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作者: 苦木 輝紗羅

立ち止まらなければ会社には20分で着く。

その距離を1時間かけてしまうのは、途中の緑地公園でいつも足が止まるからだ。

また今日も誰かが来なくなって、その仕事が私に回ってくるのだろう。そんな考えが毎朝思い浮かぶくらいに、今の会社は人の入れ替りが激しかった。

2週間に一度10人程派遣社員が入社し、2週間後に残っているのが1人、2人。3ヶ月残っていたら古参と呼ばれる。そんな会社だ。

教育もされないまま顧客対応をさせられるので、当然ミスが出る。ミスした新人は顧客にも会社からも責任を問われ、嫌になって辞めてしまう。自分の仕事をしつつ、そのミスをカバーするのが私の仕事だ。当然定時なんてものはない。毎日深夜まで働かなければ間に合わないのだ。


私も辞めれたらどんなにいいだろう。

辞めたら、睡眠不足のまま出勤しなくてもよくなるだろう。毎日他人のミスで顧客から怒鳴られることも、この緑地公園で食欲も進まないままパンを頬張ることも、自宅の冷蔵庫の中が栄養ドリンクで埋め尽くされることもなくなるんだろう。


いつものように池の前のベンチに座り、パンを頬張るものの、味もなにもしない。自然と涙がでてくる。その時だった。


「これを見てくれ」


隣に全く知らないお爺さんが立っていた。お爺さんはカメラの液晶モニターをこちらに向け、写真を見ろと催促してくる。

そこには青い鳥が写っていた。

何故この緑地公園にこんなに鮮やかな色の鳥がいるのかわからない。おそらく誰かの家から逃げてこの緑地公園に住み着いたのだろう。

ただ、今の私にとって、久々に見た「色」だった。


お爺さんは、「こんなに鮮やかな鳥がいるのはすごいだろう」「この綺麗な写真は自分が撮った」と話しかけてくるが、急に話しかけられたことへの驚きと、あまりに鮮やかすぎるその写真に魅入ってしまったことで、固まってしまっている私の反応が面白くなかったらしく、5分もしない内に何処かへ行ってしまった。


私はお爺さんがいなくなった後も、あの鮮やかな青が忘れられず、暫く呆けていた。


ピピピッ


携帯のアラームが鳴る。そろそろ出発しないと会社に間に合わない。私はベンチから立ち、一歩を踏み進めた。


あの鳥はあの鮮やかな青を纏い、翼を広げて飛ぶのだろう。

そう考えると、足取りはいつもより少し軽くなった。

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