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終末世界の地下暮らし(仮)  作者: 八角の奇児
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第三話 地下生活の仲間

 マサルが案内したのは下り方面のホームの端、参番出口へ続く階段付近だった。そこまで来ると人はもうまばらで落ち着いた雰囲気だった。


 マサルが立ち止まったところには青年が二人、地べたに何もひかずに座っていた。一方は色白で、細枝のような腕をし、ハスキーがかった声だった。ツバサは多分こいつだ。もう一方は色白というほどでもないが白く、全身がガッチリとしていて、マサルとは別のベクトルの声の高さをしている。


「マサル、そいつは?」


ツバサが聞く。


「聞いて驚け、佐久間風人だ!」


フウトという名が他にもいるのか知らないがマサルは俺の名前をフルで呼んだ。


「おぉ!フウト!ひっさしぶりぃ!」


ツバサが手を伸ばしてきたので俺はそれに応じてその手を握った。相変わらずこいつは見かけの割に

ノリのいいやつだ。


「はは、久しぶり!」


俺たちがそんな会話をしていた裏でこんな会話が繰り広げられたらしい。


「佐久間風人?誰だ?」


ツバサと一緒にいた青年がマサルに聞いた。


「アイツとは小学校が同じだったんだよ。少し空気の読めないことがあるけどアイツとは一緒にバカ

やった。苦になるようなヤツじゃないさ、多分」


「ふーん、そうかい」


あくまでこれは聞いた話だから実際どうだったのか分からないな。


 そうこうしてると肩を二回叩かれた。振り向くとマサルの人差し指が俺の左頬に少し沈んだ。


「うおッ、なんだお前」


周囲の人間が何人も死んだかもしれないのに、コイツは余裕だな。これは見せかけの表情なのか?それとも感覚が麻痺したり、興奮状態にあるのか?非現実的な現実を目の前にして、真実(ほんとう)から無意識に目を逸らしているのか?心の奥底では絶望の淵を彷徨っているのか?それとも…


「おい、フウト」


マサルのその声で俺は現実に引き戻された。


「コイツ、倉野海斗(くらのかいと)な」


マサルは続けてガタイのいい青年を紹介した。マサルが話終わると、倉野は黙って右手を差し出し

た。一瞬戸惑った俺だがこれは握手の合図だろうと、そう思った。


「よろしく」


俺はそう言って倉野の右手と握手を交わした。ただ、コイツも変人だった。俺がヤツの右手を握ったら、ヤツは左腕を添えて右腕を上下に振り、おまけにヘドバンまでかましてきたんだ。その時の俺は多分、驚愕の二文字で頭がいっぱいになっただろう。三人で遊んできたテンションをそのままにここにやってきたとでも言うのか?


 倉野のそれが終わると俺以外の二人は「ウェーイ」みたいなことを言って小さく拍手をした。いや、なんで倉野自身は何も言わずにドヤ顔決め込んでるんだ。


「改めまして、俺、倉野。よろしく」


倉野はまた右手を差し出した。今度は普通だろうと思った俺がバカだった。その手を掴むとさっきの下りがそっくりそのまま行われた。ふざけんなよッ!口には出さなかったが顔には少し現れていたかもしれない。流石に俺も大人だからその場は苦笑いをするだけにしておいた。


「カイト、まあこんな状況なんだ、ふざけるのも大概にしとけよ」


そう言うマサルだって笑いを堪え切れてなくて半笑いになっていた。


 こういうノリも二日三日くらいで抜け切るだろうな。こんな劣悪な環境で暮らしていくんだから。


 でも、娯楽は必要か。


 試しに鞄をガサゴソと漁ってみると、奥底に、乱雑に片手に収まるくらいの直方体の箱がしまってあった。それを取り出した。見てみると黒い背景に白い文字が細かく書き込まれていた。裏返すとスコレス沸石の写真が真ん中に映され『鉱物トランプ』という字が書かれているのがわかった。


「これは…」


俺が思わず発したその声に反応したのか他人の視線を感じた。


「お前のそれトランプじゃん!やろうぜ!」


声の主はツバサだった。目を輝かせ、トランプの方を見ていた。ツバサは他の二人に目配せをした。彼らもうんと頷いた。俺はその期待に(こた)えるべくトランプの箱を開け、中身を出してみせた。


「大富豪でいいよな?」


「おう、いいぜ」


三人ともこんな感じだった。


「じゃあ、5スキップと7渡しと8切りと99車と10捨て、それとイレブンバック有りでいくか。

ああ、あとスペ3も有りな」


大富豪はローカルルールが多いせいでいちいちこれを聞かないと始められないのは面倒だな。説明無用な有名なゲームのはずだから説明はしないが、というか基本的なルールを説明するのが面倒だからこれは省かせてもらう。するならスペ3、スペードの3についてだな。これはジョーカーに対抗できる唯一のカードだ、以上。


「禁止上がりは?」


マサルが聞く。手際の悪いシャッフルをしながら俺は答える。


「8切りとジョーカー上がり禁止かな」


「ん、オーケー」


マサルがそう言うと、次は倉野が聞いた。


「革命は?」


「有り」


これで終わりか?面倒臭いな。革命とはあれだ、カードの強さが逆になるやつだ。


「階段は?」


「なしだ」


ツバサも聞いてきた。ツバサお前、俺等のルールでやってきたんじゃないのかよ。一応説明しておくと階段とは数字を三枚以上順番に出すことだ。


 シャッフルを終えた俺は手早くカードを配りジャンケンをしてから大富豪を始めた。カードだけは器用に配れんだよな、俺。

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