第11話
早速助け船を期待したい相手第1位、【点灯竜】の皆さんは見渡しても見つからない。
ならば第2位は?
そんなものもちろんいないさ。
「おいリキョウは嘘など書いていないぞ! なんだ貴様のその態度は! 知りもしないのに始めから嘘だと決めつけおって! 恥ずかしくないのか!」
と思ってたらサニーが助け船を出してくれた。
いや何故か無意識でサニーをランキングから除外していたが、確かにここは第三者からの言葉が必要だ。
頼むぞサニー!
「サニーさんはリキョウさんと共に来られましたね。庇うということはあなたのこの技能も疑わしくなってくるのですが」
「え⁉ ちょっ⁉ おい待て待って――リキョウォォォォ、助けてくれ~~!!」
僕の無意識、疑ってごめんな。
そしてサニー、僕の信頼を返せ。
はぁ。
しかし面倒なことだ、実に面倒なことだ。
ただ魔法や持ってる技能を一部省いて書いただけなのにこれだ。
この世界の戦闘能力を過大評価しすぎていたかもしれない。
魔物を魔法無しで倒すのだからさぞかし優れた技能を持つのが彼ら冒険者だと思っていたのに、〈身体強化〉でCランク?
確かに僕も正規の取得方法ではないが、これは魔物と戦うなら必要最低限の技能ではないのか?
がっかりだ、あまりにもがっかりだ。
これが冒険者の実情だというのか……。
ならばここで無理に冒険者登録をするのも馬鹿馬鹿しいな。
「サニー、行こう。ここに期待するほどのものはなかった」
「うぇ? う、うむ。リキョウが行くなら私はついていくまでだ」
踵を返し入口の扉まで歩き出す。
周りの視線が嘲り一色に変わったが、もうそんなものに関心を持てない。
冒険者は想定したような職業ではなかった、ならば別のやり方で魔物狩りと金稼ぎの方法を模索しなければならない。
魔物の素材を直接商人に売るかして金を稼ぐか……とそんな思案をして扉に手を掛けたその時――
――目の前が突如吹き飛んだ。
咄嗟に後ろに跳んで回避したが、突然のことでサニーを変な抱え方で運んでしまった。
前方に意識を向けながらサニーに安否を問う。
「くっ⁉ 無事かサニー⁉」
「うぇ? あれ、私なんでこんな後ろに――ってリキョウ⁉ お前その血!!」
吹き飛んだのはまさにこれから出ようとしていた冒険者ギルドの入り口。
扉の破片が頬を掠ったが問題はない。
問題なのは……
「あっれぇ~? おっかしいなぁ。魔物の気配を感じて咄嗟に撃ったんだけど、人間がいるぅ。間違えちゃった?」
その言葉の主は吹き飛んだ入り口から悠々と歩を進めてきた。
目の前にしてようやくわかる、圧倒的な魔力量。
それだけじゃない、素人でも肌で感じるこの圧は、紛れもない強者の証!
しかし何故こんなにも馬鹿げた量の魔力を感知できなかった?
いやそれよりも、こんな場所で魔力を持つ人間がいるということは、こいつがリヒトのおっさんが忠告した人間――
「〈魔女アスタシア〉――!!」
ヘザール最強のAランク冒険者にして、不老不死の魔法使い。
よもやこんなにも早く見つかってしまうとは……!!
「そうだよー。ボクが魔女アスタシアさ。それで、そういう君はなんなの? 魔物の気配なんて漂わせてさ。もし竜種だったりするなら謝るけど、どうもそんな感じでもないねぇ」
「……!!」
魔物の気配?
まさかこいつ、僕の取り込んだ魔物の技能のことを言ってるのか?
確かに、技能をセットするにあたって転生する時、それは魔物の一部を自らの肉体構成に加えるとも捉えられるが、そんなデメリットがあったとは。
しかし今はそんなことに落ち込んでいても仕方がない。
ここは誤解をどう解くかだ。
「あー魔女アスタシア様? まず僕は魔物ではありませんので、その殺気を抑えて頂けますか? 連れが委縮して可哀そうだ」
「んー? そっちの娘は普通の人間だねー。君に危害は加えないから、おいでおいで~」
「……っ!! わ、私は、リキョウの相方だっ! パートナーなんだぞっ! 将来を誓い合ってるんだぞ~っ!!」
いやサニー、この状況でなに言ってるんだ。
そんな足を小鹿みたいに震わせて僕にしがみつくより、あの魔女の言うことに従ったほうが今は安全だと思うんだが……。
ほら、お前の大好きなあの〈魔女アスタシア〉だぞ。
……動く気配はない、か。
「ん~? もしかして催眠でもかけられるのかなぁ。ならもう迷ってる時間ないよねぇ――!!」
「っ!!」
速い!!
もの凄い勢いで突っ込んできたっ⁉
「――っ!! 〈身体強化〉〈五感強化〉〈腕力上昇〉。――〈渾身撃〉!!」
突撃してくるアスタシアの拳に合わせてこちらも全力の〈渾身撃〉を放つ。
振るうは木の棒ではなく自らの拳。
そうでなければただの一撃すら凌げないと咄嗟の勘で判断した。
そしてその勘は正しく、アスタシアの拳と僕の拳が激突した瞬間、激しい爆風と衝撃音が辺りに響き渡る。
「きゃあああああああああ⁉」
「うわあああああああああ!!」
「ぐはぁっ⁉」
聞こえる悲鳴はギルドにいた冒険者や受付嬢のものだろう。
ただの衝撃波で吹き飛んだだけだから大事には至っていないだろうが、すぐ近くにいたサニーが心配だ!
「サニー!!」
「ほ~い」
間の抜けた返事、サニーのものではない。
砂煙が激しく見えないが恐らく、サニーはアスタシアに確保されたんだろう。
それはいい、今は奴の側が一番安全だ。
案ずるはまず己の身ってな……。
拳を放った右手を見ると、手首から先がなくなっていた。
血がドバドバ溢れてくる。
超いてぇ。
どうしてくれんだまた転生しなきゃ治らねぇぞこれ。
いっそここで転生して魔物の技能を全部省くか?
いやそれを今やったところで信じるに足るとは思われないだろう。
……。
「ていうか、ムカついたから一発ぶん殴りてぇ……!!」
冒険者ってのはどいつもこいつも、こんなんばっかりなのかよ。
【点灯竜】の人達がどれだけいい人だったのか今になってわかる。
こんなクソみたいな奴らが我が物顔で暴力振るうなんざ、まだ貴族さまの私兵に加わったほうがよかったっての。
砂煙が晴れ、辺りの全様が確認できるようになる。
設置された椅子や机は吹き飛び、ギルドの中にいた冒険者も武器をこちらに構えるものから隅で小さくなるもの、様々だ。
そして前方に目をやればやはりサニーはアスタシアの足元に転がされていた。
「ふぅん。今の一撃、なかなか良かったよ。強化系の技能諸々に〈渾身撃〉かな? 3つ4つは使ってそうだねぇ。で、その拳ってわけだ。痛そ~」
「ほっとけ。こんなん唾つけときゃ治る」
もちろん唾ではなく転生が必要だが、治るには治る。
この状況を打開できれば。
「君やっぱり危険だなぁ。魔法も使えるだろうし、ここで勝てるの今ボクくらいじゃないかなぁ~? やっぱ殺さなきゃね」
その言葉に、ギルドの中の冒険者が姿勢を低くし突撃体制にはいる。
もちろん狙うは僕の命だろう。
……これはもう、やるしかないか。
「絶対一発ぶん殴る……!!――〈完全転生〉、レッドマークグリズ――!!」
しかし僕の切り札、完全転生を行使しようとしたその瞬間――
「おいおいなんだこりゃ⁉ なんだってリキョウとアスタシアがドンパチやってんだよ⁉」
「あああああああ⁉ サニーちゃんちょっと大丈夫⁉ アスタシアあんたなにやってんの! まーたよく考えずに行動したでしょ!」
「カインさん、アーレさん……!!」
先程見渡しても見つからなかった【点灯竜】のみんなが吹き飛んだ入り口から駆け寄ってきてくれた。
「リキョウくん、手を見せてください! すごい出血、すぐに止血しないと!」
「はは、ありがとうございますハルマさん。すみませんこんなすぐに皆さんのお世話になっちゃって」
「そんなの構わないから……!! 大人しくしてなさい」
ハルマさんは目元に涙を貯めながら手当をしてくれている。
この怪我じゃどの道転生しなくちゃだからそこまで丁寧にしてくれなくて良いのだが、それはそれとしてやっぱり暖かい。
冒険者にはアスタシアのような者もいれば【点灯竜】のような人達もいる。
知っていたはずなのに、それを僕は勝手に冒険者に失望して……馬鹿みたいだ。
それに実力云々の話は確かに最初微妙に思ったが、Aランクのアスタシアはまるで勝てる気のしない強者だった。
〈身体強化〉はCランクという目安にはまだ驚きを隠せないにせよ、冒険者の仕組みを理解していない僕がどうこう判断することではなかっただろう。
「なにやってんだ、僕は……」
でも結局アスタシアの襲撃は防げなかった気がするからもうわっかんねぇなこれ。
そういえばそのアスタシア、【点灯竜】の人達と仲良さげだったな。
あの人たちの静止の声で攻撃も止まってるし、意外と常識人なのか?
確かあの人、僕のことを魔物の気配がどうとか言ってたしな。
優れた感知能力を持つ実力者だからこその判断と行動だったとも考えられる。
そう思うとそっちもあまり強く責められないか……チッ。
一発ぶん殴りたかったけど【点灯竜】の友達だったなら仕方ない。
カインさんたちに感謝しろこの魔女めっ!
と、消えた手を見ながら大人しくハルマさんの治療を受けていたら、その魔女がこちらに歩いてきた。
先程のこともあり警戒するが、魔女アスタシアは今のところ敵意や殺意は抱いてないようだ。
両手を上にあげて苦笑いを浮かべながらゆっくりこちらに近づいてくる。
その両隣にはカインさんとアーレさんが陣取ってアスタシアにガンを飛ばしている。
「ようやく話し合いの時間ですか? 魔女アスタシア」
会話できる距離になって早速皮肉たっぷりの言葉を投げつける。
もちろんなくなった右手を掲げて痛がるふりも忘れない。
いや実際超痛いんだけど。
「たはは~……なにやら誤解があるかもしれないってことで、事情を聴きたくてさ~。最初に言っておくけれど、ボクはまだ君のこと、信じてないよ」
「アースーターシーアー?」
「ひぅ……だって聞いてよアーレ! こいつからは濃い魔物の気配を感じるんだ! 人に擬態できる魔物は危険なの! 実際こいつまだなにか隠してた!」
僕の中の魔物の気配を感じ取れるらしいアスタシアは、事情を知らずして信じることができない。
いや事情を聴いたところで、その言葉の真偽を彼女は確かめられるのか?
今はアーレさんに頭が上がらない様子だが、それもこの町を想うアスタシアからすればどこまでの抑止力になるのか。
しかし悩むよりもまずは話せることを話すまで。
それでダメだったらその時はその時。
なんだかんだ言って僕の〈転生魔法〉が魔物を吸収してるのは事実っぽいし、本当のことでもどの道それは禁忌だったとかってオチもあるかもだし。
結局情報が足りない今は、なるようにしかならないということだ。
「それじゃ話す前に、場所移動していいですか? 魔法特性をこんな場所で明かしたくないので」
今も聞き耳立ててる冒険者どもが、一杯いるしね。
「それでしたら、ギルド長室にご案内致します」
と、そんな聞き耳を立てる奴らの一人が、そんな提案をする。
このギルドの受付嬢のようだが、僕たちの話していたアイミスとかいう女じゃない。
感覚的な話だが、この女、強いな。
「おーテレサ! 無事だったんだねぇ。ボクの攻撃の巻き添えで怪我しなくてよかったよ」
「……アスタシア様。この一件は場合によってはギルドの信頼を大きく落とすことになるのですよ。あとでじっくり、お話しましょうね?」
「ひぅ……。くっ、君、ちゃんと真実を述べたまえよ!」
「勿論そうするとも」
さて、この一件が僕の今後の行動方針にどう影響するか、あまり悪くは考えたくないね。




