王子先輩としのちゃん -友人視点-
しのちゃんが強いのは知ってる。王子先輩に本気で恋してる男の先輩に、邪魔されたからって逆恨みされた時も軽々と投げ飛ばしてたし。
だけど。
しのちゃんだって、女の子なのに…!!
「え?志野崎さんが男子生徒に?いやいや、そんなの軽々投げ飛ばして終わりでしょ」
「強いじゃんあの人」
「ねー」
「俺らが助ける必要なくね?」
誰に助けを求めても、そんな風に返されるだけで。先生も見つからないし、もうどうすればいいのか分からなくなって。だから王子先輩を思い出したのは、本当に偶然というか切羽詰まってたんだと思う。
それでも最後の望みだと、それこそ藁にでも縋る想いで体育館へ向かって。
「王子先輩はいますか…!?」
いきなりそんなことを言いだした私に、周りの先輩たちは何あいつっていう目で見てたけど。それどころじゃなかった。
けど誰一人として王子先輩を呼んできてくれようとはしない。先輩たちのクラスの劇の主役だって分かってるし、何よりあの人ホントに人気者だから。もしかしたら周りも慣れてて誰も動いてくれないのかもしれないけど。
でもこれでダメだったらどうすればいいのか分からなくて、泣きそうになってたら。声を聞きつけたのか本人がこっちに向かってきていて。
私は思わず、縋りつく勢いで訴えた。
「先輩っ…!!しのちゃんがっ…しのちゃんがっ…!!」
「どこに、いるの?」
私の様子に何かを感じ取ったのか、王子先輩はそれだけを聞いて。
「あっ……お、屋上階段の踊り場にっ…」
「…うん。教えてくれてありがとう。先生にも伝えてからここで待ってて?」
「あっ!先輩!?」
そのまま、走り出してしまった。
正直、この時の私は違う意味で混乱していて。だってまだ何も伝えていないのに、どうしてそんな当然のようにしのちゃんの所へ向かえるのか。今度こそへたり込んでしまった私は、先生が来るまでそこで放心したまましばらく動けなかった。
けど。
劇の本番前に、王子先輩がしのちゃんを抱きかかえて戻ってきて。それはいわゆる、お姫様抱っこっていうやつで。
後から考えれば凄いことだったんだけど、この時の私はしのちゃんが無事だったことにとにかく安心しきっていて。そこまで頭が回ってなかった。
「しのちゃんっ…!!」
「あ…」
「よかった…よかったよぉ~~!!」
「ごめんね?心配かけて…」
「ホントだよバカぁ~~!!なんでそういう無茶なことするのぉぉっ!!」
「あぁ、ごめんっ…!泣かないで?ね?」
怖い目に遭ったのはしのちゃんの方でしょ!?なのにどうしてそんな平気そうなの!?
女の子たちを助けたしのちゃんは、助けられた側からしたらすごくかっこよかったのかもしれないけど。一緒にいた私からすれば、怖くて悔しくて。何もできないのが情けなかった。
逃げるしかない私は、まともに人を呼ぶことも出来なくて。誰一人、しのちゃんを助けてくれようともしなかった。大丈夫だろう、なんて。根拠のない自信で言い返されて。
でも王子先輩は違った。
むしろ当然のようにしのちゃんを助けに向かった。
その理由を、先生や二人の後をつけてようやく知った時。もしかして本当は、王子先輩の方が必死にしのちゃんを守ってきてたんじゃないかって。そう、思ったんだ。
何も聞かずに、ただ走りだしたあの時のように。
王子先輩は、他の誰でもないしのちゃんだけの王子様なんじゃないかって。
そう思った私の勘が外れていなかったことを知ったのは、何か月も先。学年が変わったその日の事だった。
本編の14・15話と、王子様編の6話の別視点でした。