見た目と身長
「聖兄ちゃんってさ、なんでそんなに背高いのに細いの?」
リビングでいつものように宿題をしていたら、唐突に弟がそう聖也くんに問いかけていて。
「そんなに細いかな?」
「俺の勝手なイメージだけど、背が高い人ってもっとなんかがっちりしてる気がして」
「あれじゃない?無駄な脂肪も筋肉も一切ついてないから」
宿題から目は離さないまま、口だけ会話に参加する。流石に古文はキリのいいところまで読んでおかないと、どこまで訳したのか忘れちゃいそうだから。
「そうなの?」
「体脂肪率とかだいぶ低いんじゃない?あと聖也くんの場合はたぶん筋肉の使い方がすごく上手いんだと思う。だから無駄な筋肉もつかないで済んでるんだよ」
「だから見た目以上に強いんだ!?」
「そういうこと。今ある筋肉量で最大限の力を出せるから、逆につきすぎると可動域が狭くなったりして動きが鈍くなるのかもね」
というかリーチの長さって結構有利に働くし、遠心力もかかりやすいんじゃないかな?いや、ただの予想だけど。
とはいえ、時折思う。流石に筋肉量の最大限の力以上を引き出せていないかな、この人、って。
なんかもう、常に火事場の馬鹿力発揮してるような感じ?むしろ任意で引き出せます、みたいな?
ある意味恐ろしい。
「でも鍛えてはいるんでしょ?」
「筋トレとかくらいならやってるけどね。それでもあんまりハードなのはしないかな」
「むしろ筋トレしてるんだ!?」
「普段そんなに運動してないから、単純に運動不足にならないように?」
「走ったりとかはしないの?」
「持久力は割とあるし、何より徒歩通学だし。今はそこまで必要ないかなって」
「はー…なるほどねぇ…」
いやむしろ、なんでそんなことに興味津々なんだ、弟よ。
まぁでも、割と理想の体型なのかもしれない。ただしそれは女子から見た理想、だけど。
……あれ?でも男子って割とモテたいモテたいって言ってるから、女子ウケする体型が結局は男子の理想なのか。特殊な人じゃない限りは。
けど、なぁ……。ここは姉として、一応これだけは伝えておこうと思う。
「でもたぶん一番は骨格の問題だと思う」
「え?骨格?」
「うん。だってほら、顔の輪郭見てごらんよ。普通の人より細くない?」
「…確かに」
「顔の輪郭って、骨格の影響割と受けるからね。こればっかりは生まれつきのものだから、どうにもならないと思うよ」
「そっかー、骨格かぁー」
どうやら今までで一番納得できる答えだったみたいで。ようやく腑に落ちたようだった。
「かなり恵まれた体型してるよね、聖也くんって」
「流石に身長は伸びすぎだと思うけどね…」
苦笑してるけど、本人割と気にしてることは知ってる。
ま、背が高いのがコンプレックスになるのは私も同じだし、それについてはノーコメントで。
「でもさー姉ちゃん。結局女子って顔が全てなんだろ?ただしイケメンに限るっていうやつ」
「さぁ?全員がそうとは限らないんじゃない?」
「えー?そんな都合のいいことあるー?」
「じゃあ逆に聞くけど、女子は見た目が全てって思うのが普通の男子じゃないの?」
「…………全てとは言わないだろうけど、確かに否定は出来ないかも…」
でしょうね。
だって結局男子の話題に上るのは、誰が可愛いとかきれいだとか、胸が大きいだのなんだのって、見た目のことばっかりだから。
「でもまぁ、大体の女子が背の高い男子がいいって言うのと一緒で、大体の男子が背の低い女子がいいって言うんだから。そこは需要と供給がかみ合ってていいんじゃない?」
「わぁ~…そういうとこだけドライだよね、姉ちゃんって」
「私には一切関係ない話だからね。下手したらそこら辺の男子より背高いし」
「デスヨネー」
っていうか、背が低い女子を可愛いっていうけどさ。じゃあ背が高くて可愛い顔の女子は可愛いって言われるの?あと背が低いけど美人な女子は?
結局そこって顔以上に身長で決まってる気がする。
そう考えると、割と身長が見た目に与える影響って大きいよね。
「背の低い男子と背の高い女子は、世間的には色々不利なんじゃない?逆の人たちと比べたらなおさら」
「どうだろ?それはそれで需要ありそうじゃない?」
「限定的にならね。でもまぁ、学生の内はなさそう」
「そういうもんかなぁ?」
「たぶん?」
「え、とりあえず俺の意見だけで言ってもいい?」
姉弟の会話を黙って聞いていたらしい聖也くんが、唐突に会話に入ってくる。
目は完全に下を向いていたので、すっかり存在を忘れていた。危ない危ない。
「聖兄ちゃんの?」
「うん。平均から外れた身長の俺からすると、正直背が低い女の子ってちょっと怖い」
「え!?」
「え!?」
初めて聞くその言葉に、二人で思わず聖也くんの顔をまじまじと見てしまう。まさかそんな言葉が出てくるとは思ってなかったから。
「いや、ほら…見えないと、さ。ぶつかってケガさせちゃいそうで…こう、小動物を傷つけないように気を付ける、みたいな?」
「あ…あー……なるほど」
「そっちの意味かー。なるほどあれだね。子供を相手にしている感覚」
「うん、それが一番近いかも。本人は気にしてるかもしれないから、正直には言えないけどね」
「それは言えないね」
「というか、言っちゃダメだね」
身長に関することはデリケートなのだ。高くても低くても、それはきっと変わらないはずだから。相手を傷つける可能性があるなら、口にしないのが一番。
「まぁそういう理由があるから、逆に背が高すぎる男は背の高い女子の方が安心するんだよ」
「……あれ…?もしかしなくても聖兄ちゃん、今のろけてる…?」
「ふぇっ!?」
「ん?あれ…?そうなるの、かな…?」
「いやそうなるでしょ。どう考えたってそれ、姉ちゃんのことじゃん」
「うん、まぁ…俺にとっては身長関係なく愛ちゃんが一番だけどね?」
「ちょ、まっ…!!二人してなんて会話の流れに持っていってるの…!?」
っていうか、今の誘導尋問って言わないかな!?ねぇ、言わないかな!?
あとこれ一番恥ずかしいの私だから!!
「いや、なんか…無意識なのろけを聞かされそうな気がしたから、つい…」
「でもそれ確認したら無意識から意識的に変わるだけでしょ!?」
「あ、うん。そうだった」
もう少し考えて!?そこ大事だよね!?
「まぁでも、聖兄ちゃんの一番の強みはその顔と性格だもんね。身長はあんまり関係ないか」
おいこら。なんか一人で勝手に納得して、しかもさり気なくコップを持って席を立とうとするな?
自分で話題を振っておいて、何をさっさと逃げようとしている?
「じゃ、俺部屋行くからー」
おいこらあああぁぁ!!!!
結局そうなるのか!!あとはよろしくってか!!こっちはまだ宿題終わってないんだぞ!?
なんて、流石に言えるはずもなく。
まぁうん、何とか宿題だけは終わるまで待ってもらったけどさ。
その後はいつも通りの展開ですよ、ええ。
今回ばかりは恨むぞ、弟よ…!!
弟「ごめん…」
姉「……詫びに何してくれる?」
弟「…………カンガエテオキマス…」
姉「ふんっ」