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アンガー・メイジ  作者: 赤い酒瓶
第二章 鬼神
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第24話 報復

「おお、やってるやってる」


「私の縄張りの目と鼻の先で……本当に目障りな人達」


「迅速に終わらせるよう努めますから、どうか気を落ち着けて下さいよ」


 昨夜、一晩を明かすのに使わせてもらった森の奥から、この土地の主である魔物と共に出てきてみると、想定通り既に合戦は始まっているようだった。


「旦那、マジでやるんですかい?」


 俺達のいる位置から見えるのは敵陣の背後、それを見つめながらヘイオスが言った。


「連中、思ったより壁の後ろも固めているようですが」


「回り込まれる可能性にも用心してたってわけか。結構、結構」


 見た限り、岩壁の前に殆どの戦力が展開されているように思える。壁の門は開かれており、反乱軍もあれの防御力をあまり当てにしていないのは見て分かる。目の前まで接近されてしまえば魔術で崩される程度の代物なのだろう。

 壁の内側では重傷者らしき者が数名手当されており、壁の上にはそこから魔術を放つ者の姿。シャルルもいる。軍勢への指揮、高所からの遠距離攻撃、負傷者、後方支援要員の保護、それらが岩壁の役割のようだ。


「あのデカブツが話に聞くゴーレムって奴ですか。二体もいますけど」


「前回は手も足も出なかったんだよなぁ。雪辱には丁度良い。いきなり後ろから襲って抵抗もされずぶち殺しただけじゃ物足りないからな」


「御武運を祈ってますぜ」


 樹海とその外との境に立ち、俺は祝詞を唱える。魔王、鬼神、金毛の力を借り、戦支度を整えた。


「ああ、悍ましい姿」


 傍らの魔物が呟く。それを言う相手の外見は反対に、白い毛並みにしなやかな体躯をした美しい見た目だった。急に現れてここへ泊まらせろと迫った俺を受け入れてくれた彼女は、翌日縄張りの近辺で人間同士による大規模な戦いがあると知り、見物のため付いてきたのだった。

 ここで生じた魔術師達の怨念は当然周囲に影響を及ぼすだろう。魔物にとっては良い迷惑に違いない。


「太刀を」


 ヘイオスに声を掛け、彼に抱えさせていた五本の刀の束を受け取ると、それを左肩に担ぐ。腰にも一つ下げてある。殺した魔術師から奪った代物だ。


「じゃ、行ってくる。仲良く見守っててくれ」


「貴方のいない間に食べたりはしないから、安心なさい」


 長い野外生活でボロボロになった袴姿で、金毛を連れ歩き出す。

 敵方は既に、俺達の姿に気が付いていた。大きな白い魔物を伴っているのだから、木々の間を進んでいる時点から良く目立ち、捕捉されていた。

 悠々と歩いて進む俺へと、向かってくる戦力はいない。ゴーレムが魔術師達を守るように立ち塞がり、待ち受ける構えを取るだけだった。

 シャルルは壁の上から一度こちらを振り返ったきり、今は戦場を見据えている。


 代わりにその傍らへ立つ一人の魔術師がじっと俺を見下ろしていた。あちらが術者なのだろう。シャルルのゴーレムは壁の向こうで元気に暴れているに違いない。轟音がここまで響いている。

 上位の式神を発動すると、それは肩に担がれていた五本の太刀を一斉に引き抜いた。実態のない曖昧な存在が俺の周囲に存在し、力を振るっている。傍目からは太刀がひとりでに動き出し宙へ浮いているように見えるはずで、魔術師達にはまるでいきなり、そこへ祟り神が生じたかのような気配がしているはず。

 太刀には直接触れなくとも、この曖昧な思念体を通じて魔力を込めることが出来た。


 五本の刀が二体のゴーレムへと向かっていく。拳による迎撃を掻い潜り、一体の首を落とすと胴部から再生する。核が胴体にあると確信して闇雲に斬り刻んで行くうちに一本、相手の攻撃を受けひしゃげて吹き飛ばされた太刀があったものの、ゴーレム達はどちらも直ぐに核を傷つけられ崩壊していく。

 一方の俺はその間、一時たりとも足を止めず岩壁に向かって歩き続けていた。

 後方の守りだったゴーレムがいなくなり、その場にいた魔術師達は一部が更に壁際へと下がり、一部が俺の前に立ちはだかろうとする。全くの非戦闘員揃いというわけでもないらしい。極少数だが魔剣士の姿もある。


 だが金毛一頭差し向けただけで崩壊するようでは、大した戦力とは呼べない。

 壁上では魔術師が杖を振り、新たにゴーレムを繰り出してくる。予めここが戦場になると分かっていただけあって、核は沢山埋めてあるようだ。

 しかしながら最早それらも大した脅威とは感じられなくて、金毛に殺された魔術師の死体から太刀を一振り補充し、再びただの土塊へと帰らせた。

 こちらを無視出来なくなったシャルルが壁上の戦力の幾らかを、俺への攻撃に割り振ってくる。


「また会えたな、シャルル!」


 そう叫ぶと、俺は担いでいた五本の鞘の束を放り捨て、自らの太刀を引き抜き、文字通り一飛びで相手の前へと向かっていき、その首を刎ねた。

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