ホワイトデーのお返しは
「はい、愛ちゃん」
「え…?」
手渡されたのは、紙袋に入った少し大きめな何か。
今日はホワイトデー。しかも日曜日。
とはいえ既に卒業式も終わっていて、春休み中なんだけどね。
でもせっかくだからバレンタインの時みたいにデートしようかと言われて、頷いた私に。家まで迎えに行くから、待っててねと聖也くんが言ったから。
何の疑問も持たずに、その時は了承したけど。
「え、っと…?」
「持っていくわけにはいかないし、折角だから今開けてみて?」
明らかに、これは、チョコのお返し……。
って…!!
「待って!?私もバレンタインにもらってるから、これじゃあ二重で…!!」
「え?あの時言ったでしょ?チョコのお返しはホワイトデーにするねって。あれはあれ、これはこれ。もらったのは別の物だから」
そういう理屈…!?
いや、まぁ、確かに……花束とメッセージカードは、その……私をあげたお礼、とか…言われた、けど……。
そんな事家の玄関で言えないよね!?普通に考えて家族に会話聞かれてるよね!?
「だからこっちが、本当のホワイトデーとしてのお返し。ね?」
「うっ……」
なんだか納得いかないような……。
でもこてん、と。どことなく可愛らしく首を傾げてそう言われたら。
しかも既に、渡されてしまっていれば。
受け取らないわけには、いかないわけで…。
「あ、ありがとう……」
そう言えば、嬉しそうに笑ってくれるから。
ちょっと気恥しくなりながら、それをごまかそうと言われた通り中身を確認しようと取り出してみる。
入っていたのは、箱。……の、中に……
「う、っわぁ~~…!!かっわいいいぃぃ…!!」
飴細工、って言えばいいのかな?
透明な棒の先に、ステンドグラスみたいな綺麗な模様の飴がキラキラと光ってて。
「うちわ飴、って言うんだって」
「あ、なるほど…!!確かにうちわみたい…!!」
食べちゃうのがもったいないくらい、可愛いその見た目。
和風な柄が、飴細工に本当によく合っていて。
「可愛いぃ……」
「ふふっ。気に入ってくれてよかった」
「うんっ!すっごく…!!本当にありがとうっ!!」
あまりの可愛さに、しばらく眺めてうっとりしてしまう。
目の前には聖也くんしかいないし、玄関とはいえまだ家の中だから。
ついつい、気を抜いてしまって。
でもさすがに、ずっとこのままだとデートの時間が減っちゃうから。
「帰ってきてからまたゆっくり見るから、ちょっと今置いてきちゃうね」
「うん」
飴細工だし、部屋の中に置いておいて溶けちゃったら嫌だし。
一応リビングに向かって、冷蔵庫の中に入れておく。
「見てもいいけど食べちゃダメだからね!?」
「分かってるよ」
玄関先ではしゃぎ過ぎた自覚はあるので、興味津々でこっちを見ている家族にそう一言釘を指せば。
途端に弟から呆れたような顔で睨まれる。
まぁ、そりゃあそうか。
流石に食べはしないよね。
なんて思いながら、聖也くんを待たせたままだった玄関まで急いで戻って。
ようやく出発。
「…にしても、去年はグロスみたいなスイートリップでしょ?その前は瑠璃飴だったし。毎年本当に色々可愛い飴を見つけてくるよね?」
そうじゃなくても、今までだってお返しはずっと飴だったけど。
最近はさらにこだわっているのか、色々と知らない飴をもらうことが多くなった。
最初の頃はそれでもまだ、手毬飴みたいなコロンとした可愛らしい見た目の、でも割と手に入りやすいものだったはずなのに。
「色々検索してみると可愛くて綺麗な飴がたくさん出てくるんだよ。だから毎年、どれにしようか俺も迷っちゃうの」
「でも毎年大変じゃない?あんなに可愛い飴をお返しにたくさんの人にあげるなんて」
というか、絶対高い。
特に飴細工なんて、そうそう手に入らない職人の手作りの一点ものだろうし。
なんて、思ってたのに。
「え?俺ホワイトデーのお返しは基本的にクッキーだよ?飴をあげるのは愛ちゃんにだけ」
「……はい…?」
「だってお返しの飴の意味は『あなたが好きです』だから」
「へ…!?」
そんなことを、今更言われて。
「だからずっと、俺は愛ちゃんには飴を選んでたんだよ?一回もマシュマロとかクッキーとか、あげたことないでしょ?」
「ない、けど……」
「クッキーだと『あなたはお友達』っていう意味になっちゃうし、マシュマロなんて『あなたが嫌い』だよ?飴一択でしょ」
あ、一択なんだ……。
え、っていうか……。ちょっと待って…?
確かにずーーっと、毎年お返しは飴だったけど……。
「聖也くん、それ……お返しの、意味…………いつから、知ってた……?」
「え?中学の時からだけど?」
「中学…!?」
この男はなぜそんなことを知っていたのか…!!
じゃなくて!!!!
「待って……じゃあ、もしかして、その後からもらってたお返しって……」
「うん。ちゃんと意味を分かった上で、だよ」
いい笑顔で言う事か!?!?
「私全然知らなかったし、気付いてもいなかったよ!?」
「知ってる。むしろそれはそれで簡単に受け取ってくれてたから、まぁいいかなーって」
「いいわけないでしょう!?!?」
じゃあ何!?
私が密かに想いを込めて渡していたのと同じで、お返しにも密かに想いを込められていたと!?
そしてお互い何も気づかないまま、毎年同じことをしていたと!?
「なにそれぇ……」
「今更だからねぇ。でも子供の時に、愛ちゃんへのお返しだけは飴にしなさいって言ったのは母さんだから」
「あの人かぁ…!!」
なら分かった上でやってたな…!!
「今年はもう卒業しちゃってるから、他の子たちには卒業式の日にお返しは渡してるし。本当のホワイトデーに渡すのは愛ちゃんだけだよ」
「え、あ、うん……」
でも聖也くんにはそんな事関係ないみたいで。
むしろそれはそれは上機嫌に、そんな事を言ってるから。
毎年律義にお返ししてて偉いなーとか、軽く考えてた少し前までの自分を叱りつけてやりたい。
確かに他の人へのお返しとか、気にしたことなかったし。
見たこともなかったから、同じものを渡してるんだと疑ってもいなかった。
それが、まさか……。
ずっと、特別、だったなんて。
家の冷蔵庫の中で私の帰りを待つ飴細工は、正真正銘聖也くんの気持ちの代弁者。
好きです、と。
これまでだってこれからだって、きっと毎年変わらずに伝えられ続けるんだろう。
毎年この日には、甘い甘い飴のお返しに想いを乗せて。
スイートリップも瑠璃飴もうちわ飴も、全て実在しています。
うちわ飴、実際の店舗に行って並んでいるところを見たいなーと思ってはいるのですが…。
こういう時期なので、まだ行けていません(T^T)
いつか必ず行ってやる!!と決意していますが(笑)
ちなみにホワイトデー用のBOXとか、通販で売ってました。
気になった方はぜひ『うちわ飴』で検索してみてください♪




