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第6話「ほっぺにご飯粒がついてますよ?」


 授業と授業の合間の10分。

 その時間だけなら逃げ切れるが、そうも言っていられない時間がある。

 そう、昼休みである。

 一時間近いこの休み時間をどう過ごすか。

 少なくとも教室にはいたくない。

 

 幸いなことにこの学校には給食という制度はない。

 弁当を持参するか、あるいは食堂や購買で食べ物を購入するかの二択である。

 当然この俺が弁当なんて用意しているはずもなく、毎日のように安いパンをかじって腹を満たしている。


 だから俺は昼休みに入ると、いつもと同じように、或いはいつも以上の速さで教室から逃げ出そうと試みた。

 起立、気を付け、礼。

 その前傾姿勢を前への推進力へ変えて、教室の前扉に向かって一直線……。


「あの、太一くん」


 その言葉を無視できるほど、俺は腐っていなかった。

 急ブレーキをかけて、前につんのめりそうになりながらも教室大脱出計画を中止して声のした方に首をギィと向ける。


 声の主はもちろん、詩織であった。


「ナニカナ……?」


 俺はカチコチとぎこちなく機械音声のように返事をする。


 視線が一斉に俺と詩織の方に集まるのを感じた。

 間の悪いことに、このやり取りが授業終わりの教室に響く第一声になってしまったのだ。

 計画が完全に裏目に出てしまった形になる。


「お弁当……作ってきたのですが、一緒に食べませんか?」


 少し恥じらいながら口にするその姿は正に眼福。

 周囲の男子もOH……と声を漏らしそうになっている。というか漏れてる。


 さて、どうしようか。


 【選択肢1】断る。

 【結果】次の瞬間クラスの男子に殺される。


 【選択肢2】一緒にお弁当を食べる

 【結果】クラス内外から好奇の目に晒される。


 はい、どっちにします?

 どっちにしろ詰みですね。

 対戦ありがとうございました。


「えーと……そうだねえ」


 俺は無い頭を必死に絞って最適な選択肢を探し続ける。


 その間も刃物のように鋭利な視線が俺の全身へと突き刺さっている。

 それだけならまだ俺が耐えればいいだけなのだが……。

 一部女子は何とも微笑まし気な目線を詩織に向けている。


 健気な詩織のことだ、同性にも当然人気があるのだろう。

 そんな詩織の一途な想い(に一見すると見えるもの)を応援したくなる気持ちは理解できた。

 相手が相手だけに複雑な気持ちはあるだろうが……。


 そんな中、あからさまに不機嫌そうな、不快そうな視線を詩織に向ける一団がいた。

 俺の記憶だと常に教室の中央でギャハギャハと品の無い笑い声をあげている陽キャもどきのグループだ。


 本当の陽キャは啓のように俺たち陰キャに対しても優しい。

 というより陽キャ陰キャの区別すらしていない。

 誰に対しても等しく優しい。


 だが、あいつらは違う。

 自分達を陽キャだと思いこんで、大人しい陰キャを自分達より下の存在だとして見下す。

 そうした相対的な立ち位置でしか物事を判断できない哀れなやつらである。


 そんな陽キャもどきのグループが詩織にも、俺にも聞こえるように、あからさまな陰口を叩き始めた。


「つーか、御白さん男の趣味悪くね?」

「分かるわ~、いくら何でもあれはないっしょ」

「完璧に見える御白さんの汚点っしょあれは」


 言いたい放題言ってくれる。

 確かに俺は詩織の隣にいるには相応しくないダメ男だ。

 だが、ダメではあるがこいつらみたいなクズではない。そうはなるまいと決めている。

 それが俺の底辺なりの譲れないプライドだ。


 詩織はそんな言葉も聞こえないフリをして、俺の答えを待っている。


──あ、そうだ。


 おかげで俺の頭に第三の選択肢が浮かんだ。


 【選択肢3】人気のない所で一緒に食べる。

 【結果】噂はされるが、俺と詩織の耳には届かない。


 かんっぺきだ。

 これ以上ない選択肢だ。

 

 いくら詩織が完璧美少女とはいえ、噂されて、心ないことを言われて、傷つかないかと言えば絶対にそんなことはない。

 そう、友達としてこの事態は見過ごすわけにはいかない。


 俺は決意を固めた。


「ありがとう、なら外で一緒に食べるなんてどうかな?」

「外で、ですか! いいですね、ピクニックみたいです!」


 吐き捨てるように陰口を言い続ける陽キャもどきたちを無視して、俺たちは二人で教室をあとにした。



※※ ※



「その……ありがとうございます」

「ん? 何が?」

 

 グラウンドの端にひっそりと置かれたベンチ。

 俺と詩織はそこに並んで座って弁当を食べていた。


「さっきの事です。私を助けてくれようとしたんですよね?」

「それもあるけど、一番の理由は俺がムカついたからだよ」


 うるせえ誰が「あれはない」だ、「汚点」だ。

 言いたい放題言ってくれやがって。


 覚えとけよ、俺はネチっこいんだ。

 今日のことは絶対忘れないからな。


「普段は私が守ってあげたい、お世話してあげたい……って思ってるんですけど、守ってもらうのもいいですね。私、惚れ直してしまいました」

「そんなこと……」

「だから、改めて……好きです。私に太一くんの生活を管理させてください」

「あのさぁ……管理から離れられないのかね」


 今一瞬、良い雰囲気になりかけたのに。

 ぶち壊しだよ、本当にもう。


「ダメ……ですか?」

「ダメだね、絶対に」


 嫌に決まってる、女子から世話されるだけなんて。

 本当に好き同士なら……助け合うものだろ?


 でも分かってしまった。

 今のダメ男の俺のままじゃ、隣にいるだけで詩織の株を下げてしまう。

 詩織に管理されるのは絶対嫌だけど……

 せめて隣にいても詩織がバカにされない程度の人間にはなろう。

 そう、立派な人間に……。


「あ、太一くん。ほっぺにご飯ついてますよ、ほら」

「え、うそ? ……うわ本当だ」

「それに、お膝に少し食べこぼしができていますよ」

「あちゃー……」


 そう、立派な人間になるのだ。

 って言っても説得力ないよなぁ~、これじゃ。


ラストは夜20時に更新予定です!


少しでも面白かった、興味を持った、ヒモになりたい、等思ってもらえたら、ブックマーク登録や感想等、反応くださると嬉しいです。


また、作者のモチベに繋がりますので、下の方にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から率直な評価をしていただけるととても! とても! 嬉しいです。

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