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終末世界の地下暮らし(仮)  作者: 八角の奇児
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第七話 出発の刻

誰がために鐘は鳴る


すみません、言いたかっただけです

 日本政府からの要請、あと一週間で職に就けということ。神田からの提案、身を守る術を身につけろ。その二つをこなすためには町屋にいるべきではないと俺は思った。なぜ俺が神田の言うことを聞いたかって?それは俺も神田と同じようなことを思っていたからだ。俺だって人間だし神田も人間だ。同情のひとつやふたつくらいあって当然だろう。ともかく、俺はその二つをこなすために警察隊に入ろうと思った、いや決意したと言った方がいいか。それと俺はここで駅員等の手伝いをするのは少し気が引けたんだ。悪いわけではないのだが、単調な仕事に飽きるのが少し怖くて、まあそんなところだ。


 俺達四人は千代田線下り方面のホームで別れを告げあっていた。勿論下りのホームの一番奥だ。


「お前等もう行くんだな」


ツバサが少し寂しそうな目をこちらに向けてきた。等というのはマサルも含まれているからそうなっている。あいつはこの状況下で保存食での料理法を見出したとか。それとまた良い料理を人に提供したいと、そんなことを語りこの地下鉄の路線内を旅すると言っていた。向かう方向は俺とは真反対の方向だった。ついでに言っとくとツバサと倉野は町屋に残り、駅員の手伝いをするらしい。


「あ、お前等行くんだな。ま、気ィつけろよ」


ふらりと現れた神田はいつものような感じでそう言った。


「気はいつもつけてるつもりだ。心配しなくても死にはしないよ」


思わず神田の前では強がってしまう。こんなとこまでそうでも、まあいいか。


「神田さん、ツバサ、カイト。見送りありがとう」


マサルは笑顔を浮かべてそう言った。また、彼の目にも寂しさは宿っていた。


「俺ァ通りかかっただけだ」


照れ隠しをするかのように神田はそうツッコんだ。


「ガ・ン・バ・レ」


倉野は最後までずっと変な口調だった。それがあいつらしいと言えばそうなんだが。


「じゃあ行くよ。皆んな、本当にありがとう」


マサルはそう言い、ホームドアを飛び越えた。


「俺も行くわ。またいつか」


俺も続けざまにドアを飛び越えた。そしてスタッと線路の中に鞄を庇い、着地した。俺愛用の鞄には元々入っていたものに加え、数日分の食糧、水が入っていた。吉野に外に出ることを伝えたら、これが必要だろう、とこれらをくれたのだ。おかげで鞄がかなり重くなっていた。どんな脅威が待ち構えているかわからないから、ポケットナイフは歯を出したまますぐに取り出せるよう、ベルトの左腰の方にできた隙間に挿しこんでおいた。地下鉄の線路は地上に引かれる線路とは違い、バラストは見当たらず、レール、枕木、それに敷かれたコンクリートが主だった。色も冷たかった。見る色、それは黒や灰色、温かみを感じることができなかった。


 マサルと目が合った。


「よお、警察隊、頑張れよ」


「おう、お前も天ぷら頑張れよ」


「できたらな」


ハハハ、と俺たちは笑い合った。コンクリートの冷たさに俺たちは晒されていたはずだった。でも、そこだけは、暖かい、そんな気がした。そんな時間ももう終わり。俺たちは互いに背を向けそれぞれの道を歩んでいく、それぞれの明日に向けて。ホームドアの上から顔を出し、ツバサたちもこちらを見送っていた。最後に俺はそれに向かって手を振って見せた。


 町屋駅を出るのはこうなってから初めてのことだった。ついでに線路内を歩くことだってこうなってからというか、生まれて初めてだ。


 駅の照明が届かなくなるとトンネルは次第にその薄暗さをあらわにしていった。線路の上を歩いているということから歩くところは大体レールが敷かれており枕木もあることから凸凹してつまずきやすいものだった。


 自分の足音以外の音が滅多にしない。見ているところ全てが人工物でできているということに不気味さを感じた。こんなのは初めてだ。このトンネルが醸し出す異常な寂しさにやられてしまったのだろうか。


 そんな道をずっと行くとようやく明るい照明が見えてきた。あれは、駅だろう。町屋の次だと、たしか西日暮里か。西日暮里だと…あいつがいるかもしれないな。行ってからのお楽しみとしておこうか。


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