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第3話「飽きたら捨てていいですからぁ……!」



ピンポーン


 本当に家の近くまで来ていたらしく3分と待たずにインターホンが詩織の来訪を告げた。

 俺は片付けきれなかったゴミを両手で掴んで部屋の隅に押し込むと、急いで玄関に向かった。


 ドアを開けると、満面の笑みを浮かべた詩織が立っていた。

 学校ではしていない化粧をして、フレアワンピースを清楚に揺らすその姿は正に深窓の令嬢然としていた。

 その美しさに見惚れて一瞬呆けてしまう。


「えと……やはりご迷惑でしたか?」


 固まる俺を覗き込むように、顔を近づける詩織からは柑橘系の爽やかな香りがした。

 香水もつけているのだろう。


「いや……なんて言うか……部屋がこんな有様だからさ」


 そう言って、部屋の奥を指さした。

 足の踏み場と、二人が座れる程度のスペースは生まれたが、その周りはゴミが取り囲んでいる。

 こんな空間に女子を招くことになるなんて男、生田目太一、一生の恥である。


 さすがにこの有様を見れば、いくら詩織でもドン引きするに違いな……。


「まあ、想像通りです! 掃除が苦手というのは本当だったのですね」

「何で嬉しそうなんだよ」

「ふふ、私ちゃんとゴミ袋を買ってきたんですよ? 押しかけたお詫びにお掃除をさせてもらいますからね」

「いやいやいや、そんなこと悪いって。そうだ、近くの公園に行こう! そこならうるさいけどここよりはきっとマシだし……」

「まあ、私を気遣ってくださるのですね。やはり私が見染めただけあります。お優しいのですね」

「……何で褒められてるんだ俺」

「ご心配には及びませんよ。私、掃除得意ですから。太一くんは私の作ったサンドイッチでも食べながらゆっくりくつろいでいてください」

「そんなことできるかい!」


 やっぱネジが一本外れてるよこの人。

 ダメ男に甘すぎる。

 無限ヒモ製造機じゃないか。


「もしかして私が掃除を終えるまで朝食を食べるのを待ってくれるんですか? でしたら起こしてしまった分、もう一度寝ては……?」

「分かった。掃除するから。俺が掃除するから、詩織さんもどうか手伝ってください!」

「そうですか……私だけじゃ不安でしたか……」


 何でガッカリしているんだよ。

 本当にワケが分からない……。


 本当にくつろいでくれていていいんですよ? となおも俺を甘やかそうとする詩織と共に、ゴミ屋敷と呼ぶ一歩手前くらいの汚部屋を手分けして掃除した。

 率先してキツいことをやろうとする詩織を何度も何度も制しながら……。


 掃除が得意というのは本当のようで、ロクな掃除道具も無かったのに1時間もすると俺の部屋は見違えるくらい綺麗になった。


「本当に綺麗になった……」

「太一くんが頑張ってくれたからですね。偉い偉い」

「褒めようとするな、頭を撫でようとするなぁ!」


 何もできない子供扱いされているようで……実際されているんだろうけど、ムズ痒い。

 背をめいっぱい伸ばして頭を撫でようとする手を躱すと、ムスっと不満そうな表情を見せた。


 そして俺たちは綺麗になった部屋で、朝食のはずがすっかり昼食になってしまったサンドイッチを食べることにした。


 ハムチーズ……卵……ベーコンレタス……。

 定番の具材だが、どれも丁寧に作られていて味も抜群によかった。


 食事中、気になることがあったので、俺は何気ない感じで詩織に問いかけてみた。


「なあ、詩織さんは友達ならいっぱいいるだろ? どうして俺にそんな構うんだ?」


 純粋な疑問。

 学校では常に誰かと一緒にいる人気者の詩織のことだ。

 休日に遊びのお誘いを受けることだって頻繁にあるだろう。

 ダメ男の俺に構う暇なんて本来無いはずだ。


「なんて言えばいいんでしょう。太一くんは私にとって初めてのお友達、なんです」


 想像以上に闇の深い感じか、これ?

 ひょっとして俺地雷ふんじゃった?


「えと……いつも一緒にいるのはお友達じゃないのか?」

「いえ、彼女たちもお友達です。でもお友達はお友達でも……太一くんは特別なんです」


 真剣に真っすぐ見つめられてそう言われると、どくんと心臓が早鐘を打ってしまう。


「特別……俺が?」

「はい、特別です。私にとってお友達というのはいつの間にか、勝手にできているものでした。皆さん私に優しくしてくれて……とても嬉しいのですが……太一くんは違うんです。私から、自分から初めて作ったお友達なんです!」

「いや……経緯が経緯なんだけど」


 友達、と言っても友達になった経緯があまりにも奇特すぎる。

 詩織が告白(?)してきて俺がそれを断って、それで友達から始めましょう、でできた友達だ。

 普通社交辞令で終わってしまう関係だろうに。


 それでも詩織にとって、自分から動いてできたという事が大事らしかった。


 まあでも分からないでもない。

 クラスに詩織みたいに綺麗な子がいたら、皆下心があってもなくても友達になろうと近寄ってみるよな。

 俺はコミュ症だから近寄れなかったけど。


「だから、太一くんのことは大切にしたくって……」


 照れたように、頬を薄紅色に染める詩織……。


「かわいいかよ……」

「何か言いました?」

「いや、何でも?」


 あっぶねー、つい口から本音ポロっと零れ落ちたわ。

 何その理由、可愛すぎるでしょ。

 こんなの惚れない方が難しいでしょ。


「それと、私まだ太一くんの事諦めてないんですからね?」

「はい?」

「今日はこのくらいで勘弁してあげますけど、これからもっともっと甘やかして私無しじゃ生きられなくなるくらいまで管理してあげるので覚悟しておいてください!」

「何その宣言……絶対お断りなんですけど」


 百年の恋も冷める言葉である。

 俺は確かにダメ男ではあるが、少なくとも精神まではまだダメ男になり切っていないはずだ。

 そんなの男としてのプライドが許すはずがない。


「それじゃあ、駅まで送るよ」

「いえ、まだ細かい所の掃除や洗濯が……」

「駅まで送るよ」


 有無を言わせぬ圧をかけて、詩織を追い出そうと試みる。

 これ以上甘やかされたら本当にダメになってしまいそうだから。

 弱い自分に抗うために俺は心を鬼にして詩織を追い出すことに決めた。


 詩織も渋々ではあったが納得したようで帰り支度を始めた。


「なあ詩織さん」

「はい、何でしょう」

「次からはさ、家に来る前には必ず連絡してくれないか?」

「それはつまり連絡さえすればいつでも来て良いということですか?」

「いや、都合が悪かったら普通に断るから」

「そうですか……」


 マジでこのままだと明日も明後日も、毎日入り浸るとかそんなことになりかねない。

 そんな長時間こんな美少女に世話をされて、堕ちない自信は俺にはなかった。


「それじゃ、なんやかんやあったけど……今日はありがとうな」

「そんな、私の欲望に従っただけで全然、太一くんにお礼を言ってもらうなんて」


 恍惚とした表情を浮かべる詩織。

 幸せのハードル低すぎないか?


「ああ、やっぱり私太一くんのこと好きみたいです。管理させてください」

「絶対に嫌だ」

「飽きたら捨てていいですから!」

「語弊を招く言い方ぁ!」


 どうも俺と詩織の関係はまだ続きそうである。


少しでも面白かった、興味を持った、ヒモになりたい、等思ってもらえたら、ブックマーク登録や感想等、反応くださると嬉しいです。


また、作者のモチベに繋がりますのでl、下の方にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から率直な評価をしていただけるととても! とても! 嬉しいです。

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