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アンガー・メイジ  作者: 赤い酒瓶
第二章 鬼神
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最終話 後宮

「お疲れ様」と、単身での謁見を終えた俺をアリサが出迎える。


「緊張したけれど、何とかなるものだ」


 並んで話しながら宮中の奥へと向かっていく。

 今日の謁見を一人で行ったのは、俺の意思によるものだった。

 貨幣量を増やすために貨幣を改鋳する。反発の大きそうな政策だったので秘密裏に準備を整えて強行することにし、反感を引き受ける意味で俺の口から布告した。話を強引に押し通すのは俺の方が向いている。


 発端はヘイオスの軽口だった。事業について話している際、予算不足を嘆いていたところ、銭なんて新しく作ってしまえば良いと言うのを俺が本気にし、最初は額面を書き付けた巻物に玉璽を押して無理矢理通貨にしてしまおうと考えたのだが、流石にそれはと彼から否定され、今回の案に落ち着いた。

 先程のような謁見はあれが最初であり、これから複数回行う予定となっている。国中に悪銭をばら撒くため大勢を呼び付けてあり、それは一度に謁見の間へ集められる人数ではなかった。

 支出は献上品である程度埋め合わせられるだろう。


 そのまま二人で後宮へと移る。

 アリサは女王、アイネの許しにより後宮へ自由に入ることが出来た。彼女は俺の女性関係に寛容で、タチバナ姉妹との関係は今でも続いているし、マヤとメリア、その子供達も後宮の一角に置かせてもらっていた。

「にいさま」と、後宮で預けられていたリンが寄ってくる。今日は俺に顔を見せようと、母親であるアリサが連れてきていた。彼女との間にはまだ他にも子供がいるものの、そちらは幼すぎるのもあって家に置いてきたらしい。身重のシキとケイに面倒を見られているそうだ。


 高い身分が付いたものの自由な行動を許されているため、こちらから相手の屋敷へ足を運ぶのは気軽に可能だったし、現にそうしているため、今回会えなくても問題はない。

 俺を兄と呼ぶ娘の手を引いて、妻である女の下へ向かうと意外な光景を目にする。


「どうした、その格好」


 隅に侍女の控える広い一室、アイネとの娘を抱いている女がいて、目に入った一瞬は彼女自身のようにも見えた。それは良く見ると女物のドレスを纏ったコノエだった。


「姉様が、一度女物の衣服に袖を通してみてはと仰られて……」


「似合いそうだったのでな。試しに着させてみたかったのよ」


 近頃、後宮にいる間、彼はアイネを姉として呼ぶようになっていた。後宮で働く者達や身分の高い者達の間では最早、その正体は公然の秘密となっており、徹底して隠す必要を感じなくなったのだろう。

 アイネはゆったりとソファに腰掛けて、妹の姿を楽しそうに見つめている。


「皆の反応はどうだった?」


「カラスマ殿が手筈通りの問答を仕掛けた以外は、貴族達からも不満の声は上がらなかったよ。本当に樹海を切り開く事業が始まって、巻き込まれてはって顔だった」


「後は上手くことが進むのを祈るばかり、か」


「駄目だったら次の手を考えるさ。こちらから樹海に押しかけて魔物達の土地を荒らすのは本位じゃないが、ヘイオスが南西で発見した島にも鉱脈の一つ、二つくらい眠っている可能性はある。……それよりコノエ、良く着る気になったな」


「最近はどうしてか、昔程意地を張る気にならなくて」


 思えばいつの間にか、外で女と間違われた際にもはっきり男だとは否定せず、曖昧に濁すようになっていたが、このまま本当に女へ戻るのかもしれない。


「まあ、後宮にいる間くらいなら、と」


「この後は義兄殿と会うのであろう。その格好で出向いてみるのも面白いのではないか?」


「流石にそれは……恥ずかしいですね」


 あまり兄を待たせるわけにはいかないので、そろそろ元の格好に着替えますねと、彼は赤子を俺に預けて寄越す。

 随分似合っているじゃないかと褒めたら、照れながら礼を言われた。そのまま着替えのために退室していく。


「お主には女姿を見られても構わぬようだな。態々戻ってくるまであの姿で待っておったくらいだ」


「……夜に寝室へ誘ってみても?」


「良いぞ。妾も可愛がられるあれを見てみたい」


 案外退廃的な趣味を共有出来るのも彼女の好ましい点だった。タチバナの姉妹に同じ誘いをしても、こうは行かない。

 アイネの隣に腰を下ろし、赤子は彼女に渡して、代わりにリンを膝の上に乗せる。

 アリサへ空いている椅子を勧め、彼女に向き合った。


「そういえば、リンに関して相談があるんだって?」


 謁見の前にそう聞かされていた。


「うん。シキもかなり悩んでいるみたいで、貴方の意見が聞きたいって。ナイア様が最近、貴族間の婚姻のために動いているのは知ってる?」


「もう水面下で複数話が纏まってて、そのうち一斉に、って準備を進めているらしいね」


「その一環なのか、この子に婚約の話が来てね。ガルディア家に、以前お会いしたエレナさんがいるでしょ。彼女が少し前に男の子を出産して…………大丈夫?」


 俺の様子が不審に見えたようで、アリサが不思議そうに話を止める。


「いや、特に問題は……」


「なら良いのだけど」


 自分の名前が出たことにより、膝の上で何だろうと様子を窺っていた娘をじっと見つめながら話の続きを聞いた。

 王室が身内での子作りを止め、婚姻という体裁を取ったのに続き、貴族間での婚姻も多数行うことによって従来の慣習を弱め、新しい在り方を根付かせようという彼女の計画自体は以前から分かっていたことだ。


 しかしながら、婚約というのは想定していなかった。

 現在適齢期である者のみならずその後の世代についても話を決めてしまって、今のうちに婚姻文化が貴族に定着する流れを築いておきたいのだろう。言われてみれば分からなくもない話である。リンはタチバナの子であり家格は高く、実態として俺の血を引いているため魔力の成長にも期待出来る立場にあるから、ガルディアの嫁に選ぶのも分かる。


「俺は近親相姦の慣習なんて興味はないけれど……流石に若すぎるんじゃないか?」


「ナイアも老齢だ。ひ孫が大きくなるまで待てないのであろう」


「……まあ、あの人にも世話になったし、向こうの希望なら。もしも相手の男が駄目そうだったら、思いっ切り振ってやろうな」


 最後、リンにそう呼びかけると、彼女は話も理解出来ていないだろうに「うん」と頷く。アイネが傍らで可笑しそうに笑っていた。


「支度が整いましたので、義兄に会って参ります」


「途中まで俺も一緒に行くよ。ヘイオスが表で待ってるはずだ」


 コノエが男装に着替えて戻ったのに合わせ、俺も席を立った。アリサとリンも伴って外へと向かう。


「ところでコノエ、今夜少し話があるから、寝室まで来てくれ」


「……? 承知しました」


 訝しまれつつも、同意を取り付けられた。

 俺達は終生、良いパートナーだった。

 これにて完結となります。最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

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