も確認をやめ黙考する。

 まずはテレサさんの返答。


「私は今回の件、一切リキョウ様に非はないと感じます。登録の件も含めて正式な謝罪が必要かと」


 次にカインさんアーレさん。


「俺は難しいことはわかんねぇけどよ、有望な人材が冒険者ギルドに入るってんならそりゃいいことだ。少なくともリキョウの人間性に問題はない」

「同じくね。ただ今回の件はアスタシアにも悪意があってのことではないというのも忘れないでほしいかしら。リキョウくんが魔物の力を持っていて、それを感じ取ったアスタシアはギルドを想って行動した。勘違いだったでは済まないにせよ、どうか恩情を」


 アイミス。


「私は今回の件、謝罪する立場ですので強く言えませんが、問題行動を犯したのはギルド側であったかと自覚しております」


 そしてアスタシア。

 彼女は今回の件で自身の失態を認めれば、かなりの不利益を被ることになるだろうが果たして……?


「たはは……ボクの早とちりだったみたいだね。ごめんよリキョウくん。この謝罪はしっかりするから期待してて。そのなくなった手の分も、これから一生尽くすからさ」


 アスタシアは悲し気な眼でそう言った。

 それは僕の痛々しい手を見ての悲しみか、それともこれからの自分を想っての悲しみか、どちらかはわからない。

 だけどアスタシアは本当に反省しているようだし、罪悪感も抱いていて辛そうだった。

 

 こいつ見た目はガキなんだよ。

 そんなガキがそんな顔するもんじゃないっての。


「――転生」

「え?」


 話してる間も痛かったしもう治しちゃおう。

 アスタシアに見せつけるためだけにそのままにしといたけど、ちょっと大人げなかったな。


「え? その手……治った、の?」

「おうさ。僕は転生すれば怪我なんて全部リセットだ」


 やっぱ言葉にするとチートだわこの魔法。

 確かにこれは人の持っていい力じゃないかもね。


 ともあれ……


「「「「えええええええええええええええ!?!?」」」」


 まだ詰める話はあるにせよ、僕は無実という結末で幕を閉じたのであった。



     ◇



 あれから一週間が経った。

 あの一件がギルドに齎した影響は想定より大きくない。

 本来ギルドの認めた冒険者が一般人に手を出すなど許されない行為なのだが……


「しかしリキョウ、本当に良かったのか? 私は今でもあの時のギルドの対応を許しきれておらん! だというのに、事件があったときには既に私たち二人、()()()()()()()()()ということにするなど、お人よしが過ぎるぞ」

「いいのさ。冒険者と一般人の関係では問題でも、荒くれ者の冒険者同士の起こした喧嘩、ということにすればギルド側は今回の件の失態も、Aランク冒険者の罪もなかったことにできる。これの恩を忘れるような連中ではないようだし、もう貰う物も貰ってるしな。互いにいい取引ができたさ」


 そう、今回の件、犯した失態をどう償うかで悩んでいるアイゼンらに、僕は取引を持ち出したのだ。

 僕ら二人は冒険者登録をしていた、ということにするから色々便宜を図ってほしい、と。

 この取引にまずテレサさんが賛同し、アイゼンとアスタシアも頭を下げながらも助かると賛同した。

 この取引で僕は宿の紹介や武器屋防具屋での口添えなど、単純なお金も貰ったしいい事尽くしだ。


「やっぱいいことはするもんだな。懐があったかい」

「お前は将来汚い大人になりそうだな。しっかり私が見といてやらんと」


 そういう理由で今の僕らの装備や寝床状況は充実している。

 僕は当面前衛で近接戦闘をするとして、硬度に評判のある黒鋼の部分鎧をつけている。

 鎧で守る部位以外の場所はレッドマークグリズリーというどこかで聞いたことのある魔物素材を使った衣服でカバーする。

 ただの服と侮るなかれ、ゴブリンの攻撃くらいならまず破れない優れものだぞ!

 そうして出来上がったのは赤黒いコートに黒い鎧を付けた黒髪黒目の人間。

 これを装備してから町往く人にちょっと避けられてる感じがするがきっと気のせいだろう。


 それに今も隣には変わらずサニーがいる。

 あんな事件に巻き込んで僕の力の異常性まで知ったはずなのに彼女に離れる様子はない。

 それどころか「リキョウと共にいれば将来安泰だな!」などという意味不明の思考にまで至っている。


 しかし離れないのなら装備は整えてやらんといかんとサニーにも色々見繕ってもらった。

 その結果茶色の毛皮でもふもふした野性的な見た目になったのが、本人は気に入っているので良しとする。


「それでリキョウ、この後はどうするのだ? 装備のお試しにでも行くか?」

「いや、僕は防具は揃えたが、武器はまだなににするか決めかねている。自分にあった武器を見つけるためにも、そろそろ道場に行こうと思う」


 以前からカインさんと話していた道場には、まだ行ったことがない。

 思いの外あの件の後処理や装備集めに時間を取られたのもあるが、アスタシアがしくこく付きまとってきたのも大きい。

 アスタシアの言をそのまま紹介するなら「ボクは君の伴侶になるよ、それが責任の取り方さ」と言うことらしいが、全くもって意味が分からないので謝罪は金でと言っておいた。

 そしたら今度は「まさかボクが男に貢ぐなんてね。たはは……これもありかも……」とかなんとか言い始めたので最近は彼女を避けて行動している。


 しかしそんな逃避行動で時間をこれ以上無駄になどしてたまるか!

 僕は道場に行って技術を身に着ける。

 そのためにもまずはカインさんに紹介の口添えを頼まなくては。


 さあいざ往かん、この町で名だたる武闘家が経営するという、クロスロード道場へ!

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