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終末世界の地下暮らし(仮)  作者: 八角の奇児
12/13

警察隊東川口駅駐在員たちの地上調査 後編

なんか本編より長くなってない?気のせい?

黒田達は北へ、北へ向かった。直線距離はそこまで長くなかったが瓦礫に足を取られ、時間がかかった。

大きな(くぼ)みがそこにはあった。見渡してみると、かつて川だったものが放射状に窪みに流れ込み、底には黒く濁った水が溜まっていた。絶えず唸っていたガイガーカウンターはより一層不安をそそる音を捻り出していた。


「壮観だな」


黒田はそれ以上言葉が出なかった。ここは人によって壊された場所。とても褒め讃えて良いとは思えない光景だ。


「ここは危険です。必要なことを記録して早くここから去りましょう」


津田はフィルターの汚染率を気にしながら少し焦って言った。


田中による記載

浦和美園駅より数キロメートルほど北に巨大なクレーターあり。半径は二三キロメートルほど。川が流れ込んでおり、クレーターの底に水が溜まっている。


「一刻も早くここから去りましょう!」


津田は急かした。


「そう急かすな。もう帰る。いいな?」


黒田は窪みを見下ろすことをやめた。


「黒田さん、このクレーターを見つけた人はあのシェルターに戻るまでに何か、化け物に襲われたと言ってましたよね」


「確かそんなことも言っていたな。ここに来るまでは何かがいる気配なんて微塵もなかったが、まさかな……。だが、帰るしかない。行こう」


「……喜んで」


佐藤は長いため息をついた後、覚悟を決めてそう言った。津田も田中も覚悟は決めたようだ。


「出なければ、出ない。それで良いだろう?」


「何言ってるかわかりませんが、とにかくそんな未知の相手が出てこなければいいですね」


大地は冷たく弱々しい西日に差され、鈍いオレンジ色に染まっていた。ずっと白くどんよりとしていた厚い雲は絵の具いっぱいのバケツをひっくり返したかのように赤く染まっていた。


来た道を戻ってもしばらくは物音一つしなかった。浦和美園駅が目と鼻の先に来たあたりだった。


「幻想かなんかじゃないんですか佐藤さーん?」


田中はもう歩けないと言わんばかりに足取りが重かった。


「その一瞬の油断が命取りになると思う。常に緊張を保っておく他無いと思うよ」


佐藤はすっかり情けない姿に成り果てた田中にも丁寧に助言した。


「ちょっと、皆さん少し静かにしてもらえます?」


津田がそう言った。三人は返事もせず黙って見せた。沈黙が訪れたと津田以外の三人は思っただろう。三人はただ、険しい顔をする津田を眺めることしか出来なかった。


「やっぱり。呼吸音が多すぎる」


津田は顔を少し青くして言った。


「マジかよ。何でそんなことわかんだよ」


黒田は未知の何かよりも津田の能力に驚いた。


「走りましょう」


佐藤はそう促した。


「も〜サイアク」


「呑気なもんだなぁ。死ぬよ?」


「それはヤダから走る!」


そのうちコイツは痛い目を見てしまうのではないだろうか、と津田は思った。

いざ走り出すと人数分以上の足音が後ろから迫ってきた。


「おい!後ろ大変なことになってるぞ!」


「な、何だあれ!」


すぐ後ろにいたのは四足歩行で走る醜い生き物だった。ハダカデバネズミのように体は毛に覆われておらず、肌は焼け爛れ、頭が縦に長かった。それに、どこか人間と似ていた。


「銃、抜きますか?」


「そんなこと聞いてる場合か?自分の身は自分で守れ!」


佐藤はすぐに理解した。黒田はどんな手段を使ってでも生き残れと言うのだ。佐藤は腰のホルスターに収まっていたリボルバーを走りながら引き抜いた。


「佐藤先輩、撃つんですか?」


津田はシリアスな表情をしていた。


「襲ってくるようならね。銃声で怯んでくれれば良いけど」


佐藤は余裕のない笑みを浮かべた。


「動くな!」


佐藤は止まり、化け物達に銃口を向けた。体が恐怖を感じ取ったのか彼らは本能的に向けられた死神の鎌に怯えているようだった。


「あっち行け!」


佐藤はそのまま追い払おうとした。しかし、なかなか粘り強いもので化け物達はその場を動こうとしなかった。佐藤はそれに加えて一発撃ってみせた。風船の割れたような破裂音に化け物達は驚き、姿を眩ました。


「ふう、落ち着いたな」


皆、そっと胸を撫で下ろした。


「山本、黒田だ。聞こえてるか?」


黒田は無線機のスイッチを押した。


「偉くノ…ズ混じ……ですが、……聞こえてます。どうぞ」


向こうからの雑音は酷く、かろうじて、ところどころ聞こえる程度だった。


「凄いノイズだ。隔壁を開けられないか?一応もう一度言うが隔壁を開けられないか?どうぞ」


「ええ、開け……ます。………時は合図をく……い。ど……」


「じゃあもう開けてくれ、いつまた化け物とツラを合わせるかわからん。だから手間をかけたくない。開けてくれ。どうぞ」


「了解し……た。これ……隔壁を開…ます」


「わかった。今すぐ向かう。黒田、通信終了」


黒田が通信を終えると後方で悲鳴か雄叫びか分からない不気味な声が辺りに響いた。重い足音が徐々に近付いてきた。


「走れ!」


黒田は叫んだ。四人はもう線路に立っていてまっすぐ進むだけでトンネルに入れるようだった。

重たい足音はまだ近付いてきているようだった。すると、彼らの前に姿を現した。


「クソッ、前からか」


「ヤバいなぁ、これは」


彼らの前にいるのは先ほど見た物より二三倍も大きな個体だった。それはグループの主と言っていいだろう。田中が慌てて三発撃ったが主は少し痛がって余計に怒らせただけだった。すると主は大きな腕を振りかぶった。


「きゃっ」


田中の悲鳴は大きくなかった。それもそのはず津田が田中を押し倒して庇ったからだ。先の主の攻撃で、主とは少し距離ができた。


「次は無いと思え」


そう言いながら津田はほっとため息をついた。幸い二人ともかすり傷一つなかった。


「走れ!走るんだ!」

黒田は津田と田中に向かって叫んだが、二人の顔は絶望の色に染まっていた。主の取り巻きが黒田に迫っていたからだ。


「後ろダァァァッ!」


擦り切れそうな声で津田が叫んだ。手を伸ばしても、とても掴める距離ではなかった。黒田が振り向いた瞬間、もう救えない、と津田と田中は思った。そんな時、また銃声が一つ。佐藤の撃った弾丸は黒田に飛びかかった化け物の肩に捻れ込んだ。


「ふう〜。ヒヤヒヤしました。黒田さん、気をつけてくださいよ」


「助かった。礼を言おう」


頼れるヤツだな、と黒田は思い、少し口角を上げた。


「よかった。本当によかった」


田中はもう泣きそうな声だった。


——グチャ


ふと、咀嚼音。生々しく痛々しい音が響いた。


——グチャッ……ガリッ……


また、咀嚼音。周囲の空気は完全に青ざめていた。佐藤の首から生き生きとした血が噴水のように噴き出した。化け物は、佐藤の首を喰らっていた、獲物を狩ったライオンのように。


「泣き言は帰ってからにしろよ…」


黒田は歯を食いしばって言った。


「………」


津田と田中は黙って走り出した。不幸中の幸いか、化け物達は新しい食糧に夢中で他のものは見えていなかった。


「こちら黒田。隔壁を閉めてくれ」


トンネルの内側でゲンナリとした声がした。


「こちら山本。了解しました。隔壁を閉じます」


「…………」


「黒田さん、どうかしたんですか?そんな冷たい声で」


「それは……帰ってから話す」


間もなく、鋼鉄の壁が外の世界を拒絶した。


それから三人は物静かなトンネルを延々と歩き続けた。


東川口駅の蛍光灯の白い光は温度をもたず、三人を出迎えた。


「おかえりなさい。あれ?佐藤さんはどうしたんです?」


山本がホームまでやってきた。


「死んだよ。人喰いの化け物に喰われて」


黒田の瞳には彼の普段は見せない悲しみの色が映っていた。


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