第7話「はい、今でも大好きです!」
それから俺は変わるために努力した。
部屋の掃除はもちろん洗濯もしっかりとして、自炊だって始めた。
ダラしない見た目だって変えようとした。
普段は絶対行かないようなオシャレな美容院に勇気を出して通い、ボサボサの髪を整えた。
入った瞬間店員が話しかけてくるような衣料品店に行き、アドバイスを受けて服を買った。
慣れない手つきで眉毛も剃って、ニキビ対策も入念に行った。
「なんかさ、最近太一変わったよな?」
「まあな」
「やっぱりあれか? 愛の力ってやつか?」
「ちげえよ、啓。俺と御白さんはただの友達、付き合ってないって」
「ええ……あれだけ一緒にいてそういうのかよ」
「実際そうなんだから仕方ないだろ」
「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」
「なんだそれ」
だいぶ遅くなったけど……俺は啓を挟んでクラスの色んなやつらと話すようになった。
俺が勝手に卑屈になっていただけで、大抵のやつらは皆気の良いやつだった。
詩織のことについてあれこれ聞いてくるのだけはウザいけど……。
「それじゃ、テスト返すぞ~。生田目」
「はい!」
「今回はよく頑張ったなぁお前。赤点どころか全部平均超えてるじゃないか」
「本当すか! よっしゃぁ!」
「遅刻もしないようになったし……先生嬉しいぞ……うっうっ……」
「下手な泣きまねはやめてくれませんかねえ……」
遅刻は全くしないようになったし、今回の定期テストでは初めての赤点ゼロを記録した。
どうだ、これでダメ男は卒業して普通の男程度にはなれたはずだ……。
なのに……。
「太一くん、お昼は何がいいですか? 腕によりをかけて作っちゃいますからね」
「いやいいって、俺が作るから」
詩織は相変わらず俺の家に入り浸っている。
おっかしいなぁ……。ダメ男は卒業したと思ったんだけど。
いつからだろう。
優しくて健気な所に惹かれて……詩織を意識するようになったのは。
ただ世話をされて後ろ指を指されるような男にはなりたくなくて、隣を並んで歩けるような男になりたいと思うようになって。
でも隣を歩くには、普通の付き合いをするにはまだ俺じゃダメダメすぎることは分かっている。
でも今日は……このくらいのことをしても許されるだろう。
「なあ詩織」
「はい!?」
突然の呼び捨てに詩織は目を丸くして驚いた。
これは……俺の意思表示だ。
「前からさ、俺のことを好きって……言ってくれてたよな」
「はい、今でも大好きです」
屈託のない笑顔で、詩織は何度目かも分からない愛の言葉を口にした。
「俺も、詩織のことが……好きだよ」
「本当ですか? ついにですね!? ならこれから私が太一くんのことを全部……」
「そうじゃないんだよ」
「え?」
「一方的に詩織に世話になるんじゃなくてさ、お互いに助け合えるような、そんな関係になりたいんだ」
それが好き合って、付き合うっていうことだと思うから。
「ごめんなさい……私にはピンと来ません。愛とは無償の愛。自分の全てを捧げたい、甘やかしてあげたいと思うこの気持ちは愛ではないのですか?」
「それは多分……世間一般でいう好きから少しズレてるかな」
分かってる。
詩織がまた俺のことを男として意識していないことを。
だからこそ、今ここで宣言するんだ。
「だから俺はこれから、ダメ男から変わって、本当の意味で俺のことを好きになってもらうから。覚悟しておいてくれ」
ポカン、と。
口を半開きにして固まる詩織。
いいんだ。今は分からなくても。
そう思った刹那。
つー、と詩織の目からキラリと光る雫が、尾を引いて流れ落ちた。
「えと……詩織?」
「う……う……あの太一くんがこんなに立派になって……私、嬉しいです」
「親目線かよ!」
まあ今はこれでいい。
俺も詩織が好きだ、と伝えるだけでいい。
ここから絶対隣を並んで歩ける、一人の男として意識させてやるから。
ダメ男、生田目太一の決意を見届けていただきありがとうございました!
ほんっとに軽い気持ちでいいので感想を投げてくれると、私狂喜乱舞するのでよろしくお願いします。
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