表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンガー・メイジ  作者: 赤い酒瓶
第一章 金色の獅子
23/70

第23話 闘技場

 見習い卒業が決まった日の夜、寮に帰ると早速タダツグらにも教えてやろうかと思ってその姿を探したのだが見当たらず、翌朝になっても姿が見えなかったのでひょっとしたら再び、祭祀の巡行に出かけているのかもしれない。

 朝食を済ませながら今日の予定を考える。タチバナの屋敷には今日、向かう必要はない。アリサから休みを貰っているし、新居探しについては何か進展があればシキから使いが来る。ただ、時間が余ればマヤへ会いに行きたい。早速、彼女に囚われているようだ。

 まずは闘技場に足を運んでみよう。その前に魔王の社か。神様に挨拶していく時間くらいはある。


 思えば徒歩でぶらぶらと洛中を歩くのは今日が初。闘技場での用が済んだらそのまま町中を観光してみよう。北の演習場で太陽神の加護を試したり、式神について学んだりは明日でも良い。

 食事を終え、自室で少し寛いでから出かける。昨日まで暫く和装で過ごしていたが、今日は普段通りの服装だ。

 正門を出て南下し、それから東へ。徒歩の視点から見る都の姿も新鮮である。


 港へ差し掛かり、浜辺を通って鳥居を潜り、社を訪問。今回は何事も起こらず参拝を終えて、それから西へ向かった。

 思いの外、徒歩では時間が掛かる。社に到着した時点で察していたことだが、改めて都の広さを思い知った気分だ。次からは辻馬車なり乗合馬車なり使うべきだろう。

 闘技場は石造りの広大な施設で周辺の建物の中でも群を抜いて大きく、どれだけの人数を収容出来るのか想像も着かない。

 丁度試合が行われるところらしく、金を払って中に入る。


 内部では中央の広場に向かって下っていく段差状に座席が設けられていて、中々の賑わい様だったが座れない程ではなく、あまり人の多くない後方の席を選んで座った。

 眼下では現在、複数の人間と一頭の猛獣による殺し合いが行われている。


 様子を見る限り、人間側は魔剣士でなく罪人だろう。みすぼらしい格好で血塗れになり必死で得物を振るっている。その武器から話に聞く魔剣の力は見受けられない。

 重罪人は都へ連れて行かれ、闘技場で見世物にされる。故郷にいた頃聞かされた話だが、今眺めているのはその実物というわけだ。飛び交う野次からもそのことが確認される。


 罪人らの腕前の問題なのか、彼らの間で上手く連携が取れなかったのか、それともそもそもこれが普通なのか、彼らは猛獣相手に全滅を喫した。獣の側も血塗れだが、闘技場の中央で唯一立って動けていた。

 決着までの間、俺自身は小さい頃から噂に聞いていた光景を目の当たりにしている感慨くらいしかなかったのだが、周りは盛り上がっている。辛うじて虫の息の罪人へ根性を見せろというものもあれば、さっさと次をという声もある。

 そのうちに観客席の中でも目立つ構造になっている位置に立っていた人物、恐らくは司会なのであろうそれが声を張り上げて何かを告げていたが、俺の位置では周囲の声もあって聞き取れなかった。


 選手用の出入り口から誰かが出てくる。

 多分、あれが魔剣士なのだろうなと推測出来た。衣装はまともで、立派な体躯をした大男が堂々と獣の方へと進んでいき、観客は歓声を以ってそれに応じている。獣が彼に狙いを定めて襲いかかると、武器を抜かずにそれを迎え撃ち、全ての攻撃を危なげなく躱してみせるということを続けた後、相手が一度間合いを開けて様子見に入ったところで抜剣。


 彼がそれを一振りすると刃の先から何かが飛んで、離れた位置にいた獣の頭が割られる。

 決着だった。


 一際強く歓声が上がり、男が手を振ってそれに応えているうちに司会がまた何事か告げて、男が入ってきたのとは別な出入り口を指し示した。

 そちらに目を向けると、今度は小柄な人物が入ってくる。身なりは整っていて剣を腰に下げており、一人。魔剣士同士の戦いが見られるのだろうか。

 予想は的中した。


 両者が、恐らくは司会の合図を待ってから武器を構え、戦いが始まる。双方から斬撃が飛んで、どちらも相手に躱された。じりじりと徐々に間合いを詰めながら魔剣士独自の応酬が続き、ある程度距離が縮まったところで大男の方が一気に詰め寄った。

 接近し、直接に斬り掛かる彼だったが、小柄な対戦者は跳躍してそれを回避する。跳んだ方向は正面。大男の頭上を悠々と余裕を持って飛び越えていった。着地すると振り向き様に斬撃を飛ばす。


 常人では有り得ない身体能力から繰り出されるそれらの動きに、気付けばすっかり見入っていた。どちらも魔剣のみならず、神の加護も強力なようだ。

 大男が粘り強く接近戦へと持ち込もうとした末、暫くは軽快な身のこなしで間合いを維持していた相手も応じざるを得なくなったのか、斬撃を飛ばすことなく直接に、刃を交える戦いが始まっていた。

 こうなると、体格の良い大男が有利なのだろうな。素人なりにそう予想したのだが、一瞬のうちに彼の剣が手元から弾き飛ばされる格好で決着が着いてしまった。


 それまでやや劣勢かに見えていた人物による呆気ない逆転に観衆も一瞬戸惑ったようだったが、直ぐに大きな歓声が上がる。

 大男の喉元に突き付けられていた切っ先がゆっくりと引き戻され、両者生存のまま試合は終わるようだった。小柄な人物が礼儀正しく観衆へ一礼し、それから舞台裏へと戻っていく。


 彼が出てきた出入り口は俺が座っている位置から比較的近いため、入場時はその背中しか見えなかったのだが、反対に退場する場合はその容姿を観察しやすかった。

 勝利者と目が合ったのが分かる。

 先日、アリサ達と共に社の前で擦れ違った人物に思えた。向こうもこちらの顔を見て一度立ち止まるという反応を示したので間違いはないはず。

 彼はその後、そそくさと引っ込んでいってしまった。


 さて俺はどうしようかと考えたが、今日の試合はこれで終わりらしく他の観客達が引き上げ始めたので、これ以上ここに留まる選択肢はないようだった。もう少し観戦していたかったなと思う。今度はもう少し早い時間に来よう。

 客の大部分が帰って人混みが緩和されてから、俺も闘技場内を後にした。外に出ると次の開催日と催しの内容に関する宣伝が大声で聞こえてくる。

 舞台裏で彼と少し話せないかなと考えた。


 全く無関係の人物なら通常は入れてもらえないだろうが、魔術師の場合は別だ。特権として出入りが許されると聞いている。

 都に闘技場が用意されている理由の一つは魔術師の支えとなる彼らを養成し、尚且居場所を用意して洛中に留めておくことにあるという。


 例えばダリのように、魔術の才能は授からなかったが神の加護を受け、強靭な肉体を得た人物がいた場合、彼らにとって闘技場の門を叩くことは有力な出世の道だった。闘技場は彼らを受け入れ、魔剣を与えてその力を振るうための指導を行う。裕福ではないが訓練中の生活は保証されるらしい。

 晴れて訓練期間を終え、魔剣を十分に扱えるようになると以降は闘技場でその力を見せつけることになる。魔剣士がそうなることは多くないそうだが死ぬこともあるその仕事から開放される道は二つで、魔術師に雇用されるか、魔剣を返上して引退するか。


 年老いた場合は兎も角、態々闘技場の門を叩いた人物が身の安全のために引退を選ぶことは稀なようで、多くは闘技場の試合で命を削りながら多額の給金を貰い続けるか、魔術師に仕えてもう少し落ち着いた生活をするかとなるらしい。どちらかというと後者を選びたがる者が多いそうだが、観衆からの喝采を好む者もまた多いという。それに闘技場の仕事の方が休日も多く、自由なのだそうで、彼が社を訪れていたのもそうした休みを利用したものだろう。


 果たしてあの小柄な男はどちらの道を希望しているだろうか。別に殊更彼を雇用したいわけではないので、駄目ならばまた、他を当たれば良い。

 さて控室に繋がる出入り口はどこかと訊くべく会場の人間を捕まえようとしたところで、俺に呼びかける者があった。

 振り返ると、件の人物が背後に立っている。


「先日社の前で擦れ違った魔術師様ですよね」


 少年と思っていたが、声からするに少女のようだ。真っ直ぐにこちらを見据えている。

「ああ」と短く答える。


「見つけられて良かったです。試合の後、直ぐに出てきたのですけど、途中、何人か観客の方から声を掛けられて、相手をしているうちに帰ってしまったかと」


 こちらも会いたいと思っていたのだから渡りに船なのだが、何故態々向こうから会いに来たのか。ひょっとしたら売り込みかもしれないと見当が付いて、俺の方からどこかで話さないかと誘ってみると二つ返事で承諾。

 俺はこの辺りに詳しくないので彼女に適当な店へと案内してもらおうかと思い頼んでみると、相手も都に来たばかりで殆ど勝手が分からないとのことで、二人で散策しながら目に付いた酒場へと踏み入るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ