第22話 暗躍
シャルルの襲撃を生き延びてからの最初の期間は樹海に潜伏したまま、傷を癒やしつつ式神の練習に勤しんだ。形代を用いず、目に見える形を取らない上位の式神の練習だ。碌に動けない身だったので丁度良くもあった。
土壇場の出来事とはいえ一度成功させてしまうとコツが掴めて、数週間ですっかり使いこなせるようになると、次は森を出る段階だと判断して樹海の外へ踏み出した。
海へ沈められた際、形代は全て駄目になっていたが、新たな力を用いればそれも困りはしなかった。ただ、こちらは形代が必要ない代わりに一つ欠点がある。通常ならば目に見えず一方的に相手を監視可能な上位の式神は、祟り神にも良く似た気配をしているため、魔術師であれば近くにいるそれを察知出来てしまうのだ。
接近して細かな情報を盗み取るには従来の、形代を用いたものの方が適している。
上空から広域を観察するには困らない。
樹海を出て次に向かった先は鬼の社だ。鬼神の力を存分に借り受けるため、繋がりを強く持たなければならない。夜闇の中、港町の周囲を迂回して社の周りにある林へと潜伏先を移す。
人気のないのを確認しては夜な夜な参拝して手を合わせ、日中、その加護の利用を試みるという日々を継続する。また、町中から食料や形代に用いる紙を盗んだりもした。道具と材料を盗んで新たなアミュレットも用意した。
一月以上が経過して加護の使用にも手慣れると、次はいよいよシャルルへの報復へ移るべき時がやって来る。
彼は今どこに居を構えていて、何をしているのか、都の対応はどうなっているのか、そうしたことを調べるため猫型式神を市中に放っていたところ見覚えのある容貌の人物を見付け、彼が顔に傷のある男を知らないかと聞き回っていたのでそのまま式神に潜伏先へと案内させた。先日の経験があるためか、相手は猫が不自然なくらい追い縋ってはどこかへ誘導しようとする動きで状況を察し、直ぐに黙って後を付いてきた。
そして合流してみるとコノエの差し金だったことが分かり、彼に感謝して、以降はその男、ヘイオスの手も借りながら行動した。町中での聞き込みにおいて、彼はとても便利だった。並の人物ならば顔の入れ墨で警戒されようものだが、それを物ともせず相手の懐に入り込んで噂から、シャルルの動向を割り出してみせた。
ただ、この段階になると俺自身も、夜間、巡回中の敵方の人物を捕まえて尋問し、情報を聞き出すという手段を覚えていて、彼の手腕がどの程度役立ったのかは難しい。むしろ町中への買い出しの方が役立ったかもしれない。金は捕らえた人物から奪った。
標的が制圧された地域の東部に拠点を構え、やがて来るだろう討伐軍に備えていると知ると俺達も東へ移る。
現地を確認すると流石に大将の身辺だけあって警護は固く、どうやって始末を付けようか思案。
「まあ、やってやれないことはないだろう」
そう言って夜討ちを決行しようとしたところ、ヘイオスに止められ機を窺うことに。彼は俺の案に無茶苦茶だと辟易していたが、俺としては、それなり成功の見込みのある計画だったと思っている。
その後、ただ待っているだけでは仕方ないため、代わりにシャルルの戦力を削っていくことにした。どの道、彼のみならずそちらにも対処しなければならないのだ。
夜間、町中を巡回している最中や武装した人間を引き連れて市外を移動している魔術師を見つけ次第、奇襲して殺害した。案外力のある魔術師を引き入れていたようで土地はそれなりに穢れたが、俺を祟るだけの力ある人物はいなかった。
祟り神が生まれ土地が穢れれば、その地の住人にも災いが及び、災いが及べば暮らしが悪くなってシャルル達への支持も薄まるだろう。
相手方も黙ってはおらず、やがて纏まった戦力を繰り出し俺の捜索を始めたようだったが、活動は主に日中で、式神で空高くから警戒したり樹海の中へでも引っ込んだりしてしまえば見つかりようもなかった。
やがてそうした巡回が一切なくなり、東の端へ人員が極端に集中されたのを見て遂に討伐軍の到来が近いのだろうと察し、東の空へカラスを飛ばしてみたところ、案の定大勢の人の姿が見えた。上位の式神を覚えた成長による影響なのか式神の射程が大きく伸びていて、結構な距離があっても問題なく飛ばすことが出来た。
陣中を観察しているうちにコノエの姿を見付け、再会を嬉しく思いながら接近した末、明日が決戦だと知らされる。
「ヘイオス、明日、反乱軍と討伐軍が衝突するぞ。これが最大にして最後の好機だろう」
「そこまで来たならもう止めにしませんか? 賊の成敗なんて軍隊の連中に任せときゃ良いでしょう」
「馬鹿を言うな。何のためにこれまで粘ってきたと思っている。決戦で野郎の周りが少しでも手薄になり次第、一直線に斬り込むからな」
「こんな滅茶苦茶な御仁とは思いもよらなかったなぁ。だが、乗り掛かった船だし、アンタを補佐するのが契約だ。最後までお供しますよ」




