第10話
「リキョウさん、サニーさん。見えてきましたよ、あれが冒険者の町、ヘザールです」
ボルさんのその声に前方に目を凝らすと、確かに城壁のようなものが見える。
どうやら僕らは遂にヘザールへと到着したようだ。
「リキョウ、緊張するな! 都というのは生まれて初めてなんだ。一体どんな光景が待っているのか……!」
「そうだなぁ。僕も興味と不安半々かなぁ」
この世界の文明レベルからすると期待の持ち過ぎはよくないが、しかしここは魔法の存在する世界でもある。
もしかしたら中世ヨーロッパの街並みが現代並みに綺麗とかあるのかも。
「伊達に都と言われるだけのことはあるぜ? 王都とかと比べると格落ちはするがな!」
「王族の住まう王都と辺境の冒険者の町を比べたって仕方ないわよ。でも安心して2人とも! ヘザールにはヘザールなりの、王都に負けない良さがあるんだから!」
カインさんとアーレさんのその言葉に、僕の中の期待が若干膨れ上がる。
確かに今更日本と比べたって仕方ない、ヘザールでお気に入りの場所でも見つけようかな。
ヘザールの壁門では長蛇の列が、なんてこともなく、スムーズに進むことができた。
辺境の町の更に辺境側から来る人はそういないのだろう。
「身分証の提出を」
門の横で立っている兵士さんにそう言われ、ボルさんは商業ギルドのカードを、【点灯竜】の人達は冒険者カードを提出する。
僕とサニーはもちろんそんなの持ってない。
「持ってません」
「なに? ああその服装、辺境の村の住民か? だとすると金も持ってないよな。なにか金になりそうなものを提出するか、俺たちとこのまま冒険者ギルドに行くかだが、どうする?」
「ああいえ、お金は持ってるんです。いくらですか?」
「なんだ珍しいな。一人銀貨一枚だ」
うっ、結構高い。
これなら兵士さんと一緒に冒険者ギルド行ったほうがよかったかな?
でも出せない額じゃないし今更言いづらい……。
僕はしょぼしょぼと銀貨をサニーの分含め2枚差し出した。
「確かに。まぁそう落ち込むな。君たち冒険者志望だろ? 俺たちと冒険者ギルドに行くとギルドからの評価が低い段階で始めなくちゃならないからな。金を持ってるのも評価項目になるってわけだ」
「なるほど。ならそう悪い始まりではないですね。ありがとうございました!」
「おう! ようこそ、ヘザールの町へ!」
兵士さんの声を背に僕らは門を潜る。
すると見えたのは舗装された道、木製なれどしっかりした造りの家々。
道行く人の服も僕らのものと比べずっと綺麗だ。
道が汚れているということもないし、なかなかいい雰囲気の街並みだった。
「おい見ろリキョウ! 道が歩きやすいぞ! それになんだこの並べられた家の数は! まるで迷路だな!」
横でサニーが大興奮している。
そりゃ地球と違ってネットもテレビもない世界だ、見るもの全部新鮮だろう。
わかる、わかるんだけど……
「さ、サニー。少し落ち着こう? 目立ってるから……」
「む? なぜ私たちは目立っているのだ? 身体になにかついているだろうか?」
その溢れ出る田舎者オーラが生暖かい目を集めているんだよ!
あっちもこっちも僕らを見て微笑んでいる……恥ずかしい……。
「はっはっは! 気にすんなリキョウ! こっちの門付近じゃもはや伝統名物だからな!」
「まったく嬉しくないですよカインさん! ていうか僕サニーの巻き添えで目立ってるだけでは⁉」
「む? リキョウあの人私たちに手を振ってるぞ! こんにちわー! おいリキョウお前も手を振り返さんか!」
「モウヤメテ……ハズカシヌ……」
僕はあまりの羞恥心に顔を抑えて前を見れない。
もう早いところ移動しようよ!
切実に願い奉る。
「このはしゃぐ人とそれを抑えようと恥ずかしがる人のセットが伝統名物なんだけど、それは言ったらリキョウくんが可哀相よね」
そう思うならもう少し小さい声で言ってくれませんかねアーレさん!
ていうかそれ声に出す必要あった⁉
「ははは。では名物も見られたところで、私はそろそろ行きますかな。カインさん、依頼達成書です。今回も助かりましたよ。次回もまたよろしくお願いしますね」
「ええ、今後も俺たち【点灯竜】にお任せください! 今回は楽しいイベントもあったしな! 名物が見れたし!」
ボルさんとカインさんがそんな挨拶を交わしているが、僕は早くここから離れたい。
僕もボルさんにお礼を言って早いところ冒険者ギルドに行こう。
あ、場所わっかんぇや……。
「ボルさん此度は誠にありがとうございました! さあカインさん早く冒険者ギルドに行きましょう! 僕はもうもたない……!!」
「お? 便所か?」
「もうなんでもいいですから早く!」
僕の血気迫る表情にカインさんは笑いながら歩き始めた。
くそぅ、僕は日本じゃ生粋の都会っ子だったのに……いや世界が違うんだから今は生粋のド田舎っ子?
やめよう、考えるのをやめよう。
そうだ、ヘザールに来てやるべきことは冒険者ギルドだけじゃない。
安心安全とまではいかなくとも、それなりに休める宿探し、カインさんにお願いした道場の件もある。
それに村で揃えられなかった装備もだ。
今は案外頑丈な木の棒を所持してるけど、これはもう前の癖で杖みたいになっちゃってるし、もっとちゃんとした戦闘で使える接近戦用の武器がほしい。
それに防具に関しても、ずっと麻の服というわけにもいかない。
防具も欲しいし冒険に必要な諸々も……やることが一杯だ!
これはしばらくは暇で困ることはなさそうだな。
「そうだリキョウ、もし冒険者になってわかんねぇことあったら俺らに聞けよ。暇だったら答えてやる! はははは!」
「カインさん……はい! どうしてもわからない事があったらお世話になります!」
「サニーちゃんはお姉さんたちのところに来るのよ。男共はそういう気遣いできないんだから。そのとき一緒に進展のほう聞かせてね」
「うむ! かたじけない!」
【点灯竜】のみんな、いい人や。
僕がこの町でやること考えてるのあっさり察して手を差し伸べてくれるんだから、感謝と尊敬が絶えないよ。
これがあるべき冒険者の姿。
僕も彼らを目標に頑張っていこう!
「うし、着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」
そんな風に今後の目標なんかに意気込んでしばらく歩くとどうやら着いたようだ。
その冒険者ギルドの外観だが、まずデカい。
町の中央に位置する冒険者ギルドだが、造りもしっかりした石造りで、対面の商業ギルドと書かれた建物が豪華な屋敷なら、冒険者ギルドはまるで砦。
町の中央でこんな重厚な造りの建物あってどうすんだとも思うが、きっと日本でいう災害時の避難場所とかにもなっているのだろう。
もっともこの場合の災害は日本とは違ったものになるだろうが。
ともあれまずは目的の一つである冒険者登録を済ましてしまおう!
両開きの扉をゆっくりと開けると、中は正面にカウンター、右手に酒場、左手には依頼掲示板のようなものが見える。
「感動だ……王道ファンタジー万歳……!!」
これぞ僕らの勝手知ったる冒険者ギルドの姿!
その姿に思わず感動で涙がでてくる。
「お、おいリキョウ……! なにを泣いているんだ、やめないか。は、恥ずかしいぞ私はぁ……!」
サニーお前、門の前であんなにはしゃいでいたくせによく今更そんなこと……。
まあいいさ、僕も冷静になったら周りの視線が気になってきた。
思ったよりいかにもな風体の冒険者は見えないが、やっぱり僕らのようなド田舎出身ですという見た目のガキは目立つのだろう。
興味、嘲り、心配。
チラとこちらを見たかと思えばすぐ目を逸らし仲間と喋る無関心な人もいる。
日本も異世界もそこら辺の人間性は同じなんだな。
「ふぅ。ごめんサニー、取り乱してしまったよ。もう大丈夫だ、受付に行こう」
「う、うむ。……子供らしいところもあるのだな。安心したぞ」
サニーのその言葉にふと思うが、この若い体になってから精神も若返った気がしなくもない。
その方が違和感を持たれないし、ここぞという時の判断はちゃんと大人のつもりだから悪くはないのだが。
僕はサニーに微笑みで返事をしながら待っていてくれたカインさんたちに向き直る。
「【点灯竜】の皆さん、ここまで本当にありがとうございました。冒険者として強くなったら、その時の返礼は期待してくれていいですよ!」
「うむ! 恩は忘れんのだ!」
今は返せるお礼がなにもないからこんな言い方になってしまったけど、礼をせず忘れるなんてことは絶対にない。
僕もサニーも、その気持ちに偽りはなく、例え冒険者として礼を返せないなら他の手段で返すまで。
時間はかかると思うけど、その気持ちはちゃんと伝えたい。
「おう! 期待してるから強くなれよ!」
「そなたらの想い、しかと伝わったのだ」
「……頑張れよ……」
「なにかあったら相談のるからね。いつでもおいで~」
「錬金術で使えそうな素材とかあったら買い取りたいですし、また声かけてくださいね!」
カインさん達はそう言って先に受付まで進んでいった。
彼らには本当に世話になったし、あまり待たせるのも失礼だ。
かと言って実力の問題はそう簡単には解決しないし、せめて僕たちがやれるってところを成長しながら見せていかないとね。
「行くか、サニー」
「ああ、これから私たちの冒険が始まるだな……!」
サニーは未だ若干興奮してるように見えるが、構わず僕らも空いている受付カウンターに向かう。
そして辿り着く。
別にテンプレイベントとかなかったよ。
絡んでくる厳つい冒険者とかいなかったよ。
「ようこそヘザール冒険者ギルドへ。登録ですか?」
「はい。お願いします」
受付のお姉さんは美人だった。
やっぱり冒険者ギルドの受け嬢は美人さんなんだね。
こういうテンプレはあるのになんだかなぁ。
いや来てほしかったわけじゃないんだけど、来ないと来ないで寂しいものがあるな。
「私はヘザール冒険者ギルドの受付嬢、アイミスといいます。こちら冒険者登録に必要な用紙になりますのでご記入お願いします。読み書きができない場合、代筆致しますのでご安心ください」
受付嬢、改めアイミスさんが渡してきた用紙には、名前、年齢、得意武器、得意技能の四つの欄があった。
あまりにも少ないが、恐らくこの世界は識字率が高くないだろうし、代筆する受付嬢の負担を減らす目的もあるのだろう。
「すまない、私は読み書きできんのだ。代筆を頼む」
「かしこまりました。そちらの男性も一緒に代筆致しますが」
おっと、用紙を見ていてペンを動かしていなかったから勘違いされてしまった。
ちゃんと〈言語理解〉の技能は仕事をしているらしく、読むほうも書くほうも問題ないことは確認済みだ。
「僕は読み書きできますので、お構いなく」
「あら、そうなんですね。これは失礼しました。こちらの女性と同郷の方かと思いましたが、言葉遣いもしっかりしていますし、もしかして貴族の方だったりします? なんちゃって。うふふ」
「ははは」
そうかこの世界だと平民がこの言葉遣いはおかしいのか。
と言ってももうこれは日本人としての癖だしなぁ。
今更、か。
アイミスさんに苦笑いを返して手元の容姿に目を戻す。
まず名前はリキョウと。
年齢は15。
得意武器は……棒、でいいか。
で、得意技能。
ゴンボ村を出る前に転生して戦闘よりの構成に変えたけど、もう一度確認しておくか。
《 名前:リキョウ
年齢:15歳
性別:男
位階:5
職業:〈魔法使い〉
称号:〈迷い人〉 【未覚醒者】
魔法:〈生活魔法〉〈四元魔法〉〈転生魔法〉
技能:〈言語理解〉〈魔力操作〉〈魔力感知〉
〈身体強化〉〈五感強化〉〈腕力上昇〉〈渾身撃〉
〈自然同化〉〈暗視〉〈気配察知〉 》
と、こんな風だったな。
まずレッドマークグリズリーの持っていた〈赤の刻印〉だが、あれは素人が持っててもまず発動できないとカインさんの稽古で思い知った。
だから技能は純粋な能力強化系を基本に、一撃の威力を上げて攻撃する〈渾身撃〉を入れる方向にした。
あの3つの技能は土モグラの技能で、〈自然同化〉は森の中で痕跡を自然と同化させるパッシブスキルみたいなもの。
〈暗視〉と〈気配察知〉はそのまんまだな。
よし、これをそのまま用紙に記入すればいいのか、とペンを動かそうとした時、はたと思い出す。
そういえばこの世界ってステータスウィンドウ見れるの普通じゃないじゃん。
これはそのまま書いたら怪しまれるやつ!
なんとなくあやふやな感じで誤魔化して書くべきか。
隣のサニーがちょうど得意技能を代筆してもらうところのようだし聞き耳を立てよう。
「私の得意技能か。もちろん弓だな! 父さんには遠く及ばないが、それでも村では狩人をしていたからな! 森歩きにも一通りの心得はあるし、解体なんかもできるぞ。まあそれくらいだな」
「弓に森歩きの心得に解体、と。はい、これでサニーさんの記入は完了ですね。冒険者として解体や森の歩き方を知っているというのは大きな長所になりますから、期待大ですね!」
「むふん!」
……なるほど。
あんな感じで出来ることを簡潔に書けばいいんだな。
となるとステータスにセットしてる技能を今全部書くのは躊躇うな。
セットはしたもののまだ実戦も経験してないし、使い方もぎこちない。
ここは使い慣れてる技能を中心に、あとは魔法もここに書けばいいのだろうか?
……よし、できた。
まとめると、魔法に簡単な身体能力強化、あとは索敵も少し、と。
〈渾身撃〉のことはどう書けばいいのかわからないし、〈自然同化〉なんて使ってる僕ですら原理不明の不可思議能力だ、説明しようがない。
その点、身体能力強化は〈身体強化〉と〈五感強化〉で、索敵は〈魔力感知〉と〈気配察知〉でなんとかなるから書いておいた。
簡単とか少しとか書いたのは、日本人的な癖もあるが、必要以上に期待されたくないからだ。
技能はあっても技術がないのが今の僕。
これからしばらくは道場で修行に明け暮れる予定だから面倒事はごめんだ。
「僕も書けました」
「はい、確認しますね。……魔法、はまあ置いておいて」
置いとくの?
結構珍しい力だと思ったんだけど、用紙を見るアイミスさんの目は呆れとかそういう感情が見られる。
口元も苦笑いを浮かべているし、これはあれか?
信じられてない感じだろうか?
さてそれならそれで今は構わないんだが、証明もそう難しくないし、どうするかね……。
「……簡単な身体能力強化……索敵も少し……はぁぁぁぁ」
おや?
どうするか考えていたら更にアイミスさんの様子が不穏な感じになってきた。
え?
魔法以外でもダメなのか?
そうなるともう何も書けないシじゃん皆なに書いてるんだ。
長い長い溜息を終えた受付嬢アイミス、口を開く。
「あのリキョウさん? 困るんですよこういうの。身体強化なんてCランク以上が持つ技能ですし、索敵に関しては仲間の命に直結する問題です。まして魔法を使えるだなんて……得意なことがないならちゃんとそう書いてください! 余計な見栄を張らない! これ冒険者として基本ですよ!」
アイミスさんは僕の渡した用紙をペシペシと叩きながらキツイ目で言葉を捲し立てる。
いや、これは僕の認識が甘かったのかもしれない。
〈転生魔法〉のおかげで技能なんて余るくらい持ってるし、その前にだって魔法関連の技能や〈言語理解〉なんかを持ってたから勘違いしてたけど、もしかして技能っていくつも持ってるの珍しいのか……?
「聞いているんですかリキョウさん! 反省が見られないようならあなたの冒険者登録は認めませんよ!」
さてこの状況、どう解決する……?




