お月見1
今夜は十五夜。
ということで、そんな日の二人をお届けします。
「お月見?」
「そう。今夜は十五夜だから、一緒にお団子作ってお月見しない?天気も晴れだし、陽が落ちるのも早くなったからそんなに遅い時間じゃないし。どうかな?」
「やりたい!」
平日の今日でも大丈夫だと聖也くんが判断したから、きっとそういう提案をしてるんだろうし。だったら私に断る理由なんて一つもないから、二つ返事で頷く。
「じゃあ学校が終わったら、制服汚さないように着替えて……どっちの家にする?」
「私の家の方がいいよ。そっちだと夕ご飯の支度の時間が遅くなっちゃうかもだから」
「うん、分かった。じゃあ着替えて愛ちゃんの家に行くね」
「うん!」
朝からそんな会話をして一日それを楽しみに過ごしていたせいで、友達には何かいいことがあったのかと聞かれたけど。
素直に答えたら、聞いて来たくせに
「あ、もういいです。はい。ごちそうさまです」
なんて途中で遮られる。
いいじゃない!別に少しぐらいのろけたって!
「いや、いいんだけどね?私じゃなくて周りの空気というか、目というか……え、しのちゃん気にならないの?」
「…………もう慣れた、って言ったら…引く?」
「……あ、いや、うん…そう、だよね。慣れないとやってられなかったんだもんね」
なんだか最後は同情されていたような気もするけど。
いいんだ!今日は聖也くんから誘ってくれたし、お家デートなんだもん!!一人で楽しみにしてるもん!!
そう思って、少しだけ拗ねていたら。
「え?俺もすごく楽しみにしてたんだよ?だから一人じゃなくて二人。二人で楽しみにしてたの。ね?」
なんて。ふんわりと笑うから。
ついつい恥ずかしくなる。
「あ…う、うん……」
「それに俺も機嫌がいいって言われちゃったからね。顔に出てたみたい」
「……誰が言ったのかだけは、すぐに想像つくね」
「うん。今思いついた相手で合ってると思うよ?」
だって聖也くんにそんな風に普通に話しかけられる人なんて、そうたくさんいるわけじゃないから。どう考えても、先輩ただ一人だけだ。
「あ、そうそう。ちょうどこの間売ってたの見かけて、ススキ買ってきてるんだ。今俺の部屋に飾ってるけど、それも持ってくね」
「ん…?わざわざ買ったの?」
「うん。なんかいいなーって思って。秋だし時期だし、部屋に植物があるとなんだか少し特別な感じがするし」
「それなら聖也くんの部屋でお月見する?」
「わざわざお団子持ってくるより、着替えてそのまま持っていった方がいいでしょ?卓上の花瓶に挿してる程度の長さだし」
「そっか。じゃあせっかくだしお願いしようかな」
「うん、分かった。じゃあ着替えて十分後くらいに行くね?」
「うん、待ってる」
そう言って二人して家の前で一度手を振って、お互いの家の中に入っていく。
本当は十分も時間はかからないはずだと思う。でもそこはたぶん、私のことを考えてくれたんだろうな。着替えて準備して、となると少し時間がかかるから。
そういうことサラッと自然にできるところ、本当にすごいと思う。そりゃモテるよね。当然だわ。
「……私の彼氏だから、誰にもあげないけど…」
思わず口に出してしまって、一人で恥ずかしくなる。
いや、間違ってはいないんだけど…!!私の彼氏なんですけど…!!
なんか、こう……今私、すごい独占欲丸出しじゃなかった…?
ホント、誰にも聞かれてなくてよかった。もしそんなことになってたら、しばらく部屋のベッドの中で丸まって出てこれなかったと思うもん。恥ずかしすぎて。
「いや…いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないな。早く着替えて、エプロンも準備して……あれ?お団子って白玉粉?上新粉?」
家にはどっちも確か買い置きがあったはずだから、後でスマホで調べておかないとなーなんて思いながら着替えを済ませて。家の中だし聖也くんと会うんだし、上は汚れないように七分袖のシンプルなシャツにしておいて、下はロングのスカートにする。チョコレート色の細かいプリーツの入ったスカートは、ちょっとだけ大人っぽく見えて。だからこそ平均よりも背が高い私でも似合うような気がして見ていたら、なぜか横から聖也くんが手を伸ばしてきて素早くお会計を終わらせてしまっていたという経緯があるけど。それならなおさら聖也くんに最初に見せないといけない気がしたから。
「……でも私のクローゼット、基本的に聖也くんが買ってくれたものばっかりだなぁ…」
春、夏、そして秋。毎シーズンごとに増えていく服たちは、たぶん次の冬のシーズンでも増えることになるんだろう。
すごいのは、私の部屋のクローゼットの大きさを知っているからなのか、入りきらなくなりそうなほどには聖也くんも選ばないというところ。選択肢が少し多いかな?くらいで止めているあたり、色々理解しすぎてて怖いところではあるけど。別にそれで困ることはないし、まぁいいかなと思ってる。
そんなことを考えながら着替えてエプロンを用意してお鍋やボウルを準備していたら、約束の十分が過ぎていたらしくチャイムが鳴る。
「はーい!」
『約束通りススキ、持ってきたよ』
「うん、ありがとう。今玄関開けるから、ちょっと待っててね」
『うん』
インターホンの画面に映る聖也くんと簡単に会話をしてから、急いで玄関に向かって扉を開ける。聖也くんも汚れてもいい格好をと思ったのか、上は半そでのシャツに下はジーパンという、いつも出掛ける時以上にシンプルな姿だった。
「先にこれ愛ちゃんの部屋に置いてきちゃってもいい?」
「ん?いいけど、お月見ってリビングでするんじゃないの?」
「リビングだと電気つけておかないとでしょ?いくら晴れてるとはいえ部屋の中が明るいと、もしかしたら綺麗に月が見えないかもしれないから」
「あ、そっか」
「でも女の子の部屋に俺が一人で入るっていうのも…あんまりよくないかな?」
「え、別にいいよ?聖也くんだし」
「ん~……ま、いっか。愛ちゃん自身がそう言ってくれてるんだし。あ、それとこれ。先にちょっと調べてきたんだけど、絹ごし豆腐を入れると時間が経っても硬くならないんだって」
そう言ってビニール袋に入ったまま渡されたのは、食べきりサイズの三連パックになっている絹ごし豆腐。
ちなみにしっかり白玉粉も入ってた。
「…………聖也くん、さ……実は前々から一緒にお月見するつもりでいたでしょ?」
「あれ、バレちゃった?」
「流石に用意が良すぎるよこれは」
「まぁ、そうだよね。でも思いついたのは実はこの間なんだよね。今日が十五夜だってことも忘れてたし、何より晴れるかどうかも分からなかったから」
「私は言われるまで気にもしてなかったけどね、十五夜って」
特別な行事があるわけでもないし、毎年その日に家族でお月見をするわけでもないから。そういう日があること自体忘れてた。
「俺もカレンダー見てようやく気付いたくらいだからね。天気にも左右されるから、どうしても忘れがちだよね」
苦笑してるけど、実際今日が晴れるかどうかなんてその日になるまでは分からなかったりするものだし。だからこそ聖也くんがそれを提案したのが今朝だったことも、確かに頷ける。
準備するものもダメだった場合に困らないものばっかりだし。
「とりあえず、これだけ置いてきちゃうね。戻ってきたらすぐ準備するから、先に手洗っちゃってて?」
「ん、分かった」
リビングを出ていくのを見送りつつ、私は袋の中からお豆腐と白玉粉を出して。ついでにスマホで作り方を検索しておいてから、台所で手を洗う。
「あれ?お砂糖とかいらないんだ?」
私の見たレシピだとお砂糖は一切入れていなくて、本当にお豆腐と白玉粉だけで。あとは鍋にお湯を沸かしておくのと、氷水を作っておくだけだった。
ただそれだと何か別のタレとかが必要になるし、どうしようか悩む。
「う~~ん…?」
「どうかしたの?」
いつの間にかリビングに戻ってきていたらしい聖也くんが、首をひねっている私を見て疑問に思ったのかそう問いかけてきた。
「うん、あのね。レシピ調べてたら、お砂糖入れてないところも結構あって。それだと別にみたらしのタレとか作らないといけないから、どうしようかなって」
「あぁ、なるほど。確かにそうだね。流石にきなことかあんことかは、使い切れる気がしなかったから買ってないけど…そっか、タレとか作るっていうのも手だったね」
「もしかしてお団子にお砂糖入れるつもりでいた?」
「俺はね。なんとなく、お月見のお団子って白いイメージだったから。そのまま甘いお団子にすればいいのかなーって」
「まぁ、確かに」
そんなに大量に作るわけでもないんだし、確かにそれでもいいのかもしれない。
最悪飽きたら、その時にまた考えればいいんだし。
「じゃあお砂糖入れて甘くして、シンプルなお団子にしよっか」
「そうだね。それだけなら簡単だし」
長くなってしまったので、分割します。
二話目は夕方ごろに投稿しますので、しばしお待ちを~!!(汗
そして皆さんもぜひお団子の用意をして、この二人と一緒にお月見を楽しみましょう!!