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アンガー・メイジ  作者: 赤い酒瓶
第一章 金色の獅子
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第06話 魔術師の来訪

「大体十年ぶりか」


 馬車の中、窓の外に見えてきた村の風景にそう呟く。大陸の中央に位置する村、ノイル。かつて苦闘の末、金色の獅子を葬り、弔った土地だ。

 この村に再び、魔物が現れたらしい。尤も、夜間にこそこそと家畜を漁る程度の個体だ。こういうのは往々にして弱い。本来ならば私が出てくるような任務ではないのだが、偶々この件について知り、それならば昔に封じた魔物の霊が今どうなっているのか、ついでに確認に向かうのも良いだろうと引き受けた。


 獅子への対応に携わったのは社の建立までで、その後の定期的な供養は他の魔術師が行ってきた。報告ではものの数年で怨念もきれいに消え去ったとされていたが、あの強力な霊魂とその怨念がそう簡単に鎮まったことに疑念を抱えていた。


「エデン様は昔、ここで大層強力な魔物を討伐したそうですが、実際にはどのような相手だったのですか?」


「金色の体毛をした獅子だよ。見上げるような大きさだった」


 馬車に同乗している従者の若い魔剣士が、かつての戦いについて尋ねてきた。


「縄張り争いに敗れて西から流れてきたらしい。気性が荒くて対話はまず不可能な相手だ。中々強敵だったな」


「それでも縄張り争いに敗れてやって来た手合なのですよね。森の向こうにはどれだけ強い魔物がいるのか」


 ノイルの西方には村がない。この辺りで人が住める土地はここまでだ。西の先には巨大な霊峰があって、そこを中心に強力な魔物達が生息しており、人の住める土地ではなかった。


「因みに、どのような決着だったのでしょうか」


「…………当時の従者がやられたところで、これはもう駄目だと腹を括ったよ。祟られる覚悟で辺り一面焼き払って、どうにか生き残った」


「その後、影響は?」


「社が出来上がるまでは少し体調を崩した」


「エデン様でもですか。相当に強力だったのですね」


「ああ。その分、社も壮観だから楽しみにしておくと良い」


 馬車が止まり、外から扉が開けられるのを待って降りる。晴天の日差しを受けながら大きく深呼吸。外気が心地良い。

 前方には四阿があり、その奥には巨石。この村の信仰対象だったはず。


 四阿から見覚えのある老人が向かってきた。十年ぶりではあるが、微かに覚えている。ここの村長だったはず。気候の清々しさに反してその顔は暗い。

 少々家畜と作物に被害がある程度と聞いていたが、事態が深刻化でもしたのだろうか。魔物が徐々に調子付いて被害が大きくなっていくというのはそれなりにある。


「良くお越し下さいました。……貴方は確か、金毛の時の」


 向こうもこちらを覚えていたようで、驚きに目を瞠る。


「はい、エデンです。十年ぶりでしょうか、お久しぶりです。あちらの方はその後、ものの数年で治まったと聞きましたが、大丈夫でしたでしょうか」


「お陰様で、金毛様も直ぐに気を静めて下さったようです。それにしても、また貴方様のような方が、この村に足を運んで下さるとは」


「社の様子が気になっていたので、ついでに仕事を任せてもらったのですよ」


 こちらが貴族であり、中でも高名な一族の当主であると相手も知っているので、それが今回の一件に出張ってきたことへ驚いている様子。それにしても、相手の顔色は一向に優れない。


「ところで、魔物の被害についてですが」


 仕事の話を切り出すと、老人の身体がぎくりとする。


「大変遺憾なのですが、そのことで、少々お話が……」


「何か事態に異変がありましたか? そう恐縮せずに仰って下さい。我々は魔物と祟りから人々を守るためにいるのです」


 すると老人の口から、村の若い衆、それも十代半ばの極若い者達が引き起こした問題について知らされ、私は目を瞑り、思わず嘆息してしまうのだった。

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