二人だけの世界
血液の塊が、ゴポリと音を立てながら、少女の喉奥から這いずり出る。
その透き通るように白く、細い喉が、その痛みに震えようとする。
その震えが、大気にまで伝わる前に、彼女の唇を、自らの唇で塞ぐ。
鉄の味と、彼女の唾液の味とが混じり合い、僕の舌に刺激を与える。
――初めてのキスは、濃密な死の味がした。
彼女の腹部に刺さる刃物。
滴り落ちる鮮血が、僕らを濡らしていく。
朱色に染まる頬に、紅く染まる口元。雫の流れ落ちる、つぶらな瞳。
苦悶に歪むその表情が、僕の情欲を一層搔き立てる。
そっと、彼女の腹部に生える刃を引き抜く。
――瞬間、傷口から、温かな血が溢れ出る。
より一層零れる血液が、僕ら二人だけの世界を紅色に染めていく。
はぁッ…、と彼女の口から吐息が漏れる。
彼女の、つま先から頭のてっぺん、髪の毛一本、吐いた息に至るまで、全てを僕の物にしたい。
そんな想いに突き動かされるように、彼女の唇を貪る。
苦悶の表情を浮かべる彼女もまた、必死に舌を絡め、僕を求めてくる。
そんな姿勢がまた可愛くて、また愛おしい。
僕の後頭部に腕を回し、もう離さないと言わんばかりに、その細腕でギリギリと締め付けてくる。その窮屈な痛みが、僕がここに存在していることを感じさせてくれる。
絡む舌が味覚を甘美に刺激し、鉄の匂いが鼻腔をくすぐる。
彼女の服を少しずつ脱がしていく。
ボタンを外す度に雪のように真っ白できめ細やかな柔肌が晒され、それに比例するように頬が朱色に染まっていく。
貧相と言ってもいい程の、未成熟な体付き。
真っ白な柔肌に、主張する薄ピンクの蕾。
触れるたびに体が跳ねるように痙攣する。
僕を拘束する腕をゆっくりと解き、顔の位置を下げる。
ビクビクと揺れる突起を口に含み、舌で転がす。
痛みと快楽が交じり合い、彼女は切なそうな表情を浮かべながら、めいっぱいに息を吸う。
刃物の傷口にそっと手を当てて、中に指を入れる。
――瞬間、彼女は目を見開き、口を大きく開き、声にならない悲鳴を上げた。
痛みに、体が小刻みに震え、僕の腕に爪が食い込み、肉が裂け、血が流れる。
腕に爪が食い込んだ痛みも、僕にとってはスパイスでしかなかった。
自然と、口角が上がっていくのが自分でも分かった。
――ああ、この目の前の少女が愛おしくてたまらない。
だって、これだけされてもなお、期待の籠った瞳で、こちらを覗いてくるのだから。
大きく開いた口に僕の口を近づけ、彼女の舌に軽く噛みつく。
そのまま、彼女の舌を蹂躙し、鉄と唾液の入り混じった味を、また堪能する。
彼女の身体を抱きしめれば、強い抱擁が返ってくる。
お腹の傷口から手を抜くと、血液と共に臓物が零れる。
体を締め付ける力がさらに強くなる。
――ああ、幸せだ。今、僕は幸せの絶頂にある。
段々と薄れていく生命に、僕は軽くキスをして、耳元でそっと呟いた。
「――愛してる」
これ以上は、もう何も要らない。
僕は亡骸を抱きながら、笑顔で自分の心臓に刃物を突き立てる。
二人で、共に逝こうか。
――そこには、抱き合う男女の骸だけが残った。