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アンガー・メイジ  作者: 赤い酒瓶
第二章 鬼神
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第11話 下見

 魔術を学んだり式神の練習をしたり、息子と戯れたり、タチバナの女と戯れたり、マヤと紹介された借家を見物に向かったり、彼女をメリアに対面させてみたりして落ち着いた日々を過ごす。

 シキが紹介してくれたのは西洋系の建築による館で、今の住まいよりも少し北部寄りに位置していて比較的遠くなく、土地は広くて離れもありと、結構な好条件だった。借家ではなく購入という形になるらしい。

 他にも数軒紹介されたが最初に見せられたそこが一番、二人共に気に入ったので、引越し先はその洋館に決まる。


 実際の転居は例の盗賊騒ぎが治まってからだ。立派な屋敷が狙われている最中に、立派な屋敷へ移るのは憚られた。犯人を捕まえてから移り住むことにして、一通り必要そうな家具の注文だけはしておく。

 そうした事柄が済んだ頃になって、ナガミツから次の犯行の日取りが判明したと報告が入る。

 それで占いを担当した魔術師とも合流して盗賊が現れるだろう地域を下見することになり、彼に連れられて学院で対面してみると、そこにいたのはセスだった。そういえば星の加護を受けていたのだったなと、そこで思い出す。それにしても割と世間を騒がせているらしい事件の対処に抜擢されるとは、彼の方も順調に功績を重ねているようだ。


「式神の達者な魔術師が来るって言うから見当付いてたが、やっぱりお前か」


「ああ。もっと早めに応援へ来られれば良かったんだけど、洛外の仕事があってね」


「聞いてるよ。デカイ魔物を長距離護送したんだって?」


「良く知ってるな」


「事務局で働いてる連中も、そういう面白い案件には口が軽いんだ。道中擦れ違った人達はさぞ震え上がったろうと笑ったよ」


「確かに町から町へと、震え上がらせていく旅だったよ。彼らも珍しいものが見れて良い思い出になったろう。町に籠もってたら死ぬまでお目に掛かれないような大物だ」


 半年ぶりくらいに友人と顔を合わせて、軽くお互いの話。


「さて、そろそろ出発しよう。場所は西部だから馬車を使わせてもらおうか」


 促されて移動を開始。歩いているとナガミツが寄ってきて、お知り合いだったのですねと声を掛ける。「見習い時代からの仲だよ」と答えつつ馬車に乗り込み、都の西へと向かった。


「そういえばこの前、書庫で妙な女に声を掛けられたんだ」


「へえ、どんな人?」


「カナリヤっていう赤い髪をした二十代くらいの女。普段は新しい魔術の研究をしているらしい」


「知ってるな。結構有名な人だぞ? 若くして成果を上げてるし、将来有望で魔力もかなり強いらしい」


「そうなのか」


 横取りされるような功績を上げるくらいなのだから、確かに良く考えると前提として相応に優秀なのだろうと察して然るべきだった。セスの口振りからするに、取られたもの以外にも普通に結果を出しているようだ。


「随分、貴族への不満が強い人みたいで、初対面の俺にもしきりに同調を求めてきてさ」


「まさか、乗ったんじゃないだろうな」


「いや、俺の側には特に不満もないって分かると、そのまま帰ってったよ」


「なら良いんだが」


「あれが独立派って奴?」


「おい」と、セスがナガミツの方を窺う。


「何か拙かったかい?」


「役人の前でするには少々、物騒な推論だからな。何かあって俺達が密告したとでも思われたら面倒だ」


「じゃ、ナガミツ君、ここでの話は聞かなかった体で頼むよ。彼は俺の……殆ど女房みたいな人の弟だから、多分信用して大丈夫さ。で、実際のとこどうなんだ?」


 するとセスは少し悩んでから、やがて話しても問題なかろうと結論付けたようで、口を開く。


「多分な。明言はしないものの、あの人がそのグループの中核みたいだと聞いてる」


「中心人物があんな大っぴらに勧誘活動か」


「君だってはっきり、そうと誘われたわけじゃないのだろう?」


「確かに」


「どこまで本気で、何をどうするつもりなのか分からないけど、ああやって現状に不満のある魔術師同士の連帯を煽ってるらしい」


「ふうん。…………因みに勢い的にはどうなのさ。そんなに人が集まるものかね? 魔術師なんて結局皆、既得権側だし、同調はされ難そうだけど」


「案外多いらしいぞ。特に優秀な人程、何かしら貴族に強い不満を抱えてることが多いそうだ」


「意外だな」


 予想していなかった学院内の他の魔術師達の心境を知って、そう呟く。


「むしろ、お前はさっき不満がないって言ってたけど、聞いた限りじゃそれなりに貴族の手伝いをさせられてるそうだが、それで本当に思うところがないのか?」


「ないな。どれだけ厭味ったらしい相手でも頭を下げてお願いしてくるくらいには礼儀正しかったりするし、どの仕事も俸禄への評価にはバッチリ影響があって、金は順調に増えてくばかりだ。タチバナからはとびっきり良い女も充てがわれて、他にも何かあれば融通するって言ってくれている家もあるし、良いことばかりさ」


 これが俺にとっての貴族像だった。


「オレ達が接してる手合とは大分印象が違う。今でも家の人間を最前線まで送り出してるような気合の入ったとこは性根も立派なもんなのかもな」


「年中都に居座ってる奴ばかりの家はもうちょっと、関わり辛い感じか」


「中にはそういうのも、な」


「念の為、聞いとくけど、君は向こうに同調してたりしないよな」


「まさか。そもそもオレは君等と違って取られる程には手柄を上げていないよ。現状に満足してるし、トラブルの種に近付くつもりもない。ただ、タダツグの奴はちょっと親しくしてるみたいだが」


「あいつが?」


「ほいほいと適当に同調してたらそういう奴らが近寄ってくるようになったんだと」


「社交的過ぎるのも考えものだ。面倒に巻き込まれないと良いけれど」


 そのまま馬車は都の西部へ到着し、セスの誘導によって具体的に犯行の予想される地域まで進む。一度馬車から降り、魔術を用いて何かを確かめながら歩く彼に付き従って、この辺りからこの辺りまでのどこかだろうと予言を貰う。


「時刻は明日の晩、日付が変わる辺りだろうな」


「分かった。それじゃこの少し南に臨時の拠点を構えよう」


「オレも犯人の顔を拝んでみたいし、折角だから明日も付き合って良いかな」


「勿論。で、ナガミツ君、どこか適当な場所って心当たりある?」


「条件等はありますか?」


「まず静かなのは絶対。多数の式神の目を使うのは繊細な作業だからね。後はいつまで掛かるか分からないし、夜食の調達が容易なら言うことなしだ」


「近くに同僚の家があるので、そこを当たってみましょう」

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