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アンガー・メイジ  作者: 赤い酒瓶
第二章 鬼神
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第04話 ナイアからの手紙

 ずらりと並べた式神でカゲヨシと戯れてから朝食を済ませ、屋敷を出た。偶にはカゲヨシを連れて行ってみても良いかなと思うのだが、公にそうとは明かせない母親違いの兄弟とどのように関わらせるのが正解なのか今一判断が付かず、これまでのところ、実行出来ていない。


「やあ、今回も元気に帰ってきてくれて嬉しいよ」


 そんなシキの挨拶から始まって、応接室の机の上に一通の封筒が差し出される。いつもの流れだ。

 封筒に記載されていたのは西洋系の名前だった。これまでの依頼主は大体東洋系だったので珍しい。ガルディアと書かれてある。聞き覚えがある名前だった。


「結構な名門だったように記憶していますが」


「ナイア様のところだね。建国時から今に至るまで力を維持している家系だよ」


 洛中でも特に力のある魔術師として知られる一人だ。本人は星の加護を強く受け、武闘派ではないので都に留まり、女王の側にいることが多いと聞いている。面識は、多分、ある。


「孫が失敗したから助力して欲しいって」


「お聞きした限りでは、家中で処理する力がありそうですけれど」


「そうなんだよねぇ。今回失敗したお孫さんは君よりも若いくらいだから仕方ないとして、太陽の加護を受けた強い魔術師は複数いるはずだし」


「それでも足りないくらい強力な魔物となると、かなりの大物になりそうですね」


「もしくは家中で処理出来るところを態々、君に依頼したのかも」


 だとすると、それは何故だろうか。


「その場合は君と面識を得るための取っ掛かりとして、だろうね。派閥に取り込もうとしてくる可能性もあるから、一応、気を付けるように」


 今更タチバナから離れる理由などないのだが、気に留めておくことにする。

 その後はシキと別れて二階へと上がり、アリサの下へ足を運んだ。

 ノックし、室内に入ると薄着になって床に座り、杖作りに励む彼女の姿があった。ケイの姿もある。彼女は部屋の片隅で自分の子供を抱いており、その傍らでは幼児用のベッドがあって、アリサと俺の子供が寝ている。

 タチバナ姉妹との子供はどちらもまだ生後数ヶ月程度。カゲヨシよりも更に幼い。

「お帰り、サコン」と言って迎えられる。


「昨日、帰ってきたんだってね」


「はい」


「出来ればそのまま顔を出して欲しかったな」


「すみません。コノエと飲んでたら、旅の疲れが出てしまって」


「長旅だもんね。仕方ないか」


 そう告げて作業を中断し、立ち上がった彼女はこちらへそっと抱きついてきた。


「ガルディアから何か頼まれたみたいね」


「例によって魔物退治みたいですね。この後、顔を出しに行きます」


「変な誘いがあっても乗らないようにね」


「勿論です」


 どのような勧誘を念頭に置いているのか。そこに踏み入る問いを発するより先に彼女の顔が近付いてきて、口付けを交わすことになった。直接的な接触による魔力の影響も気に掛けず、ねっとりと絡みつかれる。


「マヤが羨ましい。家に貴方が帰ってきてくれるんだもの」


 かつては単なる師弟関係に過ぎなかった俺達だが、彼女に子を宿すため肉体関係を結んでから程なくして、アリサからはこういった、女としての好意が告げられるようになっていた。どのような心境の変化があったのか。


「一緒に暮らせれば良いのにね」


「そうですね。それが出来れば良いのですけれど」


 貴族の屋敷に住める外部の人間は女性限定だ。法で定まっているわけではなく慣習上の話で、血統を保つための空間に男が入り込むのは宜しくないために、そうなっているらしい。現在俺がやっているように、そんなルールがあっても問題なく外部の血は入り込めてしまうのだが、本当に血筋を汚している立場で堂々とその慣習を破るのは憚られる。


「ガルディアの家に行く前に、少しだけ時間は都合出来る?」


「多少なら。昼過ぎになる程度なら、遅いとも言われないでしょう」


 昔の俺ならば、貴族に呼び出された以上、なるだけ早く向かわねばと考えたところだろうが、今になってみるとそこまで気を使う必要も感じられなくなっていた。彼ら貴族もそんなことで腹を立てたりはしない。

「二人目が欲しいの」と、アリサの腕が俺の首に巻き付いてきたところで、赤ん坊が泣き出す声。

 彼女はかなり残念そうにしつつ、腕を離して自身の娘、リンの下へ向かった。

 代わりにケイが子供を抱えたまま寄ってくる。


「サコン殿、良ければこの子を抱いてやって下さい。公にすることは出来なくとも、貴方の子ですから」


 そうして渡された我が子を、その肌へ決して触れないように注意して受け取った。折角眠っているところを、魔力で驚かせては良くない。


「カゲヨシ君は元気ですか?」


「順調に育ってます。昨日家に帰って久しぶりに顔を合わせたら、トコトコと歩いてきて、もう一端に『ちちうえ』なんて呼ぶんですよ。ちょっと前までは『ぱぱ』だったのに」


「子供は成長が早いですよね。この子が大きくなったら、貴方のことは何と呼ばせましょうと、良く考えます」


「……難しい話ですね」


「…………サコン殿は、この子の父親を名乗れないことに、不満はありませんか?」


「ありません。初めから承知していた話です」


「でしたら、良いのですが」


「サコン、ちょっと時間掛かりそうだから、良かったら先にガルディアへ顔を出してきてくれない? 終わったら戻ってきて」


 リンに乳を与えながら、アリサからそのように声が掛かった。


「可能でしたらわたくし達のために、次の仕事への出発まで数日、猶予を確保して頂けると嬉しく思います」


 ケイがそう繋げて、俺の手の中から赤子を引き取った。


「昨日都に戻ってきたばかりですし、出発まで三日くらいなら、きっとどうにかなるでしょう」


 直ぐ戻ってくるからなと、ケイの腕の中に戻ったもう一人の娘へ静かに声を掛けて、それから部屋を後にする。

 屋敷を出て、ガルディア家を目指した。敷地の場所自体は把握している。

 道すがら先程のやり取りについて考えた。


 アリサやケイとの関係を公に出来ないこと、二人の娘の父親であると公言出来ないこと、それらに対して不満があるわけではないという点に偽りはない。美人姉妹と陰ながら結ばれて、名門貴族の血に俺の子種を紛れ込ませる。それだけで十分に美味しい話だ。

 ただ、一方でその現状を確認する度、俺自身の出世に対する頭打ちを感じてしまう。これ以上、手に入る範囲で欲すべきものが見当たらないのだ。

 俸禄は正直、もう十分過ぎるくらいになってしまった。アリサ、ケイという平民には高嶺の花な二人と結ばれ、家に帰ればこれまた美人の良く出来た女房のような存在に、息子。


 他に俺の欲望を喚起するような何かが欲しいなと、最近考える。そうでなくばこの忙しい日々に張り合いが出ない。

 これで俺が名誉だとか感謝だとかを追い求める気質であれば、魔物退治に精を出すだけで事足りるのだろうけれど、生憎とそんなに出来た人間でもなく。気紛れに美術品や工芸品を漁っているのにはそうした、欲しい物探しという面がある。


 例外的に一つばかり、欲を感じるようになった対象があるにはあるのだが、そちらは決して手に入らない代物だ。

 学院に来た当初の占いで告げられた災いの時期も、徐々に近付いていることだろう。

 どうにも、閉塞感が拭えない。

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