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王子様のキスは… -友人視点、先輩視点-

 前半部分は友人視点、後半部分は先輩視点となっています。

 それは本当にたまたま。たまったま、別の教室に忘れ物をしたことに放課後気付いて。王子先輩が迎えに来るまで教室で待ってるしのちゃんに、すぐ戻ってくるから鞄だけ見ててってお願いをして。流石に廊下は走れないから、早歩きぐらいで頑張ったわけですよ。それでも急いで戻ってきたときには、既に教室の中に王子先輩としのちゃんの二人だけで。


「ちょっ…!!だからっ、戻ってきたらすぐ帰るから…!!」

「うん。だから愛ちゃんの友達が戻ってくるまででいいから。ね?」

「ね?っじゃなああぁぁい!!」


 焦ったようなしのちゃんの声に対して、王子先輩の声はあんっま~~くて。そしたらもう、一方的にイチャコラしてるんだろうなって、分かるじゃないですか。でも鞄は教室の中だし、入らないわけにもいかないし。邪魔したいわけじゃなかったんですけどね?王子先輩に悪いなと思いつつ、ちゃんと扉開ける音をさせて入ったわけですよ。


 そしたらどうなってたと思います?


「あ。残念、帰って来ちゃった」

「わぁ!?!?ちょっ!!聖也くん!!離れてっていうか、はーなーしーてぇ…!!」


 ハグですよハグ!しかも正面から!!教室の中でですよ!?流石王子先輩って思っちゃいましたよ!!一切恥ずかしそうじゃないし!!

 でもこう…本気で残念そうな顔されたら、つい……


「あ、私のことはお気になさらず。どうぞ続けてください」


 そう、言っちゃってたんですよねぇ…。

 たぶんあれですよ。教室の中に誰もいなかったのも、王子先輩のあのフェロモンにみんなやられる前に避難した結果だったと思うんですよ。


「ちょっ!?えぇ!?!?待って!!この状況でそういうセリフは…!!」

「うん、ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな」

「あ、甘えるなああぁぁ!!!!」


 まぁでも、すぐに私も帰るしいっかーなんて。気楽に考えてたら、ですね?


「ちょっ、まっ…!!んっ…ふっ……」


 忘れ物を鞄にしまっている間に、後ろからなんか聞こえてくるわけですよ。いやなんかっていうか……主にしのちゃんの色っぽい声?

 そんなの聞こえてきて、振り向かないでいられます!?いられませんよね!?私は当然振り向きました。そして予想通り、そりゃーもう濃厚なキスをしてましたよ。えぇ。

 あの王子先輩が、ですよ?しのちゃんも多少は抵抗したんでしょうけど、あの人にかかれば微々たるものなんでしょうね。


 しかも!!校内の王子先輩のイメージとは違って、キスは割と長くてねちっこい感じなんですよ!!見てるこっちが恥ずかしくなるようなやつ!!あれを日本人でやる人ホントにいるんだーなんて、いっそ感心しましたよ私!!


 あ、で。結局、ですね?


「な、んで……学校なのに……」

「だって、続けていいって言われたから」

「私はいいって言ってないぃぃ…!」

「ん、っと……」


 しのちゃんの言い分も分からなくはないんですよ。分からなくはないんですけど、ね…。王子先輩がちょっと困ったような顔でこっち見てたんで、またつい言っちゃったわけですよ。


「あ、別に構いませんよ?私だけの時はどうぞお好きなように」


 後から考えれば、友達を売るような行為だったなーって自覚したんですけどね?あの時はその……なんでしょうね?こう自然と口から言葉が出てきたというか……ねぇ?




~~~~~~~~~~~~~~




「で!!ぜひ先輩に話を聞いていただきたくて!!」

「……いやいや、君割と酷いね?お姫様完全に王子に食われてんじゃん」

「いいんじゃないですか?付き合ってるんだし」


 いや、この子もこの子ですげぇな。王子の本性知らないからそう言えるんだろうけど……あれ割と、性格もねちっこいぜ?お姫様が絡んだ時だけだけど。


 でもなぁ…友達の恥ずかしい場面を男に話すって……いや、分かるけど。王子関連の話なんて、俺しかまともにできる奴がいないってことは。

 分かるんだけど、さぁ……


「お姫様もびっくりだろうな。友達に裏切られるなんて思ってなかっただろうし」

「え?私別に裏切ってないですよ?しのちゃんが本気で嫌がってるわけじゃないから、まぁいいかなーって」

「それでも限度はあるだろーよ」


 その噂の二人は、揃って進路相談に呼び出されてて。王子についてきた俺は、なぜかお姫様の友達と二人で教室で待つことになったわけだけど。


「んー……俺、今日は先に帰るべきだったかなぁ…?」

「えー!?そんな冷たいこと言わないで下さいよぉ!!こんな話、先輩以外誰に話せって言うんですかぁ!!」

「話してどーすんだよ、そんなこと。情報の共有必要ないだろ、それ」

「え、先輩見てみたくないですか?」

「見るって…あの二人のキスシーン?」

「ですです!!」


 …………なぁ……なんでそんな、目キラキラしてるんだ…?女子は恋バナ好きとか、そういうレベルじゃないよな?これ。


「すっっっごいですよ!!王子先輩が!!」


 あ、うん。悪いけど、そこはなんかすごく想像つくんだわ。むしろ一方的に愛が重そう。あれを正面から受け入れられるお姫様って、すごいと思うんだよな。普通は胸やけするって。


「俺の何がすごいの?」

「あ、噂をすれば」

「すみません。お待たせしました」

「いんやー?なんか結局待った実感はないからいいよ」


 同時に帰ってきたってことは、たぶん王子が先に終わって待ってたな、これは。


 しっかし……王子様のキス、ねぇ…。童話だとお姫様の目を覚ます定番だけど、現実はむしろ逆なんだろうなぁ。特にこの目の前の王子の場合、お姫様を逃がさないための手段の一つだろうし。


「なに?」

「いや。なんか王子のキスがすごいらしいってことを、今聞いてたとこ」

「な…!?」

「すごい、って…どんな風に?」

「さぁ?」


 恥ずかしそうなお姫様とは対照的に、単純に不思議そうな王子。さて、これは……果たしてどっちが純粋なのかねぇ?


「でも、ま。俺は王子がようやく長年の恋心を叶えたことを知ってるからなー。そんな友人に我慢しろっていうのは、ちょっと言いにくいな」


 というか、別に好きにすればいいと思う。王子が一番線引き上手いだろうし、何よりお姫様の事をよく知ってるだろうし。

 ただ、TPOさえ弁えられれば、だけどな。


「ねぇ、なんか今失礼なこと考えてなかった?」

「おー。TPOさえしっかりできるんならだけどなーって思ってた」

「うん、やっぱり失礼だね」

「いやいや、女子を空き教室に連れ込んでいかがわしいことしてた張本人だろ」

「誤解を生むような言い方やめてくれる?」

「……王子がお姫様を空き教室に連れ込んでイチャイチャしてた」

「うん、それならいいよ」

「……」


 いや、お前の線引きやっぱ分かんねーわ。…あ、いや……相手がお姫様だってハッキリしてれば、後は全部事実だからってことか。なるほど。


「で、俺のキスがどんな風にすごいの?」

「いやだから、俺は直接見たことないから知らないって。それこそお姫様にでも聞けばいいだろ?」

「えぇ!?」

「そっか。じゃあ教え――」

「ないよ!?何考えてるの!?言うわけないでしょ!?」


 ま、そりゃそーだ。第一すごいって言いだしたのお姫様じゃないし。お姫様がどう思ってるのかなんて、それこそ本人しか分からないしなー。


「いやでも……あれはホントすごいでしょ…。先輩も見たら分かりますって」

「分かったところで俺に得ないじゃん?」

「それでも知ってほしい…!!」

「え、何?俺が愛ちゃんにキスすればいいの?」

「ちょぉっ!?!?」


 おーおー。話がおかしな方向にいってるなー。

 けどまぁ、そうでもしないと収まらなよな、これ。お姫様には悪いけどさ。


「別に俺はどっちでもいいけどなー」

「先輩!?そこは否定してください!!」

「いや、だって…お姫様の友達がご所望だし?」

「なんで!?!?」


 それは俺が一番知りたいかなー。正直解放してくれるんだったらどっちでもいいんだけどさ。なんでわざわざ友人のキスシーン見なきゃならんのか。

 大体こっちはフリーなんだぞ?爆ぜろとまでは言わないが、できればそういう事はどっか見えないところでやってほしいんだけどな。本当は。


「じゃあ遠慮なく…」

「そこは遠慮しよう!?ね!?こういう時は遠慮しておこう!?」

「やだ」

「やだじゃなっ…!!ちょっ、まっ…!!」


 あーらら。完全に王子に捕まっちゃったねぇ。

 たぶん必死に抵抗はしてるんだろうけど、お姫様顔真っ赤だし涙目だし。それじゃあ王子が止まるわけないんだよなー。残念だけど。


「やっ…まっ…!!お、おねがいっ…みないでっ…んっ…!」


 …………。

 え…?は……え…?


「んっ、ふ……はっ…ぁむ…」

「……!?!?」


 ちょっ…待て待て待て待て…!!

 いやもう、キスとか以前にちょっと待て…!!

 何ださっきのお姫様の顔…!!

 恥ずかしいんだろ!?分かる!分かるよ!?分かるけど…!!


 顔真っ赤で涙目のまま、そんなセリフこっち見て言うか…!?!?


 色っぽいとかってレベルじゃなかったぞおい!?

 王子には悪いが……流石の俺も、男なんだよ…。女子にそういう顔向けられて、反応するなって方が無理だろ、これ。


「……マジかよ…」


 目の前で楽しそうにお姫様とのキスを貪る王子は、予想通りだから問題ないけど。問題だったのはお姫様の方。

 王子のねちっこくて長いキスに、段々と抵抗する力も奪われているのか。最後にはとろんとした目で薄く見上げるその姿は、たぶん他の男に見せちゃいけない姿だと思う。


 俺の中で結論として分かったのは、王子様のキスは確かにすごいが、それ以前に人前ではしちゃダメだろうなってことだった。


 結局足腰立たなくなったらしいお姫様が回復するまで、俺たち四人は教室から動かなかったけど。その間ずっと興奮しっぱなしなお姫様の友達と反対に、俺はとにかくなんかもうどっと疲れて。


「なぁ、王子…」

「ん?」

「お姫様すっげー色っぽい顔してたけど、それお前以外の男に見せていいのか?」


 流石にこれが日常茶飯事になるのは避けたかったから、そう疑問を口にしてみれば。


「…………それは……やだなぁ……」

「だろうな」


 案の定顔を顰めてそんな風に返してくるから、正直そこはお姫様の方が判断が正しかったと思う。理由は違うだろうけど。


「うん。やっぱり愛ちゃんの言う通り、当分は家の中だけにしようかな」

「そうしとけ、そうしとけ」

「うぅ……だからわたし、そういったのにぃ……」

「ええーー!?!?」


 なんか一人不満そうだけど、もうそこは無視する。これ以上色々削られてたまるか!!

 王子様のキスは、人前でしていいものじゃないんだよ!!主にお姫様側の問題でな!!








 いつもお読みいただきありがとうございます。


 こちらの作品ですが、現在出ているネタが季節的にそぐわないものが出てきてしまっていて…週一更新が難しくなりそうなので、次回分からは完全な不定期更新に切り替えようと思っております。流石にもう夏のネタは季節外れになってしまったので…(汗


 おまけ話とはいえ最終話はもう既に決まっているので、完全に放置になるという事はありません。そこはご安心ください。

 時折覗いた時に「あぁ、更新してたんだー」くらいの頻度にはなってしまいますが、ゆる~くお付き合いいただければと思いますので。


 よろしくお願いいたしますm(_ _)mペコリ


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