表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クリスマスの霊

作者: さや



羽坂ユイ。20歳。



「………………」



せっかくのクリスマス。彼氏や友達全員からドタキャンをくらい、なにやら最近話が噛み合わず、気まずい母と実家で過ごすことになって……埃被ったツリーを飾った。そこまででも悲惨なのに


ツリーの横にずっと半透明のおじさんがいる。

あきらか幽霊だ。なんで……なんでこんな目に……。


私には霊感があった。


たとえば、夜中にトイレいくときに、蛇口から指が見えた、とかあいたふすまの隙間から目が見えた、とかその程度の怖い思いは何度も体験してきた。


それでもここまではっきり見えたのは、それでいて微塵も怖くないのは、はじめてで困惑していた。


なんか、若干はげてて、幸がうすそうで

おでこの広い、半透明の眼鏡のおじさんが、座っている。


やっぱり、幽霊というのは髪の長い綺麗な女じゃないと怖くないというか、怖さのジャンルがかわってしまうらしい


どうしようか、場所がいけないとおもう

これじゃ豆電球でロマンチックに光らせたところでおじさんの生え際がよりクリアにみえるだけ

ツリーを楽しむためには、おじさんにどいてもらわなくては。


「あのさ、私幽霊とか見慣れてるから

びびらないよ今更……どいてくれる?」 


ツリーの飾りはまだまだたくさん残っている。赤い小さな人形、丸いキラキラと光る玉、小さな透明のプレゼント袋、しましまキャンディ。

こんなに綺麗なのに

その横におじさんって!不釣り合いすぎるでしょ。

おじさんに対して、軽く、しっしと追い払うように手を動かすと、おじさんは見えてることに驚いたあとぽそりと呟いた。


「見えてるなら、声も聞こえるかな?

聞いてほしい

おじさんは悲しい人なんだよ……生きてる間に、大切な人と……本当に大切な人達とクリスマスらしいクリスマスを過ごせなかった

だから成仏できないんだ」


「知らないよそんなの」


「おじさんは地縛霊だよツリーの横から離れられない

このまま片付けてもいいけどおじさんもセットで片付けてまた倉庫にしまうかい?気になるだろう

この機会におじさんを成仏させたほうが君にとっても良いはずだ」


一理あるけど、せっかくのクリスマスだというのにおじさんを成仏させる話になってきてしまっている。

今頃彼氏と高級レストラン行って夜景を見ているはずだったのに、電車の中で年越しむかえる、みたいなすごく損した気分だ。 

幽霊を成仏させたのははじめてではないし

たしかにちょっと望みを叶えてあげるだけでなんとかなるケースもある

今回もそれらしいけど


「クリスマスらしいことをしたらおじさんは即成仏するよ」


「クリスマスらしいことって何よ……」


「まずはチキンだね

冷蔵庫にあるだろう、それを焼いて用意してほしい

たべれないけど、雰囲気が大事なんだよ」


「……」


私はおじさんの指示通りに、チキンを並べ、ケーキを用意し、クリスマスツリーのライトを点灯した。


「クリスマスぽい!クリスマスぽいよ」


「うるさいなあ」


「あとはハッピーメリークリスマスの音楽でも一緒に歌おう」


歌うのははずかしかったけど、おじさんと一刻も早くお別れしてクリスマスをやり直したい私は歌い始める。


おじさんは段々透けていった。


あとはこれみよがしにサンタの砂糖菓子を投げてみると

大ダメージを受けていた。


「立ってられないよ!

そんなに『クリスマス』されちゃあ……」


「あんたにとってクリスマスってなんなのよ……」


もうほとんど透けているが

あともう一撃……

私が悩んでいると、玄関の方から音が


母が帰ってきた。




「ユイ、いるのー?メリークリスマス

シュトレン買ってきちゃった」



クリスマス付近にたべるおしゃれな菓子パンだ。

これはクリティカルヒットの

クリスマスだった。


おじさんはとうとう粉砕され、夜空に消えていった。



「や、やった勝った……」


私が虚空を見上げていると

母は、ゆっくりと席に座った。

クリスマスは、同時に私の誕生日でもあった。


シュトレンをきり、紅茶を並べると母はとても言いづらそうに深呼吸してから語りだす。



「ユイ、実は大事な話があってね」


「な、なによ改まって」


さっきまでおじさんを成仏させるのに奮闘してたので急にシリアスになられても、頭が切り替えられないけれど。


母は切り替わっているらしい

というかこの時を待っていたらしい。



「この歳になるまでね

ずっと黙ってたの……いつ本当のことを言うべきか……

実は……もちろん、愛情は本物よ

自分の子として大切に、大切に育てた

でもあなたには知る権利がある……

あなたは養子なの

本当のお父さんとお母さんは、貴女が幼い頃、クリスマスの前に事故で亡くなってしまって……

私はもともと隣に住んでた独身の女だった

子宝に恵まれず…あなたを引き取った……」


母の手は真っ白だった。

きっと、私が裏切り者と怒って、縁を切るとか言い出すと思っているのだろう。

最近、いや、きっと、ずっと

なんか気まずかった理由はこれかあ。



「あなたの本当のお父さんは……」


「ううん、いいよ。わざわざ言わなくて」


「え?」


「……もう見たから」


『おじさんは悲しい人なんだよ……生きてる間に、大切な人と……本当に大切な人達とクリスマスらしいクリスマスを過ごせなかった

だから成仏できないんだ』



外は、雪が降っている。



「顔あげてよ、べつにそんなの今更だし

実際産んだとか産まないとかいいや

一緒にすごしてきて実際見えてるのがすべてでしょ


クリスマスは家族皆で笑って過ごすものよ」





ね?そうでしょ?


家の中も外もキラキラと眩い、こんな日は 

きっと、俯いて苦しむ必要はないんだろう。




メリークリスマス。



end

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ