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第5話「俺の評価? 冴えないクソ陰キャだろ?」

 予想通りだ。

 浮いた話一つなかった学校一の美少女の隣についに男が!?

 しかもその男……誰だこんな冴えないやつは! こんな奴学校にいたのか?


 すれ違う人から向けられる奇異の目。

 胃が擦り切れそうになるのを堪えながら、何も見ないように、聞かないように、俺は心を無にして歩いた。


 道中詩織は親し気に、楽しそうに話しかけてくるものだから、視線の鋭さはより鋭利になっていく。

 明日には呪殺されているかもしれない。


 帰ったら遺書を書こう。

 あとパソコンの検索履歴は消しておこう。


 俺は固くなりながら、尽きることなく話題を振ってくる詩織に曖昧な生返事を返すことしかできなかった。

 それでも嫌な顔一つしないどころか、イエス、ノーの答えでも大袈裟に喜んでくれるものだから余計に罪悪感がチクチクと刺激される。


 正門を抜けて昇降口へ。

 通り過ぎる全ての生徒の視線のアーチをくぐって、教室へと辿り着いた。

 よしやっと一息つけるかと思いきや当然教室でも、詩織が冴えない俺を同伴して登校してきた事によってひそひそ話の大合唱である。


 俺はいたたまれなくなって即座にトイレへと駆けこんだ……。



※※ ※



 話しかけるなオーラ全開。ATフィールド出力最大。

 トイレから戻った俺は机に突っ伏してただ時間が過ぎるのを待った。

 その代わり、とは言ってはなんだが案の定詩織の元には大量の男女が群がって今朝のことについて根掘り葉掘り聞いているようだ。

 あのなぁ……お前らもうちょっと遠慮ってものを知れよ……。


 とか思いながらも、もう一人の当事者は狸寝入りをキメ込んでいるのだ。

 そりゃ詩織の方に殺到するしかないわな。

 押し付けてごめんなさい。


 何を話しているのかは分からないけど……女子からはキャーキャーと言う甲高い悲鳴が上がり、男子からは悲壮感の溢れた声が漏れ出ている。


 ああ……これ全部話したんだろうな。

 今日の帰り道は背後に気を付けよ……。

 まあ、気を付けた所でこんなヒョロガリもやしな俺に抵抗の術があるとは思わないけど。


 どっちにしろ詩織に一通り話を聞き終わったら次は俺の所に来るんだろうなぁ……。

 憂鬱だ。

 もうこの件に関しては人の噂も七十五日。

 しばらくの間は追及に対して耐えるしかない。

 俺はもう諦めていた。

 

 ただ今だけは……この朝の時間だけは静かに過ごさせてくれ。


 俺は変わらず狸寝入りをキメてピクリとも動かない。

 どうよ、いくら気になったとしてもこんな状態に話しかけられる奴なんているはずが……


「なあ、太一!」


 いたわ、一人。

 無視だ無視。


「ちょ、無視は酷くないか? それともガチ寝? まあいいや、おーい起きろよ~」


 バンバンと無遠慮に背中を叩いてくるアホは永田啓。

 校則ギリギリの茶髪が良く似合うバスケ部所属の青春キラキラ野郎。


「いてえんだよ……啓」


 運動部特有の激しいボディーコンタクトは帰宅部にとっては致命傷になりえる。

 一瞬ガフっと息が止まるかと思った。


「なんだ、やっぱ起きてんじゃん」

「お前に起こされたんだよ」


 あくまで不機嫌な様子を隠さない。

 生田目と永田。

 ちょうど出席番号が一つ違いという縁こともあって、このクラスで一番最初に喋った相手。

 陰キャと陽キャ、立場が違うのに妙に波長があったのか、こうして遠慮なく話す程度の間柄ではある。

 一応俺の数少ない友人、と言えるだろう。


 朝詩織と一緒に登校することになった時点で覚悟はしていた。

 そんな面白そうな状況を、お調子者のコイツが放っておけるはずがないだろう、と。


「なあ、あの御白さんから告られて……しかもフったってマジ?」

「黙秘権を行使する」

「おいおい、裏は取れてんだぜ。当の本人が告白してフラれたけど、お友達から始めることになったって言ってんだぞおい!」

「言ってたのはそれだけか?」

「ああ、まだ何かあるのか?」

「いや、何も」


 よかったあぁ。

 まだ詩織がどうして俺に告白したかまでは、話が及んでいないらしい。


「ダメ男な俺の生活を管理してあげたいから」なんて理由で告白されたなんて知られたら、さすがにドン引きされるでしょ。


 詩織もさすがにそこまで話したりしないよな……。

 というかさすがに「何が好きで告白したの?」っていきなり聞くような無粋なやつはいないよな、多分。

 まあそれも時間の問題だと思うけど……一応詩織には釘を刺しておくか。


「それにしても俺ぁ嬉しいんだよ、お前のことをちゃんと評価してくれる人間が他にもいたんだって思うとさぁ」

「俺の評価なんて冴えないクソ陰キャ以外に何かあるのか?」

「全くさぁ……そうやって自虐すんのやめろよな!」

「自虐じゃなくて客観的事実、と言ってくれ」

「へいへい、相変わらず頑固だねぇ」


 啓はちゃんと評価、と言っていたが、詩織が俺を好きになった理由って「ダメ男で、私がいないとダメそう」だからな?


 それを評価と言うのなら、俺には与えられるべきは天性のヒモ気質人間ということになってしまう。

 嫌だ。

 そんなの俺のプライドが許さない。


 俺は確かに底辺だけど、底辺なりに、底辺だからこそ譲れないプライドがあるんだよ


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